3、忙しい私と消える君2
「はぁ、はぁ、やっと終わった、」
遂に準備が完了した。本来飯盒炊爨を最後まで残ってから準備するところを、わざわざ途中抜けして行ったが、一杯一杯まで時間がかかってしまった。あと五分ぐらいで肝試しが始まってしまう。
「お疲れ八重!」
「なんか優樹凄いね、この量の準備しといてそんな元気って」
「そりゃね。これのために頑張ってきたんだし、疲れてる暇なんて無い! それに今からが本番だよ! しっかりしなきゃ!」
ちなみに肝試しの説明とかは私達はやらなくていいらしい。まあ逆に言うと私たちの手柄がまるで全く別の人の手柄のようになってしまうわけだ。でももう良いそんなの。結局手柄泥棒も一緒にやるなら苦しめられるし!
「ここまでやったらみんな怖がってくれるよね」
「じゃなかったら私の苦労全て泡になる……」
「うっ、そうならないようにしなきゃ。でも、ここ良い感じに林の中だし雰囲気も上手く作れたから大丈夫か!」
林間合宿と言ってるだけあって本当に物凄い自然に囲まれており、しかも近くには墓場もある。そのおかげか我ながら良いものを作れたと思う。あとは私達次第だ!
「優樹! もう始まるって!」
「ラジャ! お互いがんばろう!」
「うん!」
私たちは走ってそれぞれの配置についた。
「ぎゃーーーーーーーー!」
「え? なになになになに!」
「肝試しってここまでするの!?」
「もうやだ、帰りたい!」
ハハハハハハハ! ハーハハハハハハハ!!
苦しんでるの〜苦しんでるの〜! あー人々の悲鳴ってこんなにも気持ちのいいものなのか。楽しい! 不謹慎かもしれないけど楽しい!
なんか一人、岳斗先生も叫んでたな。まあ、怖がらせといてアレだけれど、先生まで叫ぶなよ。でもこれで大人も怖がらせられるものだと証明できた! 岳斗先生精神年齢低そうだから基準にしていいのか分からないけど。
あ、ちなみにどのようなコースになっているのか説明しよう。私視点だと把握出来ないだろうからね。
まず最初に看板がある。飛び出し注意の男の子みたいなやつ。それに近づくと手が動き、「こっちに行くと危ないよ」と喋り出すようになっている。まずここで少し驚かせる。
そして次に林のようなところに入る。そこに入るとなぜかザクザク音がし続ける。まるで何かをナイフで滅多刺しにするような。
ある程度まで進むと突然水飛沫がかかり、人影が見える。そして一言。「見たな」
その後足音が辺りからなり響く。何とか進んだ先にはお地蔵さんが。そこにあるお札を取っていかなくてはいけないのだが、お札を取った時に近くから手が伸びて一言。「お前も私を殺した一人か?」ここで折り返しだ。
あとは帰るだけだが、その最中に至る所で悲鳴が湧き上がる。そしてバタンバタンと倒れる音、鳴り止まない足音が聞こえ続ける。
そして最後に墓場の近くを通る。そこにも人影があり、前を通ると肩に手を置かれ、「なんでお前たちだけ。お前たちもこっちに来い」と声をかけられる。
こんな形だ。ちなみに八重がお地蔵さんのところ、私が最後のところを担当している。他は全て私が作ったロボットの力だ。いや〜楽しい。私が手を置いた瞬間のみんなの叫び! 極上だわ〜! それにロボット達! いい働きしてるね〜。
正直本来ならお化けとかそういう方向で攻めるものなのかもしれないけど、今回は殺人鬼っぽさメインでやってみた。いや〜、センサーの仕組みとか、水飛沫とか作るのは大変だったけどやった甲斐あったわ!
お? この、肝試しの雰囲気に異様にマッチしている高身長男子は冬斗君だな。とびっきりのを見せてくれや!
私は手を肩に置いて声をかけた。
「なんでお前たちだけ、お前たちもこっちに来い!」
「……あ、お疲れ様小宮さん」
「じゃないだろ!」
怖がれよ! 悲鳴聞かせろよ! なんだよここでも冬斗君の表情を引き出せないのか? もう末期や! 助けてくれ!
「というか僕一人だよ。“たち”って」
「あ、確かに。と言うかなんで一人? 二人以上ずつだったはずなのに」
それになんか冬斗くんボロボロ。まあ、これに関しては肝試しがなかなかに怖かった証拠だろう。表情にでないだけできっと逃げまくったりはしたんだろうな。と信じたい!
「……他の子逃げた」
「ん? 途中で逃げれる道なんてあったっけ? まいいや。というか驚いてよ! せっかく頑張ったのになんか台無しじゃん!」
「驚いてたよ。少し反応遅れてたじゃん」
確かに言われてみればそうだった気もするけど、表情に出ていなきゃ意味ないんだよ! 叫ばなきゃダメなんだよ!
