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1、ネジの奴と隣の君2

 冬斗君と一緒にアイスを買って、公園に戻ってきた(またもや濡れたベンチに座ってしまってまたお尻がビッシャビシャな話は置いておこう……。流石にもう使えるハンカチが無い)。

「そういえば、なんで冬斗君こんな早いの? 親と写真撮ったりしないの?」

「……僕、親いないから。一緒に写真撮ってくれる人なんて一人もいないんだ」

 冬斗君の声に少し靄がかかったような気がした。あまり触れない方が良い内容だったかな?

「ごめん」

「なんで謝るの」

「いや、聞いちゃいけないこと聞いちゃったかなって」

「別に大丈夫だよ。ただ、養子だし、里親も忙しい人だから写真撮って貰えないってだけだから」

「一人で撮れば良いじゃん」

「そういう小宮さんはどうしてここに」

 うっ! なかなか強いな此奴。言葉での戦い方を存じ上げている。

「……親いなくて暇だったから」

「一人ででも撮れば良かったじゃん」

 笑ってるんだろ笑ってるんだろどーせそうなんだろ!

『笑ってるよー』

「やーっぱりー」

 ネジも私もテンションどうかしてるのか?

「またバレたか」

「もっ!」

 冬斗君の情報が増えた。冬斗君はドエスである。まったく、初対面の相手にここまで失礼になれるの凄いな。あと、冬斗君表に出せないだけで本当は感情豊かな子なんだな。

「どうして両親いないの」

 冬斗君が聞いてきた。

「ただ、二人共出張に行ってて家に居ないってだけだよ」

「そうなんだ」

 会って間もない人にこういう話はして良いものなのか分からないけれど、まあ良いか。

 私も聞いてみても大丈夫かな? まあ、ダメだったら教えてくれないだけか。

「冬斗君のご両親は?」

「お母さんは僕を産んで死んじゃった。お父さんは知らない」

 なんというか、やっぱり聞いてはいけなかった気がしてきた。今更だけど。

「ごめん」

「なんでそんなに謝るの。別に怒っていないよ」

 私はすかさずベンチのネジを見た。

『嘘をついている。少し怒ってるよ』

 まあ、そうだよね。聞かなければ良かった。

「なんでいつも怒っていないのに謝るの」

「悪いこと聞いちゃったかなと思って」

「相手の事を知りたいのは当たり前だろうし、別に悪い事じゃないと思うけれど」

 ならなんで怒ってるんだよ。て思うなら声に出して聞けよ。ほんとよく分からないところで勇気あったりするのに、よく分からないところで勇気がない。面倒臭い奴だな、私って奴は。

「小宮さんが話してるネジってどんな人なの」

 人。人? まあ良いや。

「なんか、よく分からないんだよね。いつも自分の心見透かして馬鹿にしてくるだけだから」

「そうなんだ」

「中学生の時にいきなり声が聞こえ出すようになって、今もずっと話しかけてくるんだよね」

「なんか良いね」

 何が良いものか! こいつのせいで私がどれだけ傷ついたと思って!

「何が良いの?」

「だって、ずっと自分のことを理解してくれる人が側にいるってことでしょ」

「理解してくれてもそれでバカにされるなら意味ないよ」

「まあそれは確かに」

「あ〜でも、居てほしいな。自分のこといつも理解してくれる人」

 あれ? また少し空気が重たくなった気がする。

「そんな人いないよきっと。結局はみんな自分の生きたいように生きて、気まぐれに他人のことを考えているだけなんだから」

「?」

「ある意味、どこにでも当たり前のようにあるネジの方が僕達をしっかり見守っていてくれてるかもね」

「それはどうかな」

 そんな優しいネジだったら私はここまで苦労していないと思う。


 今日は良い日だった。と言っていいのか分からないけれど、まあプラマイプラスにはなっているだろう。折角の入学式が雨で始まってしまい、ネジと話しているところを見られ、制服のスカートはビシャビシャ。だけど、とりあえず冬斗君と仲良くなれた! それは本当に良かった。

 そういえば初めてだな、ネジの話をして拒絶されなかったの。なんか、良かったかもしれないな、話して。

『まあ、明日クラスで噂にされるかもしれないけれどね』

「うるさいな」

『私は本当のことを言っているだけだよ』

 勉強机の角っこについていたネジが話しかけてきた。ちなみに、ネジは全員同一人物だ(人?)。だからどこのどんなネジと話しても、同じ奴と話していることになる。

「そうだ。私に協力して」

 いつも邪魔にしか思っていなかったけれど、今回初めて役に立つことが分かった。ネジとの協力体制が取れないと冬斗君の感情を測れない。

 ……でも、今まで貶してきたわけだし、無理かな? 

