五日目の昼
皆、重苦しい空気のままだった。
大和や永人は、もう自分の追放と襲撃が確定している状態なのに、努めてなんでもないように振る舞っていたが、それがまた村人達には心に重い。
たまたまグレーに残っただけ、たまたま狩人を引いただけの二人を、ここで見殺しにしてしまうのだ。
勝てば戻って来るのだと言うが、あの状態から本当に復帰するのだろうか。
ここまで五日生きたので、確かに給料は初日吊りされた人に比べたら多かったが、もうそんなことはどうでもいい気持ちになっていた。
郷は、言った。
「しっかり猫又の精査をしよう。」その場に居た、藍、睦、丞、芙美子は顔を上げた。郷は続けた。「落ち込んでても事態は良くならねぇぞ。オレだって初日から白かった大和は吊りたくねぇ。だが、仕方ねぇだろ。村が決めたことだ。ここは思考ロックしないで、丁寧に行くんだろ?」
芙美子は、言った。
「そう決めたけど、大和さんは誰より白い位置だったわ。だって、最初に保さんと克己さんをやり玉に上げたのは大和さんなのよ?結果的に保さんは確定黒。狼のはずはないわ。なのに、盤面上あり得るから吊るなんて。そもそも占い師の中で最初に噛まれた菜々子さんの白先なのよ?どこまでも白いのに…陽太さんと寛さんに占われていないと言うだけで。縄の無駄遣いだと思ってしまう。私は反対したの。なのに、丞さんと永人さんが必要なことだって言って。」
丞は、ため息をついた。
「分かってる。だから言ったじゃないか、白くても両目線でグレーの位置だから残しておけないんだ。寛さんから明日黒が出たらどうするんだ?どうせ吊ることになるかもしれない。だから、ここは大和のためにも村のためにも、大和は吊っておかないと。今日を逃したら後悔する気がする。だから、仕方ないんだ。」
確かに、明日寛から黒でも出たらまた迷うことになる。
だったら、今日吊っておいた方が良いと言うことなのだ。
藍が、言った。
「僕は迷わないよ。寛さんの結果なんか信じない。そもそも、陽太が黒を出してる寛さんだけが生き残ってるってのが答えだ。陽太は呪殺を装おうために噛まれたんだと思う。そして、寛さんが狼ならそんなことはしないだろうって思わせようとしてると思う。寛さんのグレーって僕と睦、郷さんと大和なんだよ?この中に狼が居るように見える?陽太が狐だったんなら、僕は狼じゃない。だって、初日に白を出されて陽太が狂信者でもないって透けてるはずでしょ?だったら狼目線で狐なんだから、噛めないし疑って吊る方向に持って行かないと、勝てないんだ。同じように郷さんだって白い。ただ…睦は陽太を疑う意見を出してたから、分からないけどね。」
睦は、それを聞いて下を向いた。
「…後悔してる。そう見えるとオレも思ったから。でも、みんながあまりにも盲信するからオレだって怪しんだんだよ。でも、今朝陽太が噛まれてたのを知った時、じゃあ香織さんは呪殺だ、って直感的に思った。だって陽太は自分の白をほんとに信じていたし、だけど占われることには鈍感だった。人外だったとしても、占われても構わない役職だろうと考えていた。だから寛さんの主張はおかしいと気付いたんだ。占い師の中で寛さんだけが生き残っているのもおかしな話だ。だから、今夜は寛さんを吊ると言うかなと思って、それなら寛さんに入れようと思ってたんだけど…確かに大和は、陽太目線でもグレーだから残せないなって。」
丞は、頷いた。
「そうなんだよ。藍が言うように、陽太が狐なら藍が狼なのはおかしいし、寛さん目線じゃ陽太を疑う意見を出していた睦の方が怪しいはずなのに、全く睦の名前が出なかっただろう。だから、迷ったのは確かだ。でも、大和はいくら白くても陽太のグレーだから、吊らざるを得ないんだ。だから、そこはもうあきらめて、猫又を精査しよう。それが大和の願いだしな。」
郷が、頷いた。
