ざまぁのご利用は計画的に。 蛇足世界編
ありがたく感想でもリクが多かった蛇足編です。
本当に蛇足なので、読まなくてもだいじょぶです。
今回も勢いだけで書いてます。勢いしかないです。
勢いしかないので予定より文字数倍になり、二話になりました。
とあるアパートの部屋。畳に押し入れ、ちゃぶ台と座布団に、小さなブラウン管テレビ。明かりは天井からつり下がった傘に、むき出しになった電球が部屋を照らす。まるで昭和の下宿先のような一室。
ただそこに住人は、レトロな雰囲気とは真逆の異質な存在だった。ピンクからパープルへとグラデーションのかかった長い髪をポニーテールでまとめ、黒縁の分厚い眼鏡の奥の瞳は虹色の光彩を放っている人間ではない彼女。白地のタンクトップにハーフパンツという姿は、昭和レトロの部屋とマッチしていた。
そしてさらに異質なのは、彼女その眼前に浮かぶSF映画のようにでてくるようなモニター。複数のサブ画面には文字の羅列がならび、風景画像を流れている。
メインモニターには、可愛いらしいキャラクターが映っていた。
その画面に向かって、彼女はちゃぶ台に額をこすりつけるほど頭を下げる。
「本当に助かりました。ありがとうございました!」
『いえいえ。世界はゲームで何十回も救っているしね。じゃ、おつかれっしたー。神様試験、がんばってねー』
そう言って通話がオフになり、彼女はどっとちゃぶ台に突っ伏した。
(あー疲れた。昔とくらべてリモートになった分、通信が楽になったのが救いだ……)
先輩の時代は、わざわざ荘厳な場所を用意して厳格な服装で、下位世界の住人を召喚し対話していたそうだ。とてもコストがかかったらしい。
しかし今の時代はリモート。背景と上半身さえちゃんとしていれば問題ない。とはいっても最近は多忙すぎて取り繕う余裕はなかったし、相手も気にしていなかったが。
多忙のはじまりは、創造主候補の前期試験と同期の創造主候補生の嫌がらせだった。
ここは下位世界を創造し、管理し、循環させる世界。いわゆる上位世界というところだ。そこで自分は創造主候補に選ばれ、日夜勉学に励んでいる。
創造主はいわばエリート職業。狭き門であり、候補に選ばれるだけでも地元や親戚一同お祭りさわぎになるほどだ。
そんな創造主候補の最初の実力をはかる前期試験は、『課題の世界を創造し動かすこと』
自分の用意された課題のなかで、先輩が管理する世界でヒットした乙女ゲーム(プレイ済み)があったので、真っ先に選んだ。好きなゲームだし始める前は楽勝だと思った……甘かった。
ゲームは全てヒロインのマリア視点で展開されるため、そもそも世界設定から登場人物の背景まであやふやだ。もちろん他の大陸やら住む人たちの設定まで、一から全てを設定し世界を構築しなければならない。
創れば創るほど出てくる矛盾。
テストで動かせば世界停止。
迫る締め切り
楽勝と思っていた初期の自分を殴りたり。原作(乙女ゲーム)があるゆえ、下手にいじれない。特に評価となる世界のメインストーリーは。
何度徹夜したことか……それでも創りあげた。
「今回は本当に焦った……」
テストプレイも問題なく動き、締め切りより少し余裕をもって提出した。そして試験管たちの前で世界を起動する。しかし動きだした世界は、すぐに赤文字で異常が表示される。
とはいっても問題対処も試験のうち。すぐさま原因を解明のため、世界構築を展開する。そして見つけた異常――とみせかけた改ざんの痕。
秒で特定し、誰がやったか追跡。結果、同期の候補生の関与が発覚した。
彼女からは、前から小さな嫌がらせはされていたが、まさか直接試験まで手を出すとは思っていなかった。というかそこまで馬鹿だとは思わなかった。
同期は指導室送りの厳重注意の上、創造主の資質を疑われ候補生選抜試験を再度受けることとなった。
(まあ、また候補になるのは無理だろうけど)
改ざんされたのは、提出したあと。ということは試験に関わる者が同期に手を貸して嫌がらせに関与したということだ。
(もともと噂があったけど、まさかねぇ……)
成績は中よりややよい程度で、どうして創造主候補になったのかと言われる彼女。上級管理者とねんごろなんじゃね? と噂されていたが……そのあたりも調査されるらしいが、自分には関係のない話。
問題は異常が発生した下位世界だ。
動き出した世界は、原則再構築ができない。世界が寿命を迎える日まで、世界を人々に託し、管理し見守るのだ。
「まさか、他の世界から人を引っ張ってきてまで妨害するなんて、思わなんだ……」
嫌がらせで、流行りの悪役令嬢の憑依をやってくれた(元)同期。他の世界から魂を引っ張ってくれたおかげで、世界の空間に穴があいてしまった。
試験官は、自分の過失じゃないため、期間を延長し、課題を変えて試験をすると提案してくれたが、それはこの世界の強制終了――削除を意味する。
