狼の話2
次の日、愛美ちゃんが死んでいた。
噛みが通った…!
オレ達はホッとした。狩人との戦いに勝ったんだ。
だが、襲撃先を入力したら、ほんとに死ぬとは思わなかった。
律子さんのダンナさんが医者だとは思わなかったが、その知識で健より的確に判断していて驚いたし、本当に死んでないのかと、安堵もしたな。
寛は、個人的に律子さんに興味があるようだった。本人は取り入るためだと言っていたが、そんな風には見えなかった。
健とよく争っていて、それが狼利があるとは思えなかったしな。
村人とは上手くやらないといけない。
票を入れられるからだ。
その日は、オレももうルーティンだと香織ちゃんと一緒に居たが、健さんと寛さんが同じように律子さんに付きまとっていたのも手伝って、それに芙美子さんがキレた。
別にこれは戦略であって、オレはあいつらとは違って欲ボケしてるわけじゃないんだよと内心思っていたが、それで悪目立ちするのは香織ちゃんは嫌だったらしい。
オレを避けるようになった。
村は寛さんの黒結果と菜々子さんの黒結果で言い合っていたが、オレの投票先はもう決まっていた。
克己だ。
あいつは上手くやっていた。余計に怪しいと皆に思われていたようだったが、それでも撹乱するにはあれぐらいでいい。下手に意見を残したら、また怪しまれてまずいことになる。
それを、克己自身も知っていたんだ。
取り乱して会議に来ないというふりをして、なんとかやっていた。
実は、オレ達の中ではもう、狩人位置は何となく透けていた。
丞が悪い。
あいつがやたらと永人と話しているし、菜々子さんの初日の白先とはいえ、大した意見を落としていないのに、全く疑う様子もなく、一緒にいろいろ考えていたからな。
だが、初日ならいざ知らず、もう狼には狩人を噛んでいる暇はなかった。
忠司を、噛むしかなかったからだ。
丞は気付いていなかったが、永人は丞が忠司を守れると言った後から、暗い顔をしていたんだ。
恐らく、昨日は狩人は忠司を守っている。
丞がはったりをかましただけだと、オレ達は思っていた。
別に、その日は克己を吊るので、愛美ちゃんを噛めた以上忠司を生かして永人を噛んでも良かったが、寛が言った。
…村人を減らす方法がある、と。
克己が、少々やり過ぎなんじゃと思うぐらい、派手に錯乱を演じてくれていたから、それを利用して、上手く克己の色が分からなくする方法がある、と。
克己に投票させずに、ルール違反で追放させるんだ。
その代わり、恐らく彩菜が吊られるだろうが、それで克己の色は霊媒には分からない。
菜々子の結果が正しいのかも、霊媒には分からなくなる。
その代わり、もし丞が言っていることが間違っておらず、狩人が忠司を噛むことができなかったら、寛が破綻するので、本当に賭けだった。
それでも、狼目線では彩菜は白だ。
仮に狐陣営であっても敵には違いない。
狂信者なら、あれほど抵抗せずに、あっさりもっと怪しい事でも言って、吊られてくれるはずなので、彩菜は狂信者ではない。
そもそもが、あちらはこちらを知っているのだから、自分を吊るなと言って来るはずだった。
初日の動きを見ても、彩菜は狂信者ではあり得なかった。克己と保を庇う様子もなかったからだ。
狼としても、彩菜を落とすことは確かに利があった。
オレ達は、克己を会議に出るように説得するふりをして、三人で克己の部屋へと集まって、その話し合いをした。
克己は、ルール違反による追放というのに始め、尻ごみしたが、しかし勝ちたいのは同じだ。
どうせ吊られるのなら、もうそれでいいと了承した。
だから、克己はあれほど抵抗したんだ。
最初、絶対部屋から出ないと言っていた。
オレ達だって、まさかみんなが縛ってまで克己を連れて行くとは思ってもいなかったよ。克己は、ルール違反で追放されないと意味がないと思っていたので、めちゃくちゃ必死に抵抗していた。頭を打って倒れた時には、本気で心配した。
大丈夫かと思ったが、あっさり意識を取り戻していたのでホッとした。
無理やりに投票させられそうになっていて、オレと寛はもう、別にルール違反にならないならそれでもいいと半ば諦めていたな。
あれだけみんなで寄って集って投票させようとしているのに、それにオレ達が逆らったらおかしいから見ているしかできなかったのが本音だ。
だが、克己は必死だった。
何としても、道連れが欲しかったんだろう。
