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六日目の昼と夜

丞が頭を抱えてしまったので、芙美子に気遣われて郷と共に、三人で船首ラウンジを出て行って、朝の会議は終わった。

こうなって来ると、これまでの積み重ねしかないのだが、寛が陽太よりは黒いというものの、何しろ陽太が狼だと主張されているのなら絶対寛が黒だと思えたのに、陽太が狐だと言われてしまうと、確かに怪しまれてはいけないと、慎重に行動していたと思えなくもないのだ。

寛が狼なら、陽太の呪殺とうまく合わせて陽太を狐に仕立てたということなので、かなり上手い動きだった。

だが、そんなに上手く行くのだろうか。何しろ、占い先は完全に共有者の指定で、狼だからと何とかできるものではなかったからだ。

狼目線では、この日呪殺が出ることが、見えていたのだろうか。

だが、寛が狼で香織が狐なら、結果が噛み合っているのがおかしいようにも思えた。

だが、寛目線で菜々子が背徳者で陽太が狐というのも、狐陣営が二人とも占い師に出るのが、無いとは言えないがおかしいようにも見える。

狼陣営が、占い師という要職に出ないと判断するのもおかしな話だった。

どちらもありそうで無さそうで、村は判断に困っていた。


睦は、レトルトのカレーをご飯の上にかけただけの皿を手に、藍と丞が昼ご飯を食べながら、二人で話をしている所へ合流した。

二人の皿を見ると、食べ掛けのチャーハンがまだあって、あまり進んでいないようだ。

睦は、言った。

「座ってもいい?」

丞は、頷いた。

「ああ。」と、睦が座るのを待った。「睦はいろいろ考えてたんだな。ごめん、菜々子さんが陽太を占った件を、全く忘れてたんだよ。あの時は、陽太が狼だとかなんだとか、寛さんがわめくから…そんなはずないとか、そんなこと考えてて。菜々子さんの結果は見られてないし、だからすっかり忘れてた。」

睦は、カレーを無理に口に入れて咀嚼しながら頷く。

「オレだって昨日の夜中にいろいろ結果を見てて気が付いたんだ。そういえば、みんな気付いてないなって。だから、まだどっちも破綻してないんだよね。破綻を探していろんな可能性を考えてて、気が付いたんだけどさ。」

藍が、バツが悪そうな顔をした。

「僕も、気付いてないのに偉そうなこと言ってごめん。そうだよな、破綻している占い師がいないかって探すよな。でも…だったら、狂信者なんだよ。」藍は、ため息をついた。「寛さん目線じゃ狂信者は猫又の中で確定してる。陽太目線となると、分からないんだ。まず、香織さんが呪殺だとしたら背徳者はもう居なかったことになる。そうなって来ると、これまで吊られた中でそれらしい所は彩菜さんくらいだ。太成は香織さんの黒だしあり得ない。あんなに一緒に居たのはバレバレでおかしいけど、そこぐらいしか見当たらないしね。でも、狂信者は…グレーが全部陽太の白しか居ないから、陽太目線じゃ猫又に狼が居ることになるんだけど、グレーでそれらしい所が見当たらないんだよ。睦以外は誰も寛さんと陽太をフラットに見てなかったし、どうしても睦って思ってしまう。でも、睦が狂信者なら、わざわざ占い師の内訳を提示しないよな。誰も気付いてなかったんだから、言わなくても責められないんだし。村の思考がそれで進むと、狼が吊られる可能性もあるし。そうなって来ると…もう、分からなくて。」

睦は、息をついた。

「…オレも、いろいろ考えたんだ。寛さん目線では、オレに今日白が出たから、黒位置は藍か郷さんしか居ないわけだ。でも、どっちも白い。藍目線じゃ、寛さんが真ならもう、郷さんが黒しかないわけだろ?あの郷さんが、黒だと思うか?」

言われて、藍は顔をしかめた。

普通に考えたらあり得ない。

なので、首を振った。

「いや、郷さんは…」

「…あるかもしれない。」

丞が、被せるように言う。

二人が驚いて丞を見ると、丞は続けた。

「ずっと芙美子さんと一緒だから、意見も合わせてたしこっちの思考と同じだと思ってたけど、もし逃げ切り位置だと言うのなら、あり得る。意見は白い。でも、どうにでもなる。」

「でも、グレーがどうのって話になってた時、オレを吊れって言ったよ。」藍は、戸惑い気味に言った。「狼だったらあんなこと言う?ほんとに吊られるかもしれなかったのに。」