それは絶対に嫌だった。初めて手がけた大好きな世界。なのでこのままこの世界で試験を続けさせてほしいと願い、一度だけ世界の修正に関与する特別許可をもらった。
「よくあるざまぁ系悪役令嬢なら、ヒロインと世界を救うルートにしてくれるかもしれないし!」と、とある世界のはやりを知っている彼女。むしろそうなるだろうと思って楽観していた。
が、予想や希望は裏切られ、悪役令嬢は設定していない逆ハールートを進み、世界を救うヒロインをいじめて孤立させ、ざまぁ展開という最悪の事態に陥った。
ヒロインが破滅ルートを進むのはありだ。それがその世界構築したときのルール内だから。でも悪役令嬢が原因で世界が破滅するのは、ルール外である。
一度の特別許可で巻き戻し、悪役令嬢の排除も検討したが、それで影響され別のところで異常が起こる可能性もある。ということは、この事態をそのまま解決することが必要だ。
そこで思い出したのが、先輩の世界ではやっているゲーム実況系の自分の推し様。
この乙女ゲームは、原則攻略対象と親密度を上げて愛を育むことにより、瘴気を浄化することができる――攻略対象との条件さえ達成できれば、わりと楽にクリアできる。逆にその条件を達成していない場合、難易度は跳ね上がる。というかほぼ無理ゲー。
しかしその推し様は、攻略対象を無視し、自己のステータス強化とモブキャラたちとレベル上げをし、あとは力推しと運で攻略した人だ。公式でも想定外と言われた人物である。
そして依頼。推しにコメントするのは、毎回試験よりも緊張する。
推し様は快く……は引き受けてくれず、報酬を提示してしぶしぶ受けてくれた。
そしてさくっと世界を救ってくれた上、試験を応援してくれ、去っていった。かっこよすぎる。惚れてまう。
「さすが私の推し様っ! 神様!!」
自分が創造主候補であることも忘れて喜んだあと、さて世界はどうなったかと確認する。
「マリアちゃんは平凡だけど平和に幸せに暮らしたみたいだし、ざまぁ返しされた悪役令嬢も攻略対象たちもそれぞれ苦労したみたいね」
悪役令嬢にそそのかされて、結果的にマリアを貶めることになった攻略対象たち。推し様は『放置でいいよ』といっていた。しかし、ざまぁしなくていいのかというのが表情に出ていたのか、推し様は苦笑いする。
『何もしなくても、周りが勝手にやってくれるわ。人間ってそういうもんよ』
年末のパーティのあと、マリアを地下牢へ閉じ込めた悪役令嬢と攻略対象一行は、瘴気を封じる魔石機関とともに、世界を救うため出発した。道中マリアの捏造された悪行と悪役令嬢こそが聖女だと風潮しながら。
そしてその旅は失敗に終わり、その後のマリア無罪の公式発表。さらに自分の記憶と浄化の力を犠牲(実際は推し様が体から離れたため)、世界を救った本物の聖女マリアは株が爆上がり天井しらず。
逆に本物の聖女を貶めたということで、民からの非難の声が強まった。王国の上層部は「自業自得だ」庇うこともせず、各々王位や爵位の継承権を剥奪されて、今は平民になり生活に苦労をしている。
貴族から平民になり慣れない労働。さらに周りからは非難され続け、精神面も追い込まれているようだ。
マリアをいじめた他の貴族の子女たちも、婚約破棄されたり勘当されたりと痛い目にあっている。
だから推し様は、放置でいいといったのだろう。自分が動かずとも、周りが勝手にやってくれると。
「さすが推し様……あ、推し様にお願いされたことは、やっとかないと。というか私の責任でもあるし」
世界を救い、マリアの身体から離れた彼女には一つだけ頼まれた。
『できたら、あの子に選択させてあげてほしい』
あの子とは悪役令嬢に憑依させられた子のことだ。
『人として決してやってはいけないことした。でも、もとはといえば、あなたたち神様の私的なことで巻き込まれただけでしょ。なら責任もって、あの子に最後の選択をさせてあげて』
アッチの世界に帰るのか、このままコッチの世界に残るのか、を。
どちらを選んでも苦しいだろうが、それでも選ばせてやってほしいと。
もともと乗り気でなかった彼女。報酬を提示しても微妙な反応だったが、悪役令嬢に憑依させられた子の経歴や資料を見て、反応が変わった。
「まず先輩に依頼して元の世界の身体が無事か確認して、本人も戻りたいか女神経由で確認して、各所に報告いれて……」
さてもうひと踏ん張りだ、と両手で自分の頬を挟むように打ち、気合を入れる。
「創造主の仕事も楽じゃない」
だからこそやりたい、やりがいのある仕事だ。
宙に浮かぶモニターを増やし、創造主候補は仕事に取り掛かったのだった。
ざまぁのご利用は計画的に。蛇足世界編 完
創造主候補:
候補者のなかでも上位のエリート。先輩が管理する世界の日本の昭和レトロが好き。オタク文化好き。推し様大好き尊い。優秀なのでやっかみも買うがスルーしている。
※10/15の15時に蛇足『彼女』編を投稿予定です。