五日目追放と六日目
悠斗は結局、それから口を開かなくなった。
全員の投票が大和に入り、大和ですら自分に投票して、全票一致で大和は吊られて行った。
真っ暗な中、それでも落ち着いた声で、大和は一言、みんなを信じてる、と言って消えた。
皆がぞろぞろと出て行った後、芙美子が目に涙を浮かべてガックリと肩を落としていたが、郷がその肩を慰めるように抱いて、そうして投票ルームから出て行った。
それを見送りながら、藍が居なくなった陽太と太成の椅子があった場所を見ながら佇んでいると、永人が声を掛けて来た。
「…陽太か?」藍は、ハッとして永人を見た。永人は苦笑した。「陽太は役目を果たしたと思う。狐を呪殺してくれたんだ。オレは陽太が真だと思っているから、明日寛さんを吊って、偽猫又を吊ったら終わると思うぞ。ただ、そこで間違えないようにだけしなきゃな。悠斗が猫又をローラーしろって言った時、確かになってオレはちょっと思ったんだ。先に猫又をローラーしておいたら、後が楽だなってな。でも、あそこから変えたら、律子さんの時の事もある。同票になって慌てるのは避けたいし、仕方が無かったんだ。もう決めたんだし、このまま頑張ってくれ。多分、オレは今夜死ぬからな。」
藍は、もう悲しむ気持ちも起こらなくて、真剣な顔で頷いた。
「任せて。僕、絶対勝つから。また永人と必ず話ができるように。僕はきっとスケープゴート位置だから、もし寛さんのグレーに狼が居たとしても、残されるよ。最後までしっかり考えて戦うからね。」
永人は、頷いた。
「頼んだぞ。あと数日だからな。オレは、寝て待ってる。」
藍は、頷いた。
そうして、誰も居なくなった投票ルームから、永人と共に歩いて外へと出た。
甲板に出ると、遠く小島が見えているのだが、その上にある、大きな屋敷の窓には、何やらチラチラと光りが見えていて、どうやら人が居るようだ。
「…あれ。」藍は、言って永人に屋敷の方を指差して見た。「ほら、見て!人が居るんだ、あの小島に!」
永人は、目を凝らしてそちらを見て、言った。
「ほんとだ。オレ達だけなんじゃないかってめっちゃ心細い時があったんだけど、傍に人が居ると思うとなんかちょっと心強いな。」と、柵を掴んで、ふと下を見た。「お。見てみろよ、海面に小さい船が浮いてる。どこから乗るんだろ、この船のどっかに繋いであるみたいだけど。」
藍も、言われて下を見た。
確かに、船が波に揺られるのと一緒に、その小船も揺られて時々船底にコツンと当たったりしている。
ロープで、繋いであるようだった。
「これって、もしかして食べ物とか運んで来てるのかなあ。」藍は、それを見て言った。「いつの間にか冷蔵庫には食べ物が補充されてあるでしょ?あの屋敷から持って来てるんじゃない?ってことは、見えてないだけで結構人が居るんだよ。」
永人は、頷く。
「ってことは、逃げられないな。」藍が驚いた顔をすると、永人は笑った。「冗談だよ。なんかさ、襲撃から逃げられるような気がしたんだ。でも、無理だな。おとなしく部屋で寝てるよ。」
藍は、やっぱり永人も平静ではいられないのだろう、と思った。
これまで、何人も朝、死んでいるのを発見して来たのだ。
明日は自分だと思ったら、冷静でいろと言う方が無理だろう。
永人は、そのままわざと明るく藍に話しかけて来て、藍はそれに付き合って、施錠時間ギリギリまで話していたのだった。
次の日の朝、やはり永人が死んで発見された。
これで村は狩人を失い、狼は襲撃し放題となる。
今夜寛を吊って、猫又の二人のうちどちらかを明日吊ることになる予定だった。
もう、みんな無表情になっていて、そのまま永人の部屋を出て朝食を済ませ、いつものように、船首ラウンジに集まった。
人数は今、藍、睦、郷、丞、芙美子、悠斗、寛、健の8人になっていた。
悠斗も、今朝は少し落ち着いたようで無表情だがそこに参加していた。
寛が言う。
「睦が白。それが、私の最後の結果だ。後は勝手に考えてくれ。」
睦が、それを聞いて言った。
「今日、寛さんを吊りたいのは分かるんだ。」睦は、暗い顔をしながらも続けた。「でも、吊り縄なんだよ。寛さんが真なら、グレーにもう一狼居ることになるけど、猫又を吊り間違えたら最終日はヤバい。猫又に必ず狂信者が居ることになるからね。だったら、今日から猫又を吊り始めた方がいいんじゃないか。寛さんが真なら今夜噛まれるだろう。グレーが完全に詰まって狼が特定されるから。最終日に村人が間違うのに賭けて、寛さんは残しておけないはずなんだ。猫又は、まだ余裕があるうちに処理しておいた方がいいと思うんだ。」
丞が、顔をしかめた。
「それでも寛さんに吊り縄を使いたいから残すと思うぞ。間に合うのか…?」
芙美子が、言った。
「ええっと、今夜猫又を吊ってそれが偽だったらいいけど、真だった場合を考えるわ。今8人、今夜1人吊って7人、明日の朝2人減って5人。もう1人の猫又を吊って4人、明後日1人襲撃されて3人。寛さんが襲撃されていなければ、グレーの誰かと寛さんで悩むことになるわね。」
