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東京幻怪録  作者: めくりの
一章

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第十一話「動く影、囁く声」

 ある夜、椎名真琴は、いわくつきの一軒家に派遣された。

この場所は「呪われた土地」に建てられ、建設以来、不可解な現象が頻発していると報告されている。特務機関が調査に向かうことになり、結界術に精通する真琴が選ばれたのだ。真琴は、その家の玄関前に立ち、冷静な目で建物を見つめていた。


隣にいた葵が、おどけるように肩をすくめる。「真琴さん、本当にここに入るの? なんか、見た目からして嫌な感じするよね。こう、どこかのホラー映画に出てきそうな…」


真琴は一瞬だけ彼女に視線を送り、「冗談はさておき、状況確認をしよう」と静かに返した。葵は笑みを消し、真剣な表情に変わる。


家の中に一歩足を踏み入れた瞬間、真琴は肌を這うような微細な振動を感じた。空気が妙に冷たく、音の反響が異様に重い。異常現象の原因を探るために、真琴は護符を握りしめ、結界を展開する準備を始めた。


彼の冷静な観察眼は、この異様な現象の根拠を科学的に分析していた。

まず感じ取ったのは、温度の異常。エントランス付近の温度は急激に下がり、空気が凝縮するように冷たく、まるで呼吸するのも難しいほどの圧迫感がある。「ポルターガイスト現象に伴う冷気の発生は、一般的に静電気の蓄積によるものだとされている。ここでも同じことが起きているのかもしれない」と彼は心中で呟き、護符を掲げて静かに一歩ずつ歩みを進める。


______________________________________________


家のリビングにたどり着くと、さらに不可解な現象が起こり始めた。

まるで目に見えない手が家具を引っ張り、家具が勝手に移動していくのだ。真琴は冷静に観察し、地面に護符を置いて結界を張り始めた。「葵、動きを止めるために一時的な結界を張る。この場所は静電気が強く蓄積されているようだから、妖気が集まりやすい環境にある。気を引き締めて」


葵は頷きながら、自分の装置で周囲の波長をチェックする。「確かに…反応がすごく強い。静電気だけじゃなく、何かもっと重いエネルギーが渦巻いてる感じ。これ、ただのポルターガイストってわけじゃなさそうだね」


真琴は頷き、メガネの位置を正す。「そうだな。ここに漂っているのは単なる残留思念ではない。もっと強力で、意図を持った力が存在しているようだ」


その時、リビングの中央に置かれた古びたランプが突然激しく揺れ始め、葵が驚きの声を上げる。「ちょっ、真琴さん、これヤバいって!」


真琴はすぐに護符を手に取り、冷静にランプの方へと向き直る。「落ち着け、葵。これもただの現象だ。ランプが揺れるのは、空気中の電場の異常が引き起こしている可能性がある」


だがその時、不気味な囁き声が部屋中に響き渡った。

それは耳元で誰かが囁いているような、湿った低い声だった。葵は身震いしながらもデータを確認し、「声の音源はないのに、周波数が異常に増えてる…音波で実体化してるってこと?」


「ポルターガイストの現象には、音波や超低周波が伴うことがある。これは電磁波異常が音として出現している可能性が高いが、念のため、結界を強化しておこう」と真琴は冷静に分析し、護符を地面に並べ始めた。


______________________________________________


すると突然、床下から激しい衝撃が響き渡った。

それは一階と地下の間で何かが暴れているかのような音で、家全体がわずかに震えた。「葵、地下に続く階段を調べてくれ。この振動は異常だが、電磁気や音波の影響だけでは説明がつかない」


葵は少し緊張しながらも階段へと向かい、声を張り上げた。「真琴さん、ここ、地下の部屋からすごく強い反応があるよ!ただの物理現象を超えてる…」


真琴はその言葉に短く頷き、地下へと向かう準備を整えた。護符を握りしめ、地下に漂う気配を感じ取りながら、慎重に階段を下りていく。地下室は薄暗く、まるで永遠に続く闇が広がっているかのような錯覚に陥る。


地下室の中央には、古い祭壇のようなものが置かれていた。

それは朽ち果てているが、かつて何かの儀式が行われていたことを示している。真琴はその前で立ち止まり、静かに護符をかざした。「これは…過去にここで霊的な儀式が行われ、強力な思念が残留しているのかもしれない」


葵が後ろから小声で囁いた。「真琴さん、もしかしてここって…呪われた土地って噂の根拠って、この祭壇なの?」


真琴は冷静に頷き、さらに護符を地面に並べ始めた。「祭壇に残る思念がここに結界を張っているようだ。それが原因で異常な電磁気や音波が発生し、ポルターガイスト現象を引き起こしている可能性が高い」


彼は地面に護符を配置し、念を込めて結界を展開する。護符が淡い光を放ち始め、地下室全体を包み込むように広がっていく。結界が展開されると、空気が一瞬で澄み、あの不気味な囁き声も消えていった。


真琴が静かに結界を強化していると、再び祭壇が微かに揺れ始めた。

その揺れは徐々に強まり、まるで祭壇に眠っている何かが抵抗しているかのように感じられた。真琴は一瞬だけ目を細め、「祭壇の中に霊的な力が封じ込められているようだ。この封印を解くことで、浄化が完了するだろう」


葵が驚きながら尋ねる。「解くって…本当にそれで安全なの?」


真琴は護符を握りしめ、静かに言った。「これ以上、放置するわけにはいかない。この場で浄化しなければ、また新たなポルターガイスト現象が繰り返されるだけだ」


彼は慎重に護符を配置し、結界内の気の流れを集中させるように儀式を進めた。護符から発せられる光がさらに増し、ついに祭壇の中央に輝く一点が現れた。その瞬間、地下全体に強い風が吹き荒れ、囁き声や家具が揺れる音が徐々に静まり、空気が凛とした静寂に包まれた。


異常現象が収まり、静寂が戻った地下室で、真琴は深く息をついた。

「これで終わりだろう」と真琴はつぶやき、護符を収める。葵が彼に歩み寄り、安堵の表情を浮かべながら言った。「さすが真琴さん。冷静で、まるで科学者みたいに分析してくれるから心強いよ」


真琴は少し照れくさそうにメガネを直し、短く答えた。「ただの現象には、適切な対処法がある。それだけだ」


葵は笑顔で彼に頷き、二人は呪われた家を後にした。



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