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第4話


 チームAのコウ・ゲイトをチームαのエミリー・ストトレが撃退したその頃。


 チームαの様子を後方の高台から見守る者がいた。


(接敵、そして、迎撃、と言ったところかしら?)


 彼女は、北陣営、チームδのユウコ・シライだ。


 チームδのメンバーは1人。役割は遊撃だ。


 他チームの状況を見て、必要とあれば補助を行う。


 それが彼女の役割だ。


「何、見てるんすか?」


 バッ。ユウコは振り返る。


 そこには銀髪の少女がいた。


 味方ではない。つまり、敵だ。


 ユウコは腰の刀に手をかけた。


 先手必勝。


 その理屈は、この場でも(おおむ)ね通じる。


 されど、ユウコが腰の刀を抜くことはなかった。


 警戒しているのだ。


 不思議ではない。


 この銀髪の少女は、ユウコに気付かれることなく、背後にいたのだ。


 普通に考えれば、気付かれる前に仕留めることだろう。


 しかし、彼女はそうしなかった。


 何故か?


 可能性として最も高いのは、能力の性質上の理由。


 背後から奇襲をかけるよりも確実に相手を殺せる能力を使っている可能性だ。


 例えば、カウンター系の能力。


 ユウコが驚いて刀を抜けば、その動きに連動して能力が発動するパターンだ。


 その可能性を考えてしまったからこそ、ユウコは動くことができなかった。


「わたしはヒナタ・クロサワっす。名前を教えて欲しいっす」


「…ユウコ・シライよ」


 ユウコは一瞬躊躇(ためら)って答える。


 過去には、嘘を答えた相手に罰を与える能力や、会話をした相手を洗脳する能力を持った代理者も存在した。


 故に、後手に回ってしまった以上、相手の能力の発動条件を満たさないように立ち回る必要があるのだ。


 しかし、こんなものは綱渡りでしかない。


 相手の能力がわからない以上、どこで発動条件を満たすかわからない。


「もうっ!そんなに警戒しないで欲しいっす!わたしはまだ能力を使ってないんすから!」


「…」


「まあ、良いっす。ユウコちゃんっすね!じゃあ、わたしと殺し合うっすよ!」


 瞬間、黒い何かがヒナタの身体から放たれる。


 ユウコも後ろへ飛び下がるが、風船が膨らむように広がる黒い球体のあまりの速度に飲み込まれてしまう。


 ダメージはない。


 まるで、戦いの場を用意しただけのようなそんな感じだ。


「ッ!」


 刹那(せつな)、ユウコは思い出す。過去のウァルスの映像で見た1人の能力者を。


「あんただったのね。前回のウァルスで5人の代理者を始末した『幼き(チャイルディッシュ)悪魔(デビル)』は」


「へぇ、北ではわたし、そんな風に呼ばれてるんすね。たぶんそうっすよ!わたし、前回の参加してたっすから」


 周囲を包む黒い壁。


 これ自体に害を加えられることはおそらくない。


 それが、ユウコの考えであった。


 ユウコは努力家である。


 だからこそ、前回大会でこの能力が使用される映像を確認はしていた。


 確認はしていたが、全容(ぜんよう)はわからない。


 この黒い球体の内部映像は撮影されていないし、球体の内部に連れ込まれた代理者は全員殺されている。


 ユウコにとって、ヒナタのこれは、既視(きし)で未知の能力だった。


 それこそが、南陣営がヒナタを続投させた理由の1つである。


 2大会連続で代理者となる者は少ない。


 そこには大きく2つの要因がある。


 まずは年齢の問題。


 ウァルスは10年に1度開催される。


 つまり、20歳で参加した者は、30歳で参加することになる。


 加齢による体力の(おとろ)えは、危惧(きぐ)すべき問題だろう。


 されど、それは大した問題ではない。


 もう1つの要因こそが、大きな問題だ。


 能力が明らかになってしまうこと。


 ヒナタの能力がわからないことで、ユウコがこうして後手に回ってしまったことからもわかるように、能力は知られていなければいないほど強い。


 相手が対策できなくなるからだ。


 しかし、ウァルスに1度参加してしまえば、能力を使用することは確実、対策されてしまうこともざらだ。


 だからこそ、連続でウァルスの代理者となる者は少ない。


 さて。


 ヒナタの手中に落ちたユウコ。


 彼女はまだ絶望していなかった。


 相手の能力の中にいることだけは確実である。