『良いよ』

「良いんだ」

 思ったよりあっさりだった。

『別に良いよ。優樹がして欲しいなら』

「やった! ありがと! お礼に二人だけの時なら会話に付き合ってあげる」

『……』

「ずっと気になってたんだけど、結局あんたは何者なの?」

『さあね。知らない』

「自分の正体も分からないわけ?」

『うん分っからない。正直、自分の正体が分かってる人なんていないでしょ?』

「そんな哲学的な話を聞いてるんじゃないよ、もう。あなたがどういう種族の存在か聞いてるの!」

『教えない』

「ひっど」

 なんでいつもバカにする時だけあんなテンション高いくせにこういう普通の話の時だけテンション下がるんだよ。

「そういやさ、冬斗君、養子なんだって」

 いつも通り淡々と話していた内容だったが、他のどの時にも無い闇を感じた気がする。やはり、冬斗君は親子関係に何か問題があるのかもしれない。母親はもう亡くなられていて問題を起こしようも無いからともかくとして、おそらく父親に。

「冬斗君、表情戻せるかな……」

『さあね』

 雑! はぁ、もう良いや。ネジとのたわいも無い会話を終了し、私は私の今日を終了させた。


「おはよ〜冬斗君」

「おはよう」

「相変わらず薄いね〜」

「薄いって」

「なんか、説明しづらいけど、な〜んか薄い」

「何それ」

「何だろ」

 高校生活の二日目が始まった。今日は昨日の雨が信じられないほどに空が青かった。祝う気が無かったというより、祝う日を間違えたのかもしれない。結局は大切な日に祝って貰えなかった事実は変わらないが、もしそうなら許してやらなくもないぞ。今日は晴天にしてくれたわけだしね。

「今日何やるんだっけ?」

「今日はガイダンスと自己紹介」

「うぁ、昨日あんなにガイダンスしたのにまだ残ってるの?」

「あんなにしっかり明日何やるか言われて紙も貰ったのに覚えていないの」

「……」

 感情が表に出ていないだけで中々言葉に棘がある気がする。やはり感情自体は残っているんだな。

「こんなに冷たく言葉の棘を刺されたのは初めてだよ」

『結構熱の篭っている棘だったよ』

 いちいち私の傷を抉ることばっか教えてくるな。

「わざわざそこを教えてくれなくて良いの!」

「……なんか、何を話しているのかは分からないけれど、兄弟みたいだね」

「兄弟? あ〜いるだけでイライラするって意味では近い存在かも」

「兄弟いるの」

「ん? いたよ? 双子のお兄ちゃん」

「いた」

「どっか行っちゃった。今生きてるのか死んでるのかすら分かんない。まあ、多分死んでんじゃない?」

「なんかごめん」

「うん、正直あいつのことは思い出しいてもつまんないだけだから思い出したくない」

 思い出してしまった。もうやだ。なんであいつのことなんて思い出してしまったんだ?

 私の双子の兄は翔吾という名前だった。いつも本当にうるさいくらい元気で、私のことを散々に連れ回しまくった。あそこまでキツく言ってしまったが、別にそこまで嫌いだったわけではない。なんなら兄妹にしては仲が良い方だったと思う。

 しかし、翔吾は勝手にどっかに行ってしまった。いつも私を連れて行っていたのにその時だけは私を連れて行ってくれなかった。

「おはようございます」

 無言が続き少し経った後、先生が教室に入ってきた。担任の山崎岳斗先生だ。なんとも微妙に存在感がある名前ですぐに覚えられた。高級なものを当てるのが得意そう。

「……今日も元気にやっていきましょう。はあ、」

 なんか、めっちゃテンション低い! 入学二日目、まだウキウキ気分の生徒たちにそんな雰囲気で良いのか?

