補遺 5-3
ソラ・シロ。
21歳。北陣営、戌の代理者。
能力、艶奪の瞳。
彼女は愛されたかった。
ソラは4歳の時に、両親を不慮の事故で失った。
幼い彼女の記憶の中にいる両親は、彼女に溢れんばかりの愛の注いでいた。
ソラは母親の兄、つまりは、彼女の伯父に引き取られることになった。
伯父には妻はいたが、既に離婚しており、2人の間には子供はいなかった。
伯父は貧しくはなかったが、忙しい人で、休みは月に2度ほど、年末年始であろうと、長期の休みを取ることはなかった。
きっと、それが伯父が妻に逃げられた原因なのだろう。
ともあれ、そんな伯父に引き取られたソラは、家では殆ど1人だった。
1人で朝食を食べ、学校へ行き、帰って来たら、1人で夕食を食べ、眠る。
勿論、ソラには友達がいたが、それでも毎日誰かと遊ぶのは不可能だった。
寧ろ、ソラはだんだんと友達と遊ばなくなった。
誰かと楽しい時間を過ごすほど、孤独が耐え難くなってしまうからだ。
両親と過ごした暖かい記憶、それが彼女を狂わせた。
また誰かに愛されたいと強く願った。
そんなソラは能力を発現させる。
ソラと目が合った人が、ソラを無条件で愛する能力だ。
今でこそ、ソラはその能力を完璧に制御できているが、発現当時は言うなれば、暴走状態だった。
制御された現在の能力では、相手はソラの言うことを何でも聞く状態になるが、発現当時は、その相手が思うままにソラを愛する状態になっていた。
恋は盲目。
まるで世界にソラと自分しかいなくなったかのように、ソラを溺愛する。
その愛はソラですら止められない。
さらに厄介なのは、副次的な能力の視線に敏感になることだった。
まるで肩を叩かれたら反射的に振り返ってしまうように、ソラは見られるとその方向を反射的に向いてしまっていた。
そして、目と目が合ってしまい、能力が発動する。
人混みでうっかり能力を発動させてしまえば、負の連鎖が始まる。
唯一、救いなのは、人混みであれば、簡単に第三者の身体が触れて勝手に能力が解けることだろう。
とは言え、そんなリスクがある以上、ソラは大勢の人がいる所には近寄れなくなっていた。
人に愛される能力が、人から遠ざけてしまっているのは、何たる皮肉だろうか。
当然、そんな強力な能力は、簡単に北陣営を指揮する組織に目を付けられることとなり、ソラは施設に送られた。
しかし、その施設に入り、指導を受け、訓練を積んだことで、ソラは能力をある程度、制御できるようになった。
そんなソラが普通の生活に戻ることができたのなら、もしかしたら、きっと幸せな生活が送れたのかも知れない。
少なくとも、ウァルスと言う戦争に駆り出されて死ぬよりはずっとマシな人生だっただろう。




