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四日目の朝

陽太は、目を覚ました。

…生きている。

陽太は、自分の手を見た。

間違いなく自分は生きている。

つまり、人狼の襲撃は起こらなかったのだ。

昨夜、陽太を噛みに来たが狩人が守ってくれたのか、それとも人狼が別の場所を噛んだのかは分からない。

だが、陽太は昨夜、結果を見た時から、この朝を迎えることがないかもしれないと思っていたのだ。

陽太は、起き上がった。

そうして、朝のルーティンのトイレへと行って、それから顔を洗った。

もうすぐ6時なので、閂が抜けたらすぐに外へと飛び出して、言わなければならないことがある。

…寛は、黒だった。

液晶画面には、『№14は人狼です』と表示されたのだ。

ということは、寛と自分は今日から対立位置となり、戦う事になるのだ。

これで陽太目線、寛の白先である悠斗と健は黒く見え、彩菜は恐らく白だったと思えた。

律子の言ったことは、間違っていなかったのだ。

だが、村が自分のいう事を信じてくれるだろうか。

陽太は、不安だった。

昨日は真置きされていたが、この結果を見て村人達は、どう判断するのだろう。

他の占い師達の、結果も出るのだ。

そう考えると、ここからが正念場のような気がしていた。

陽太は、自分を落ち着かせて、扉の前で待った。

すると、ガチンと音がして、閂が抜けたのが分かって、陽太は外へと飛び出した。

目の前の扉も同時に開き、丞が顔を見せた。

「丞さん!」陽太が叫んだ。「黒!寛さんは黒だった!」

丞は、ホッとしたように頷いて、廊下を見た。

ぞろぞろと、皆が部屋から出て来て、彩菜を失ったこの階では、全員揃えば9人のはずだった。

「よし、数えるぞ。1、2…」と、数えて、ん?と何度も見返した。「…一人足りない。」

芙美子は言った。

「菜々子さんよ。」芙美子は、隣りの部屋へと足を向けた。「菜々子ちゃん?」

ノックをしているが、中には音が聴こえていないだろう。

芙美子もそれは心得ているのか、扉を控えめに開いた。

「菜々子ちゃん、みんな起きてるのよ?」

菜々子は占い師だ。

占い師は陽太以外全員疑われているのだから、人狼に襲撃されるなど考えもしない。

なので、芙美子は特に構えもしないで一人で中へと入って行った。

こちらからは、開いたままの扉しか見えないのだが、丞がそちらへ歩いて行くので、陽太もそれについて歩いた。

後ろから、悠斗と太成がついて来るのが分かったが、陽太は声を掛けることもせずに、歩いて行った。

すると、芙美子の悲鳴が聞こえた。

「きゃあああ!菜々子ちゃん!」

「芙美子?!」

郷が、駆け込んで行く。

全員が、弾かれたようにそれに続いた。

部屋へと入ると、ベッドの脇で芙美子が口を押えて涙を流していた。

「…動かないわ。死んでる。」

郷が、急いで芙美子の肩を抱く。

「襲撃か。」

丞が、言った。

「いや…分からない。香織さんが呪殺したかもしれないだろう。昨日、菜々子さんを占ったのは香織さんだ。」

香織…。

皆は、顔を見合わせる。

香織が真なら?

白先は、律子と芙美子、そして太成が黒だ。

芙美子は共有者なので白だ。律子は、昨日の様子から見て白だったと考えられる。

ということは…。

「…太成が、黒ってことか…?」

陽太が呟くように言うと、太成がブンブンと首を振った。

「オレは白だ!香織さんは絶対偽者なんだ!オレ目線じゃ、菜々子さんが襲撃されたんだよ、呪殺を装おうとしたんじゃないか?!」

「他に死体は出てないの?」藍が言う。「もしかしたら、上の階で誰か死んでるかもしれない。もし死んでたら、呪殺だったってことだよね?香織さんの真が確定する。死んでなかったとしたら…太成が言う通り呪殺を装うために噛んだか、狼に真が透けてて噛み合わせて来たのかどっちかだよね。」

