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2、分かる私と無の君1

「え〜さて皆さん。入学して早々ですが、今度合唱コンクールがあります。ということで曲など諸々決めてください」

 事後報告〜。え〜まず、岳斗先生は無事でした。正確に言うと物凄く叱られたみたいで、戻ってきた時は号泣していましたがまあ大丈夫ってことで大丈夫でしょう何言ってんだ私。あと、切り込み失敗隊長こと桐川正樹君は反省文送りになりました〜。なんか重くね? かわいそうにな。先生を助けてあげようとしたのに、その結果先生は叱られただけ、桐川君は反省文。これが社会の不条理というやつか。悲しきかな悲しきかな。

 二人が戻ってきたあと桐川君の自己紹介を行い、学級委員を決めた。まあ、もちろん満場一致で浅井君に決まった。さすが救世主!

 はい事後報告終わり〜。何一人で考えてるんだろう。

『本当だよ。うるさいな』

 ネジが話しかけてきた。

“いきなり話しかけないでよ。びっくりするじゃん”

『その割にはなかなか早く対応してくるね。というかうるさいよ。人の考えがいやほど聞こえてくる私の身にもなって』

“いや、何者かも知らないのにあんたの身になんてなれないよ。それに考えていること筒抜けな私の身にもなってよ”

「小宮さん」

「わっ!」

 冬斗君、ほんと存在に気付くだけでびっくりする! 

「なんで僕が話しかけたら取り敢えず驚くの」

「ごめん、でも、もー少し、もー少し存在感作って!」

 しょうがないのは分かってる。分かってるけど、だとしても本当に心臓に悪い! もっとご老人に優しい人間になろ?

「あごめん。で、何?」

「小宮さんってピアノ弾ける?」

「一応弾けるけど、」

「小宮さん弾けるの?」

 え、あれ、冬人君に言ったつもりだったのにみんなに聞こえてしまったみたいだ。

「じゃあ伴奏引き受けてくれない?」

 何言ってるの? 浅井君!

「え?」

「このクラスさ、ピアノ弾ける人いないんだって。小宮さん以外」

「お願い小宮さん! 小宮さんにしかお願いが出来ないの!」

 まじかい! まさか私いきなりそんな目立つことせんとあかんのかい。まあ、私以外やる人がいないならしょうがない。

「分かった。やるよ」

「よし! ありがとう!」

 救世主に頼まれたらやるっきゃ無いやろ〜! くそ、やるならとことんやってやる! 簡単な曲来い!

「ちなみに小宮さんってピアノ上手いの」

「……中学三年間コンクール出たけど予選落ち」

「上手いの」

「なめとんのか」

 もう、分かりきってるけどネジに聞いてみるか。

“さささ! 今の冬斗君の感情は?”

『笑ってるよ。なんで分かってるだろうにわざわざ確認するの?』

“なんとなく”

『なんとなくで私を使うな』

“それは普通にごめん”

 まあそれは良いとして、おふざけ無しに普通に簡単なのだと良いな〜。個人的には『あなたへ』とかなら、

「じゃあ次は選曲だけど、意見どーぞー」

「『手紙』やりたい!」

 は? おま、『手紙』がどれだけ難しい伴奏になってるか分かっとんのか? いやまあ、まだ練習したら出来るかもしれないけれど、

「『平和の鐘』!」

 そー! それ! そのくらいだったらまだ頑張れると思う!

「『友』!」

 は、

「良いね良いね! それにしよう!」

 え、ちょっと待って!

「よし決めた! 『友』だ! 『友』!」

 ねえ待って、お願い!

「じゃあ他に無さそうだしもう投票するか。『友』したい人!」

「「「「「「はーい!」」」」」」

 え、あ、あの……。

「じゃあほぼ満場一致だし『友』で!」

 あの、みんな知らないでしょ、『友』グレード一番高いやつ、ちなみに『手紙』もそうなんだけど。

 あー、もう駄目だ、ここからもう変えられるムードじゃねー。みんなめっちゃやる気満々になっちゃってるよー。この棒読みアンド伸ばし棒の喋り方何?

