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補遺 4-1


 ユウコ・シライ。


 20歳。北陣営、(ひつじ)の代理者。


 能力、一閃。


 彼女は人間が嫌いだった。


 強者に屈して泣く弱者も。


 弱者を蹴散(けち)らして笑う強者も。


 自分にはない才能を持つ天才も。


 理屈の通じない愚者も。


 世界の残酷(ざんこく)さも知らず無邪気に笑う子供も。


 己が利益のために姑息(こそく)な手を使う大人も。


 自分のことを性的な目で見る男も。


 自分の陰口を永遠に口にする女も。


 全てが嫌いだった。


 全てを嫌う、その始まりは母親だった。


 ユウコは追放者3世だ。


 追放者。その響きこそ良いものではないが、それは歴史の残した欠片(かけら)に過ぎず、大した意味ではない。


 中立の島・サンクチ。ゲームマスターを生み出すその島の人間は、常に中立でなければならない。


 例えば、北陣営、もしくは南陣営の誰かを愛し、子をなすこと。


 それは最もポピュラーな中立性の欠落(けつらく)だ。


 中立性を欠いた者は追放される。


 故に、追放者。


 ユウコの祖父は追放者だった。


 彼は、北陣営の女性に恋をし、そして、ユウコの母親が生まれ、追放者となった。


 中立の島・サンクチは良い所だ。


 両陣営との貿易や、両陣営からの支援が行われる島は、この世界で最も裕福な島と言っても良いだろう。


 その上、ウァルスによる被害もない。


 実情(じつじょう)はともかく、そんな(うわ)(つら)の情報だけを信じるのであれば、楽園だ。


 ユウコの母親は自分がサンクチの民でないことに強いコンプレックスを持っていた。


「本当ならもっと良い人生を送れたのに」


 それがユウコの母親の口癖だった。


 自己中心的でネグレクト気味だった母親をユウコは好きになれなかった。


 そんな母親を溺愛(できあい)し、奴隷(どれい)のように尽くす父親も好きではなかった。


 彼女が好きだったのは、祖父だけだった。


 ユウコの祖父の話は面白かった。


 サンクチでの暮らし、北陣営での暮らし、2つの暮らしの差などを実経験から説明してくれた。


 祖父からサンクチの真相を知ったユウコは、母親を嫌い始めた。


 そう、サンクチでの暮らしは楽園と呼べるほどのものではなかったのだ。


 それなのに、そんなありもしない幻想を夢に見続ける母親の姿に失望した。


 そして、祖父からの影響はもう1つ。


「人は何処で過ごすのかが大切なのではない。誰と過ごすのかが大切なのだ」


 その祖父の言葉だった。


 ユウコは自分の人生を豊かにする人間関係の形成に尽力することになる。


 だから、一緒に過ごしたくない人には嫌いのレッテルを貼り続けた。


 ユウコの母親が場所に強い(こだわ)りを持ったように、ユウコは人間関係に強い拘りを持ったのだ。


 嫌っていた母親に似るとはどんな皮肉だろうか。


 そうして、気が付けば、ユウコの周りには嫌いな人間ばかりになっていた。


 ユウコが唯一好きだった祖父も亡くなり、いよいよユウコの周りには嫌いな人間しかいなくなった。


 ユウコは孤独になった。


 能力が発現してからもそれは変わらない。


 ずっと1人でいるため、技術ばかりが上達していった。


 きっと少しの妥協(だきょう)で、少しの思い直しで、ユウコの人生は素晴らしいものになっただろうに。


 ユウコの母親がありもしない楽園を夢見たように、ユウコもまたありもしない理想の人間関係を夢に見続けたのだった。


 こうして、彼女は深い人間関係を知らないままに死んでいった。

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