補遺 2-1
コウ・ゲイト。
17歳。南陣営、亥の代理者。
能力、スナイプ。
彼女の人生は間違いから始まった。
その間違いとは、14年前のあの日の出来事だろう。
3歳のとある日。コウ・ゲイトはサクラ・クリアに恋をした。
この子とずっと一緒にいたい。
幼いながらにそう思ったその感情は、きっと恋と呼ぶには未熟なものであったが、しかしながら、感情を表す言葉で最も適切なものを選ぶのであれば、やはり恋となるのだろう。
コウはサクラに一目惚れをした。
厳密に言えば一目惚れではない。
なぜなら、コウの母親とサクラの母親は古くからの友人で、2人は赤ん坊の時に既にあっているのだから。
とは言え、赤ん坊である2人がその時のことを覚えている筈もなく、そうなってくると、記憶の中に朧げに残っている3歳の時の出会いこそが、初対面であり、その時に恋に落ちたのであれば、それは一目惚れなのだろう。
その出会いから2人は幼馴染として、共に時間を過ごした。
サクラは人との関わりがあまり上手ではなかった。
それは人見知りだとかそう言うものではなく、言うなればマイペースだった。
学校で友人を作ろうにも、そのマイペースに付いて来れる人間がおらず、結果、サクラとコウは常に2人だけで過ごすこととなる。
けれども、2人はそれで良かった。
サクラは周りに人がいようがいまいが気にするような性格ではなかったし、コウの世界にはサクラさえいれば良かったからだ。
そうして、2人で過ごしていた時間にも終わりは来る。
それは、2人が10歳の時だった。
サクラがワルキューレの奇跡、つまるところの超能力に目覚めたのだ。
強力過ぎるサクラの能力は、能力の性質が明らかになると共に、次回ウァルスへの参加が噂されるようになった。
サクラのウァルス参加、それは2人の別れを意味する。
子供は学校へ通い、大人は働く。
それはこの世界でも変わらない常識であるが、代理者候補達はその常識から外れる。
能力に目覚めた代理者候補達は、能力の研鑽や戦闘能力の向上のため、特殊な施設に身を置くことになっているのだ。
それが2人の別れだった。
コウは戦慄した。
彼女の世界の全てが突然消え去ったのだ。
世界が消えて恐れないものがいようか。
コウは後悔した。一緒にいるだけで想いを伝えなかった自分の怠慢を。
サクラに想いを届けたい。
その強い感情は彼女の能力を目覚めさせた。
スナイプ。自分の攻撃を相手に確実に届ける能力はこうして発現した。
能力に目覚めたコウは、サクラと同様に施設に身を置くことになったが、これでコウの問題が解決するわけではなかった。
コウの能力、スナイプは弱過ぎたのだ。
この程度の能力はざらだ。この程度の能力でウァルスに参加なんてできない。
故に、コウがサクラの隣に立つことはできないのだ。
その事実を知ったコウは努力をした。
能力の研鑽は勿論のこと、格闘技、銃火器の扱い、戦略に関係することなど、ウァルスに関係しそうな努力を果てしなく続けた。
サクラの毒を塗った銃弾をコウの能力で相手に撃ち込む戦法もこの時のコウが考えたものだ。
これは、サクラの隣に立てるならそこが戦場でも構わない、そんな想いが彼女を突き動かした結果だった。
その血の滲むような努力は、実を結ぶ。
サクラと引き裂かれたコウは、努力の末、7年越しにサクラの横に立つことができたのだった。
しかしながら、現実は非情なもので、そんな彼女が本ウァルスの最初の死者となってしまったわけだが。