三日目昼
丞は、言った。
「郷さんは吊らない。」皆が丞を見る。丞は続けた。「藍、睦も吊らない。少なくとも今日は。誰かを信じなきゃ進まないから、今のところ怪しい動きも発言もない陽太をとりあえずの真置きして、残りの真占い師を探す形で今日は進める。明日以降は分からない。結果次第だと言っておく。一本指定だと噛み合わせが心配だが、今日は占い師の相互占いにする。寛さんは香織さん、香織さんは菜々子さん、陽太は寛さん、菜々子さんは陽太。これ以外を占ったと言っても聞かない。」
丞の、何かを覚悟したような顔に、皆は頷くしかなかった。
これで、狼がどこを噛むのか、明日の朝大きく事態が動くのは間違いなかった。
そのまま、朝の会議は終了し、昼はお互いに意見を出しあって自由にレストランなどで話し、7時に投票ルームに集まる事になり、皆は解散したのだった。
太成は、朝あれだけ憔悴していたのが嘘のようにケロッとして昼食をがっついていた。
陽太は、確かに自分が真占い師なものの、村にいざ真置きされるとかなりのプレッシャーを感じていた。
狼が、そんな陽太を噛もうとするのが見えて来て、落ち着かない。
噛めないとなれば、陥れようとしてくるのではと案じられた。
永人、大和、藍、睦がやって来た。
「よう。どうだ?なんか話し進んでる?」
永人が言う。
太成は、首を振った。
「ううん、飯食ってただけ。」と、陽太を見た。「陽太、しっかりしろよ。オレはお前を真占い師だと思ってる。他の奴らみたいにむきになったりしないし、怪しい行動の欠片もないのは一緒に居て知ってるから。」
それには、藍も頷いた。
「僕もそう思う。陽太はほんとに初日から白いよね。っていうか、他が黒いからなんだけど。」
陽太は、渋い顔をして言った。
「でも、確実にあの中にオレの相方が一人居るんだよ。それが誰かって言われたら、とにかく消去法で菜々子さんしか考えられない。でも、菜々子さんが相方っていう材料が全くなくて。」
睦が頷いた。
「白先だけだよね。材料っていうとさ。菜々子さんの占い結果は、ええっと…」
「…永人さん白、克己さん黒、大和さん白よ。」その声に振り返ると、律子が立っていた。「菜々子さんの占い先には、怪しいことは何もないわ。ただ、克己さんが黒だったかが分からないだけ。」
藍が、律子に場所を空けながら言った。
「え、克己さんって黒くなかった?」
律子は、息をついた。
「でも寛さんが克己さん黒が出た時に、自分から見ても黒がある位置だから、そこを先に吊ってもいいって発言しているの。その後も克己さんを庇う様子はなかったわ。初日に私が保さんと克己さんを庇ったと言ったから、保さんが霊媒に黒を打たれるのを知っていて、もう次の日からは完全に切ると決めていたのかも知れないけど…克己さんの孤立無援な感じは、とても哀れだったでしょ?克己さんが狼なら、前夜に切ると言われているはずなの。それに納得できていないからあの反応だったのかしら?」
大和が、うーんと唸った。
「そうだよなあ。郷さんも言ってた通り、どうせ吊られるのなら白く死んだ方が良かったんだ。だって、忠司を噛めるかもしれないんだしな。つまり寛さん狼だったら克己が狼っていうのは、怪しいかもしれない。」
永人が言った。
「寛さんが真だとしても、克己はどっちか分からないよな。でも、知ってたからこそ彩菜さんに黒を出して二択にしたのかも知れないぞ?そうすることで、必ず村は悩むんだ。仮に彩菜さんが白だったとしたら、寛さんはその日彩菜さんを吊られたら、霊媒が噛めなかった時に破綻する。だったら克己を吊り推しておいて、そっちに黒が出た方がいいと考えたのかもしれない。霊媒は、その夜噛めなくても次の日必ず噛めるから。そこで彩菜さんを吊れば、自分は破綻せずにいられる。」
陽太は、そうだ、と思った。
克己が黒なら、彩菜は白だろう。
その結果を見られたら、寛は破綻するからこそ、確実に霊媒が居なくなると分かっている次の日に吊る形に持って行ったとも考えられた。
「…ってことは、やっぱり寛さんが怪しいってこと?」睦が言う。「でもさ、それなら噛めたんだしメモ帳なんか置かなくても良かったんじゃない?それがあるからみんな寛さんが怪しいって思ったんだし、噛めなかった時はそもそもメモ帳なんか無意味だよ。忠司が証言するもんね。」
律子は、考え込む顔をした。
「…どうかな。私はダメ押ししようとして失敗したのだと思うのよ。」皆が、驚いた顔をする。律子は続けた。「あのままでは、霊媒が噛まれて結果は落ちないので引き続き寛さんはどちらか分からなかったわ。でも、メモ帳があったことで結果が落ちて、皆一気に真かもしれない、となったわね。とりあえず置いておこう、って感じで。狼だとしたら、焦っているのかも知れないわ。でも…あまりにあからさまというか、愚かな行為だから…あの人のことを良く知っているわけではないから、そんなことをするだろうかとも思うのよ。狼か狐がわざと陥れようとしているかと言われたら、確かにそう。」