「小宮さん! 期待してるよ!」

 あ〜あ。ダメだこりゃ。


「小宮さん、大丈夫そう」

 あれから一週間。毎日頑張って練習してなんとか弾けるようになってきた。途中途中つっかえるけれど。

「一応、何となくは出来ると思う」

「良かった。今日からクラス内だけの練習始まるし頑張ろう」

 一応一回だけ音楽の授業があって練習はしたが、クラスのみんなとだけでやるのは初めてだ。

「うん。ていうか冬斗君友達とかいないの?」

 一週間一緒にいたけど、冬斗君が他の男の子と一緒にいたところをほとんど見たことない。

「何だろう。話せる人はいるよ」

「人って言ってるところ、まだ距離が凄く感じられるね〜」

「そうかな」

「頑張りなね。協力するから」

「うん、よろしく」

 再度言うことになるが、もう一週間経ったのか。あんなよく分からない出会いを果たしてから、もうそんなに経ってる。あれ? そんなに言うほど経ってないか?

「よし! じゃあ合唱の練習始めるか!」

「じゃあまず並んでくださーい!」

 平さんが指揮者だったんだ。あの時ずっと考え事していたせいで指揮者が誰か知らんかった。あの子、指揮できるんだ〜。あでも、できそう。なんか、才能の塊みたいな雰囲気あるよね。

 にしても、色々もう一度言わせてもらうけれど、『友』か〜。この曲、前半はそこまで難しくないんだけれど、最後の大サビがまあまあ難しいんだよね。まあ、もう決まっちゃったことだし、私も練習してある程度は出来るようになったわけだから、今更グチグチ言うのはあれか。

「一回通そう!」

 いやいきなり通すのはあれではないのか? ということは気になるが、まあいいや。ひとまず従っておこう。

 みんなで一斉に歌い出した。まあはっきり言ってそんなに上手くない。あとどうでも良いけどそれぞれのクラスに配られた伴奏用のキーボードが八十八鍵じゃなく六十一鍵だから鍵盤足りなくて弾きにくい。

 思ったんだけれど、高校入ってそんなすぐに合唱コンクールがあるってなんか変だよね。まだまともに話せていない人もいるのに。岳斗先生といい、この高校やっぱあんまり良くない? いやま、これだけで判断しちゃダメか。

「全然ダメ! こんなんダメ!」

 あまりの酷さに痺れを切らした平さんが途中で強制終了させた。「もういいや、ここからパート練習にしよう! みんなパートごとに分かれて練習して!」

 いや、多分だけれどこのままの状態でパー練しても意味がないと思う。あそうだ。

「ねえ平さん。」

「ん? 八重でいいよ。」

「え、あぁ、じゃあ八重ちゃん。パートリーダー作らない?」

 パートリーダーを決めればもう少し細かく修正出来るし、練習もし易くなる。結構良いアイディアなのでは? あれでも、ありきたりなアイディアでは?

「それいいじゃん! ナイスアイディア優樹!」

 すげー初めてまともに話したのにもう下の名前で呼び捨てか〜。これが陽キャラってやつか〜。

「じゃあパートリーダー決めま〜す。それぞれのパートから一番歌えてた子勝手にこっちから選んじゃうね。じゃソプラノ、アリス!」

「私か」

「アルト! 佳奈!」

「え! そんな歌えてた? 嬉しい!」

「一番音程取れてて良かったと思うよ! もう少し音量とか気を付けたら良くなると思う」

 八重ちゃん思っていたより凄い。一回途中までやっただけなのに、誰がうまかったかちゃんと聞き取ってるんだ。やっぱ才能の塊なんだ、凄い!

「でバスは冬斗君」

「え」

 まさかまさかの(いや、ある意味王道か?)冬斗君がバスのパートリーダーになってしまった。へ〜冬斗君歌うまいんだ。あまり意外でもないかも。ただ棒読みなだけで声意外と良いしな。

「冬斗君さ、めっちゃ音程取るの上手いし結構良いのに声ちっちゃい! 勿体無い!」

 まあ確かに、冬斗君ずっと声小さいよな〜。私はもう慣れて普通に聞き取れるからほんと忘れちゃうけれど。

「引き受けてくれる?」

「分かった」

 冬斗君はいつも通り無表情のまま答えた。

「あ、嫌だったら別にいいよ?」

「いや、別に嫌ってわけじゃ、」

 無表情が故に不満を持ってると思われてしまった。庇わないと。こんな時こそ我が能力のネジ様の出番でい。

“冬斗君どんな感じ?”

