プロローグ
今から遠く、遠い未来。
第三次世界大戦が勃発し、人類は滅んだ。
いや、正確に言えば、滅びかけた。
100億人を優に超えていた世界人口は、たった3ヶ月あまりの戦争で3億人にまで減った。
第三次世界大戦が世界に与えた影響はそれだけではない。
まず、地形が大きく変わった。
それこそ世界大戦前に使われていた地図が落書きと思えるほどに世界は大きく変わってしまったのだ。
そして、技術が失われた。
人口が3%を割ってしまうほどに減り、研究所や工場などの施設は大地と共に消え去った。
この2つは人類が最先端の技術、いや、大半の技術を失うには充分過ぎるほどの要因だ。
一説には、終戦後の人類の技術レベルは17世紀後半に相当する程度まで落ち込んだとされている。
これが、全世界を巻き込んだ史上最悪の戦争・第三次世界大戦が残した傷痕だ。傷痕と呼ぶには随分と深過ぎる、まるで致命傷のような傷であるが。
しかし、悲しきかな、そんな致命傷に近しい傷痕を残した大きな戦争を起こしてもなお、人類は争うことを、啀み合うことを、他人を憎むことを止められなかった。
どんなに人の数が減ろうとも、技術力が衰退しようとも、敵対し合う北陣営と南陣営と言う関係性は消えることがなかったのだ。
けれども、それは第三次世界大戦から得られた教訓が何もなかったと言うわけではない。
第三次世界大戦を経た人類は、戦争をシステム化した。
人類を滅亡させないと言う人類の総意を汲み取り、考案された戦争。
人々はこの戦争を「ウァルス(WALS; WAr with Little Sacrifice)」と呼んだ。
ウァルスは、システム化された戦争だ。
システム化された戦争。それは、我々が理解できる形に言い換えれば、死人が出るスポーツと表現するのが最も適切だろう。
スポーツにおいて選手の他に必要となるものは何か?
答えは審判。レフェリー、アンパイア、行司と言っても良い。もしかしたら、ゲームマスターと言う表現が、ウァルスの審判を呼称するにあたっては正しいのかも知れない。
ウァルスを開催するにあたって人類はまず中立な立場の人間を生み出すことにした。
両陣営の境界に位置する1つの島を中立地帯とし、両陣営の中から中立の思想を持つ人々を移住させ、北と南の人間の番を作らせた。
こうして、人類が復興し、ウァルスのルールが制定され、各陣営が代表者を選出し、第1回ウァルスが開催されることになったおよそ30年後には、どちらの陣営の思想にも捕らわれない中立な審判団、ゲームマスターが無事誕生したのであった。
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さて、長い前置きもこれくらいにするとしよう。
これから語られるのは、そんな第1回ウァルスから270年後、技術力が2020年代にまで戻ったとされる第28回ウァルスの記録である。