最終日
次の日の朝、藍は部屋から出たくなかった。
本当ならすぐにでも結果を知りたいものなのだろうが、怖くてなかなかドアを開く事ができずにいた。
足が動かないままじっとドアを睨んで立ち尽くしていると、目の前でいきなり、ガバッとドアが開いた。
そこに居たのは、睦だった。
「…生きてる。」睦は、言った。「藍は狂信者?それとも狼?」
藍は、首を振った。
「どっちでもないよ。睦は?狼は勝ち確定なの?」
睦は、藍をキッと睨んで首を振った。
「オレは狼でも狂信者でもないよ!どういうこと…?!誰も出て来ないんだよ!芙美子さんも、郷さんも、悠斗も!怖くてどこにも行けなくて…気が付いたらここに来てた。」
藍は、まだ睦を信じられなかったが、それは睦も同じなのかもしれない。
それでも、藍の所へ最初に来たのだろう。
なので、頷いた。
「一緒に行こう。とりあえず、芙美子さんから。」
睦は不安そうに頷いて、そうして二人で、芙美子の部屋を訪ねた。
芙美子の部屋を訪ねると、芙美子は一見穏やかに眠っていた。
その状態が、紛れもなく襲撃を受けた様子なのは声をかけなくても二人には分かった。
芙美子は、呼吸をしていなかったのだ。
「…やっぱり芙美子さんを襲ったのか。」睦が、あきらめたように言った。「だよね。いくら郷さんが言っても、狼が怪しむ位置を噛むはずないし…逆に郷さんが狼で、芙美子さんを噛むかなとも思うけど。」
「…そう考えるからかもしれないけどな。」と、藍は近くの郷の部屋へ行こうとドアを向いた。「郷さんが狼なら、芙美子さんを噛むはずがないって。とにかく、郷さんに知らせて来よう。真っ先に見に来て、部屋に籠ってるのかもしれないけどな。」
確かにそれもあり得る。
睦は、藍と共に、同じ階の郷の部屋へと向かった。
「郷さん。」
ドアを開いて声を掛けたが、応答はない。
芙美子の死にショックを受けているのか、何なのか分からなかったが、寝台の上で布団に埋もれている、郷の方へと歩み寄った。
「郷さん?芙美子さんが襲撃されてるのを見た?」
布団を引っ張ると、それは抵抗もなくひらりと落ちた。
「!!」
二人は、固まった。
郷は、全く動く様子もなく、青い顔をして横たわっていたのだ。
「…そんな!」睦が叫んで郷の顔を覗き込んだ。「郷さんも死んでる!」
それが襲撃なのか、道連れなのかは分からない。
だが、間違いなく郷は事切れていたのだ。
狐も占い師ももう村に居ない。
なのに、二人が死んでいる。
つまり、これは猫又の道連れが起こったということなのだ。
健は、真猫又だったということだった。
「なんてこった…!悠斗が偽なんだ!」と、藍は混乱しながら睦を見た。「睦が狼なの?!それとも狂信者?!」
睦は、ブンブンと首を振った。
「違う!だったらこんなに驚かないよ!昨日だって、藍が健さんに入れるって言うから…悠斗に入れるって言ってたらそっちにしてた!」
郷は人外ではない。
もしそうなら、悠斗に入れろとあれほど強くは言わなかっただろう。
何しろ、芙美子も丞も、共有者は健が偽だと思っていたのだ。
二人が睨み合っていると、ドアの方から声がした。
「…オレは人外だよ。」二人がビクとして振り返る。そこには、悠斗が立っていた。「どうする?オレを吊るか。」
藍が、言った。
「もう僕達3人しか残ってない!睦が信じられるからどうか…いや、もう君が狼に掛けて君に入れるしか、勝ち目はない!だってこうなったら、寛さん狼しか僕目線じゃあり得ないんだよ!だって郷さんが死んでるのに、終わってない!睦は確定白で、あっても狂信者、だから君が狼だ!」
睦は、言った。
「オレ目線は藍が狼だってまだあるけど…藍を信じるしかない…狼じゃないって!悠斗に入れるしかもう、勝ち目はないんだ!」
悠斗は、それを聞いてフッとため息をついた。
そして、頷いた。