『お願いされてる時は喜んでたよ』

「冬斗君普通にやりたそうだから大丈夫だよ!」

 みんなが私に目を向けた。あ〜もう、私って何でこんなに人目を引くんだろう。……何これ、この言い方まるで私がめっちゃ可愛くてそのことを理解してる奴みたいじゃん! わー私ってなんて可愛いの? ……おえっ。

「何で分かるの?」

 え? えーと、なんて言い訳しよう?

「私、なんか分からないけれど冬斗君の感情当てるの得意なんだよね!」

 全然言い訳じゃねー!

「冬斗君ほんと?」

「うん。やりたい」

「え、うん、まあそれならお願い!」

「分かった」

 なんか、これはどうなんだろうな〜。私、完全にただの変人に成り果ててない? 冬斗君の無表情から感情を読めるなんて普通ありえないし(ガチで何考えてるのか分からなくなるし、何なら存在に気付けないし)。

「じゃあ各パートのリーダー中心に練習お願いしまーす! 優樹は一個一個回って音取りの手伝いしてくれる?」

「分かった」

 パート練習が始まった。何気に一つ凄いと思うのが、みんな思っていたより真面目だ。ふざけたりサボったりする人は誰もいなくて、結構やり易い。なんか、こう言うのって男子が暴れるイメージあった。まあこれからあるかもだけど。

 パート毎の練習は思ったよりも順調だった。私の出した案が良かったおかげかな!

『いや、八重ちゃんの人選が良かったからでしょ』

 そうかもしれないけれど言わんくて良いじゃん。良い気持ちにさせてよ。

 冬斗君も思った以上に教えるのはうまかった。普通に音楽の才能あるんやない? ただ、気になることがある。何で右手にマイク持ってるの?

「ねね、何でマイク持ってるの?」

「聞こえないって言われて持たされた」

「何であるんだよ」

「声が小さい先生への対処として誰かが持ってきてたらしい」

 やっぱこの学校おかしい! けどこのふざけ方なんか好き! この謎の行動力、進学校っぽい! 偏見!

「ねえ、小宮さんって本当に橘の感情わかるの?」

 バスパートの子に話しかけられた。

「うん」

 冬斗君が答えた。いや何で冬斗君が答えてんの? あこれ冬斗君が訊かれてた? 私が間違えてた? 恥っず!

「じゃあさ、今橘が何考えてるのか教えて! こいつ何考えてんのか分からんくて怖い!」

 あらま、早速怖がられてんじゃん。でもテンション的に多分ガチの恐怖では無いんだろうけれど。

「怒ってる? 俺たち下手すぎて怒ってる?」

 少し涙目になってる。ワンチャン普通に怖がられてる線も出てきたぞ?

「僕は別に怒ってないよ」

「嘘つけ〜! そんな虚な目で俺たちをずっと見続けてるくせに!」

 確かに冬斗君、めっちゃ虚な目してる。

“実際どう?”

『覚えが悪いことに関してはイライラしてるけれど、そこまで怒ってはいないよ』

「怒ってはいないよ!」

 ネジがせっかく教えてくれたが、イライラしているというところは省かせて貰った。言ったらなんか男子の涙が止まらなくなりそう。

『せっかく教えてあげたのに』

“良いじゃん別に”

 一応私の話を信用してくれたみたいだ。みんな涙目になりながら安心していた。結局泣くんかい。まあ、いいや。

「お願いだ! お願いだからもう少しだけ明るい顔をしてくれ!」

「無理」

 ……なんか、もう少し優しく接してあげてよ。みんながみんなその抑揚が無くて疑問文すら疑問文に聞こえない喋り方に慣れてるわけでは無いんだから。

 もういいや、しょうがない。男子共のフォローは私がしてあげよう。


「カンパーイ!」

 えー只今、私たちの行動を見ている人にとっては「なぜいきなりこの人たち打ち上げしているのだろう? あれ?もう合唱コンクール終わった?」と思った人がいるだろう。ちなみに、合唱コンクールは終わっていない。一日目の練習が終わっただけでその後ファミレスでお疲れ様会をしている。なんで練習一回しただけでしてんだろう?