 その能力がどんな効果を持つか、それはわからない。


 わからないが、ユウコの次の行動は決まっていた。


 ユウコに取れる手段は既に1つしか残っていなかったからだ。


 ユウコの能力は、切断の能力、「一閃(いっせん)」。


 手にした棒状の物体を振るった時、万物を切断できる能力だ。


 相手の能力に干渉できる能力でない以上、ユウコはもう戦うしかなかったのだ。


 生憎(あいにく)、ユウコは1人だ。


 相手が洗脳の能力だとしても、同士討ちする仲間もいない。


 であれば、斬る。


 ユウコに選べる選択肢はその1つだけであった。


 ユウコは腰の刀の(つか)を強く握りしめた。


「おっ!()る気っすね!良いっすよ!」


 ユウコの能力、それはに地面に転がる木の枝ですら最強の剣と変える能力ではあるが、能力のクールタイムや間合い等のパラメータは元の物体の性能に依存する。


 故に、ユウコが(たずさ)えた刀は、北陣営が生み出せる最高の刀剣であった。


 (いにしえ)の名を日本刀と言う。


 ヒナタが跳ねるように、ユウコへ近付く。


 すぅ。


 ユウコは息を吸った。


「ッ!」


 ヒナタは驚き、のけぞった。


 チッ。


 ヒナタの銀髪の毛先が切り揃えられた。


 不可視の斬撃。


 これはユウコの能力ではない。


 ユウコの努力の結晶。


 北陣営に伝わる剣術、七閃一刀(しちせんいっとう)流。その技であった。


「面白い能力を使うっすね」


 否、能力ではない。


 七閃一刀流・居合。


 人の成せる領域の技の1つでしかない。


「でも、もう当たらないっすよ!」


 戦いを楽しんでいるかの様な語調だった。首を()ねる一撃を紙一重(かみひとえ)(かわ)した直後だと言うのに。


 では、この辺りでヒナタの能力を明らかにしておこう。


 ヒナタの能力は、舞踏(武闘)の能力。デッドエンド・ダンスホール。


 能力発動時に範囲内にいる人々が、最後の1人になるまで絶対に解けない結界を作り出す。


 所謂(いわゆる)バトルロイヤルを強制的に開催する能力だ。そして、ヒナタは、能力保持者特権として、攻撃力、防御力、俊敏性がバトルロイヤルの参加人数に応じて上がる。


 ちなみに、ヒナタの属するチームDのDは、DanceのDだ。


 能力名にも、チーム名にもなっているように、彼女の戦闘スタイルはカポエイラである。


 歴史と共に変化したそれをカポエイラの名で呼ぶのは少し乱暴ではあるが。


 ユウコの攻撃をヒナタは(おど)(かわ)す。


 されど、ヒナタの左腕からは鮮血が噴き出した。


 七閃一刀流・二閃。


 不可視の居合斬りなど、七閃一刀流の準備運動でしかない。


 ここからが本領(ほんりょう)


 刹那に2度の斬撃を放つ。故に、二閃。


 2度目の斬撃は、ヒナタの左腕に傷を付けた。


 けれど…。


(浅い…ッ!)


 あろうことか、ヒナタはもう1つの斬撃をも躱した。


 躱し切ったわけではないが、それでも驚異的だ。


「面白いっすね!でも、わたし、負けないっすよ!」


 笑顔だった。


 浅いとは言えど刀傷、痛みはあるだろうに。


 ならば、と、今度はユウコからヒナタへと近付く。


 そして、放つ。


 七閃一刀流奥義・七閃。


 不可視の7つの斬撃がヒナタを襲う。


 スルスルスル。


 ヒナタは難なく7つの斬撃を躱して見せた。


「なっ!」


 これには思わず、ユウコも声が漏れる。


「またそれっすか。それ、もう面白くないっす。もう終わりっすか?じゃあ、殺しちゃうっすね」


 先程までの笑顔は何処(どこ)へやら、真顔のヒナタがそこにはいた。


 ユウコは信じられなかった。


 一瞬で2つの斬撃を繰り出す技と、一瞬で7つの斬撃を繰り出す技、原理は同じだ。


 けれど、原理が同じだからと言って、倍以上になった斬撃を易々(やすやす)と躱すことのできるものでない。


 故に、奥義。


 ユウコの目の前には、ユウコが血反吐(ちへど)を吐いて習得したそんな奥義を嘲笑(あざわら)うかのように簡単に躱す化け物がいる。


 とんとん。


 ヒナタは足で地面を叩く。


 仕込みナイフが靴底から伸びる。


 手の甲の装備品からも同様に仕込みナイフを取り出した。


 どうやら本気を出したらしい。


 いや、本気と言うよりは、後片付け時の気怠(けだる)さのような雰囲気だ。


(もう、私との戦いを楽しむ気はないってことね。馬鹿にしてッ…)


