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4、辛い貴方とこの私1

「はい。ということでしっかり説明させてもらいますね。ショッキングな話かもしれませんが、大事な話なのでしっかり聞いてください。今回の冬斗君の墜落事故ですが、目撃者がいたみたいで。その人の発言により、この学校の生徒四人組が橘君を突き落としたということが判明しました。」

 どうやら無理矢理誰かに落とされたみたいだ。まだ自殺ではなくて良かった。

 いや、良くない! なんでそんな目に遭ってるの? なんでそんなことになってたのに、友達の私が知らなかったの?

「正直言って、犯人の大体の目星はついています。ですが、もしかしたらこのクラスでいじめが行われていたのに皆が無視をしていた可能性もある。なので今日は授業をせず、一人一人個別に話を聞かせて貰います。ちなみに、もし嘘をついたと思われる人が一人でもいた場合、クラスの全員の留年もしくは退学を検討させて貰います。下手なことは言わないように」

 かなり生徒を縛るやり方をするな。なかなかすごい脅迫。でも正しいやり方な気がする。ここまでしないと生徒を完全に脅すことなんてできない。ある意味高校だからこそのやり方だな。


 聞き取り調査が始まった。先生は誰がいじめっ子か明かす気は無いみたいだが、時間のかかり具合的になんとなく主犯格が誰かは把握出来た。その一人にはあの切り込み失敗番長、桐川君もいた。そんなことするような人だったんだ。なんかがっかり。

「次、小宮さん。来てください」

 遂に私の番が来た。冬斗君のためにも解決に向かわせるため頑張ろう。

 大吾先生に指示され、近くの空き教室に連れてこられた。

「はい、じゃあここに座って」

「はい」

「早速だけどまず、君はクラスの中で特に橘君と仲が良かったって話を聞いたんだけどそれは本当?」

 そんな話もしてるんだな。まあ、当たり前か。

「特にかは分かりませんが仲良かったと思います」

「そうか、分かった。じゃあ次に、君は冬斗君がいじめを受けていたって知ってた?」

 結構度直球な質問してくるんだな。知っていたわけがない。もし知っていたならばこんなに驚いていないし、絶対何か行動を起こしていた。

「知りませんでした」

「仲良かったのに?」

 そうですよ。仲良かったのに何も相談してくれなかったんですよ。

「はい」

 でも、どうなんだろう? もしいじめられてたことを知っていたとして、その時私は行動出来たのかな?

「そうか。嘘ついているようにも見えないしね。元々やっていないだろうってことは分かっていたし。ごめんね、尋問みたいになってしまって」

「いえ、大丈夫です」

「僕もなんとかしっかり状況を突き止めてまた橘君が楽しく生活できるようにしたいんだ」

「分かってます」

 そんなのわざわざ言わなくても先生の言動を見ていたら分かる。物凄く真剣にこの問題に向き合っている。高校の先生がまさかここまでしっかり対応するような人達だとは思ってなかった。

「ありがとう。じゃあ最後にもう少しだけ質問させて。実はいじめの実行犯の一人が、君には冬斗君の感情が分かるって聞いたんだけどそれは本当?」

え? いや、その、まさかそのことが話題に持ち上がってくるとは思わなかった。

「は、はい」

「そうなんだ。それは確実なものなの?」

「おそらく、最初にやってみたときに冬斗君自身も正解だとも言っていたので……」

「……分かった。ありがとう」


 最初なんでその話が持ち上がったのか分からなかったが、先生の反応を見て気付いた。まさか、もしかして、


「もう教室に戻って良いよ。ありがとう」

「ごめんなさい、」

「なんで謝ってるんだ? 何も悪いことしてないのに」

 前に冬斗君にも同じようなことを言われたよな。いや、今はそんなこと考えている場合では無い。今回と前回とでは状況が大きく違う。違うのは、“私が、明確に冬斗君を更に悪い状況に追い込んでしまった”ということだ。

「……私が悪化させちゃったんですよね」

「……もうそこまで気付いてしまったならはっきり言ったほうが良いな。おそらくそうだ。君が勝手に橘君の感情を決めつけてしまったせいでいじめの歯止めが効かなくなった。今回のいじめがあまりにも酷すぎたのは、おそらく君がいじめっ子たちを橘君の友達だと勘違いして楽しんでいると勝手に決めつけたからだろう」

 やっぱり、やっぱり、私が追い込んじゃった。私のせいでいじめが悪化した。私のせいで、大怪我を、

「ごめんなさい、ごめんなさい! ごめんなさい!」

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめん……





 目を開けると、眩しい光が突然目に飛び込んできた。

  私、なんでこんな白いところにいるんだろう?

