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四日目夜から五日目朝

陽太は、水のペットボトルだけを持って、部屋へと帰った。

いつもは一緒に帰った太成が、もう隣りの部屋には居ない。

その事実が、一気に胸に押し寄せて来てつらかったが、自分は真占い師なのだ。

このまま、人外に陥れられて死ぬわけには、行かなかった。

今日は、香織さんを占う。

陽太は、もう毎日のルーティンとして、じっとカバーを開いてその時を待った。

すると、ぴったりと11時に液晶画面に表示が出た。

『占い先を指定してください。』

陽太は、迷いなく香織の番号、13と入力し、0を三回押した。

すると、パッと画面に結果が表示された。

『№13は、人狼ではありません』

白…狂信者か…!それとも、背徳者…?

陽太は、思った。

いつものように結果をメモ帳の、昨日の寛・黒の下に書き記す。

そうして、風呂へと入ると寝る準備を整えて、そうしてベッドに横になって考えた。

…明日の朝は、どう議論を進めて行くべきだろう。

きっと、香織が白だったからどういう目線だと聞かれるはずだ。

陽太が、じっと考えて今日は眠れないかもしれない、と思って天井を見つめていると、ふと、左手首の腕輪の辺りがチクとした。

え、痛…、

そう思った瞬間、陽太はシャッターが下りたように、何も見えなくなった。

だが、見えなくなった事実も、全てが陽太にはその瞬間に全く知覚できてもいなくて、ただ何も無くなった。

部屋は、ただシンと静まり返っていた。


「陽太!」藍が、必死に叫んだ。「陽太…!!」

皆が、部屋の入口に集まっていて、黙り込んでいる。

丞が、口を開いた。

「…陽太が襲撃されたってことは、陽太はやっぱり真なんだ。」丞は、怒っているような、悲しんでいるような複雑な表情で言った。「間違ってなかったんだよ!やっぱり寛さんが黒じゃないか!」

睦が、上から降りて来たようで、やっと合流して来た。

「あれ?まさか、陽太が死んでるの?!」

それを聞いた藍が、振り返って睦に向かって怒鳴るように言った。

「そうだよ!やっぱり陽太が真占い師じゃないか!変な事を言うから、遠回りになったんじゃないのか!睦はおかしい!狂信者なんじゃないの?!」

睦は、驚いた顔のまま、首を振った。

「違う!オレは可能性を追ってただけで…」と、丞を見た。「香織さんも、死んでるんだ。上の階で。だから呼びに来た。」

二人死んでる…?!

芙美子が、言った。

「呪殺…?」と、いきなり興奮したように、言った。「呪殺が出たんだわ!猫又は二人とも生き残っているもの!陽太さんが、香織さんを占ったはずよ!陽太さんが香織さんを呪殺したのよ!そして、噛まれたんだわ!」

すると、降りて来ていた、寛が言った。

「オレ目線じゃオレが陽太を呪殺して、狼が香織さんを噛んだって見えるけどな。」と、皆を見回した。「オレは、陽太を占って白だった。オレ目線、陽太は人外だから狂信者か背徳者か狐だったが、香織さんが死んでたことで、陽太で呪殺を起こしたんだと判断するから狐って事になる。背徳者は、どこかで死んでるか、香織さんって事になるな。」

皆顔を見合わせた。

そうなのだ、寛はまだ破綻していない。

陽太を噛むのは、寛が狼なら自殺行為だ。

寛が真で、陽太が白くなろうとしていた狐、背徳者が別に居るとしたら、確かに成り立つ。

狐は占われるわけには行かないので、なるべく白くなろうとするはずだった。

だとしたら…背徳者はどこだ?

「…普通に考えても背徳者と狐が同じ占い師に出るのはおかしいから、噛まれてる事から香織さんは真か狂信者ってことになるよな。寛さんはどこが背徳者だと思う?陽太は別に普通に彩菜さんを吊りに行ってたし、構える様子も庇う様子もなかったよ。」永人が言う。「狼が香織さんを噛むのも…太成が吊られたからだと考えると、太成は背徳者じゃないし。」

寛は、頷いた。

「そう考えるのが村目線だが、逆にオレは、狼はそう思わせようと香織さんを噛んだと思う。そうしたら、オレが呪殺を出してもこうしてどっちが呪殺を出したと分からなくなるだろう。一人残ったオレを吊ろうとなるはずだ。それで吊り縄を消費させて、生き残ろうとしているんじゃないのか。オレは太成が、背徳者だったんだと考えるから、香織さんは狂信者だな。狼は、生き残りを賭けて狂信者を切り捨てたんだ。」

おかしくはない。寛目線では、そうなるのだろう。

「そんなのこじつけだ!」藍が叫んだ。「陽太が真だったと僕は思う!香織さんが狐で陽太が呪殺して、狼は陽太を噛んだんだ!分からなくするために…背徳者は、きっと彩菜さんだ!だから、寛さんが狼だ!」