丞は、首を振った。

「あれでもっと白くなったのは確かだ。実際吊られなかったしな。考えてもみろ、最後に郷さんが残っていたら、誰が郷さんに投票する?絶対、藍が吊られるぞ。陽太を真置きしてたんだしな。猫又を吊り損なっていたら、寛さん真なら詰みになる。やっぱり悠斗の言う通りに、あの日は猫又ローラーを始めた方が良かったのか。」

大和で、吊り縄を消費してしまった。

顔を見合わせて黙り込む睦と藍に、丞は立ち上がった。

「…まだ分からないけどな。寛さんが真だとは思えないってのもあるし…陽太を信じたいが、まだ決定的な何かがない。仮に陽太が真だとしても、郷さんが狂信者ってこともなくはないんだ。」

睦が、慌てて言った。

「待ってよ、郷さんを疑うの?今の話で確かに狼ならあり得るかもだけど、狂信者であんなに潜伏するのはおかしいよ。しかもめっちゃ白いのに!」

「それでも陽太目線でも白先に狂信者が居るはずなんだぞ?他に怪しむ所がないなら、郷さんしかないじゃないか。」と、皿を持って歩き出した。「それに、潜伏狂信者は白くなって生き残るのが仕事だ。気取られたら吊られて狼の助けにならない。思ったら誰も、狼でさえ郷さんを怪しんだりしてないだろ。おかしくないか。」

丞は、それだけ言うとそこを立ち去った。

藍と睦は、困惑したまま顔を見合わせた。

「…確かにそうかもしれないけど…でも、もう間に合わないんじゃない?」睦は、言った。「郷さんが狂信者だったら。猫又を吊り間違えたら、もう詰みだよ。陽太目線でも、寛さん目線でも。」

藍は、それを聞いて背筋に冷たいものが流れた。

そうだ…もう間に合わない。

猫又を吊り間違えて最終日、狂信者か狼を道連れにできなかったら、もう村は終わりなのだ。

寛が真なら、残してローラーしたら間に合うかもしれないが、陽太が真なら終わり。

どちらにしろ、寛を真置きできない以上、猫又は何としても間違えるわけにはいかなかった。

そう考えると、昨日大和を吊ってしまったことが悔やまれてならなかった。

だが、もう今8人、後3縄。

このまま進むしか、道は残されていなかった。


夜の会議は、常と同じ7時から行われる事になっていた。

その前に夕飯を取っておこうと、皆レストランに集まっていたが、たった8人になってしまった人たちは、皆それぞれに少ない人数で思い思いに座って、食事をしていた。

郷と芙美子は二人で食事をしていたが、丞はこちらで睦と藍と3人で固まって、黙々とカップラーメンを啜っていた。

何か食べようという気持ちにもならなかったが、何かを腹に入れておかないと、後数日がもたないと思ったのだ。

藍は、一向に進まない食事を口に入れるのを諦めて、箸を置いて言った。

「…それで、丞さん。」丞は、顔を上げた。藍は続けた。「どうすることにしたの?まだ郷さんがとか思ってる?」

丞は、同じように箸を置くと、逆に問うた。

「君はどう思う?郷さんは怪しいと思うか?」

藍は、ため息をついた。

「あれから睦と考えたけど、郷さんは究極の選択だと思った。他の人外候補を追放した後に、他に居なかったらそこだろうなって。だって、丞さんの意見だったら誰よりも白かった大和だって同じじゃないか。大和が狂信者なら、狼の代わりに吊られようと思うかもしれないし、昨日はみんな大和を吊ろうかどうしようかって悩んでたし。白い人を怪しんでも仕方ないよ。狼の思うつぼだと思う。だから、今夜は寛さんを吊った方がいいなって、僕達は結論づけた。怪しい所を吊って行って、白い人は最後だ。そこで間に合わなかったら、もう仕方ないよ。だって、それが村がここまで選択して来た結果だもの。」

丞は、じっと藍の話を聞いていたが、少し考えて、頷いた。

「…そうだ。オレもそう思う。もう、占い師が全部死んでしまった以上、寛さんを残すことはできない。生き残っているのは不自然だしな。その後、明日必ず偽の猫又を吊ってもらいたい。多分、今夜はオレだろう…もう、後は君達に託すしかない。」

丞は、ここまで村を引っ張って来た。

芙美子と丞なら、恐らく丞の方が先に噛まれるだろう。

丞はそれを知っている。もう楽になりたいという気持ちを、今の丞から感じるのだ。

藍と睦は、去って行った村人の全ての命を背負っているような気持ちになって、重かった。

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