「良かった。大丈夫? 小宮さん」

「はい、」

「ごめんね、僕がひどいことを言ってしまったばかりに」

 あ、そうか、ここは保健室か。でもなんで私保健室に?

「まさか倒れてしまうとは思わなかった」

 あぁ、倒れたのか。なんで倒れたんだったっけ?

「一応言っておくけど橘君の件は君が完全に悪いわけでは無い」

 そうだ。冬斗君のいじめのことで話していたんだった。

「……先生。今日、早退させて貰ってもいいですか?」

「わかった。岳斗先生には僕から言っておく。荷物も持ってきてもらうからここで安静にしていて」

「わかりました。ありがとうございます」

 大吾先生は重たそうな足を動かして立ち上がった。

「あそうだ。落ち着いたら橘君の見舞いに行ってあげてくれ。友達が遊びに来てくれたらきっと喜ぶだろう」

 それだけ言うと保健室から出ていった。私がお見舞いに行って冬斗君が喜ぶ? そんなことありえない。絶対にない。だって私が冬斗君を追い込んだんだもん。冬斗君を殺しかけたんだもん。

“ねえ”

 ネジに心の中で話しかけた。

『……』

 返事が返ってこない。おそらく意図的に黙っているのだろう。

「ねえ!」

『何?』

 次に声に出して呼んだら反応した。

「冬斗君の感情、違ったんじゃん」

『そりゃね』

「分かるんじゃなかったの?」

『そんなわけないじゃん」』

「は?」

 何言ってるの?

『他人の気持ちなんて分かるわけないじゃん。まずそもそも分かるなんて言った覚えないし』

「言ったじゃん!」

『いや、一言も言ってない』

「じゃあ今まで言ってたものは全部嘘だったの?」

『嘘というより妄想かな? 私が冬斗君の顔とか言葉でなんとなく思ったことを教えただけ』

 そんな、こいつ、ずっとそんな適当なことしてたなんて。

「いい加減にしろよバカネジ!」

『ネジって何?』

「は?」

『そもそも私別にネジじゃないし』

 何言ってるの?

『あなたが勝手に私をネジだと思い込んでただけだよ』

 じゃあ、それじゃあお前は、

「お前は誰だよ!」

『私はあなた。正確にいうと、翔吾を失った寂しさを埋めるためにあなたが作り出したもう一つの人格が私』

「何? 誰と話してるの? 優樹」

 しまった、八重に話しているところを見られてしまった。

「これは、その、」

「……ショックだったんだね。いじめの話。ごめんね、気づいてあげられなくて。そうだよね、友達がいじめに遭ってたって知ったらショックだよね」


 いや、違う。


「しかもあんな酷いいじめ」


 本当のことを言うべきか?


「まさか高校に来てまでこんなことをする奴らがいるなんて思わなかった」


 きっと言ったら軽蔑される。


 でも、それが私の背負わなくてはいけない罰か。

「違うの! ……私が勝手に冬斗君の感情を決めつけたせいで、いじめを悪化させちゃったの」

「え?」

 八重は鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をした。まさか、この表現をする時が来るとは思わなかった。こんなところで。

「じゃあ、優樹が言ってたのって全部嘘だったの?」

「嘘というか、私が思ってたのが外れていたみたいで、」

「嘘と一緒じゃん!」

「!?」

「優樹のせいで冬斗君が死にかけたんだよ? そのことの重大さ、わかってる?」

「わかってるよ! 人を殺しかけたんだよ?」

「……いや、分かってない! 優樹は何も分かっていない。気になってたんだよね、優樹さ、人のこと考えてる?」

「え?」

 八重の顔はとても怖かった。見たこともないくらい怖かった。けれど私は、自分が何に対して怒られているのかわからなかった。

「さっきさ、“人を”殺しかけたって言ったよね。“冬斗君を”じゃなくて」

 そして気づく。失言をしていたことに。

「ちが、私」

「優樹、自分が罪を犯したことばっかに囚われて冬斗君のこと何も考えてないんじゃないの?」

「そんなんじゃない、」

 八重は思いっきり壁を叩く。女子の力とは思えない、それくらいに大きな音だ。壁が凹んでいたとしても驚かないだろう。音に驚き、私は言い訳もできなかった。

「決めた。私、優樹がしっかり自分の罪を自覚して冬斗君に謝るまで絶交する」

「ちょ、八重」

「じゃあね。さようなら」

 八重は私の言葉を無視して足速に保健室を出ていった。

 ……考える暇もくれなかった。八重ってあそこまでしっかり怒る子だったんだ。知らなかった。

 自分をしっかり持ってて、意見もしっかり言えて、自分の悪いところをしっかり謝ることが出来て、相手の悪いところもしっかり指摘出来て、しっかり怒ることも出来る。本当に八重は凄いな。私も八重みたいになりたかったな。

