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ざまぁのご利用は計画的に。 前編

勢いで書きました

勢いしかありません

恋愛要素も(主人公サイドには)ほぼありません

ジャンル設定間違ってたらごめんなさい(言い逃げ)



 彼女が瞳を開けると、そこは贅の限りを尽くしたような広間が広がっていた。


 高い天井には、無数の魔法で作られた明かりが浮遊し、シャンデリアが煌めく。白磁のような磨かれた柱や壁際には、見るからに高そうな絵画や石像が飾られている。テラスにつながっているだろう窓には、冬の寒さと闇夜を易々と遮断する金の刺しゅう入りの深紅の厚手のカーテン。

 広間のすべてが、豪華に飾り立てられていた。


 そして磨かれた大理石の床の上には、多くの着飾った貴族の子女たちが所狭しとひしめき合い、広間の中央で膝をつく彼女を取り囲んでいる。

 否、正確にいえば、取り囲み見下していた。


(なるほど、丁度年末の学園主催の生徒が参加するパーティ……エンディングのルート分岐点でざまぁ展開、てか)


 周りの様子を見て彼女は心の内で呟くと、ばれないように小さくため息をこぼす。床の大理石は、己の姿を鏡のように映していた。

 ありきたりな肩で切りそろえられた茶色の髪に同色の瞳。顔も可愛いらしいが、さほど目を引くほどでもない平凡で素朴な印象をあたえる。周りが礼服などで着飾っているなか、学園から支給されるところどころ修繕のあとがある制服。


 場違いとはこのことをいうのだろう、と呆れて笑いそうになったが、彼女は堪え、前方に視線を前方に向ける。


 そこには、見目麗しい者たちが勢ぞろいしていた。


 金髪碧眼の貴公子や黒髪眼鏡の知的な令息、赤髪の騎士のような若者……そして銀髪に紫の瞳の美しい令嬢。


 彼女がいろんな意味で、巻き込まれることになった元凶たちだ。


「マリア・リーベル! 王族およびトラオム公爵家など高位貴族への身分を弁えぬ行いや暴挙。そして今回のトラオム公爵令嬢への毒殺未遂は、聖女候補としても……否、人として目に余る!」


 金髪碧眼の貴公子――この国の王子が彼女――マリア・リーベルに人差し指を突きつけ、高らかに宣言する。


「聖女候補の身分を剥奪し、拘束する! 異議は認めない、連れていけ!」


 その言葉に呼応するかのように、鎧をまとった騎士や兵士たちが、マリアを取り囲む。


「はあ……めんどくさいところから始まった」


 普通の少女なら動揺するか、泣き出す場面。しかしマリアは、うんざりしたようにため息を漏らし立ち上がった。

 わざとらしく服の埃を払う動作をすると、背筋を伸ばし、胸を張る。そして顎を引き、まっすぐと、己を断罪する彼らを見据えた。


「殿下、異議ではなく質問はよろしいでしょうか?」


 そうはっきりと問う。いつもと違う雰囲気に、指名された王子は息をのみ、返答に窮したが、マリアは構わず続けた。


「まず身分を弁えぬ、とおっしゃいましたが、学園では身分に隔たりなく学生同士平等に切磋琢磨する、が規則となっております。それについてはどうお考えですか?」

「それは……」


 学園の生徒会長も務める王子は、規則を持ち出され、言葉に詰まる。


「まさか、この学園で唯一平民の私には、適用されないと?」


 マリアは皮肉をいい、言葉をつづけた。


「次に、私が犯したと罪について、具体的に教えて頂けませんか?」


 マリアの言葉に静まりかえるなか、ひとりの令嬢が声をあげる。


「そ、それは! あなたが平民の分際で、ソフィーア様という婚約者がいる殿下に、色目を使ったではないですか!」


 マリアがそちらをむけば、確か黒髪眼鏡の婚約者だったと思われる令嬢が、顔を真っ赤にしていた。それに勢いついたのか、他の令嬢も口を開く。


「ほかの婚約者のいる貴族令息たちにも近づいて、色目を使っていましたわ!」

「平民だから礼儀もなっていないですし、不愉快です!」

「ソフィーア様を階段から突き落として、ケガさせたりしたではありませんか!」

「そのうえ、ソフィーア様に毒を飲ませるなんて!」


 我先にとマリアがしたという悪行について、金切り声を上げる令嬢たち。

 いつものマリアなら、きっと萎縮していただろう。反論もせず、嵐がすぎるのを待っていただろう。


 この世界のヒロイン、善良の化身のようなマリア・リーベルならば。


(悪役令嬢の取り巻きか。ピーチクパーチクコケコッコーうるさいな)


 しかし『彼女』は、マリアであってマリアではなかった。


「色目、ですか」


 彼女は、鼻で笑う。


「それって、あなたたちの個人的な感想ですよね」


 彼女はそうはっきりいうと、煩く囀っていた令嬢たちが口を閉じた。まさか反論されるとは、微塵にも思っていなかったのだろう。


 静まりかえった広間に、彼女は言葉を続ける。


「殿下や令息方々に近づくって、具体的には? 廊下ですれ違って会釈したから? 授業で班を組む時に一緒になったときとか? それとも中庭で昼食をとっていたら、偶然出会ったことかしら?」


 彼女がマリアから引き継いだ記憶を思い出しても、彼らとの接触はそれくらいしかない。それさえも、必要最低限の会話しかしていない。というか、彼らはマリアと会話する気が、始めからなかったというのが正しい。ほぼ無視であった。