「それに僕が驚かなくても他の人が驚いてるなら良くない?」
「それ言っちゃそうだけどせっかくなら冬斗君の驚いた顔見たかった!」
「それはまあ、残念」
「くそ!」
あ〜あ。この肝試しの目標は先生達への恨みの発散と冬斗君の驚きを見ることだったのに。一つは叶わなかったか。
「ねえ小宮さん」
「ん? なに?」
「僕が今どんな感情かわかる?」
いきなりどうしたんだろう? まあ、ちょっとしたゲームみたいな感じか。
“何考えてる?”
私はいつも通りネジに質問した。
『……肝試しでびっくりしてそのままだよ』
「肝試しで驚いてびっくりしてる!」
「……やっぱりなんでもお見通しなんだね」
「ふふ、凄いでしょ!」
「うん。そういえばさ、僕、ここ来たことあるんだ」
「え? こんなところに?」
「うん。小宮さんも来たことあるんじゃない?」
「……」
え? 何言ってるの? 私ここに来たの初めてだけど。
「何言ってるの?」
「いや、なんでもない。邪魔してごめんね。頑張れ」
冬斗君は私の返事も聞かずにそのまま何処かへ行ってしまった。いや、何処かってここ一本道だから出口に向かうしかないんだけど。でも、なんだろう? この感じ。本当にどこかに消えてしまっちゃうみたいに感じる。
「終わったーーーーーー!」
肝試しは無事終了した。
「お疲れ様〜。ここからの片付け大変だ、」
八重の言葉に一瞬現実を見せられた気がした。楽しかったしやり切った感があったけど、まだやることはある。はぁ。
「とりあえず一旦休憩しよ」
「賛成」
私達は二人一斉に地面に倒れ込んだ。本当は普通に座ろうと思ってたんだけど、力が抜けてそのまま横を向いてしまった。
「あそういえば、しっかりあの先生怖がってたね!」
「うん! やってやった!」
冬斗君の驚き顔を見るという目的は成し遂げれなかったけど、ムカつく先生への復讐はしっかり出来た。あ〜楽しかった。
「結構楽しかったね」
良かった! 八重を結構自分勝手に巻き込んじゃってたけど、楽しんでくれてたみたいだ。
「なんか、ある意味二人でやってよかったね」
「うん! 知らない奴と協力とかだったらこんな楽しくなれなかったと思う!」
二人で一緒に笑い合った。
「どう? もう少し休む?」
「休むってほど休んでないけど片付けしよ!」
「賛成。さっき準備でかなりギリギリだったしね」
正直配置だけならばそこまで時間はかからないんだけど、機械の解体になかなか時間食われるんだよね。ちょっと凝り過ぎた。
腕時計を見た。現在九時四十五分。
ちなみに準備にかかった時間はおよそ四十五分。下宿に着かなくちゃいけない時間は十時なので今からあと十五分。
「やばい急ご!」
「うん!」
「遅刻!」
「「すみません!」」
結局間に合わなかった。てか無理だよ流石に!
その後何事もなく林間合宿は終わり、帰ってきた三日後から普通の授業が始まった。……なんで授業あんの? 今夏休みなのに。夏期講習とか本当にだるい。でもこういうところさすが進学校だよね(あれ? 進学校だっけ? まあ雰囲気的に進学校だから良いか)。
そういえば、冬斗君、ずっと学校来てないな。林間合宿終わってから、と言うか肝試しのあの時からずっと話していない。何かあったのかな? もしかして病気? ……ありうる。なんならいつも病気に侵されているんじゃって思える感じの雰囲気あるし。なんか私酷すぎない?
「ねえ優樹! 聞いた?」
私が教室に到着して早々、八重が走って私のところに寄ってきた。
「何を?」
「冬斗君、怪我で入院してるんだって!」
「え?」
なんで? いつの間に? というかどういうこと? やばい、思考が追いつかない。
「なんで入院する程の怪我したの?」
「分からない。なんか高いところから落ちちゃったみたいなんだけど」
事故? ありえない。冬斗君凄いしっかり周り見てるし、歩きスマホとかもしないような子なのに。じゃあどうして? 事故じゃないとしたら、その場合三つしか浮かばない。一つは普通にその時だけ不注意になっていたというもの。あと二つは、……無理矢理落とされたか自殺未遂。いや、無い。それは無い。だって冬斗君やっと友達も出来たんだもん。死にたいと思うわけないだろうし、殺されるなんてことも多分無い! 確かに性格にちょっと難あるし、気に触ること言うこともあるけど、
待って待って、思考がまとまらない。一旦落ち着こう。ふう、
「みなさん揃ってますか?」
突然大吾先生と岳斗先生が一緒に入ってきた。いつも眠たそうな雰囲気を持っている岳斗先生からは、いつもとは違う少し嫌な空気が漏れ出していた。
「揃っているみたいですね。席に着席してください。話があります」
嫌な予感がしてきた。そんなこと無いよね? まさか冬斗君関連の話じゃ無いよね?
みんなが先生のいつもと違う雰囲気に驚きながらも、それぞれの席に座っていった。そして、みんなの動きが落ち着いた頃、先生が続きを話し始めた。
「知っている人もいるかもしれませんが、橘冬斗君が今大怪我で入院しています。そして、その怪我の原因がいじめであることが発覚しました」
「……」
どうやら、後者の二つのどちらかのようだ。