五日目夜
猫又の精査は、大変に難しかった。
悠斗と健の二人は、こちらから発言を促したら発言するものの、積極的に発言する様子もなくここまで来ている。
しかも、悠斗は狐だった可能性のある、香織に肩入れしていて、どう見ても狼には見えなかった。
そうなって来ると、土壇場で吊られそうになってCOした健がどこまでも怪しいのだが、怪しむ材料すらそれしかないぐらいで、この二人は本当に、ここまで有益な意見を落としては来なかった者達だった。
悠斗も、疑惑がないわけではない。
初日に寛に囲われた狼だとしたら、そうだと言えるからだ。
それに、一緒に来た陽太と太成とは、初日から何やら香織に一目惚れしたのがどうのと接するのを避けるような動きをしていたし、結局最後まで二人と話すこともほとんどなかった。
大和と太成の二択の時は、陽太がギリギリまで悩んで太成を避けたのに、悠斗は太成に投票し、消えて行った後も、特に何の感慨もないようで、悲しんでいた陽太とは対照的だった。
そんな様子を見ていると、別陣営だと最初から知っていて避けたのではないか、つまりは狼陣営で二人が村人だと知っていたのではないかと思えて来る。
猫又だと丞に打ち明けたのも律子が吊られたあの日の三日目、昼のことだったようだ。
夜に吊られそうになってCOした健と、そう考えると大差ないように思えた。
悠斗の動きは、分からない。
香織に肩入れするのは愛情からで、陣営は関係ないのだろうか。
それとも仲間だったのだろうか。
仲間のはずはないが、香織は悠斗を取り込むために嘘をついていたのかもしれない。
皆が預かり知らない所で、一体何があったのか、本人達以外に分かるはずもなかった。
そんな中で、夜の会議は7時から始まった。
大和は、今夜吊られるというのに落ち着いた様子で居る。
寛は少し憤ったような顔をしていて、悠斗は暗い顔でただ、床を見つめて座っていた。
一応、投票はするつもりなのだと皆がホッとしていると、丞が言った。
「…今夜は大和に投票してくれ。」丞は、淡々と言った。「それで、猫又の精査だ。大和の希望だし、今夜と明日はそれで会議の時間を使いたいと思っている。だが、精査しようにもこの二人の発言はあまり記憶に上らないんだ。だから、二人は明後日の猫又のどちらかに投票するまで、しっかり話して欲しい。まず、悠斗。話せるなら話してくれないか。無理なら健に話してもらうが、話さないだけ不利になるぞ。」
悠斗は、顔を上げて、生気のない目で丞を見た。
「…別に、もうどうでもいい気持ちだ。なんなら今夜から猫又を吊りきってくれてもいいと思うぐらい。寛さんを残しておけば、その間に二人占えるから黒位置だって分かるだろう。今日、明日でオレ達を吊って、真を見極めたらいいじゃないか。そうしたら、白い大和を吊らなくて済む。もうそうしたらどうだ?」
寛が、イライラして言った。
「だからそれで村人を道連れにされたら面倒なことになるだろうが。しっかりしろ、村が決めたことだ。死んで行った仲間を取り返すことができなくなったらどうするんだ?お前一人のことじゃないんだ。」
悠斗は、暗い目を寛に向けた。
「香織ちゃんが同じ陣営だったとは限らない。陽太が真だったら香織ちゃんは狐だ。勝っても取り返せないじゃないか。オレも死んだ方がましだ。ルール違反で追放されても良いと思ってたのに、ここに居るのは寛さんがそう言うからなのに。オレにはこれ以上無理だ。」
健が言った。
「だったら悠斗を吊ろう!」皆が健を見る。健は続けた。「それで、オレが真猫又だって分かるから、無駄な縄を使わなくて済む。大和だって吊らずに済むぞ。オレを吊ったら村が終わるぞ!」
寛が、健を睨んだ。
「どういうことだ。仮に君が真猫又だったとしても、吊ったところで村は終わらないぞ。君には何が見えているんだ?変な事を言うな。」
それを聞いた、芙美子が言った。
「寛さんの白だけど…陽太さんが真占い師だったら、猫又には狼が居るのよね。」皆が芙美子を見る。芙美子は続けた。「だったら、健さんを吊ってゲームが終わるって事は、健さんが狼で、他の狼が吊られてるからってことなんじゃないの?」
