第7話
ザッ。ザッ。ザッ。
北陣営、チームγの2人は、薄暗い森の中を進んだ。
大木が所狭しと生い茂るこの森では、木が太陽の光を遮断し、昼間だと言うのに薄暗い。
地を這う根は地面に凹凸を作り、薄暗さと合わせて、歩きにくさに拍車をかけている。
それでも、2人は進む。
文句も言わず、黙々と。
「ルーシーちゃん、サララ、もう疲れた〜」
前言撤回。
チームγの1人、大柄なサララ・カーニーはそう文句を言った。
「サララちゃん!文句言わないの!作戦なんだから!」
小柄なルーシー・マールは注意する。
「だって、サララ達、ずっと歩きっぱなしだよ〜」
2人は歩き続けていた。
初めは、南方向、つまり、南陣営の方へ向かっていたのだが、今は、後方に控えるチームβに合流するために、北方向に進んでいる。
それが、島の最北端で司令塔の役割を果たしているチームβからの指示だ。
そんな2人を後方から監視する者が1人。
木の枝に脚を掛けて逆さまにぶら下がりながら2人を見つめるのは、南陣営、チームAのサクラ・クリアだ。
サクラは毒を生成し、2人に向かってばら撒いた。
触れれば死ぬ、致死の毒。
その脅威が静かに2人に覆い被さろうとする。
静止。
液体である筈の毒が時でも止められたかのように空中で動きを止めた。
「あれ?バレてた?」
サクラは、間の抜けた声でそう言った。
「ルーシーちゃん、よく気付いたね〜。サララ、気付かなかったよ〜」
「ちゃんと周りを警戒して!あの人だけじゃないかも知れないから」
サクラは木の枝から飛び降りる。
(さて、どうしようか。あの小さい子が私の毒を固めたっぽいけど。液体を固体に変える能力、いや、動きを止める能力かな?)
サクラは考える。
もう1人の能力の情報が一切開示されていない以上、下手に攻めるのは得策ではないだろう。
故に、サクラが出した結論は、逃走の1択だった。
あの2人が自陣に戻るように移動していた以上、ここで取り逃がしても然程大きな問題にならないだろうとも考えたからだ。
サクラは逃走の1歩目、バックステップで後ろに下がろうとする。
そんなサクラの眼前に、大柄な方、サララがいきなり現れる。
瞬間移動系の能力か?
否、サララが先程までいた場所の地面が割れ、抉れていることから察するに、強靭な脚力による移動だった。
サララは振り上げた拳を叩き付ける。
間一髪でサクラはその拳を避けた。
拳が当たった木の幹は爆ぜていた。
周りの木々を巻き込んで、幹が爆ぜた木がミシミシ、ドスンと音を立てながら倒れた。
(身体強化系の能力…?)
サクラのその読みは正解。
サララ・カーニー、その能力はパワー。
人間を超越した筋力を持てる能力だ。
サクラは毒を撒く。
サララはそれを下がって躱した。
「多分、あの人、毒物使いだよ!どんな効果の毒かはわからないけど、あの人が出す液体に触れちゃダメだからね!サララちゃん!」
「わかった〜。なら、武器ちょうだい」
サララがそう言うと、ルーシーは懐から掌サイズのアイテムを取り出す。
折り畳まれたそれをルーシーが開くと、身の丈ほどの大きさになった。
ルーシーはサララにその武器を渡す。
サララは武器を手にすると、サクラとの距離を一瞬で詰めた。
接近と同時に武器が振り下ろされる。
サクラはひらりと躱す。
サララの一撃で地面が抉れる。
一方で、折り畳まれていた武器の方には一切の変形や破損もない。
サクラは疑問に思う。
何故、小さく折り畳まれていた武器にこれほどまでの強度があるのかと。
不可解な現象が起きた時、それには大抵「ワルキューレの奇跡」、要は超能力が絡んでいるものだ。
そう、これはルーシーの能力、インスタントロックの効果だった。
彼女の能力は、触れた非生物のあらゆる変化を数分間止めることができる能力だ。
最初のサクラの奇襲を防いだのもこの能力。
毒に触れ、固定したのだ。
そして、サララが使う武器も同様に形が固定されていた。
サララの規格外のパワーに耐え切れる武器など、本来存在しない。
その不可能を可能にするのがルーシーの能力だった。
そして、そのカラクリにサクラは気付いていた。
流石にルーシーの能力にどんな制約があるのかまでは理解していなかったが、ルーシーが触れた物の変化を止める能力であることには気付いていた。
故に、サクラは困惑する。
ルーシーの能力がサクラの能力の天敵だからだ。
サクラの毒は、触れれば殺せる毒だ。
厳密には、触れた部分から体内に浸透して殺せる毒だ。
だから、ルーシーの能力で浸透を止められると、サクラの毒では殺せないことになる。
やはり逃げるしかないか?