「会釈すれば色目を使ったといい、しなければ礼儀がなってないという……矛盾していません?」


 黒髪眼鏡の婚約者が一歩後退する。しかし彼女は攻撃――否、口撃をやめはしなかった。


「班決めも先生方が決めたこと。私が関与することができません。まさか先生方が、私に買収されたって疑っているのですか? あと食堂だと陰口を言われて落ち着かないので、静かに裏庭で昼食を一人でとっていたのに急に現れて、どうやって回避しろと……はぁ」


 彼女は、盛大にため息を漏らす。


「それに、高貴なあなた方が何度もいうように、私は平民ですよ。 貴族の礼儀作法なんて、知るわけでないじゃないですか。 いきなり貴族の学園に強制的に放り込まれた、この世界で唯一浄化魔法の適正があるだけの平民です」


 この学園は王族や貴族たちのみが通う場所。すでに基礎学力や礼儀作法は、各自終わらせてからの入学となる。


 マリアが入学を許されたのは、聖女候補としての特例だった。マリアは何の準備も、心の準備さえもできず、親と離れ離れにされ、学園に強制的に入学させられたのだ。


 聖女候補といっても、まだ・・平和な世界で、マリアの存在価値は低く、特別待遇されるのを面白くない彼女たちは、礼儀作法を知らない彼女を嗤った。

 マリアの記憶をたどれば、彼女マリアははじめ、頭を下げて教えを請うたが、令嬢らに嘲笑とともに拒否された。


「あなたたちの礼儀作法を強いるなら、まずは教え導くべきでは?」


 そして彼女は王子の陰に隠れる銀髪の公爵令嬢……この世界の悪役令嬢ソフィーア・トラオムを見据える。


「私に階段から落とされたり、毒殺されかけたり、とかいいましたけど証拠は?」


 すると王子が彼女の視線から、婚約者を守るように遮るように立つ。


「目撃者がいる。それにソフィの毒殺に使われた毒が、お前の私室の机の引き出しから見つかった」

「うわ、女子の部屋を許可なく家探ししたのかよ、マヂでドン引きだわ」


 うっかり出た本音に、あたりが静まりかえる。

 こほん、と彼女は咳払いし、言葉を続けた。


「では、私がトラオム公爵令嬢を毒殺する動機は?」

「そ、それは」


 その場で初めて、攻略令嬢が言葉を発した。鈴が転がるような可憐な声は、老若男女問わず保護欲を掻き立てるだろう。


 もちろん彼女以外の話だが。


「あ、あなたが、殿下と結ばれるために私を邪魔だと」

「いや、なんでわざわざ彼女のいる男を手に入れるために、殺人しなきゃいけないのよ」


 食い気味に否定する。

 なお王子に対してのマリアの記憶と印象も、彼女とあまりかわりない。例えるなら、テレビに映る推しじゃないアイドルに向ける程度の気持ちだ。


「で、でも王子と結婚すれば、将来はこの国の王妃に」

「いや、だからなんで、そんなめんどうくさそうなのに、永久就職しなきゃいかんのだと」


 また食い気味で、さらにはうっかり素で否定してしまい、彼女は咳払いした。これは間違いなく不敬だったな、と内心反省する。


 マリアは一度会っただけだが、現国王と王妃は、無理やり家族と引き離され、聖女候補にされた平民のマリアに、頭を下げて謝罪し、命令ではなくお願いをした、どこぞの息子と違って人格者だ。だからマリアも、聖女候補として頑張ると誓ったのだ。


「私の聖女の力が覚醒すれば、必要におうじて王家から婚姻の話がくるでしょうが……わざわざ私自身が動く必要もないでしょ」


 事実、唯一の浄化魔法の適性を持つマリアを国で囲うため、そんな話が来てもおかしくはない。あの国王夫妻なら無理強いはしないだろうが……学園生活で、あわよくば貴族の誰かと恋仲になればいいな、とは思っているかもしれないが。


「最後に、もし私が毒を盛ったならば、その証拠を残しておくことも、毒を飲んだトラオム公爵令嬢を助けることもする必要もないでしょう?」


 なぜ犯人が証拠品をいつまでも持っているのだ。それにどうやって毒を公爵令嬢に盛ったのか。ボッチと化したヒロインに協力者がいるわけない。そして毒を飲ませながら、なぜわざわざ助ける必要があったのか。


 そもそもマリアが初めて呼ばれて参加したお茶会の席で、毒入り紅茶を飲んだ攻略令嬢が倒れた。

 マリアは助けるために未熟な浄化魔法を使い、反動で魔力枯渇になってその場で気を失い、その後一週間、保健室送りになっている。

 ならば証拠を隠滅する時間もなければ、証拠を持ち帰る時間はない。


「さて、いったい誰が、私の部屋に証拠品を持ち込んだんでしょうか?」


 王子、令嬢、黒髪眼鏡、赤髪騎士を順にみて、最後に周りを見回す。何人か。視線をそらしたが、彼女はあえて指摘をしなかった。


「では、行きましょうか」

「え?」


 誰かの間の抜けた声が聞こえたが、彼女は確認をする気はない。


「場所は王城の地下牢? 私は不敬罪で投獄なのでしょう? 」


 一年も満たない年月でぼろぼろになった制服を、ドレスのようにあつかい、ぎこちなくとも貴婦人の礼をする。マリアはこっそりと練習をしていたのだ。この世界のヒロインマリアは善良で努力家なのだ。


「では皆様、礼儀を知らない平民は去ります。ごきげんよう」


 彼女は、兵士たちを背後に引き連れて、広間を堂々と後にしたのだった。



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