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第5話


「ユウコちゃん、何見てたんすかね?」


 ユウコを殺したヒナタは、自分が声を掛ける前、ユウコが見ていた方向を(なが)める。


 (ひたい)に手を当てて眺める様には相応の幼さすら感じるが、5歳の若さで悪魔と呼ばれた少女だ。


 油断してはいけない。


「あっ!」


 何かを見つけたヒナタは高台を跳ねるように降りた。


―――


「どうやらまた別の新たなお客人がいらしたようだよ」


 ユウコのいた高台の方を振り返り、軍服の少女、ソラはそう言った。


「えー、後ろってー、ユウコは何してるのー?」


 パンキッシュな格好の少女、エミリーは気怠(けだる)げにそう反応する。


「やられちゃった、のかな?」


「えー!どうしよー!」


 ボソッと言ったゴスロリの少女、ユーの発言に、幼きリーアは大声を出して驚いた。


 ガサガサッ。


 近くの林の中から音が聞こえる。


 そこから、バッと飛び出して来たのはヒナタだった。


「わたしはヒナタ・クロサワっす。みんなの名前、教えて欲しいっす」


 ぬらり。


 ヒナタの眼前へと迫るエミリー。


 その姿は(おぞ)ましい化け物の姿へと変わっていた。


 エミリーの能力、悪戯好きな神(ロキ)によって変身しただけのハリボテの怪物だ。


 バッ。


 ヒナタは間髪(かんぱつ)入れず、何の迷いもなく、その怪物に回し蹴りをかます。


 驚かせる(はず)が、逆に驚かされたエミリーは、変身を解いて、みんなの元へと戻る。


「ちょっとー、なんなのー。南陣営、変なのしかいないんだけどー」


 間の抜けたようなゆっくりとした口調ではあるが、その言葉からは(あせ)りや怒りのようなものを感じさせる。


「えっと、3…4…5。5人なんすね。それは都合が良いっす」


 ヒナタはそう言って能力を使う。


 黒い領域が広がる。


 チームαの5人は回避行動を取るも、その領域からは逃れられない。


「これって…!?」


 ユウコがヒナタの能力に気付けたように、雨具を身に付けた少女、ユイ・ブラトもヒナタの能力の既視感に気付く。


「さあ、みんなで殺し合いを始めるっすよ!」


 ヒナタは笑顔でそう言った。


 5人も取り込んで発動したことにより、ヒナタは能力の恩恵の身体強化を高い倍率で受けることができている。


 しかし、それでも1vs5の構図だ。


 そんな中、笑顔でいられるのは最早狂気であろう。


「君、ヒナタは1人なのかい?」


 ソラはヒナタにそう問う。


 ヒナタの術中だと言うのに、いやに冷静だ。


「そうっすよ」


 そう答えたヒナタの目から光が消える。


「そうか。『それは都合が良い』ね」


 ヒナタはソラの目を見てしまった。


 いや、見るように誘導された。


 それは反射的なものだ。


 誰かと会話をするならば、チラリとでも相手の目を見てしまうのは、人の(さが)だろう。


 故に、目と目が合う、たったそれだけのことで、相手の心を奪えるソラの能力は恐るべきものだ。


 ちなみに、能力と解く条件は第三者が触れること。


 つまり、味方がいないヒナタにはどうやっても解くことができないのである。


「ありゃりゃ、案外呆気(あっけ)なかったね」


 事前の綿密な予習により、ヒナタの能力に気付き、そして、警戒していたユイは、ソラに心を奪われたヒナタを見て、そう言った。


「ソラ、その子、操れるなら、早くこの能力解かせてよー。こんな不気味な空間に長居したくないんですけどー」


 エミリーは、漆黒よりも黒い壁を軽く突くようにつま先で蹴り付けながら、そう言った。


「おっと、そうだね。ヒナタ、この能力を解いてもらえるかい?」


「無理っす」


 心無きヒナタは端的にそう答えた。


「それはどう言うことかな?」


「わたしの能力は、この空間内の生存者が1人になるまで、絶対に解けないんすよ。だから、わたしにももう解けないっす」


「そうかい。それは困ったね」


「とりあえずー、その子、殺そうかー?その子が死んだらこの能力がどうなるかなんて、その子でも知らないんだしー」


 エミリーは提案する。


「そうだね。解けなかったらどうするかは、ヒナタに死んでもらってから考えるとしよう」


 これが20歳前後の若人の会話である。


 何処(どこ)螺子(ねじ)が抜けているような(いびつ)さを感じるが、戦うために生きてきた彼女達にとっては、何の違和感もない会話だった。


 ソラは軍服からナイフを取り出して、ヒナタに差し出す。


「ヒナタ、死んで貰えるかな?」


「わかったっす」


 ヒナタはソラからナイフを受け取ると、そのナイフで何の躊躇(ためら)いもなく、自らの首を()(さば)いた。


 断たれた動脈から血が噴き出す。


 バタリ。


 ヒナタは力無く倒れ、間も無く息を引き取った。


 されど、壁は消えず。


「どうやら、ヒナタの言うことは本当だったようだね」


「えー、じゃあ、私達のうち、4人が死ななきゃダメってことー?」


「そう、だね」


「私の(とりこ)になったら嘘をつくことはできない。とは言え、本人が認識違いをしていたら、その限りではないからね。順番に1人ずつにしようか。誰が生き残れば、私達の陣営が勝てるのか、しっかりと考えた上でね」


