補遺 5-5
ユー・エンビ。
17歳。北陣営、午の代理者。
能力、カースドール。
彼女には8歳より前の記憶がない。
そして、記憶もなければ、記録もなかった。
発端はとある事件だった。
山奥にある屋敷にて、7人が発見された。
そのうち、大人6人は死亡しており、唯一生存していたのは、衰弱し切ったユーだけであった。
結局のところ、この事件は未解決のまま、お蔵入りとなった。
ユーが回復した後、事情聴取が行われたが、ユーは事件の記憶どころか、過去の一切の記憶を忘れていた。
そして、ユーが何者なのか、一切の情報も得られなかった。
一方で、6人は身元こそ判明したものの、年齢、性別、住所、職業、その他あらゆる個人情報のどれにも共通点は見つからなかった。
唯一共通点があるとすれば、全員餓死していたと言うことだけだった。
餓死。
それがこの事件の奇妙さを増幅させる。
屋敷には食料が充分にあったのだ。
手の届く所に食料がある状態での餓死。
実に奇妙だ。
普通、食料があるのなら、餓死する前に食するだろうし、もし、断食などをしていたのなら、食料を用意していることが不自然である上に、餓死するまで断食を続けるようなことはないだろう。
不明点と奇妙な点が多過ぎる事件は、何も進展がないまま、お蔵入りとなった。
さて、一方のユーは、その後能力者であることが明らかになった。
ユーの能力、カースドールは他人を操作する能力だ。
ユーは、能力で木製のデッサン人形のようなものを生み出すことができる。
その人形に他者が触れた場合、その者の魂は人形に封じられ、肉体の操作権はユーに譲渡される。
そんな能力だ。
支配の能力と言い換えても良いだろう。
他者を支配する能力を持ってしまえば、その力に溺れるのが人間だろうが、しかしながら、ユーは力に溺れることはなかった。
代理者の中で、最も優しく、他人を思いやることのできる人間だった。
しかし、どんなに優しい人間だろうとも、戦場では命を落とすのみである。