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ゲーム一日目の朝

ハッと目を覚ますと、ベッドの脇には太成が立っていた。

「え!」陽太は、思わず飛び起きた。「お、おはよう。今何時?」

「6時過ぎたとこ。」太成は答えた。「知ってるか?10時に鍵が勝手に閉まっただろう。その後、どうなるんだろうって不安だったんだが、今朝6時になったらまた音がして鍵が開いたんだよ。閉じ込められてると思うと落ち着かなくてさ。お前はぐっすりだったな。」

陽太は、頷く。

「閉まった音も気付かなかったよ。役職行使が気になって…」

と、言ってから、あ、と口を押えた。

そうだ、太成がどの陣営なのか、まだ分からないのに。

だが、太成は食い気味に言った。

「え、お前役職あるの?」

陽太は、困った。

昨日のお告げ先は、藍だった。

だから、太成の色まで分からないのだ。

だが、こうなったらどうせ村の会議で出なければならないし、仕方なく言った。

「…そうなんだ。あの、まだ誰にも言わないでくれる?」と、歩いてソファの方へと言って、その前のテーブルの上に乗っている、メモ帳を指した。「ほら、昨日のお告げ先。藍は村人なんだ。」

太成は、目を丸くした。そして、それをガン見しながら、言った。

「占い師か!やったぞ、お前が同陣営なら、二人で勝って帰れるな!悠斗はさっき覗いたけど、まだ寝てるって言ってうるさそうに追い返されて…あいつ、もしかしたら別陣営なのかな。」

陽太は、太成のこれは信じていいんだろうかと思いながらも、言った。

「今夜占おうか?信じられないといろいろめんどくさい事になるだろ?」

太成は、うーんと言いながら、腕を組んで考えた。

「お前から見たらオレだって信じられないんだろうしな。オレから見ても、お前が別陣営で騙ってることもあり得るわけで、多分だけど、村は真占い師を確定させるために、占い先を指定して来ると思うんだ。だってさ、絶対二人で確定なんかしないって。狐まで居るんだからな。そうなったら、お前が思う所なんか占えないぞ?悠斗が疑われたりしたら占えって言って来るかもしれないけどな。」

陽太は、頷いた。太成が言っていることは間違っていなかった。多分、狐が居るこの村ではそうなるだろうからだ。

「困ったな。でも、お前の反応見てると信じられる感じがする。グレーに置いてて吊られたら駄目だし、もし指定先に入ったら積極的に占うよ。そうしたら、太成は吊られないだろ?」

太成は、嬉しそうに笑った。

「マジか!頼むよ、グレー吊りって言われそうだもんな。霊能がいっぱい出たらローラーで縄使うかもしれないし、いいんだけどさ。頑張って指定先に入れてくれ。」

陽太は、頷いた。

「うん、一緒に生き残りたいしな。」

太成は、少なくとも狐ではないのかもしれない。

陽太は、その反応を見てそう思った。

すると、そこへ扉がいきなり開いて、藍が顔を覗かせた。

「陽太?起きてるな。ここノックの音が通らないから、いきなり開けるしかないんだよね。あのさ、8時から下の例の部屋で会議しようかって。役職が結果持ってるでしょ?夜までに誰を吊るのか決めなきゃならないし、会議は必要だよ。」

藍は、中へと入って扉を閉める。

太成が、嬉しそうに言った。

「藍!ちょっと来てくれ。」陽太がまさか、と驚いていると、太成は続けた。「陽太が占い師で、お告げ先が藍だったよ!君は白なんだな!仲間だよ!」

太成には、全く悪気がないようだ。

陽太が困ったような顔をしていると、藍は側へと寄って来て、二人が見ているテーブルの上のメモ帳へと視線を落とした。そして、言った。

「…陽太が占い師の一人か。でも、言わない方がいいよ。それこそ友達でもどの役職引いてるか分からないんだからね。僕は自分が村人だって知ってるし有難いけど、これ以上は言っちゃ駄目だよ。どこで狼が聞いてるか分からないし…ここは防音凄いから聴こえてないだろうけど、ほんと気を付けて。」

