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星投げ◯◯

作者: 瀬川椎泰

星投げびとはよく引用されるテーマなので


どこぞの小説で、ヒトデを海に放すという星投げ人というお話がある。

一人の少年がヒトデを海に向かって投げているのを見つけ、話を聞くと「浜にいるヒトデは死んでしまうから」と少年は言った。

こんなにたくさんのヒトデを全部救うことはできないと言うと、少年はしばらく考えたあとまたヒトデを投げ「でも、今投げたヒトデにとっては意味があるでしょ」と言った。


なるほど、実にいい話だ。なぜ唐突にこんな話をしたかって?それは簡単な事だ。

私の教え子である女子生徒が今まさにヒトデをぶん投げているからだ。


「フンッ!」


彼女の手から勢いよく放たれた星は、まるでフリスビーかの如く激しく横回転しながら空を飛ぶ。

遠目に見ると円形の何かが飛翔しているように見えるそれが、星の形をしているとは思えないだろう。


「ローレン・アイズリーが見たら泣くぞ」


2mほど後ろで、座りながらその様子を見ていた私が口を挟むと、彼女はこちらを振り返りながら砂浜のヒトデを手に取った。


「フッ!」


そのままサイドスローの要領で星を投擲する。綺麗なフォームから放たれたそれは30m近くは飛ばされているとのではないかと思うほどの勢いで遠くへ行き、やがて消えていった。


「それじゃ星投げびとじゃなく星飛雄馬みたいだな、それとも星野仙一か?」


年齢がバレるような問いかけをぶつけると、彼女がこちらに振り返り笑顔で口を開いた


「先生ったら、出てくる人物が古いですね。私はただ星を海に帰しているだけです」


「どう考えても返らぬモノになってる気がするがな、あの少年のようにヒトデにとって意味のある行動をしろよ……」


それを言うと彼女は手を口に当て少し考えるような素振りをした後、私の横に落ちているヒトデを拾い上げた。


そのまま投球モーションに入り、美しいフォームから星が投擲された。今度は水面を1.2回跳ね、海に消えていくのが見えた。


「先生、星投げびとの少年はヒトデにとって意味のある行動なんてしていませんわ」


彼女が私の横にちょこんと座る、長い肩までかかる黒髪が風になびいており、より一層際立って見えた。


「彼はヒトデを救いたかったから投げたのです、でもヒトデはそんなこと望んでないし、救われたいと思ってないかもしれませんわ」


「私も彼と同じです、星を投げたかったから投げたにすぎません。結局あの少年も私も、自分の欲望とエゴで星を投げていたのです」


的を得ているようで、屁理屈だと突き返したくなる回答だと思うのは、私が国語の教師だからだろうか。彼女を叱責するのは簡単だが、それでは面白くない。なんだか負けた気がするのだ、別に勝負事ではないが。


「そうか、では私がヒトデの気持ちを代弁してやろう」


私は立ち上がり、散らばっている星を一つ手に取った。彼女は膝を折って座ったままの姿勢で、顔を斜めにしコチラをじっと見ている。


私は彼女の頭に、優しく星の冠をかけてやった。


「星の逆襲だとさ、ヒトデにとっても私にとっても、大変意味のある行動だ。私はヒトデの気持ちに答えてあげただけだぞ?」


捨て台詞を言いその場を離れようとするが、彼女は頭の冠をむんずと掴み取ると、星を握りながらニッコリとしている。表情こそ笑顔だが額には青筋が立っており、手にしている星を握りつぶさんとする勢いだ。


私はその場から全力で離脱する事を決定し、砂浜を駆け出した。すると、その数秒後に無数の流れ星が私目掛けて向かってきたことは言うまでもない。


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