「オレ達、寛のグレーは噛まれないだろう。」皆が郷を見る。郷は続けた。「戦うのはグレーのオレ達だ。明日は寛を吊るが、その後猫又を吊って誰も死ななかったら、そいつが偽。それで終わらなかったら陽太の偽が確定するから、寛のグレーの中で決め打ちできる。だが、真猫又を吊ってしまったらいきなり最終日ということにもなりかねないんだ。どっちが真占い師か確定しないままの最終日だ。猫又に狼が居るのか、狂信者なのか分からねぇし、票は必ず合わせて来るはずだぞ。しっかり考えねぇと。」
芙美子が、深刻な顔で頷いた。
「今10人でしょ?今夜大和さんを吊って9人、多分永人さんが噛まれて明日六日目8人、寛さんを吊って7人、多分明後日七日目私か丞さんが噛まれて6人、猫又のどちらかを吊って5人…間違えたら、八日目二死体が出て3人。狂信者が居たら、おしまいよ。寛さんが真なら、もう狼の噛み先と、猫又の道連れが偶然重なるか、それとも猫又が狼を偶然吊れて行くかなければ、村は負け確定だわ。」
睦が言った。
「寛さんが真なら、真猫又が狼を連れて行ってくれないとRPPで負けだよ。確か、ルールでは投票が重なると吊り無しになるんだ。律子さんと健さんの件があった後、確認したんだ。ルールブックに書いてあった。」
猫又を間違えることができない。
あくまでも、寛が真なら、だが。
「…寛さんは偽だよ。」藍は、目を鋭くした。「僕は陽太を信じる。きっと、猫又を吊りきったら勝てるはずだ。そんなことにならない。でも、猫又を間違えたりするもんか。だから本当は、こんな遠回りしないで寛さんを吊ってさっさと偽猫又を吊って、間違えたって余裕がある状態で最終日に行きたいんだよ。こんなの賭けじゃないか。いくら両方が真の可能性を追うって言っても、これまで死んだ人たちが犠牲になるかもしれないような、そんな道筋は行きたくない。それで怪しまれたって、僕は今夜寛さんに入れる。絶対だ。」
藍は、立ち上がってレストランを出て行った。
その背を、郷はため息をついて見送ってから、言った。
「…藍の気持ちは分かる。初日から陽太は白かったし、でもあれが狐かって言われたら、可能性はないとは言えないしな。だが、敢えて言うがオレは寛は狼だと思うぞ。だから、オレも寛に入れてもいい。占いをローラーしてからグレーに行ってもいいかと思っているから。何しろ、占い師は誰も生き残っていないんだ。寛だけが死なないのはおかしい。それに、オレは猫又の中に居るのは狂信者だとは思っていない。そして、背徳者と狐が占い師に一緒に出ているとも思っていない。陽太と香織さんの繋がりなんかなかった。全く言葉も交わしてないし、視線も交わしてなかったからな。だからオレは、寛は偽者だと思っている。あり得ないと思う状況でないと、寛の結果が成り立たないからだ。」
そう言われて、丞は顔をしかめた。
そう、寛が真なら占い師に背徳者と狐が同時に出ていて、狼がそのどちらかを噛んでいないと成り立たないのだ。
そんなことがあるだろうか。
無い、と言われたらそうなのだが、絶対に無いという証拠もまた無かった。
「…ごめん、私も今夜は寛さんに入れたい。」芙美子が、言った。「占い師を吊り切ってから、明日に向かいたいの。噛まれた菜々子さんの白先の大和さんを吊るのはおかしいわ。しかも、あんなに白いのに。大和さんを信じて、寛さんを吊って明日から無難に猫又を吊って行きたいの。最終日の賭けなんてしたくない。」
丞が、苦渋の顔をしたが、それでも首を振った。
「…すまない、気持ちは分かるが、ぶれたらまずいんだ。」丞は、頭を抱えて言った。「オレだって、君達が考えてる通りに考えた。でも、もしもって事があるじゃないか。大和には、色が着いてないんだ。陽太と寛さんの二人の占いが。後々困った事になったら大変だから、やっぱり無理だ。大和は吊る。明日からにしよう。だから間違えないように、猫又を精査しよう。無駄な議論はやめだ。もう、決まった事なんだ。」
丞も、つらいのだろう。
だが、自分が思考ロックすることで、村を負けに導くことが、怖くて仕方がないのだ。
そこに居た皆は仕方なく頷いて、そうして猫又の精査を、やっと始めたのだった。