そういう事になる。
寛が、健を睨んでいる。
健は、首を振った。
「オレは狼じゃない!だから真猫又だって言ってるじゃないか!そもそも、狼だったら初日から律子さんと話そうなんて、追い掛け回したりしなかったと思う。何しろ、狼が余計なことをしたらまずいだろうが!オレが狼ってことは、寛さんの相方って事になるんだろう?オレは、ずっと律子さんの事を寛と争ってたんだからな。そんな目立つことはしない!」
言われてみたらそうかもしれない。
だが、それなら悠斗も同じだ。
思った通り、藍が言った。
「その理由だったら、悠斗だって同じだよ。ずっと香織さん香織さんで、他と話す様子もあんまりなかったからね。君達は同じなんだ。どっちも怪しい。だからこっちはたくさん発言させて、失言を拾っていくしかないと思ってる。今のがそれだよ。拾ったのが寛さんってのがちょっと怪しいんだけど…余計なことを言うなって指示かもしれないしな。」
寛は、フンと鼻を鳴らした。
「別に。どうせ明日はオレを吊るんだろう。だから別に何を言われても言いたいことを言う。」
睦が言った。
「悠斗、君はしっかり発言するべきだよ。太成が途中黒打ちを怖がったりして怪しかったから、香織さん真もまだ切ってはいないんだぞ?陽太は確かに白かったし、どこまでも真占い師だったかと思うけど、それでも全ての可能性を見て動きべきだと思ってる。君が村ならしっかり考えて、香織さんのためにも生き残ることを考えないと。このままじゃ、村が負けるかもしれないんだ。」
悠斗は、覇気のない顔で睦を見て、言った。
「みんなが陽太を真だと言う限り、香織さんは狐なんだろうし。もう別に自分の命は惜しくない。間に合う内にオレと健をローラーして、寛さんを吊って終わらなかったらグレーを詰めたらいいんじゃないのか?そっちの方が村利があるぞ。大和が白いってみんな思ってるんだろう?」
確かにそうだが、もう村の進行は決まってしまっている。
もう、投票時間が迫っている今、いきなりにそれを変えるのは難しかった。
また、同票になって慌てるような事になったら困るからだ。
まして、連続して同票で吊りなしなどになってしまったら、狼の噛みだけが発生して村に不利になってしまう。
そんなことは、避けたかった。
なので、丞は言った。
「みんな大和は白いと思っているんだ。それでも、今日は陽太と寛さんのグレーである大和を吊るしかない。それで目線がスッキリするからだ。もう、そう決めているから、今更進行を変えることはできない。また慌てて吊り先をミスったら大変だろう。今日は大和、明日は寛さん。これは、オレが死んでも変わらない進行だ。そこから先を、みんなで考えて進めて欲しいんだ。必ず偽猫又を吊るために、だから君達にはしっかり話して欲しいんだよ。君は死にたいのかもしれないが、オレ達は生きたい。村のみんなが戻って来るのを見たいんだ。」
悠斗は、黙って下を向いた。
藍が、怒ったようにせっついた。
「もう!村人が一番人数が多いんだぞ?!香織さんが狐だったなら仕方がないじゃないか、悠斗が村ならしっかり他のみんなの事を考えてくれないと!」
悠斗は、キッと藍を睨むと、言った。
「…狼だって、狐だってみんな生き残りたいんだと思うぞ。」藍が、ぐ、と黙ると、悠斗は続けた。「たまたま振り分けられた役職が、村の敵だっていう役職だっただけで。それでも必死に戦っていたんだと思うんだ。それで吊られて、皆に良かったと言われるなんてどんな気持ちだろうって。香織ちゃんは一生懸命だった。でも、誰も悲しんでもいない。呪殺なら良かったって感じだ。良くないぞ、みんな生きたかったんだ!オレはもう、嫌になったんだ。もういいよ。」
みんな、生きたかった。
それを聞いて、芙美子が唇を噛んだ。
村人が多数なので、どうしても村勝ちが良いように思われがちだが、偶然他の役職を振り分けられた人外達は、どんな気持ちで毎日過ごしていたのだろうか。
生き残りたい、という気持ちが、村人だけのものではないのだと、一生懸命なのは人外も同じなのだと、やっと皆、分かった気がした。




