七日目の昼から夜
結局、二人は戻って来る事は無く、悠斗も出て行ってしまい、昼の会議も船首ラウンジでいくら待っても三人は来なかった。
仕方がないので、藍が言った。
「僕が言えた義理じゃないけど、敢えて言うね。健さんは、猫又だって証明する術がある?僕だって、村人だって証明しろって言われたら無理だから、無茶な事を言ってるのは分かってるんだけど。」
健は、言った。
「…オレは、とにかく猫又ってのは潜伏して噛まれてなんぼだと思ってたから、ひたすら吊られないようにだけ考えてたんだ。オレが間違ったのは、まさか村から投票されるほど怪しまれてると思っていなかった事だった。というのも、あの日律子さんと決選に上がるって、ほんとに思ってなかったんだ。まだ潜伏できると思ってた。そしたら、思ったよりオレに票が入って…。狼が、オレに入れてるとしか思えなかった。生き残ろうとするから怪しいと言われたら、オレはどうしたらいいんだよ。本当に吊られるわけにはいかないんだ。オレは猫又なんだよ。」
睦が、言った。
「信じたいよ。そもそもが陽太は猫又二人を占ってなくて、陽太目線じゃどっちが真なのか分からないんだ。でも、陽太が真なら猫又は吊りきったら終わりだから、狼はその時点でアウト。悠斗の生存欲の無さは、とてもラストウルフには見えなくて。仮に寛さん真で狂信者だとしても、やる気が無さすぎるんだ。…だから、どうしても健さんの必死さがネックになるよね…でも、真猫又だとしても、郷さんが言うように必死になるだろうし、よく考えないとって思うんだけど…。」
藍は、頭を抱えた。
「もう、分からなくなって来た。郷さんがあんなことを言うのも、丞さんの言い残したことがあるから一層怪しいんだ。狂信者は確かに潜伏するなら完璧にしないと怪しまれて結局吊られる。睦の行動は、一見狂信者だけどそれじゃ狼利がない。もう分からない…このまま夜になっても、票が割れる気がする。」
睦は、頷いた。
「もう、オレは藍に合わせる。割れたら吊り無しになって狂信者が残ってたら負け確になってしまう。もう陽太が真で大和が狂信者だったら良いのに…気軽に投票できるのに。」
藍は、睦を見た。
「やめて。僕だって迷ってるのに、もっと考えてよ。みんなの命が懸かってるんだよ?」
睦は、顔をしかめた。
「もういっぱい考えたよ。オレは怪しまれてるし、藍に合わせて票を入れるよ。無理だもの!」
健が、もうあきらめたように言った。
「…任せる。オレが何を言っても怪しくなるだけだ。悠斗が同じ土俵に上がってくれないんだ。あいつは腑抜けてて確かに狼らしくない。陽太が真なら、オレ目線じゃあいつは狂信者だ。だから、寛さんが真だったんだろうな。としたら、郷さんが狼だと思ってるって言っておく。」と、立ち上がった。「じゃあ、投票時間にはきちんと投票ルームへ行く。しっかり考えてくれ。」
そう言い置くと、健はそこを出て行った。
藍と睦は、二人きりになってしまって途方に暮れたのだった。
夜まで、レストランでも船首ラウンジでも、誰も見かけなかった。
恐らく部屋に籠っているのだろうが、藍と睦は6人残っているのに、まるで二人きりで取り残されている気持ちになった。
どちらも陽太の白で、お互いを信じたい気持ちもあるのだが、こんな状態なので何も信じられない。
それでも、投票だけはしなければと、8時が近くなって来て、投票ルームへと向かった。
すると、やっとお互いの他の人を見ることができた。
6人全員が、きちんと投票ルームに集まったのだ。
「…ごめんなさい。」芙美子が、疲れきった顔で言った。「会議もせずに。丞さんに言われていたのに、私には荷が重いの。もうここまで来たら、死んでいった人達の言葉を信じるしかないと思っているわ。郷さんは反対しているけど、私は健さんにいれようと思う。」
郷は、むっつりと黙っている。
健は、言った。