「そうか。狂信者は居ないか。」え、と二人が目を丸くすると、悠斗はハアとため息をついた。「もういい。どうせ二人ともオレに入れるんだろ?だったら教えてやるよ。オレが狼だ。」
二人は、一瞬息を詰めたが、藍が悠斗を睨んで言った。
「…投降するの?」
悠斗は、頷いた。
「ああ。もう勝ち目はないからな。狂信者が残るかどうかが問題だった。睦が狂信者かと思ってたんだが、どうやら違うみたいだしな。もし狂信者だったら、藍に入れてくれ。それで勝つ。」
睦は、何度も首を振った。
「オレは狂信者じゃない!」
藍は、戸惑う顔をして、睦を制した。
「ちょっと待って。」と、悠斗を見た。「狼と狂信者は、繋がってなかったの?」
悠斗は、苦笑しながら頷いた。
「あっちが何も言って来ないし、そもそも役職にも出て来なかった。だから未だにオレ達は、狂信者がどこに居たのか分からず終いだ。」と、息をついた。「まあいい。どうせ死ぬんだし、話してやろう。オレ達のことを。下へ行こう。」
そうして、困惑する藍と睦を連れて、悠斗はレストランラウンジへと歩いて行った。
レストランは、シンと静まり返っていた。
もう、この三人以外は皆、死んでしまった。
残ったのは、悠斗、藍、睦の三人だけしかいないのだ。
睦は、黙って悠斗について歩きながら、その静かなレストランを見渡した。
ここで、最初の0日の日に、皆で楽しく御馳走を前に笑い合いながら話して、これからどんなに楽しいゲームになるのかと、いいバイトだと期待に胸を膨らませていたものだ。
藍を見ると、険しい顔でただ黙々と歩いている。
みんながどうなったのか分からないが、あの時は誰が狼だの狐だの、関係なく楽しんだ。
こうしてゲームが終わろうとしている今、村が勝つならまた村人たちには会える。
だが、狼や狐たちはどうなんだろう。
一度、誰かが言っていた。狼も狐も、好きで引いたわけではないのだ。
ただ生き残りたくて、ただゲームを進めなければ追放されるという恐怖に打ち勝つために、どの陣営の戦っていた。
こうなったからには、悠斗が狼なら寛が偽占い師で、陽太が真占い師だったのだろう。
寛と悠斗は、狼同士だったのだ。
ここまでの結果を見て考えると、陽太と菜々子が真占い師という事になるので、狼は保、克己、寛、悠斗だったという事になる。
思えば狼は、初日からかなり厳しい戦いを強いられていたのだ。
真占い師である陽太が村から信頼され、狼である寛が、克己と保を庇ったことで、律子から疑われて、大和に指摘された。
霊媒師は確定し、狂信者はどこに居るのか分からない。
占い師の中に、狐が居るのだろうとは分かっていたのだろうか。
狂信者が自分達に何も言って来ないので、もしかしたら香織が狂信者なのかもしれないと、話し合ったりもしたのだろうか。
そんなことを考えながら、海が良く見える窓際の席へと座った悠斗に従って、藍と睦も並んで座った。
悠斗は、言った。
「何から話す?聞きたいことはあるか。」
藍が、言った。
「狼は誰?」藍は、じっと悠斗を睨むように見て、言った。「君が狼なら、陽太が真だったってことだよね。寛さんが狼でしょ?」
悠斗は、苦笑した。
「整理したら分かるだろう。オレが狼なら、寛は偽。ということは、陽太と菜々子さんが真だから、その二人の結果と霊媒結果を合わせたら保、寛、克己、オレが狼だと分かるはずだ。」
睦が頷いた。
「それはここへ来る間に整理して思ったよ。でも、だったらどうして菜々子さんを噛んだりしたの?あの時占い師を噛むのは早かったんじゃないの?生かしておいた方が、吊り縄の使い方に迷ったかもしれないのに。」
悠斗は、小首を傾げて考え込むような顔をした。
「そうだな…だったら、最初から説明しよう。」と、テーブルの上に腕を置いて、手を組んだ。「オレ達が、どう考えてどう動いていたかをな。」
藍と睦が、ゴクリと唾を飲み込んだ。
悠斗は、遠い目をして話し始めた。