 まあ何でかと言うと、浅井君がやろうと言ったからだ。信長と仲良くなれそうな浅井君(信長君もちゃんとクラスにいる。うちのクラス、ほんと戦国時代……)が言ったからだ。

「でなんでもう打ち上げ?」

「いやまあ、打ち上げというか激励会だよ。がんばろーって」

「はあ」

 乗り悪いなみんな。

「橘君、大丈夫?」

 浅井君が訪ねた。ちなみに冬斗君は表情無く、ただひたすらオムライスを少量ずつ食べている。側から見たら楽しんでいるとは到底思えない。

『一応楽しんでいるみたいだよ』

“早急にお知らせありがと”

 メニュー置きに付いてるネジが教えてきた。タイミングナイス!

『ありがと』

“独り言だよ”

「楽しんでるみたいだから大丈夫っぽいよ。浅井君」

「なら良かった!」

 何気に私が橘君の感情を読めることは納得してくれてるんだな。高校入ってから、心配してたところが案外心配要らなかったってのが多いな。逆に岳斗先生のやつみたいに意外なところで気にするところがあるけど。

「それぞれのパートはどう?」

 一応合唱コンクールの激励会なので、各パートのパートリーダー、指揮者、伴奏者、学級委員が集まっている。

「ソプラノは微妙かな。高い音もあるからそこら辺があんまり取れて無いんだよね」

「アルトは意外と良い感じだよ。みんな結構できてる」

 八重ちゃんばかり凄いと思ってたけれど、他のみんなも凄いな。しっかりパートの人達のことを見ている。なんか格好良いな。私もこんな人達みたいになりたい。あと、そんな能力を持っている人達を即座に見分けた八重ちゃん凄い!

「バスはボロボロだよ。音程悪いしリズムも下手。なのにやる気はあるから余計にんんんんん」

 私は冬斗君の口を押さえた。冬斗君もみんなのことを見れていてそこは凄いけど、良いんだけど! それ以上は言わないであげてお願い! 浅井君ちょっと悲しそうな目してる! おそらく「余計に厄介だ」って言おうとしてたんだろうな〜。

“一応冬斗君の感情どうぞ!”

『一応で私を使うな。はあ、楽しんでるよ。パートリーダーになって皆に頼られてるのが嬉しいみたい』

「浅井君、別に冬斗君怒っているわけでは無いから大丈夫だよ?」

「なら良かった……」

 浅井君は目を光らせながら安心していた(興味とかで光っているわけではなく涙目になったせいで光ってるだけだけど。言い方一つで変な感じになるね〜面白い)。というか冬斗君何回浅井君を不安にさせるんだよ。なんか「なら良かった」が浅井君の持ちネタみたいになっちゃってるよ。

「……本番までに出来るようになると思う?」

「バスパートによるんじゃない?」

 相変わらずハッキリだな〜。まあ確かにそうだとは思う。男子が圧倒的に足を引っ張っている。素人でも分かるくらいに。

「あと約一ヶ月間、どこまでレベル上げれるかね〜」

「あんんんんんんんんんんんん」

 なんかやばいこと言い出しそうだったのでもう一度冬斗君の口を塞いだ。ただでさえ感情が表に出なくて皆に怖がられているのに、発言までそんなだったらみんな死んじゃうよ! ライフマイナスになるよ! 自分の言葉の鋭さに気付いて!

「なんか、このことばっか考えてたら、うん、あれだから、一旦忘れて楽しもう!」

 それで良いのか? それでいっか。確かにこのまま話し続けてたら冬斗君が浅井くんをメンタルブレイクしちゃいそうだし。一旦離れたほうがいいだろう。ライフゲージを回復させよう。何で私ゲームしないのにゲームで例えてるんだろう?

「じゃあ、せっかくだしするか! カンパーイ!」

 したじゃん!

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