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東京幻怪録  作者: めくりの
一章

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第十二話「ゴキブリ襲来!妖気探知と毒短剣の大奮闘」

 夜の静けさが漂う葵の自宅、平穏だった日常が一瞬で崩れ去る。


「ぎゃあああああああああああ!!!」


葵の絶叫が夜の静寂を切り裂いた。リビングの真ん中にいたのは、黒光りするゴキブリが一匹。相馬葵はその場で飛び上がり、特務機関で培った敏捷さを発揮して、一瞬でテーブルの上へと避難した。特殊タブレットを握りしめ、妖気を探知するかのように画面を見つめながらも、その目はゴキブリから決して離れない。


「ま、まさか……こんな夜に、奴が現れるなんて……!」


葵はパニック状態の中で呟き、タブレットに目を落としたが、当然ながらゴキブリの妖気などあるはずもない。だが、それでも「闘うべき敵がここにいる!」という決意は強固だった。葵は瞬時に仲間の顔が頭に浮かび、心の中で叫んだ。


「この非常事態、夏菜がいれば……!」


______________________________________________


数分後、インターホンが鳴る。葵が震えた手でドアを開けると、そこに立っていたのは冷静そのものの深見夏菜だった。肩まで伸びた黒髪を整え、冷静な目つきで葵を見下ろす夏菜の表情は、状況をまだ把握していないかのように穏やかだった。顔が少し火照っている。お風呂上りなのだろうか。


「急に呼び出して、何かあったの?」


「夏菜、大変なの!すぐリビングに来て!」


「……なるほど」


夏菜は溜息をつきつつ、葵のあとを追ってリビングへと向かう。状況は一瞬で理解した。葵が指差す先には、まだ悠然と動き回るゴキブリが一匹。彼女は眉をひそめながら、冷静に短剣を取り出し、ゴキブリに視線を合わせた。


「葵、これはさすがに妖怪ではないわね」


「わかってる!でも、ほら、黒いし、動きも速いし、もう妖怪みたいなもんでしょ!」


「確かに不快な存在だけど、冷静に対処すれば問題ないと思うけど」


夏菜はその冷静さを保ったまま、ゴキブリの動きを見つめる。すると、ゴキブリが素早く方向転換し、キッチンの方へと移動し始めた。その瞬間、葵は再び叫んだ。


「ひゃああっ!夏菜、早く倒して!」


「葵、少しは落ち着いて。相手は人間ではないし、冷静に対処すれば十分よ」


夏菜は短剣を握りしめ、ゴキブリに照準を合わせる。しかし、葵の叫び声に反応したのか、ゴキブリは驚異的な速さでダッシュを始め、テーブルの下へと逃げ込んだ。その動きを見て、夏菜も一瞬、冷静さを保てないような顔を見せる。


「……思ったより、手強いわね」


「そうでしょ!?だからお願い、頼むからあいつを倒して!」


夏菜は短剣を構え直し、再びゴキブリの動きを見極める。その鋭い目つきはいつもの戦場と変わらない冷静さが宿っていたが、相手がゴキブリであることに若干の虚しさを感じていた。葵がわなわなと震えながら後方で応援(半分叫び声)をしているのを聞き流し、夏菜は静かに一歩一歩、テーブルの下に近づいていく。


だが、次の瞬間、ゴキブリがテーブルの脚を垂直に登り始めた。


「きゃああっ!こっち来る!テーブルの上にいるわよ!」


「……仕方ないわね」


夏菜は冷静に短剣を手に取り、さらに慎重に構え直す。葵が震える視線の先で、ゴキブリは一瞬の隙を突いて飛び跳ね、別のテーブルの脚へ移動する。葵は叫び続け、夏菜は淡々とその動きを見極める。ついに、ゴキブリが壁へと向かって動き出した瞬間、夏菜は手にした短剣をわずかに投げた。


パシッ。


短剣がゴキブリの行く手を阻むように、壁に突き刺さった。ゴキブリはそのまま進むかと思いきや、短剣の衝撃で一瞬動きを止め、向きを変えて反対方向に逃げようとする。


「くそっ、しぶとい!」


冷静なはずの夏菜が思わず本音を漏らし、もう一本の短剣を手に取る。ゴキブリを目で追いながら、ゆっくりとその隙を見計らっていたが、葵が後ろで耐え切れず叫び声を上げた。


「早くしてよ!私もう限界!」


「葵、落ち着きなさい。こういう相手こそ、しっかり観察して動きを読むことが大切なの」


「読む必要ないよ!ただ倒してくれればそれでいいの!」


______________________________________________


その後も、夏菜とゴキブリの追いかけっこは続いた。短剣を何度も壁に突き刺し、ゴキブリを追い詰めようとするが、相手も驚異的なスピードで逃げ回り、まるで見えない戦いを繰り広げているかのようだった。


ついにゴキブリが壁を上り、天井付近に到達する。そこで一瞬、動きを止めたその隙に、夏菜が最後の一撃を放つ。


バシッ。


短剣が壁を貫通し、ゴキブリの行く手を封じた。天井から落下したゴキブリが床に着地した瞬間、夏菜がすばやく手を伸ばし、その場所に短剣を突き立てた。


「……終わったわ」


ゴキブリが完全に静止し、葵が歓声を上げるようにその場に飛び跳ねた。「ありがとう、夏菜!ほんとに助かった!」


夏菜は冷静に短剣を手に取り、少しだけ息をつきながら、静かに言った。「次はもう少し落ち着いて対処して。私も、こんな相手にこれ以上力を使いたくないから」


「いや、もう一生こんな相手には近づきたくないよ!」葵は笑いながらそう言い、緊張から解放されて安堵の表情を浮かべた。



______________________________________________


翌日、特務機関の休憩室にて

「昨日、葵がゴキブリにやられて大変だったらしい」と聞いた仲間たちがクスクスと笑い出す。夏菜は冷静な顔で「相手の速さは驚異的だった」とだけ答え、葵の頬が赤く染まった。

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