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ゲームの終わり

悠斗の長い話が終わり、藍と睦は複雑な顔をした。

狼は、狂信者無しで戦っていたことになる。

しかも初日と次の日に、仲間を次々に失って先が見えなくなった。

役職に出ている怪しまれている占い師の寛と、その寛に囲われている悠斗。

猫又に出ていなければ、怪しまれてあっさり負けていたかもしれない。

それでも踏ん張って最終日まで、村を誘導しつつやっと来た。

本当なら、狂信者が残っていたのなら、狼は勝っていたはずだ。

偶然、健が最後の希望を道連れにしたことで、その道は閉ざされてしまった。

とはいえ、本当に郷が狂信者であっても、勝つ気がないなら残っていた村人の判断に、つまりは結局、運任せになっていたことだろう。

そう思うと、狼も必死だったのだろうと思った。

むしろよくここまでやったなと、尊敬の念が沸き上がって来る。

だが、ここで同情して負けるわけには行かなかった。

夜、8時に投票ルームでたった3つになった椅子に座り、3人は悠斗に投票した。

悠斗でさえ自分に入れて、満場一致で悠斗の追放が確定した。

悠斗が追放される、と、藍と睦は構え、悠斗が目を閉じてその瞬間を待つようにじっと深く椅子に腰かけ直した。

しかし、声は別の事を言った。

『狼が居なくなりました。村人勝利です。』

まだ、悠斗はそこに座っている。

電気が消えるのだろうと構えていた3人は、面食らった顔をした。

「え?追放は?」

睦が言うと、声は続けた。

『ゲームは終了ですので、これよりお荷物をまとめて解放された階段を降り、三階へお越しください。廊下の矢印に沿って行かれますと、船の横から海上の小舟に乗り移ることができます。そこでその船に乗って、島の方へお移りください。』

3人は、顔を見合わせた。

島の方へ…?

あの屋敷に移るのか?

「え、帰れないの?」

藍が言うと、声は続けた。

『十日間のお約束ですので、明日は屋敷の方でお休み頂きます。皆様お揃いですので、お急ぎください。』

皆様お揃い…?

悠斗が、言った。

「なんか知らんが従うよりない。行こう。」

藍と睦は頷いて、急いで投票ルームを出た。

途中、郷達はどうなるのだろうと部屋を覗いて見たが、そこはもう、もぬけの殻だった。

そういえば、これまで襲撃を受けた人達が、その後どうなったのか確認には行っていなかった。

みんな、もしかしたら屋敷に連れて行かれていたのか…?

そんなことを思いながら、3人は心細く固まって、六階から下への、通れなかった階段が、解放されているのを見た。

そして、そろそろと指定された三階へと降りて行くと、声が言っていた通りに、矢印が書いてある張り紙があり、それに従って歩いて行くと、狭い倉庫のような場所へと行き着いて、横の隔壁が開いているのが目に入って来た。

そこへと近付いて行くと、星空が見えていて、波の音が間近に聴こえて来た。

「…外だ。」

睦が言う。

「あ、下に船があるよ!」

藍が下を覗き込んで言う。

そこへは、短い縄梯子が小舟に向かって降りていた。

下の船では、ここへ来る前に船の中へと案内してくれた、外国人のジョアンが手を振っていた。

「ジョアンだ!」藍が言って、梯子へと足を下ろした。「行こう。」

三人は梯子を下りて、小舟へと乗り移った。

するとそこには、やはり最初の日に案内してくれた、ジョアンが居て笑顔で3人を迎えた。

「お疲れ様でした。屋敷にはお部屋もご準備させてありますので、どうぞ。」

ジョアンは、笑ってエンジンをかけた。

とてもそんな雰囲気ではなかったが、男は島から出ている小さな桟橋へと向かいながら、言った。

「いやあ、見所ありましたね。狂信者の方が全く動かれないので、どうなるかと思いましたが狼陣営の方は大変に励まれましたよ。こちらでは感心しておりました。」

見ていたのか。

だが、社会実験というからには、それはそうだろう。

「全部見ていたのか?」

それでも、悠斗が言う。

ジョアンは、頷いた。

「はい。そのためのゲームですからね。」と、三人を見た。「初日からの動きは、全部観察させて頂いております。先に追放された方々は、あちらのお屋敷に運んでそちらで生活して戴き、皆さんの動きをモニターで見ておられました。といっても、彼らの見ていたのは、共有スペースでの会話だけですので、部屋の中で話していたことは聴こえておりませんがね。」

