第8話
大会本部。
「ゲームマスター!」
「事情聴取が終わったのか?」
「はい。記憶抽出系の能力を使い2人の脳内をスキャンしました」
「それで、あの2人はどちらの陣営の差し金だ?」
「それが、片方の男は北陣営は、もう片方の男は南陣営でした」
「どう言うことだ?」
「2人とも、自宅近くで、仮面を付けた男から勧誘されたようで」
「金銭を受け取り、犯行に及んだ雇われの工作員だった、と言うわけか」
「はい。そのため、自分達の行為が何を意味しているのかを理解していないようです」
「2人を雇った仮面の男の正体はわからないのか?」
「ええ、それが全く。一応、こちらがその仮面の男の姿になります」
「私も見覚えがないな。他に何か情報はなかったのか?」
「あの2人は今日初めて会っていて、お互いのことも全く知らないようです。私達から聞かされて、相手が敵陣営の人間であることを理解していました」
「なるほど。何の情報も得られなかったわけか」
「そうなりますね。設備の点検は行いましたが、不具合等もなかったそうなので」
大会の陰で、別の事件は進行を続けた。
―――
一方で、そんな不穏な事件のことなど、伝わることのないウァルスの会場では。
チームCの5人の眼前の光景は雨だった。
綺麗な境界線が引かれたように、数歩進んだ先から雨が降り注いでいた。
綺麗に円形に広がる雨雲から察するに、ある地点を中心に半径100m強がこの雨が降る範囲なのだろう。
しかし、こうもあからさまに人為的な振る舞いをされると、この雨が能力によるものであることは、誰の目にも明らかだった。
怪しいものに易々と触れるほど、彼女達の警戒は甘くはない。
故に、チームCの面々の選択は後退だった。
とは言え、何処までも後退できるわけではない。
であれば、何処かで仕掛けなければならない。
お互いに敵の姿は見えていないと言うのに、一触即発のピリピリとした気配が場を制していた。
パンッ!
立ち込める張り詰めた空気を一蹴するように、手を叩く音が聞こえる。雨が晴れる。
音源は上空。
仮面の男が宙に浮かんでいた。
何を隠そう、その正体は私だ。
「お機嫌よう、諸君。少しばかり登場が遅れてしまった。まずは全員、この場に集まって貰おうか」
私は指を鳴らす。
この時点まで死ぬこともなく残った13人が、この場に集合した。
「てめぇ、何のつもりだ!」
南陣営、チームCのJが、私にそう吠える。
攻撃される心配はない。
私の能力で、全員身動きが取れないようにしてある。
皆、私に危害を加えることはできない。
まあ、拘束などしなくとも、私に危害を加えることはできないのだが、拘束しておかないと話すらできないからな。
ともあれ、拘束された彼女達は、精々、質問することくらいしかできはしない。
「世界の改変だよ。今日この日、私は世界を改変する宣言をしに来た」
「世界を改変する?」
「うら若き乙女達が殺し合いをするこの世界はどう考えても狂っているだろう?だから、変えるんだ。私が」
「あなたは誰なの?」
「私か?私はヴィラン、そう呼ぶと良い。ところで、君達は疑問に思ったことがないか?人々が『ワルキューレの奇跡』と呼ぶ能力の歪さに」
「歪さ?」
「何故、女性しか発現しない?何故、16歳未満しか発現しない?何故、1人に1つしか能力が発現しない?何故、制約がある?」
「…」
私の問いに誰も答えない。
「疑問に思ったこともないと言った表情だな。では、私が答えを教えよう。それらの歪さは人間が勝手に作り出したものだ。能力は本来もっと自由なものだ。性別、年齢に関係なく、誰もが己が想像力を現実のものにするための力なのだよ。だから、私は能力を使える。君達をこうして捕らえているのが、1番の証拠だがな」
「こんなのトリックに決まってる!」
「では、かかってくるが良い」
私は拘束を外す。
全員が私へと攻撃するが、その攻撃はどれも私に傷1つ付けることはない。
「嘘だッ…!」
「おっと、そうだ」
私は手を叩く。
既に死んだ11人の亡骸がこの場に集まり、そして、蘇生した。
「何のつもりですか!?」
「私がウァルスの終盤で姿を現したのが、漁夫の利を狙ったものだと思われるのは、癪なのでな。24人全員を相手にしようとも、何ら不都合はないと知らしめたいのだよ。私の強さを世界中に証明するために。1分だ。君達に1分の時間を与えよう。短いと思うかな?大丈夫。1分後には、私の実力を知るには1分あれば充分だったと誰もが思うだろう。さあ、私は何もしないから、殺してみるが良い。できるのであれば、だが」
―――
私がそう宣言したちょうどその頃、大会本部では。
「放送を止めろ!」
「できません!我々の操作を受け付けません!」
「チッ。私は、現場に向かう。この場はお前達に任せる!」
―――
「さて、1分経過だ。24人もいて、誰1人として、私に傷1つ付けられなかったな。では、終わりにするとしよう」
私は手を叩く。
24人の代理者全員が、跡形もなく消滅した。
これが痛みすら感じさせない殺戮だ。
ふむ。わかりやすい演出とするならば、もっと凄惨な光景を映した方が効果的だったか?