サクラはそう考えた。そして、行動した。
しかし、直線的な逃走では、サララに追い付かれてしまうため、立体的に逃げた。
パルクール。
木々が生い茂るこの場所であれば、それを利用した逃走も充分にできる。
「サララちゃん!追いかけるよ!」
「いいの〜?サララ達は後退するんじゃないの?」
「説明は追いかけながらするよ!」
サララはルーシーを背負い、サクラを追いかける。
ルーシーを背負い、多少スピードは落ちているが、通常の人間の身体能力で逃げるサクラを追いかけるのには充分だった。
(来るのかー)
サクラは呆れながらも逃げる。
「それで、何であの人を追いかけるの〜?」
「あの人、わたし達の能力を見抜いていると思う」
「じゃあ、勝てないと思って逃げてるってこと〜?」
「そう!」
「なら、逃がしちゃっても良くない〜?」
「ダメだよ!もし、わたし達の能力が南陣営にバレちゃうでしょ!」
「そっか〜」
「それに!さっきの対応を見る限り、あの人の能力はわたしの思ってる通りだと思うし、援軍も居なそうだから!」
「叩けるうちに叩いちゃえってことね〜」
「そう!」
こうしている間にも、森を舞台にした鬼ごっこは続く。
舞台である森は、鬼であるサララの手によって荒らしに荒らされている。
ここに来て、木と木の距離が離れた場所を迎えてしまう。
仕方なくサクラは地面に降り、次の木まで走る。
ここが転換点だ。
追いつかれてしまえば、この命懸けの鬼ごっこは終わりを迎えるだろう。
この大切な場面で。
逃げるサクラは転ぶ。
ぬかるみに足を取られて。
チャンス!
サララは跳躍し、武器を叩き付ける。
泥が飛び散る。
何とか直撃を避けたサクラもその衝撃に吹き飛ばされる。
「残念」
地面に転がりながら、にっと笑って、サクラはそう言う。
「わたし達の勝ちだよ!」
「いや、勝ちだよ、私の」
ルーシーの台詞を否定するサクラの言葉を聞いた瞬間、ルーシーは心臓に激しい痛みを感じる。
それはどうやらサララも同じようだった。
2人は倒れる。
代わりに、サクラは立ち上がる。
パッパッと服を叩きながら。
服に付いた泥が、落ちることはないと言うのに。
「いつの…間に…」
毒を盛られたことに気付いたルーシーは問う。
「教えないよ」
「そっか…。…泥」
「へぇ。やるじゃん」
ルーシーとサララは息絶えた。
解説しておこう。
この場所には不可解な点が1つあった。
何故、この場所はぬかるんでいるのか。
この場所は周囲とは違い、木が生えていない。
つまり、日の光が当たる場所である。
辺り一帯に雨が降れば、日が当たる場所が乾燥し、日陰がぬかるむだろう。
しかし、現状は真逆。
日陰である木陰ではなく、日の当たるこの場所がぬかるんでいる。
そう、この場所にある泥は、予めサクラが用意していた泥だったのだ。
ただの泥ではない。
サクラの毒と土が混ざった泥だ。
サララの一撃で、泥は飛び散った。
その飛び散った泥は、サララにもルーシーにも付着した。
付着した泥に含まれる毒が浸透し、体内を巡った。
故に、2人は死んだのだ。
【判明している情報】
[北陣営]
・チームα
リーア・ゲレーバ〈DEAD〉
注目の能力;ライトニングロッド
エミリー・ストトレ〈DEAD〉
悪戯の能力;悪戯好きな神
ソラ・シロ〈DEAD〉
魅了の能力;艶奪の瞳
副次的効果:他者の視線に敏感に気付ける。
ユイ・ブラト
ユー・エンビ〈DEAD〉
操作の能力;カースドール
・チームβ
カンナ・ウォーク
衝撃波の能力;クラッピング&ビーティング
ハンナ・ウォーク
マヤ・キュチカ
・チームγ
ルーシー・マール〈DEAD〉
不変の能力;インスタントロック
サララ・カーニー〈DEAD〉
怪力の能力;パワー
・チームδ
ユウコ・シライ〈DEAD〉
切断の能力;一閃
・チームε
ミサ・スカーレット〈DEAD〉
虚無の能力;暗闇
[南陣営]
・チームA(Assassin)
サクラ・クリア
毒の能力;フェイタルポイズン
コウ・ゲイト〈DEAD〉
狙撃の能力;スナイプ
・チームB(Brain)
メルノ・チェプロ
共有の能力;鳥獣一体
フォーリー・ウィード
眼の能力;神眼魔眼
ミク・ハチャ
万能の能力;オールマイティ
・チームC(Center)
ココ
起死回生の能力;ジャスティス
チカ・ノート
治癒の能力;スキニーヒーラー
J
装填の能力;ヒットリロード
リン・トゥリー
想起の能力;幻雪
サマー・ワンダー
増幅の能力;スキルアンプ
・チームD(Dance)
ヒナタ・クロサワ〈DEAD〉
舞踏(武闘)の能力;デッドエンド・ダンスホール
・チームE(Exception)
メイ・リーフ〈DEAD〉
複製の能力;ベターコピー
[GM]
アイ・スズキ
拘束の能力; デッドロック