ということは、向こうに居るというみんなには、全部は見えていなかったということだ。

だが、運営からは見えていたということだろう。

睦が、困惑した顔をした。

「えっと、それは個室の方も、あなた方は見えていたってこと?」

ジョアンは、え、と驚いた顔をした。

「はい。そういうお仕事ですからね。最初にサインされた契約書に詳しく書いてあったと思いますが。ご存知なかったんですか?」

そういえば、書いてあったかもしれない。

変な事をしなくて良かった、と、三人は顔を見合わせた。

すぐに桟橋へとたどり着いて、ジョアンはそこで先に降り、ロープを杭に巻き付けて固定した。そして、三人が降りるのを手伝って荷物も降ろすと、屋敷の方へと足を向けた。

「こちらです。自分で歩いてこちらへ来られたのは、あなた方だけですよ。他は、我々に運び出されてきましたからね。」

悠斗が、歩きながら言った。

「みんな、やっぱり死んでなかったのか?こっちへ運ばれて、蘇生されたってことか?」

ジョアンは、え、と怪訝な顔をした。

「死ぬ?社会実験で本当に殺されるとか、あると思っていたということですか?」

言われて、悠斗は顔をしかめた。

確かに、そんな事をしていたら犯罪だ。

「…それは…そんな事はあるはずはないとは思うが…。」

ジョアンは、歩きながら言った。

「襲撃された方々は、薬で一見死んでいるようにみえる状態にしておりました。そのまま夜の時間までそこに置いて、狼たちが部屋へと戻った後に運び出し、その日投票で追放された人と一緒に屋敷へと連れて戻って目覚めさせます。そうやってここまで来ました。」そこまで話した時、大きな鉄の重そうな門の前へと到着した。「開きます。」

ジョアンが言った通り、その扉は自動的にギギギと音を立てて大きく開いた。

塀の中には、イングリッシュガーテンのような中庭があって、その向こうに大きな洋館の、入り口が見える。

とても手入れが行き届いていて、それは美しい場所だった。

夜だったが、ライトアップされた庭は圧巻だった。

玄関扉へと近付くと、その木製の扉は開いて、中から陽太や太成、大和や丞など、これまで見送って来た人達が、駆け出して来るのが見えた。

「藍!」陽太が、叫んで手を振った。「こっちこっち!よく頑張ったよー!ほんと、そんなに頑張らなくても大丈夫だって、言ってやりたくて仕方が無かった。」

藍が、陽太の姿に駆け出した。

「陽太!」と、陽太にたどり着くと、その肩を掴んだ。「大丈夫?死んでたんだよ?」

陽太は、苦笑した。

「オレ、全く分からないんだ。」と、丞を見た。「丞さんも。だって、襲撃って腕輪から薬を打って、そのまま眠るように気を失うだけだから。気が付いたらここの立派な部屋の中でね。食事は豪華だし、ゲームもあって退屈しないんだ。保なんか初日からここでリゾートだってさ。」

保が、後ろからバツが悪そうな顔をして歩いて来て、言った。

「その代わり給料は一番少ないんだぞ?まあ、みんなほど苦労してないから当然だけど。」と、歩き出した。「来いよ。郷さん達もほんとは夜に運ぶんだけど、今回はもう、終わりだからって昼に連れて来られてて、もう目が覚めてるよ。芙美子さんとあっちで夜ご飯食べてた。君たちは?」

言われて、三人は顔を見合わせた。

思えば、それどころでなくて昼も夜も食べていない。

「…言われてみたら、食べてない。」

ジョアンが、言った。

「さあ、では食事を用意させます。すみませんが保さん、お部屋へご案内してあげてください。それから、下の食堂へ降りて来てくださるようにお願いします。」

保は、頷いた。

「オッケー。」と、三人を見る。「行こう。オレ、ここのこと誰より知ってると思うよ。」

言われて、三人は荷物を持って保に続いた。

大きな洋館はまるでホテルのようで、場違いな気持ちになりながら、皆に囲まれて階段を上がって行ったのだった。

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