陽太がもっともだとウンウン頷くと、太成が不貞腐れたように言った。

「まあ…分かってるって。藍は白だって分かったから言っただけで。」

藍は、首を振った。

「僕はいいんだよ、白だし村人だから。でも、白でも背徳者か狂信者の可能性もあるんだ。100%大丈夫だって分かるまで、絶対信用しちゃ駄目なんだって。君は顔にも出そうだし、気を付けてね。陽太の命にも関わって来るし、君自身だって襲撃されるかもしれないよ?何事も、用心に越したことはないから。」

そう言われると、太成は何も返せなかった。

なので、むっつりしながらも頷いた。

藍はホッと肩の力を抜いて、言った。

「じゃ、朝ごはん食べようよ。8時までに集まらなきゃならないしね。レストランに行ったら焼き立てパンの良い臭いがしたんだー。多分、どこかに居る運営の人たちが、みんな引き籠ってる間に持って来てくれたんだろって。行こうよ。」

焼き立てパン?

陽太は、途端に元気になった。パンは好きだし、焼き立てなら尚更だ。

そのまま、太成と藍と一緒に、陽太はレストランへと向かったのだった。


パラパラと人が居るが、昨日の夜のようにみんなが和気あいあいと集まっているわけではない。

みんな昨日の酒が残って居るのか、つらそうにしている者達も居た。

キッチンの扉を開くと、芙美子がトレーの上に何かを乗せて出て来るところだった。

「あら、おはよう。パンもあるし、レトルトのお粥もあるわ。みんなせっかくの焼き立てパンなのにお粥の方が良いみたいよ。」

よく見ると、芙美子の持っているトレーの上にはお粥が入った皿が乗っている。

「芙美子さんも?」

陽太が言うと、芙美子は苦笑した。

「違うわ、これは郷さんの。あの人、朝から何も食べたくないって言うのよ。でも、8時から会議だししっかりしてもらわないとね。勝って帰らなきゃならないのに。じゃあ、私は行って来るわね。」

芙美子は、郷の世話をすると決めたらしい。

そんな芙美子が気になったが、個人の事に踏み込むほど仲がいいわけでもない。

なので、何も言わずに、陽太と太成と藍は、キッチンでパンを物色して持って出る事にした。

おいしそうなパンにテンションが上がって嬉々としてコーヒーを手にキッチンから出て来ると、悠斗が疲れたように出て来ていて、何やら香織と話していた。

…なんだよ、香織ちゃんが起こしたら起きるのかよ。

太成も陽太もおもしろくない気持ちになっていると、藍が空気を全く読まずに笑って言った。

「あ、悠斗、香織ちゃん!焼き立てパンがあるよ、あっち!まだいっぱいあったから行って来たら?」

悠斗と香織は、驚いたようにこちらを見たが、それが藍と太成と陽太だと分かると、少し表情を弛めた。

「ああ、焼き立てか。美味しそうだな。昨日、なんか今日からのゲームが気になってあんまり眠れなくてな。起こしに来てくれたのに、すまなかった。」

悠斗が言うと、太成は、少し肩の力を抜いて、頷いた。

「もういいよ。8時から会議だって。お前も飯食って来いよ。」

悠斗は頷いて、香織と一緒にキッチンへと向かって行った。

もう、あいつは誰と一緒に来たか分からなくなっちまったなあ。

陽太は思ったが、せっかく好きな子ができたのにそれを邪魔するのも野暮だ。

なので、黙ってそれを見送った。

藍が、それを見送って、小声で言った。

「…なんか、コソコソしてるって見えるよね。」

陽太は、ギクリと肩を震わせた。

「え。悠斗は今、ちょっと舞い上がってるだけだと思うけど。」

太成も、それには頷いた。

「うん。普段は良いヤツなんだけど、なんか香織ちゃんには本気になりそうだって昨日言ってたんだよな。必死なんじゃないかな?邪魔はしたくないし、ちょっと様子見。」

藍は、少し怪訝な顔をしたが、頷いた。

「君達の友達だからね。僕はでも、怪しいと思ったら遠慮なく言うよ。会議でね。」

藍はそうかもしれないな。

陽太は思った。

できたら少しは悠斗を知って欲しいが、悠斗自身が香織に必死で他との人間関係を構築しようとはしていないようだった。

陽太はため息をついて、太成と藍と三人で、朝食を食べたのだった。

気持ちは暗いが、パンはとてもおいしかった。

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