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六日目の投票と七日目の朝

もう、半分以下になってしまったまばらな投票ルームの椅子に、全員が集まったのは、7時が約束だったが、結局7時半だった。

寛と悠斗、それに健が来なかったからだが、この3人が言うには、もうどうせ投票先は共有が言う所だと決めているからだとのことらしい。

丞は、むっつりとした顔をしていたが、言った。

「…今日は、昨日から決めていた通り、寛さんを吊る。」丞は、宣言した。「明日は、猫又の偽をしっかり精査して吊って欲しい。多分、オレは今夜居なくなるから、明日からの事は村人達に任せる。芙美子さんが一生懸命やってくれると言っているから、みんな頼んだぞ。寛さんも、オレもすぐに後を追うから、今日は吊られて欲しい。」

寛は、無表情で頷いた。

「もう覚悟していたから別にそれでいい。オレ目線じゃ、明日偽の猫又を吊って、明後日グレーの狼を吊らないと終わらないから、まだ犠牲は出るかと思うが、勝てばまた話せるんだろう。寝て待ってるさ。」

芙美子は、言った。

「普通に考えたらここまで村を引っ張ってくれた、丞さんが今夜なんだけど、もしかしたら私かもしれないと思ってもいるの。どちらにしろ、最後には寛さんのグレーの人達が残って考えるしかないと思うから、頑張ってね。」

芙美子はそう言って、郷を見た。

郷は、頷いた。

「お前が帰って来れねぇような事はしねぇよ。絶対に勝てるから、安心してろ。」

芙美子は頷いたが、藍は落ち着かなかった。

さっき、丞と睦と話していたことが気にかかって仕方がなかったのだ。

確かに、郷は白いが何を根拠に白いと思っていたかと言われたら、言動だ。

今居る誰より白いのだが、陽太が白いのが逆に怪しいと思うのと同じように、やはり郷も無難にヘイトを溜めないようにしていたと言われたら、その通りだからだ。

とはいえ、睦の方が怪しいのは確かだった。

睦のフラットに見るやり方は、確かに勝つためには必要なことだが、狼の逃げ道を残しておこうとしていると言われたら、そうだからだった。

占い師の内訳も、今さら村に提示したところで見やすくなっただけで、肝心の猫又の精査には役に立っていない。

睦をあれで完全に信じるのは、難しかった。

猫又達はというと、悠斗は脱け殻のようで役にはたちそうになく、健は青い顔をして黙っていた。

相変わらず寛は悠斗に怒っているようで、胡散臭そうに悠斗を見て、言った。

「…いつまで引き摺ってるんだ。彼女は真占い師だった。オレ目線ではな。お前が村なら勝てば戻って来るんだぞ?取り返そうとは思わないのか。」

悠斗は、寛を睨んだ。

「まだあなたが真だと信じられてないからだ。陽太が真なら香織さんは狐だ。どう転んでも助からないじゃないか。オレが頑張ることで生き残っても、どうせ帰って来ない。だったらオレも同じ所に行くさ。」

悠斗はもうダメだ。

こうなったら悠斗を先に吊る方法もあるのかもしれないが、この様子だと恐らくは真。

残しておいてもしもの時にグレーを吊る縄を確保するのが重要だ。

明日は、何としても偽の猫又を吊るしかないのだ。

寛は呆れたように鼻を鳴らしたが、もう何も言わなかった。

沈黙が続き、定時にモニターの灯りがついた。

『投票、5分前です。』

寛が、身構えた。

いくら覚悟をしたとはいえ、どうなるか分からない暗闇の中へ沈んで行くのは怖いだろう。

『投票してください。』

全員が、もはや慣れたように腕輪に番号を入力した。

2(悠斗)→14(寛)

4(藍)→14(寛)

6(丞)→14(寛)

7(郷)→14(寛)

9(芙美子)→14(寛)

11(睦)→14(寛)

14(寛)→2(悠斗)

15(健)→14(寛)

寛は、悠斗に投票していた。

だが、満場一致で寛が吊られることに決まった。

『No.14が追放されます。』

パッと電気が消える。

「頼んだぞ。」

寛の緊張したような微かに震えた声を最後に、次に灯りがついた時には、もうそこには椅子も寛も存在しなかった。


暗い雰囲気にはなったが、もう全員が何も言わなかった。

黙々と立ち上がり、次々に部屋を出て行く。

藍もそれに続こうとしていると、睦が黙って立っているのに気づいた。

振り返った藍は、睦に声を掛けようとして、睦が震えているのに気付いた。

「…大丈夫?今夜は君は噛まれないよ。丞か芙美子さんだと思う。」

睦は、首を振った。

「分かってる。違うんだ、思ったんだけど。オレ、もしかしたらスケープゴート位置かもって思って。猫又を吊り間違えたら、オレって道連れにされなくても残されるよね。残りの猫又が狂信者なのか狼なのか、村には分からない。オレが黒いから…村が間違うんじゃって。」

藍は、その事か、と首を振った。

「君は狂信者位置だよ。だって陽太の白だし寛さんの白で、どっちからも白が出てるから両目線人外なら狂信者しかあり得ない。狼として怪しいなら、僕だよ。きっと、悠斗と僕の争いになるんじゃない?悠斗が真でなかったらだけどね。」