「え〜皆さん。僕のテンションが入学二日目のくせに低すぎるとでも思っていることでしょう」

 バレてた! もしかして先生もネジと会話が? な訳ない。あんなテンションで入ってきたら誰もが同じことを考えるだろう。

「まあなんでこんなにもテンションが低いのかというと、頑張って生徒の顔と名前を覚えようと徹夜したからです。全く疲れました。でもこれで自己紹介の時間取らなくて済む!」

 どうやら自己紹介の時間を省きたかったらしい。でも先生が覚えたところで、

「あの〜先生。先生が名前覚えられても、僕達が互いのことを知りません」

「え? あ! 忘れてた! あれ? ってことは僕が徹夜してまで頑張ったことは」

「おそらく全部無駄です」

「うわー! 皆まで言うな〜」

 何この茶番。というか誰か知らんけどあの子凄いな。まだ会って二回目の先生にあそこまでしっかり「無駄」って言えるだなんて。

「もう良いや。取り敢えずもうどうせ話すことも無いので皆さんで勝手に自己紹介してください僕は寝てます終わったら起こしてなるべく時間かけてね。……あ、あと誰か先生が回ってきた時も起こして」

 いやちょっと待て! ホームルームとか無いの? そんなサラッと色々頭おかしいことしてるの分かってないのかな? ていうか早口でババッて言ってたから内容全く入ってこんかった!

 そんな私の脳内なんてお構いなしに、先生はキャスター付きの椅子を見つけすぐさま座って動かなくなってしまった。

  ……どうしましょう。先生がよく分からないことほざいてやるべきこともやらずに寝てしまった。みんな唖然としてしまっている。ここ、一応偏差値六十くらいはある学校だったと思うんだけど、そこまで来てもここまで雑なの?

「え〜と、取り敢えず皆でしようか。自己紹介」

 一番前の席に座っていた男の子が切り出した。凄い! それ凄い! よく切り出した! 君はこれからこのクラスの救世主として未来永劫語り継がれるよ!

「じゃあ、右端の一番前から順番に名前と出身校と軽く一言言っていこうか。あ、俺からか」

 彼は本当に凄い。きっと大物になるぞ。彼の発言のおかげで自己紹介が始まった。

「初めまして。浅井長久といいます。中町中学校出身です。スポーツが好きなのでそれ関連の話できる人募集中です! よろしくお願いします」

 名前凄いな。浅井長久君か。惜しい! あと一文字で戦国武将に! でもなんかその名前怪しそうだな。父親のせいで大変な目に遭いそう。ドラマの見過ぎか。

 そんなどうでもいい思考を巡らせていると早々に私の順番が回ってきた。

 立ち上がってなるべく多くの人が視野に入るように体を動かす。

「え〜と、初めまして。小宮優樹といいます。出身は天羽中学校です。よろしくお願いします」

 みんなからの雑な拍手が聞こえたので、私は椅子に座った。いや、つまらなさ過ぎだろ我ながら! まあ良いか。何か頭のおかしなことを言って変に注目を集めるよりは、平凡なところから始めよう。

 次は冬斗君の番だ。どんな自己紹介をするんだろ。まあ、私と同じ当たり障りの無いものか。

 冬斗君は椅子から立ち上がり、喋り出した。

「初めまして。橘冬斗です。花咲中学出身です。笑えません。よろしくお願いします」

 あまり響かない声で喋った後、席に座った。まばらな拍手が響く。

 いやちょっと待て。ここは王道に行くと見せかけておかしなことを言うと見せかけて王道を行くところでしょ! 普通にサラッと変なこと言ったこの子! 怖い! というか感情出せないことそんなサラッと言って大丈夫なの?

「感情出せないこと言って大丈夫なの?」

「先に言っておいた方がみんな理解してくれるかなって」

「いや、理解の前に絶対変人扱いされるよ?」

「え、そうなの」

 感情が無さ過ぎて疑問文も疑問文に聞こえない。な〜んか調子狂う!