丞は、頷く。

「行こう。」

そう言って菜々子の部屋を出ると、上階からわらわらと五人が降りて来た。

「…誰か死んでたのか?」

大和が言う。

丞が、頷いた。

「菜々子さんが。」と、睦、香織、寛、健を見た。「…誰も死んでない。結果は?」

香織が、ブルブル震えながら言った。

「私は…菜々子さん白。なのに噛まれたの?」

寛が言った。

「私は、香織さん白。菜々子さんは誰を占う予定だったんだ。」

丞は、陽太を見る。

陽太は、え、と首を振った。

「オレは真占い師だぞ?寛さんが黒だった!オレが、菜々子さんを噛んだとでも言いたいのか?」

寛は、険しい顔をした。

「そうか、私目線、君は上手くやっている偽物だ。菜々子さんか香織さんが真占い師の相方だった。私目線では菜々子さんが真占い師だったから、占われて黒が出る君は菜々子さんを噛んで、ついでに香織さんの真を追わせようとしている狼なんじゃないかって思うな。それとも、自分は占われても構わないが、香織さんが狼だから真を追わせたい狂信者なのか、どちらかだ。」

陽太は、混乱した。

寛目線ではそうなのかもしれないが、陽太目線では限りなく寛が狼なのだ。

その寛が言っていることは、間違っているはずだった。

なのに、回りの者達の視線が昨日とは違う。

何か、疑いが混じって来ているのが、はっきりと分かるのだ。

…みんな、こんな気持ちだったのか。

陽太は、そう思ってその視線を受けた。

自分の言っている事を、誰も信じてくれない悲しみ。

克己の気持ちが、今分かった気がした。

「…オレ目線では、寛さんが狼。」陽太は、キッと顔を上げて言った。「律子さんは間違っていなかった。だからああして陥れられたんだ!恐らく、悠斗と健さんのどっちかに寛さんの仲間が居るんだろう。どっちかが間違いなく黒だ!健さんの対抗が居たら、オレは健さんの方を疑う!」

すると、丞が険しい顔をしながら、言った。

「悠斗なんだ。」え、と陽太が振り返ると、丞は続けた。「悠斗が猫又。だから、君が今疑った二人が寛さんの白で、そして二人ともが猫又だと言っている。どっちかが騙っているということだ。やっぱり、どっちかを寛さんが囲っているってことだな。それとも、狂信者なのか、村目線じゃわからない。でもオレは、陽太をまだ信じる。」

芙美子が、力強く頷いているのが見える。

陽太は、丞がそう言ってくれた上に芙美子が自分の意見を分かってくれたのにホッとしたが、悠斗が人外かもしれない事実は、衝撃だった。

もしかしたら、と思ってたが、陽太目線では、限りなく悠斗は怪しかった。


そのまま、菜々子の死亡を全員で確認した後に、その扉を閉じて、いつものように朝の会議の時刻を丞が提示し、解散した。

今日は何も食べる気になれず、太成とも話す気持ちにもならなくて、太成の部屋に寄ることもなく鬱々とした顔でそれでもレストランへと降りて行くと、それに気付いた藍が、立ち上がって手を振った。

「あ、陽太!こっちこっち!」

陽太は、藍のいつもの様子に驚いたが、そちらへと歩いた。

「藍、オレ、疑われてるんじゃないのか?」

藍が、顔をしかめた。

「なんで?陽太は別に変らないじゃないか。って言うか、あからさまなんだよ。陽太が狼だったとして、菜々子さんを噛んだらこうなる事は分かり切ってるんだからね。もし菜々子さんから黒が出たとしても、陽太なら跳ね返すことができたはずだ。真目が陽太の方が高かったしね。とはいえ、菜々子さんが噛まれたことから、菜々子さんの色は白。しかも、狐じゃなかった。つまりは、真か狂信者か背徳者ってことだなって今、話してたところなんだ。」

見ると、睦、大和、丞、永人、芙美子、郷がそこに居た。

残り13人の内、陽太を合わせて7人がここに居るのだから、結構な割り合いが集まっていた。

「でも…香織ちゃんの呪殺だとは考えないのか?」

陽太が言うと、丞が首を振った。

「そこは複雑なんだ。信じたいが、狼が他を噛んでいないことから噛み合わせて来たのか、護衛成功が出ているかのどちらかだ。ちなみに、護衛成功が出ていたら噛まれたのは陽太だ。」