「…もうあきらめた。まだ間に合うと思いたい。それでいい。」
郷が、言った。
「諦めるなよ!」郷は、大きな声で恫喝した。「お前、真猫又なんじゃないのか。吊られたら陽太が真ならグレーに狂信者が居るし、寛が真なら狂信者が確定で生き残ってる中で狼が残ることになるんだぞ?それでいいのか?!」
健は、もうその声にも怯えることなく暗い目で郷を見た。
「オレはここまで一生懸命やったさ。もう仕方ない。信じてもらえなかったんだ。」
『投票5分前です。』
モニターが点灯した。
睦は、藍を見る。
「藍…。」
藍は、緊張して額から汗を流していたが、睦を見ずに腕輪を開いた。
「…共有に合わせる。」
睦は、頷いた。
悠斗は、何も言わない。
ただじっと黙って腕輪を見つめるだけだった。
『投票してください。』
藍は、震える指で15と入力した。
『投票が終わりました。結果を表示します。』
2(悠斗)→15(健)
4(藍)→15(健)
7(郷)→2(悠斗)
9(芙美子)→15(健)
11(睦)→15(健)
15(健)→2(悠斗)
郷は悠斗に入れていたが、健以外の全ては健に投票されていて、健の番号の15が大きく表示された。
『No.15は追放されます。』
パッと灯りが落ちる。
「…勝てるといいな。」
健の、落ち着いた声がした。
モーターの音がして、金属のガシャンという音が響いた後、照明が戻って来て、そこには誰も居なかった。
『No.15は追放されました。夜時間に備えてください。』
終わらない…!
藍も睦も、視線を合わせた。
つまり、健が真猫又だったか、それとも陽太が偽で健が狂信者だったかのどちらかだとこの時点で確定した。
シンと静まり返った中で、郷が立ち上がって、言った。
「この中の狼に言う。」皆が驚いて郷を見ると、郷は続けた。「オレが生きていたら必ずお前に入れるぞ。オレはお前がどこに居るのか分かってる。今夜は芙美子を噛むな、オレを噛め!オレ目線じゃ人外位置はそこしかねぇ!だから入れる。だからオレを噛むんだ!」
郷は狂信者でも狼でもない…?
藍と睦が困惑して郷を見上げていると、郷はそのまま踵を返してずかずかとそこを出て行った。
「郷さん!」芙美子は、慌ててそれを追って行く。「待って!」
悠斗は、立ち上がって言った。
「…自分が人外じゃないってアピールか?オレ目線じゃ、もう陽太が偽だと確定したよ。どうでもいいがな。」
そして、呆然と座ったままの、藍と睦を置いてそこを出て行った。
睦は、叫んだ。
「どういうこと…?!あれは郷さんが狼じゃないってアピールなの?!それとも狂信者で…でも、狼と狂信者は繋がってるよね?!」
藍は、混乱する頭で必死に考えた。
郷さん目線で狼位置が分かるっていうの?でも、僕と郷さんは同じ目線のはずなのに…!
「…分からないよ!」藍は、叫び返した。「分からないんだ、だって郷さん目線とオレたち目線は同じはずなのに、どうして狼位置が分かるんだよ!芙美子さんを守ろうとしてあんなことを言ったとしか…でも、グレーで怪しいのは、もう郷さんぐらいしか居ないのに!」
分からない。
だが、全ては明日だ。
明日、二人死んだら健の真が確定する。
その時点で悠斗が狂信者だったら村はもう勝てない。狼だったらグレーに狂信者が居たら勝てない。
一人だったら悠斗が真で、陽太が偽、だからグレーの睦と藍と郷の誰かが狼だが、寛が真になるので睦は白。
藍目線では郷が確定で狼になる。
そう、全ては明日何人居なくなるかにかかっているのだ。
「…明日だね。」藍は、思考を整理して、言った。「明日真占い師が確定する。狂信者の位置が重要になって来る。もし健さんが真だったら、大和が狂信者なのに賭けるしかない。あり得ないだろうけど…。」
睦は、暗い顔をしたが、頷いた。
だが、大和目線でも藍は狂信者なのかもしれないし、恐らく信じてはいないだろう。
藍が、睦を信じられないのと同じように。