丞が言った。

「…分からない。初日からの行動を考えるよりない。ノートを見て考えるよ。何しろ陽太は白かった…もし、寛さんが狼だったと言ったら、やっぱり偽かと思ったところだったけど、狐だったなら確かにあり得る。狐なら敵を作らないように行動するはずで、それならあの白さも頷けるからだ。香織さんは太成に黒を打ってあからさまに敵を作っただろう?…狂信者なら、狼に指示されて打ったと考えると合点が行くし。一度部屋に帰ってもう一度改めて集まろう。いつものように、8時に、船首のラウンジだ。ここは解散する。」

皆がそうやって議論している間も、陽太はぴくりとも動かず横たわっていた。

皆が出て行く中、藍は陽太に布団を掛けて顔が見えないようにしてやり、いつも結果を書き記していたテーブルの上にも目をやったが、そこには真新しいメモ帳が置いてあるだけで、何も残っていなかった。

藍は、キッと顔を上げると、もう一度陽太の方へと視線を向けた。

「…負けないよ。負けてたまるか。君は真占い師だったんだ。僕は信じてる。」

そう言い置いて、藍はその部屋を後にしたのだった。


レストランでは、芙美子と郷が向かい合って食事をしながら、話しているのが目についた。

藍は、その二人に近付いて、言った。

「ここ、座っていい?」

郷が、頷いて答えた。

「ああ、座れ。」と、座る藍を気遣わしげに見て、続けた。「大丈夫か?お前、陽太を信じてたしな。」

藍は、頷いた。

「うん。もう大丈夫。やっぱり寛さんは怪しいと思う。だって、やっぱりメモ帳の件もあるんだ。陽太が毎日結果をメモ帳に書いて置いてあったのを知ってるけど、新しいのに変わってたんだよ。だから、あり得ない。絶対寛さんが狼だ。」

郷は、慎重に頷いた。

「そうか。まあそれは置いといて、他の事で詰めないとな。村が納得しねぇだろう。今芙美子とも話してたんだがな。」

芙美子は、頷いた。

「そうなの。初日からの動きよ。まず、彩菜さんが疑われたわね?ほら、占い師の中に狐が居るって考えに反論する感じだったから。だから、私たちは彩菜さんを疑ったわ。でも、寛さんの結果は彩菜さん黒だったわね?おかしくない?」

藍は、遠くを見るような顔をした。

「…確かにそうだったよね。普通に考えたら、背徳者で占い師に出ている狐を庇ったって思うもんね。」

郷は、頷く。

「陽太は彩菜さんに入れてる。だが香織さんもなんだよな。」と、ふうとため息をついた。「あのときはみんな動転してたし、こうなったらあそこしか入れる場所はなかった。他に入れたら怪しまれるからな。苦渋の選択だっただろう。だが、次の日の反応だ。陽太は特に問題なく黒結果を受け入れているようだったが、香織さんはそんなはずないと反論していたよな。結果的にあの結果はナシになったけど…どうなのか分からない。何しろ、仲良かったからな。陽太と太成と同じで、それが私情なのか役職だからなのかが、判断つかねぇんだよ。」

芙美子は、頷いた。

「そうなのよ。ただ、陽太さんが真だったら太成さんのことを占っていないから、色が分かっていなかったはずなの。だから、あそこまで信じているのもまた、おかしなことだったかもって思えていて。何しろ、太成さんの二日目の様子はおかしかったわ。香織さんの指定先になっていたでしょ?その次の日の様子は明らかにおかしかった。黒を打たれることに怯えていて、香織さんが真占い師だったらどうしようって思っている狼にも見えていたのは事実よ。でも、その日香織さんは律子さんに白を出していて、太成さんを占っていなかった。そうしたら、本当にほっとした顔をしていたのよ。あれは怪しかった。」

藍も、それは認めた。

「確かにオレもそれは思ってた。睦もだから太成が怪しいって言ってたからね。陽太の事を信じているから、一緒に居るしとりあえず怪しまずに居てやってたって感じで。だから、陽太があそこまで太成を信じるのは、ちょっと分からなかったのもあったけど、そのうちに占う事になるだろうからって思ってたんだ。」

芙美子は、ため息をついた。

「まあなあ…昨日は、大和さんに入れてるでしょ?君もだけど、陽太さんと太成さんが。あの二人が、繋がっていたと言われたらそう見えて仕方がないのよ。でも、黒じゃないと私も思う。だから、狐って言われたらしっくりきちゃって…絶対に陽太さんが真だと思っていたけど、昨日からちょっとグラついてるの。香織さんが狐かって言われたら、微妙な感じだし…悠斗さんと寛さんとの繋がりを考えても、どっちかと言ったら狼陣営なんじゃないかって考えるのが自然でしょ?だから、狂信者だとしたら寛さんから白が出てもおかしくないし、寛さんが陽太さんを呪殺して、狼が何とかして寛さんの真を確定させたくないから香織さんを切り捨てたとしたら…あり得る気がしてしまって…。」

陽太が、狐だって言うのか。

藍は、どっちかというと陽太寄りだった芙美子と郷の二人がこうなら、陽太を真として村を動かしていくのは難しいかもしれない、と思っていた。

だが、どうやったら村が勝てるのかと言われたら、もう本当に分からなかった。

皆を説得するゲームなのだから、正しい事を言うだけでは、もう勝てないと思い始めていたのだ。

レストランには、他にもぽつぽつと人が降りて来ていた。

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