「はぁ、終わったね。冬斗君の高校生活」

「終わったの。僕の高校生活」

「安心して。私は君を見捨てないから」

「……ありがとう」

 これから冬斗君が馴染めるようにも協力してあげなきゃな。

「初めまして! 平八重です! 烏山中学校出身です!」

 謎の会話をしていると、物凄くハキハキした声が聞こえた。この教室、なんかタイムスリップでもしてるのかな? 平に八重って、なんか色々強そうだな。まあ元気そうな子だし実際に気が強そうな感じするけど。平八重か、なんで親は時代を統一しなかったんだろう。政子にしたら揃うのに。

「失礼します」

 突然響く低い声が聞こえ、それと同時に教室のドアが開かれた。声の主はいかにも体育教師という感じの男の人だった。まさか、

「ああ、ごめんなみんな。初めまして、学年主任の小野寺大吾と言います。よろしく」

 岳斗先生が恐れてたこと起こっちゃった。しかもまさか学年主任の先生が来ちゃうなんて。

 みんなが慌て出した。先生を起こすべきか悩んでいる。でも、大吾先生が入ってきてしまったこの状況でどうやって起こすべきなんだ?

 みんなが困惑している中、消しゴムが宙を舞い、岳斗先生の方へ飛んでいった。誰かが間接的に起こそうと投げたのだろう。しかし無駄だった。宙を舞った消しゴムは綺麗に大吾先生がキャッチしてポケットにしまった。

「せっかく時間もあったので全クラス回って自己紹介していこうと思ったんだけど、そんな時間ももう無いか」

 あ〜あ。キャスター付きの椅子に座ったのが運の尽きだな。眠ったまま椅子ごと連行されていってる。

「ああそれと、今消しゴム投げた君、一緒に来なさい」

 まだ名乗れていない男の子もついでに連行されていった。先生、あなたのせいで犠牲者が出てますよ。かわいそうに。うまくいけば彼も浅井君と同じくらいの救世主になれただろうに、切り込み失敗隊長と命名してあげよう。不光栄に思え。

 よく分からないこの光景の一部始終を見せられた後、クラスの中でポカーンという音が聞こえた気がした。

「……え〜と、取り敢えず、続きするか。あの子の自己紹介どうしよう? まあ良いや」

 浅井君! 君は凄いよ本当に! 何度も静まり返るこの教室を幾度となく(二回だけど)救うなんて。連行されていった子を切り捨てちゃったのはまあ、あれだけど。あれは、しょうがない。必要な犠牲だったんだ。

「次の人、よろしくお願いします」

 なんとか自己紹介ムードを取り戻した。

「僕以上に終わってる子できちゃったね」

 いつも以上に小さな声で冬斗君が話しかけてきた。

「できちゃったね。あの子は、うん。私達のために犠牲になってくれたんだ。しっかり忘れないようにしよう」

「うん」

 私は何となく手を合わせて目を瞑った。横で冬斗君も行った。実際に行ったかは目を瞑ってるから分からないけど、環境音を聞く感じ多分一緒にしてくれてると思う。唱えよう。南無大師遍照金剛、南無大師遍照金剛。

 波乱の始まり方をした自己紹介だったが、なんとか無事に終わった。

 いや無事と言えるのかな? 冬斗君は笑えないことを暴露しやがってしまったし、先生は眠っているところを学年主任の先生にバレて生徒一人を道連れに連行されたし。あの子、生きていれてるかな? せめて天国に行っていてほしいな。そしていったいあの先生なんなんだろ? 明日学校に来たら担任の先生変わっていたりして。ハハハ。笑えない。一気に矛盾してしまった。

 というか私が考えなくちゃいけないのはどちらかというと冬斗君のことか。絶対このままじゃ変人扱いされるよな〜。

「ねねね! 君!」

 突然冬斗君が浅井君に話しかけられた。やばい! 早速何か言われて変人扱いされてしまうんじゃ!

「名前なんて言ってた?」

うん。大丈夫そうだ。席がちょっと離れているくらいの人に聞こえてないなら、半分以上の人には多分届いてない。

 それにあんな大活躍をした浅井君だ。例え聞こえていたとしてもそんな酷いことは言わないだろう。知らんけれど。

 そうなったらやっぱり心配しなくちゃいけないのは岳斗先生と男の子の方か。でもどうしたら良いんだろ? 取り敢えず成仏して貰えるようにもう一度南無大師遍照金剛を唱えておくべきか? お願いします神様か仏様。岳斗先生はどれほどの地獄を味わっても構わないので、せめてあの男の子には慈悲を!

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