まあ、良い。
「この放送を見ている者達に、改めて宣言しよう。私はヴィラン!世界を改変する男だ!私の力を持ってすれば、この世界を手中に収めることなど造作もない。だが、一方的な支配は面白くないのでな。君達に1つ提案だ。私はここに第29回ウァルスの参加を宣言する。私の参加に伴って、ルールは変更だ。通常のウァルスとは違い、それぞれの陣営の代理者12人、計24人対私1人の戦いだ。どちらかが全滅するまでの全面戦争とする。君達が敗北すれば、この世界は私のもの、私が敗北すれば、この世界は君達のものだ。提案と言ったが、君達はYesしか選択肢はない。もし、Noと答えれば…」
私は右手を掲げ、掌に禍々しいオーラを溜める。
見せしめだ。
中立の島・サンクチぐらい沈めてしまっても良いだろう。
その私の右手首をガッと掴むものが1人。
「まだそれは早いんじゃねぇの」
それは若い女だった。目付きの悪い女だ。
「おお、エネミー。そうだな。中立の島を沈めてしまっては、次回ウァルスのゲームマスターが不在になってしまうな。では、私達は、そろそろ去ろうと思う。10年後の第29回ウァルス、楽しみにしているよ」
「待て!」
去ろうとする私達を呼び止める女が1人。
今回のゲームマスター、アイ・スズキだ。
「いいや、待たない。そうだ!私を呼び止める君がいなくなれば、私は待つ必要性がなくなるな」
私は手を叩く。
代理者と同様にゲームマスターは消滅する。
25人全員の死でもって、第28回ウァルスは終了した。
【判明している情報】
[北陣営]
・チームα
リーア・ゲレーバ〈DEAD〉
注目の能力;ライトニングロッド
エミリー・ストトレ〈DEAD〉
悪戯の能力;悪戯好きな神
ソラ・シロ〈DEAD〉
魅了の能力;艶奪の瞳
副次的効果:他者の視線に敏感に気付ける。
ユイ・ブラト〈DEAD〉
ユー・エンビ〈DEAD〉
操作の能力;カースドール
・チームβ
カンナ・ウォーク〈DEAD〉
衝撃波の能力;クラッピング&ビーティング
ハンナ・ウォーク〈DEAD〉
マヤ・キュチカ〈DEAD〉
・チームγ
ルーシー・マール〈DEAD〉
不変の能力;インスタントロック
サララ・カーニー〈DEAD〉
怪力の能力;パワー
・チームδ
ユウコ・シライ〈DEAD〉
切断の能力;一閃
・チームε
ミサ・スカーレット〈DEAD〉
虚無の能力;暗闇
[南陣営]
・チームA(Assassin)
サクラ・クリア〈DEAD〉
毒の能力;フェイタルポイズン
コウ・ゲイト〈DEAD〉
狙撃の能力;スナイプ
・チームB(Brain)
メルノ・チェプロ〈DEAD〉
共有の能力;鳥獣一体
フォーリー・ウィード〈DEAD〉
眼の能力;神眼魔眼
ミク・ハチャ〈DEAD〉
万能の能力;オールマイティ
・チームC(Center)
ココ〈DEAD〉
起死回生の能力;ジャスティス
チカ・ノート〈DEAD〉
治癒の能力;スキニーヒーラー
J 〈DEAD〉
装填の能力;ヒットリロード
リン・トゥリー〈DEAD〉
想起の能力;幻雪
サマー・ワンダー〈DEAD〉
増幅の能力;スキルアンプ
・チームD(Dance)
ヒナタ・クロサワ〈DEAD〉
舞踏(武闘)の能力;デッドエンド・ダンスホール
・チームE(Exception)
メイ・リーフ〈DEAD〉
複製の能力;ベターコピー
[GM]
アイ・スズキ〈DEAD〉
拘束の能力; デッドロック




