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私をジュリエットと呼ぶ、自称ロミオの留学生。(14)

【ロミオ】がモデルのミオ・須藤・ロッソの話。

この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

・20歳以下の喫煙を匂わせる描写があります。

・弓道、香道、フレグランスの知識はふわふわです。

・作中出てくる商品の名前は架空のものとなっており、

こちらに出てくるロミジュリの映画も、年代を変えております。


母屋のミオと琉斗の部屋は間に1室開けてはいたが、隣同士だった。ミオはげんなりした。本当に監視役のようだ。

「おい」

 部屋の襖を開けて自室に入ろうとすると、琉斗に呼び止められた。

「今日もそうだが。朱里に何かしたら、ただじゃ置かないからな」

『何かって何。別に朱里の同意があればいいだろう?』

「同意なくやってんじゃねぇか。それと日本語でしゃべれ。お前が家庭教師付けてまで日本語勉強したの知ってるぞ」

 そう言われて、ミオは長くため息をついた。

「ただじゃ置かないね。……じゃぁ君の場合はどうなんだい?僕より自分を罰するべきなんじゃないのかい?」

 それは流れるように流暢な日本語だった。

「はぁ?どういう意味だ」

「君たちは兄妹だろう?兄が妹に恋してもいいのかな?」

「……お前、やっぱり蔵での会話理解してやがったな」

 ミオの問いかけに、琉斗の目つきが一層鋭くなった。

「いいや。あの時は理解してなかったよ。僕もそれなりに努力したってこと。君が”のうのう”と彼女の傍にいられたこの9年間ずっとね」

「のうのうとなんかしてねぇよ。……それに、あの時の会話、理解してるなら知ってるだろう。俺たちは本当の兄妹じゃない」

「あぁ、もちろん。でも血は繋がってる」

 その言葉に、琉斗が一瞬顔を歪ませたのを、ミオは見逃さなかった。

「従兄妹なんだよね君たち。完全に血が繋がっていないのならまだしも。しかもこれまで兄妹同然に育ってきたのに、そんな目で彼女を見るなんて、ね」

 琉斗は言葉が出ないようだった。殺気に満ちた目をミオに向けている。その視線を受けて、ミオはなおも笑顔で言った。

「朱里は全部忘れてしまったんだろう?よかったね。信じてたお兄さんからそんな気持ちを抱かれているだなんて、気持ちが悪いだろうし」

「お前なんかに、何が分かる……」

「あぁ分からないよ。僕は彼女の”お兄さん”じゃないからね」

 そこで、琉斗は息を吐いた。

「……そうだ。朱里は全部忘れてる。お前があの時2階で朱里に何をしたかは知らないが、そのこともな。綺麗さっぱり忘れてるんだよ。それどころか、お前のことはあの夏出会った4、5日の記憶しかない

。お前と俺とじゃなぁ、今まで過ごした重みが違うんだよ」

 ミオは目元を引きつらせた。

「……いいや、朱里はきっと覚えてくれているはずだ」

「いいや、何にも覚えてなんかいやしないね。そんなみみっちぃ記憶」

 そこで、お互い睨み合った。

「俺のことはまだいいが……変に思い出させるな。特に母親のことは」

 そう、朱里はそのことがショックで倒れ、記憶を失ったようだった。

「そんなのはどうでもいい。僕が思い出してほしいのは、僕との記憶のことだけだから」

「はっ!ほんとみみっちいな」

 その言葉に、ミオは息をもらして笑った。

「でも、琉斗には感謝しないとね」

「あ?」

「今まで彼女に変な虫が付かないように、そうやって張り付いて守っていてくれたんだろう?僕のために」

「何言ってやがる。狂ってんのかお前」

「いいや?僕は彼女のロミオだから。今までありがとうね、”お兄さん”」

「やっぱ狂ってやがる。……あぁ、みみっちくて叩き落せなかったハエが馬鹿でかくなって戻ってきたからなぁ。今度こそ叩き落して捻り潰してやるよ」

 今まで一度もミオに対して笑顔を見せなかった琉斗が、歯を向いて愉快そうに笑った。

「「…はッ!」」

 刹那の沈黙の後、お互いそう息を吐いて、勢いよく襖を閉めた。


 ミオは部屋の折り畳みベッドの上に勢いよく仰向けになった。目の奥がチカチカする。琉斗に対しての怒りがまだ収まらなかった。枕元に置いていた朱里の写真を胸に抱いて、目を閉じる。そうして深呼吸をした。瞼の裏に、想像していたよりも遥かに美しくなった朱里の姿が現れた。

 あぁ、僕の朱里、ジュリ、ジュリエット――。

 彼女の姿を思い浮かべるだけで、先ほどまでの強烈な怒りが波のように引いていく。あの忌々しい兄なる存在よりも、これから朱里に毎日会える幸福を思った。

 大人の朱里の写真は、ミオには必要なかった。もう瞼の裏には、彼女の姿がくっきりと焼き付いて離れなくなっているから。

 彼女はなんて清らかで、優しい存在なのだろうと、ミオは思う。

 だから、彼女の存在を汚す者は誰であれ排除しなくてはならない。

 ミオにとって、栄藤朱里――、ジュリエットは唯一無二の存在だから。

 ミオ・須藤・ロッソは、こういう男だ。


※次回おまけの話

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