 もし冬斗君と仲良くなるのが私じゃなくて八重だったら、もっと冬斗君は幸せになれただろうに。もし私じゃなくて八重だったら、冬斗君は自分の感情を取り戻していたかもしれないのに。


 冬斗君が関わったのが私だったから。


 ……今はそんなこと考えている場合じゃない。八重と仲直りするためにも、冬斗君にしっかり謝るためにも、自分の罪を自覚しなくちゃ。


 来てしまった。ここまで来ていうのもアレだけど、本当に行って大丈夫なのかな?

 病院。冬斗君が入院している病院。

 やっぱだめだ、でも、ああ、んん!

「嫌われてるならそこまでだ。会うだけ会おう!」

「何してるの?」

「何してるの!」

 目の前に冬斗君がいた。え? 私冬斗君の目の前でずっと悩んでたの? 何それめっちゃ恥ずかしいんだけど! てか相変わらず存在感無さすぎ! てかそんな当たり前のように病室から出て行って良いの? ここまだ病院の外だよ? 敷地内だけど。やばいやばいやばい、頭こんがらがりすぎてさっきまでの暗いテンションが嘘みたいになってる!

「ちょうど暇してたんだ。良かったら話に付き合って」

「あ、えっと私冬斗君に」

「付き合って」

「……分かった」

「じゃあついてきて」

 冬斗君はそそくさと歩き始めた。一体なんなんだ? さっきから絶妙にテンポが崩れる。

「林間合宿で話したこと覚えてる?」

 すっかり疑問文の使い方も上手くなったな。私の教えを意識してくれているんだな。

「『ここ来たことある』って言ってたやつ?」

「うん。あそこさ、昔よくお父さんが僕に暴力を振るのに使ってた場所なんだ」

「え?」

 ってことは、冬斗君は虐待を受けていたってこと?

「あ、あった。ここ座ろ」

 冬斗君は見つけたベンチに腰を下ろした。

「座らないの?」

 顔を覗く。やっぱり真顔だ。喋り方を修正できても、まだ表情は作れないらしい。

「え、ああ、うん座る」

 私も冬斗君の左側に座った。

「あのさ、さっき言ってたのともう一つ、僕が言ってたこと覚えてない?」

「私も来たことあるってやつ?」

「うん」

「でも私あんなところ行くの初めてだったよ」

「いや、多分初めてじゃないと思う。僕の記憶が正しければ」

 え? なに言ってるの?

「僕達、たぶん昔あそこで会ってる」

「え?」

「お兄さんの名前、翔吾でしょ?」

 あれ? 私冬斗君に名前言ってたっけ?

「そうだけど、何で?」

 冬人君は自分で勝手に納得した。

「うんやっぱり。僕達会ったことある。あの時は、本当にごめん」

「え、どういうこと? ねえ、ちょっと!」

 私の動揺に冬人君は全く反応しない。

 少しの間、下を向いた。考え事をしていたんだと思う。そして頭を上げ、私を向く。

「冬斗君! 勝手に病室飛び出したら駄目でしょ! 早く戻らないと。診察の時間来ちゃうよ!」

 後ろからの声に冬人君は私の先の看護師に目を向ける。

「はい。じゃあごめん。また今度」

「え? 待って! 途中で話終わらせないでよ! ねえ!」

 冬斗君は私の話を聞かずに、看護師さんと病院内に戻っていった。

「もう、みんなみんな、何なの……」

『やっぱあれ、冬斗君だったんだ』

 もう一人の私が独り言を呟いた。

「冬斗君が言ってた昔のこと、知ってるの?」

『うん。覚えてる』

「私何も記憶に無いんだけど、」

『勝手に忘れたからね』

 勝手に忘れた? どういうこと?

「もし覚えてるなら教えて」

 一気に色々なことを言われすぎて、もうこのままじゃ本当に頭パンクして爆発しちゃいそう。一つ一つ解決させよう。

 まず冬斗君との過去から。

『知る勇気ある? 自分から捨てたのに』

「は? 何言ってるの?」

『まあ、良いや、もう。じゃあ教えてあげる。覚えてないだろうけど、私元々林間合宿で行ったあの辺りに住んでたの』

 もう一人の私が私について語り出した。

「あちょっと待って! 場所変えよう。流石に病院の中はちょっと」

『確かに。じゃあさっさと家帰って』

 言われなくとも。

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