「じゃあ、まずは私かなー?私の能力はただのイタズラみたいな能力だしー。少なくとも生き残るのは私じゃないかなー?」


 エミリーの発言に、(わず)かに沈黙が広がる。


「…意義はないみたいだね。では、すまないね、エミリー」


「別にー。私達が勝つために必要なら、仕方ないことでしょー」


 エミリーは、自害用の毒を飲んだ。


 されど、壁は消えず。


「どうやら、最後の1人になるまで壁が消えないと言うのは本当らしいね。であれば、次は私かな?私の能力は、多対1や多対多の状況でこそ、輝くからね。1人になっては、役に立たないし、他のチームと合流するにしても、それまでに殺される可能性の方が高いだろうからね」


 ソラは、服毒した。


 されど、壁は消えず。


「えっと、えっと、チームでいられないなら、生き残るのは、ウチじゃないよねっ…」


 リーアの能力は「ライトニングロッド」。


 避雷針を意味するその能力は、その名の通りの効果を持つ。


 自身が複数人で行動している際に、敵から攻撃を受ける場合、その敵は無意識的にリーアを対象に選び、攻撃をする。


 そして、その攻撃が能力によるものであった場合、それを無効化すると言う能力だ。


 確かに、この能力は大勢で行動する時にこそ、優位に働く。


 (もっと)も、ヒナタのように対象を取らない攻撃に対しては全くの無力であるが。


 だからこそ、リーアは自分がここで死ぬことを提案した。


 しかし、死の恐怖に駆られたその声は震えていた。


 エミリーやソラのような躊躇いの無さをリーアは持ち合わせていなかった。


 リーアが最も幼いからか?


 いいや、違う。


 (むし)ろ、エミリーやソラの躊躇いの無さこそが異常なのだ。


 異常であることが正常であると強制するウァルスは、やはりどこまで行っても戦争なのだ。


 それを若者に押し付ける世界は狂っている。


「大丈夫だよ…。一緒ならきっと怖くないから」


 リーアの手をユーは握る。


「ユー…」


「わたしとユイちゃんの能力なら、きっとユイちゃんの方が強いから、ユイちゃんが生き残って」


 ユーの能力はカースドール。


 詳細な説明は違う機会に行うとしよう。


「わかった。私、頑張るね。みんながここで託してくれた分も、陣営のために尽くすから」


 涙こそ流していなかったが、その声は悲しみに震えていた。


 リーアとユーは手を繋ぎながら、毒を飲んだ。


 (ようや)く、壁は消えた。


『1人の敵から襲撃を受けました。襲撃してきた敵は撃破しましたが、チームαは私以外全滅しました。次の指示をお願いします』


 ユイは、壁から解き放たれてすぐに身を隠すと、そうメッセージを送った。




【判明している情報】

[北陣営]

・チームα

 リーア・ゲレーバ〈DEAD〉

  注目の能力; ライトニングロッド

 エミリー・ストトレ〈DEAD〉

  悪戯の能力;悪戯好きな神(ロキ)

 ソラ・シロ〈DEAD〉

  魅了の能力;艶奪の瞳

  副次的効果:他者の視線に敏感に気付ける。

 ユイ・ブラト

 ユー・エンビ〈DEAD〉

  操作の能力; カースドール

・チームβ

 カンナ・ウォーク

  衝撃波の能力;クラッピング&ビーティング

 ハンナ・ウォーク

 マヤ・キュチカ

・チームγ

・チームδ

 ユウコ・シライ〈DEAD〉

  切断の能力;一閃

・チームε

 ミサ・スカーレット

  虚無の能力;暗闇


[南陣営]

・チームA(Assassin)

 サクラ・クリア

  毒の能力;フェイタルポイズン

 コウ・ゲイト〈DEAD〉

  狙撃の能力;スナイプ

・チームB(Brain)

 メルノ・チェプロ

  共有の能力;鳥獣一体

 フォーリー・ウィード

  眼の能力;神眼魔眼

 ミク・ハチャ

  万能の能力;オールマイティ

・チームC

・チームD(Dance)

 ヒナタ・クロサワ〈DEAD〉

  舞踏(武闘)の能力; デッドエンド・ダンスホール

・チームE(Exception)

 メイ・リーフ〈DEAD〉

  複製の能力; ベターコピー


[GM]

アイ・スズキ

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