なので、まんまと投票は間に合わなくて、再投票になった。
オレは、内心克己に拍手したよ。
本当に、あいつは頑張ってくれた。
次は、オレと寛の番だ。
彩菜さんを無事に吊った後、オレと寛は密かにお互いを見て、その時初めて心が通じたと思った。
その夜、たった二人で集まった。
ここまで、連続で狼が居なくなってしまい、オレ達にはとても不利な条件だった。
それでも、やらなければならない。
寛は、言った。
「多分、忠司は噛めるだろう。永人の様子をずっと観察していたが、あいつは浮かない顔ばかりしていた。丞が、必ず生き残ると忠司に言った時の顔を見たか?あれじゃあ、もう守れないと言ってるようなもんだよ。」
オレは、頷きながらも警戒は解かなかった。
「だが、駄目だった時の作戦は立てておかないと。オレは、猫又に出ようと思ってるんだが。」
寛は、眉を寄せた。
「最後まで生き残るからか?だが…大丈夫か?それで全露出って事になるぞ。」
オレは、頷いた。
「丞にだけ言う。機会を見てな。それより、忠司に噛みが通らなかった時はどうする?」
寛は、息をついた。
「オレは破綻だ。だが、あいつの頭がぼんやりしてたら、結果が分からなくなるかもしれないだろう?」と、ポケットから、何かの錠剤を出した。「これだ。砕いて、忠司の水に入れてある。慣れないと頭がぼんやりするだろう。」
オレは、眉を寄せた。
「それはなんだ?」
寛は、答えた。
「睡眠薬。」オレが驚いていると、寛は笑って続けた。「オレも、いろいろあってな。眠れないから、処方されてて持って来てたんだよ。これでも仕事で苦労してる。これに参加したのも、結局は金のためだ。恰好悪いから、そうとは言えなかったがな。」
オレは、驚いた。
寛が、腹を割って話しているからだ。
「…オレだって、結局金のためだ。」オレは、言った。「みんな同じだよ。でも、それでぼんやりさせて、結果を見れないようにするってことか?」
寛は、苦笑した。
「それならいいが、どうだろうな。だが、オレは本当に眠れないんだ。だから、薬に耐性ができてて強いヤツをもらっててな。長く効くってやつ。慣れないヤツなら恐らく、覚めてもぼーっとするだろう。だから、結果を書いたメモ帳を、あいつの部屋のテーブルの上のヤツと、入れ替えておこうと思ってる。多分、朦朧とするから記憶も曖昧になるんじゃないかって期待してるんだが…まあ、分からん。忠司が噛めたら、別にどうでもいい事なんだがな。」
オレは、そんなにうまくいくとも思えなかったが、とりあえず忠司の番号を入力した。
一応構えておかないと、噛めなかった時の対応に困る事になるからだ。
その日は、そのまま部屋へと戻った。
次の日の朝、忠司に噛みが通ったらしい、と見えた。
だが、もしかしたら睡眠薬が利き過ぎて寝ているだけなのかもしれない。
寛もそう思ったのか、一番最後にそっと入って来て、用意してあった自分の部屋のメモ帳を、忠司の部屋のメモ帳とすり替えた。
オレはそれを見ていたが、他には誰もそれを見ている人は居なかった。
忠司の様子に、必死だったからだ。
先頭で調べている人が言うには、やはり襲撃が通っているようだった。
丞は目に見えて落ち込んだ顔をしたが、狼からしたらしめたものだ。
メモ帳の事は、どうするのか悩んだ。
別に、色が見えないなら見えないで、良かったからだ。
あれは、見えた時に面倒が無いようにと、謀っていたことだった。
変に怪しまれる事になるし、本来ならやめておいた方が良かったが、それでも置いてしまったからには、回収する様子を見られるのもまずい。
なので、敢えて寛は自分から、そのメモ帳の存在を皆に話した。
だが、何より驚いたのは、その日狼目線で偽占い師が確定したことだ。
香織さんが、太成が黒だと叫んだだろう?
あの時、寛とオレは、香織ちゃんが狂信者か、と思ったんだ。
何しろ、それまで全く狂信者は自分達に接触していなかったし、狼位置ではない場所に黒を出した香織ちゃんは、どこまでも狂信者に見えた。
狐なら、もしそれが狼だったら敵に回すことになるし、安易に黒出しはしないはずで、陽太のようにおとなしく真目を取るために白を打ち続けている方がいいからだ。
寛から、香織にもう一度接触するべきだと言われて、オレは昨日から避けられていたので気まずいなと思いながら、香織ちゃんに声を掛ける事にしたんだ。