 そう、その通り。


 ヒナタは強敵に()えていた。


 だから、強い奴との戦いを求めている。


 敵が強ければ、(こぶし)をぶつけ合って戦いを楽しみ、敵が弱ければ、作業のように命を奪う。


 それがヒナタの常識で日常だった。


 ユウコへの格付けは終了。


 どうやら強敵との認定はされなかったらしい。


 四肢のナイフがユウコを襲う。


 躍りながらの戦闘スタイルに持ち込まれたナイフは実に厄介なものだ。


 思わず、刀を抜きそうになる。


 ユウコはあくまで冷静だった。


(私にあるのは能力と流派の技だけ)


 ユウコは知っていた。身の程を。


 七閃一刀流は抜刀術である。


 ナイフが迫り来るからと刀を抜いてしまえば、残された技すらも使えなくなってしまう。


 だから、刀は抜かなかった。


(きっとチャンスは1度きり)


 襲い来るヒナタをユウコは受け流す。


 造作もない、とは言い難いが、彼女とて12人の代理者に選ばれた人間、それくらいはできる。


 受け流す。受け流す。受け流す。


 次第に、ヒナタの踏み込みは深くなって行く。


 攻撃と防御を意識した距離感から、攻撃重視の距離感へとシフトして行ったのだ。


(まだ…ッ!)


 段々と受け流すのが難しくなる。


 衣服が、髪が、肌が、斬り裂かれる。


 それでもユウコは受け流し続けた。


 何かを待ち続けているように。


(今!)


 スパーンとヒナタの右肩周辺が斬り落とされた。


 これぞ、七閃一刀流最終奥義・一閃。


 不可視で不可避の一撃だった。


 不可避な(はず)だった。


(嘘…)


 ヒナタの身体性能の凄まじさは、それでも凌駕(りょうが)する。


 ユウコが狙ったのは、両断。


 その一撃は、ヒナタの右半身と左半身を分断する筈だった。


 しかし、結果は右腕が落ちただけ。


 ヒナタは不可避の一撃にも反応して見せたのだ。


 驚愕(きょうがく)。絶望。


 ヒナタの左手のナイフが迫っていると言うのに、ユウコの動きは止まる。


 ユウコの時間はゆっくりと流れた。


 死に(ぎわ)で感じる時間の流れだった。


(私の負けね。でも、この化け物の腕を1本落とせただけでも、充分な仕事はしたわよね)


 死を待つだけの長い時間の中でユウコはそう考えた。


 ナイフは、ユウコの頭蓋(ずがい)に穴を開け、脳漿(のうしょう)をぶち()けた。


 ユウコの死でもって、黒い球体は解除される。


 黒い球体からは()()()ヒナタが出て来た。


 これは、能力保持者特権ではない。


 バトルロイヤル優勝者特権だ。


 優勝者はバトルロイヤル中に負った傷を全て回復する。


 命懸けで腕を落としたユウコがこれを知ったら、いったいどう思うのだろうか?




【判明している情報】

[北陣営]

・チームα

 リーア・ゲレーバ

 エミリー・ストトレ

  悪戯の能力;悪戯好きな神(ロキ)

 ソラ・シロ

  魅了の能力;艶奪の瞳

  副次的効果:他者の視線に敏感に気付ける。

 ユイ・ブラト

 ユー・エンビ

・チームβ

 カンナ・ウォーク

  衝撃波の能力;クラッピング&ビーティング

 ハンナ・ウォーク

 マヤ・キュチカ

・チームγ

・チームδ

 ユウコ・シライ〈DEAD〉

  切断の能力;一閃

・チームε

 ミサ・スカーレット

  虚無の能力;暗闇


[南陣営]

・チームA(Assassin)

 サクラ・クリア

  毒の能力;フェイタルポイズン

 コウ・ゲイト〈DEAD〉

  狙撃の能力;スナイプ

・チームB(Brain)

 メルノ・チェプロ

  共有の能力;鳥獣一体

 フォーリー・ウィード

  眼の能力;神眼魔眼

 ミク・ハチャ

  万能の能力;オールマイティ

・チームC

・チームD(Dance)

 ヒナタ・クロサワ

  舞踏(武闘)の能力; デッドエンド・ダンスホール

・チームE(Exception)

 メイ・リーフ〈DEAD〉

  複製の能力; ベターコピー


[GM]

アイ・スズキ

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