陽太は、驚いた顔をした。つまり、昨夜狩人は陽太を守ってくれたのだ。

「じゃあ…オレ、今夜噛まれるんじゃ。」

連続護衛ができない。

だが、なぜか陽太はホッとした。それで、自分の真が証明されるなら、いいかもしれない。

芙美子が、言った。

「多分、違うと思うわ。」陽太がえ、と顔を上げると、芙美子は続けた。「多分それなら、今朝狼は護衛成功が出たことで、陽太さんを疑い位置へと持って行くことにしたはずだから。まだ、どちらを噛んだのか分からないわよ?でも、陽太さんが生き残ったのを見て、そう決めたはず。寛さんが狼だとしたら、自分に黒を打たれるのが分かっていたって事になるし、寛さんが今朝陽太さんを疑ったのと、同じ理由が寛さんにそのまま当てはまるってわけ。ただ、香織さんが呪殺を出せたとは思えないから…私達としては、やっぱり狼が、どういう意図なのか知らないけど、菜々子さんを噛んだんだと思うわ。」

陽太は、言った。

「つまり、みんなは香織さんは真ではないと?」

オレ目線でも、太成に黒を打ってるから、信じられないとは思うけど…。

睦が、言った。

「そこは意見が分かれるんだよね。」陽太が睦を見ると、睦は続けた。「香織さんの占い先はね、太成以外は全く怪しくないんだよね。芙美子さんは共有者だったし、律子さんはめちゃくちゃ白く死んで行った。太成は…やたらビビッてたじゃないか、前日に。覚えてる?」

陽太は、渋々頷く。確かにあんまりにも占われて黒が出たらと怯えていて、睦がしっかりしろと叱咤していた。

確かにあの時の太成は黒かった。

「…うん。覚えてるよ。あいつ、怖がりだから。でも、次の日には復活したんだ。オレが説得して。そんなんじゃ黒を打ったヤツの思うつぼだぞって。村の勝利のために死んだら、帰って来られるんだからがんばるって一生懸命で。あれから白くなったと思ってたんだけどな。」

睦は、顔をしかめた。

「みんなもそう言うんだよ。でも、オレはまだ信じ切ってない。太成には黒が出てるし、香織さんが真の可能性はまだある。菜々子さんを呪殺したかもしれないし。」

「本来良かった事なんだろうけど。」芙美子が顔をしかめた。「こうなって来ると、狼が噛み合わせて来たのかどうか分からないから、二死体出た方が良かったかもね。寝てるだけみたいだから、私でも良かったのに。」

郷が、それを聞いて言った。

「冗談でもそんなことを言うな。共有者は生き残るのが村のためだ。確定村人なんだからな。」と、丞を見た。「今13人で後6縄だ。昨日は恐らく村を吊ってる。克己と彩菜さんのうち、どっちかは人外だろう。この7人外の村で少なくとも2人外が吊れていて後6縄。まだ一縄余裕があるぞ。どうする?」

丞は、眉を寄せて皆を見た。

「…猫又の精査が必要だ。どっちかが必ず人外だ。ただ、真猫又を吊っちまったら誰かが道連れになる…どっちを信じるか、だ。」

陽太は、眉を寄せた。

どっちを信じるか。

自分は占っていないのでどちらが真なのか分からない。

どちらも白だったら、そもそもが占っても分からない。

どちらも、自分目線黒の寛の白先だ。

条件は同じ。

しかも、初日から寡黙位置で、ここへ来てやっと発言数が増えて来たのまで同じだ。

「…無理だろうけど。」陽太は、言った。「寛さんを、吊りたい。オレから見たら、寛さん以外は全部グレーで分からないんだよ。健さんと悠斗は、全く同じ条件で、オレ目線から見てどっちも怪しくて判断がつかない。菜々子さんが吊られた以上、占い師のローラーを、オレを含めても良いから始めて欲しい。噛まれた菜々子さんは、村目線真なんじゃないのか?だとしたら、三人の中に二人外だということになって、縄数が足りるんじゃ。」

占い師か…。

皆が、顔を見合わせた。

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