睦は、目を丸くした。

「え、君は明日は健さんを吊るの?」

藍は、顔をしかめた。

「あの様子だとね。悠斗はどうしても生き残りたい人外には見えない。人外だったら絶対明日生き残らないと、もう縄が足りるから勝てないんだ。なのにアレだろ?みんなそう思ってると思う。睦はどうなの?」

睦は、怯えていた目から、ハッキリした目になると、言った。

「…オレも、確かにそう思った。でも、自暴自棄になってる感じもあるし。寛さんが悠斗に入れてたのも気になるよ。わざとらしい気もする。思考ロックかもしれないけど…フラットに見なきゃならないのに。」

藍は、確かにそうかもしれないとは思ったが、健の生存欲が限りなく偽に見えていて、困った。

決選に残って慌ててCOしたのも、怪しさの極みだ。

ここまで来て結局律子は白でしかなく、それを吊ることになってしまった原因がそのCOでもあった。

ただ、律子がそれを保護するために自分から吊られたのも確かだった。

真がある位置だと思ったからだろう。

…律子さんが生き残っていたら、どう言ったんだろう。

藍は、内心思っていた。

しかし、もう律子は数日前に居なくなっていた。

もう、自分で考えるよりないのだ。

藍は、睦を促して投票ルームを出て、部屋へと戻って行ったのだった。


次の日の朝、やはり犠牲になっていたのは、大方の予想通り丞だった。

残ったのは、藍、睦、芙美子、郷、悠斗、健の6人だ。

ここまで7日、最初の0日目を入れると生き残った全員の報酬は40万になっていたが、誰もそこには言及しなかった。

もう、報酬などどうでもいい気持ちになっていたからだ。

芙美子が、もうみんな何も言わなくても、自主的に集まって来た船首ラウンジで、言った。

「丞さんは、遺言で健さんを吊る方がいいんじゃないかって言っていたの。」皆が力なく芙美子を見た。芙美子は続けた。「私もそう思うわ。でも、郷さんが安易に決めるなって。」

睦が驚いたように郷を見ると、郷は頷いた。

「健は少なくても一生懸命生き残ろうとしている。ここで吊られたら村のためにならないからだ。考えてもみろ、生き残らなきゃならないのは人外も真役職者も同じだぞ。悠斗は人外のためにならないかもしれないが、村のためにもならない。オレはしっかり考えろと言いたいんだ。今6人だぞ?真猫又を吊ったら道連れが出て、3人になる。その中に狂信者が居たらゲームオーバーだ。だが、今日人外を吊れば狼なら終わり、狂信者ならまだ希望があるんだ。思考ロックするな。ちゃんと精査しろ。」

そう言われても、と、皆困惑して顔を見合わせた。

悠斗が、真ではないと言うのだろうか。

とはいえ、健が真であるかもしれないのは確かだ。

睦が、言った。

「それは…悠斗が真じゃないってこと?郷さん、何か見えてることがあるんじゃないの?」皆が驚いて睦を見ると、睦は続けた。「丞さんが言ってたんだよ。オレも藍も、郷さんが怪しいなんてこと、無いってずっと思ってた。でも、グレーだったら誰が怪しいんだって話になった時、郷さんは無い、とは言えないって言ってたんだ。初日から共有者の芙美子さんと一緒に居て、白くなろうとしていた狂信者でも狼でもあり得るって。だから、郷さんがそんなに言うと、逆に健が怪しいんじゃないかって思ってしまうんだ。」

郷は、グッと眉を寄せた。

芙美子が、言った。

「丞さんの意見は私も聞いていたわ。でも、本当に郷さんは違うと思う。だって、初日から私達が考えるのを助けてくれてたのよ。丞さんだって、その意見に助けられていたでしょうに、忘れてしまってそんなことを言うのよ。郷さんは狂信者でも狼でもないわ!」

藍が、言った。

「僕だって郷さんが人外なんて思えないよ!だから信じられないんだけど、でもオレ目線じゃもう、陽太が真の時はこの中に狂信者が一人で、寛さんが真でも猫又に狂信者が一人居るはずなんだよ?自分が違うから、睦と郷さんのどっちかに居るって見えるんだ。そうなったら、猫又を吊り間違ったらほんとに詰みなんだよ。それを促してるように聴こえて仕方がないんだ!」

郷は、ため息をついた。

「じゃあ、オレが人外でもいい。それでもいいからしっかり考えろっての。安易に決めるな!楽をせずにしっかり考えろ。分かったな。オレはもう、口出しはしねぇ。」

そうして、郷は立ち上がったかと思うと、そこを出て行った。

「待って!」芙美子は言って立ち上がったが、自分が共有者だったと残りの四人を振り返った。「ごめんなさい。でも、私が一番知ってる。あの人は、人外じゃないわ。」

そうして、芙美子は出て行った。

それを見送って、藍は深いため息をついた…もし、郷が狼だったなら、きっと芙美子は噛まずに残しておくだろう。

そうして、最後は勝つのだ。

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