「だったら、その方がいい。」睦が言うのに、皆が睦を見た。睦は続けた。「だって寛さんがそこまで残るのはおかしいだろ。陽太を真だと思ってる人が多いし、寛さんを迷いなく吊れる。」
だが、藍は言った。
「待って。」皆が今度は藍を見た。「陽太が真なら、香織さんが狐、寛さんは狼だ。ってことは、菜々子さんが陽太の相方なんだ。だったら、狂信者はどこなの?霊媒にも出なかったし、ここまで噛まれてるのは真役職者ばっかりだよ。陽太目線じゃもう、今居るグレーには狼は居ない。大和が吊られたからだ。猫又に狼が居る。狼は余程の事がないと狂信者は噛まないよ。陽太が真なら、だから今居るグレーの中に、陽太の白先に狂信者が居ることになるよ。寛さんを吊らないと、猫又を吊り間違った時点でパワープレイだ。だから、陽太真も追うなら今日は、寛さんを吊らないと負ける可能性が上がるんだよ。」
丞が、それを聞いて何度も頷いた。
「そうだよ、その通りだ。その狂信者が、睦じゃないかって疑ってる。」睦は、驚いた顔をした。丞は睦を睨んだ。「発言がすごく寛さん寄りに聴こえるんだよな。迷ってる村人にも見えるけど、陽太が真なら藍が言うように狂信者の位置が分からない。藍は違うだろう、ずっと陽太を真だと貫いてるし。郷さんも全くそんな様子はないし、昨日吊られた大和だってあんなに白かった。睦が一番怪しい。」
だが、睦は首を振った。
「オレは狂信者じゃない!信じてもらえないかもしれないけど、みんながあまりにも陽太ばっかり信じるから、それじゃまずいと思っていただけなんだ。寛さんが真なら、陽太は狐だ。でも、昨日の夜めちゃくちゃ考えて、思ったんだ。菜々子さんはあの日、陽太を占うはずだった。でも、陽太は溶けてなかった…だから、菜々子さんは寛さん目線で偽だから背徳者。つまり、香織さんが真しかないんだよ。みんな気付いてなかったが、内訳はそうなると思わないか?寛さんも整理してみて。香織さんは寛さん目線背徳者じゃないよ。占い師は陽太と菜々子さんか、寛さんと香織さんかのどちらかだ。陽太は菜々子さんの占い指定先になっても焦らなかったのは、それでだと思う。そんな風に考えてたんだよ。」
確かにそうだった。
菜々子があの日占った先は陽太のはずで、それで溶けなかったのだから寛目線では菜々子は偽だ。
狼が狐を探して菜々子を噛んだとしたら、あり得る話だ。
そして、あの日狼目線で真の寛が陽太を占う事が分かっていたので、村目線を混乱させるために真の香織を噛んだとしたらそうだとも言えた。
どちらが呪殺を出したのか分からず、もはや一人になった占い師は、恐らく吊られるだろうからだ。
「…分からなくなって来た。」丞が頭を抱えた。「そうだ、どうして気付かなかったんだろう。そうだよ、死んでも夜占った先が狐なら呪殺は出るんだ。だから陽太か寛さんかって悩んでたんだし。だから、占い師はきっちり二つだ。陽太と菜々子さんか、寛さんと香織さんか。狼目線じゃ真贋が透けるんだ、黒を出してるから。つまり陽太目線じゃ菜々子さんの結果も真だから、大和は白だった。そして克己が黒。寛さん目線では香織さんの結果も真だから太成が黒なんだ…そうだよ、昨日気付いてたら良かった!」
誰もそれに気付かなかったのか。
皆が、後悔したがもう遅かった。
大和は吊られて、今日はもうグレーを精査する余裕もない。
だが、そう考えると、それに気付いていないの大和を吊らずに猫又を今夜からローラーしろと言った悠斗は、かなり白く見えた。
何も考えていなかったのかもしれないが、それでも狼だったらそんな事は言わないだろう。
何しろ、狼だとしたら寛が偽、陽太が真なので自分が吊られた後、道連れが出ないので速攻寛が吊られて終わりだからだ。
狂信者だとしたら、あり得るかもしれなかったが、そうなると陽太が偽なので、寛は真だ。
村には真猫又が分かっても、偽の色が分からないので寛も吊ることになり、終わらなければグレーを吊るという流れになり、猫又は噛めないので真が確定したまま最終日、かなりきついことになりそうだった。
「…悠斗は真猫又か。」丞が言った。「悠斗の昨日の発言を考えたら、とてもじゃないが狼には見えない。狂信者だとしても、狼利がない。どっちにしろ、真猫又の確定は狼には不利だ。偽ならどうしても一回は生き残る必要があるんだ。真猫又を先に吊らないと意味がない。」
健が、やっと口を開いた。
「真猫又でも先に吊られるメリットはないぞ!道連れにするのは、圧倒的に村の方が多いんだから恐らく村人だ!陽太が真だよ、寛さんを吊らずに先にオレを吊ったら、グレーの狂信者と寛さんと悠斗で、パワープレイで負ける!陽太が真だと思うなら、先に寛さんを吊ってくれ!」
寛は、眉を寄せた。
「オレはもう、あきらめてるからどっちでもいいが、健は怪しいな。悠斗を見ろ、昨日から反論もしなければ抵抗もしない。こんな人外が居るのか?まあ、とりあえず今夜はオレを吊っておいたらどうだ。もう分からなくなっているんだろ?」
寛にそう言われると、ますます村人達は困惑した。
もう、何が正しいのか分からなくなっていた。