表推理では寛がどこまでも怪しい。
だが、確かに裏推理ではそこまでやるだろうかと思ってしまう。
「…香織さんが何なのかだ。」陽太が、言った。「占って白なら確実に狂信者かなって思うんだ。だって寛さんを庇うような感じだし、寛さんの白の悠斗と仲が良いからもしかして悠斗もまとめて人外かってさ。でも、律子さんが言うように、香織さんは悠斗をめんどくさそうにしてたんだよね。今朝は一緒に居たけど。今朝繋がったとかかな?」
藍が言った。
「それはおかしいよ。だって狂信者は誰が狼なのか知ってるんだよ?彩菜さんが居たから、言えなかったとかかな?…いや、違うと思う。たまたま悠斗が狼で香織さんが狂信者なんて、そんな悠斗にとって都合の良いことあると思う?」
「でも、それなら狂信者はどこ?」律子が言う。「香織さんが狂信者だったら狐の位置が分からなくなるし、狐だったら狂信者はどこかってなるわ。真なら…菜々子さんがキーパーソンになるけど、菜々子さんからの情報が占い結果以外落ちないわ。」
陽太は、頷いた。
「やっぱり、菜々子さんにたくさん話してもらった方がいいかも。オレもあの二人が派手に他とやり合うから、菜々子さんと話す事ができてないし。」
広いレストランの中で菜々子を探して見回すと、菜々子は芙美子と郷と丞と一緒に、何か話しているのが見えた。
どうやら共有者は、先に答えを見つけたようで、菜々子の話を聞きに行っているようだ。
「行きましょう。」律子は言った。「菜々子さんの話を聞かないと。」
そこに居た陽太、藍、太成、睦、大和、永人、律子の7人は、菜々子達のもとへと急いだ。
菜々子は、芙美子に言っていた。
「陽太さんが真かもしれないのは私もそうかもと思っているから分かるけど、私目線ではほんとに誰が相方なのか分からないのよ。」菜々子は困ったように顔をしかめていた。「寛さんは確かに怪しいわ。でも、積極的に香織さんを占うと言っているし、呪殺が出せると自信があるようにも見えるの。メモ帳の事件も、置いてあった可能性もあるし、誰かが陥れようとしているとも取れる。そもそもあまりにもみんなが陽太さんを疑わないから、逆に怪しいとも思い始めているぐらいよ。だって、仮に狼と狂信者が占い騙りしていたとして、あんなにあからさまにラインを繋ぐかしら?私なら初日から切ると思うわ。だって、意味がないもの。どちらかが疑われたらこうしてみんな疑われる事になるのよ?」
芙美子が、顔をしかめている。
大和が、声を掛けた。
「オレ達も菜々子さんの話が聞きたいと思って。どう?」
丞が、言った。
「今聞いた通りだよ。まだ誰が相方なのか分からないと。でも、菜々子さんが言うことも分かるんだ。陽太があまりにも蚊帳の外だから、確かになあとも。何しろ真置きされている占い師なんだから、人外から陥れられてもおかしくないのに、そんな動きもない。寛さんが陥れられているかと言われたら、確かにそうなんだよ。あまりにも出来すぎているように思えて。」
そう、違和感はそこなのだ。
あまりにもすんなりと繋がり過ぎているのだ。
「…ねえ、逆ってことはない?」菜々子が言う。「香織さんは人外でも黒ではないってみんな言うけど、もしかしたら狼で、寛さんが狂信者なんじゃ。狐はどこかに潜伏していて、まだ真占い師に占われていないとか。だから、寛さんは香織さんを占うとか言い出したのかも。だとしたらしっくり来るのよ。」
藍が言った。
「それって、つまり寛さんも偽物ってことだよね。君は今、陽太が逆に怪しいとか言ってなかった?」
菜々子は、困ったように言った。
「だって、本当に分からないのよ。みんながあの二人を人外だと思うなら、そういう内訳もあるんじゃないかと言っただけ。でも悠斗さんは分からないわ。なんか香織さんに利用されてるようにも見えるの…だって、話し掛けられても昨日は無視していたのに、今朝から人が変わったみたいに一緒に居るのよ。おかしくない?悠斗さんを味方につけたいから、擦りよったんじゃないかなって。それで、ああして香織さんに合わせて話しているようにも見える。悠斗さん、異常なほど香織さんに執着してるみたいなんだもの。盲信しててもおかしくないわ。」
丞は、息をついた。
「悠斗は…さっき話して来た。」皆が驚いた顔をする。丞は続けた。「あいつは、村だ。話を聞いてそう確信したが、でも香織さんに思い入れが強くて何を言っても聞く耳を持たないんだ。だから、その点では菜々子さんの言う通りだと思う。」
藍が、眉を寄せた。
「何をもって悠斗が村人だって思ったの?」
丞は、首を振った。
「それは言えない。今はまだ、な。ただ、夜の会議でいろいろ覚悟を決めて聞いて行かないといけないとは思ってる。例えば他の潜伏している村役職とか…狩人は知ってるが、猫又はまだ生きてるし、もう狼が噛むのは望めないかもしれないから、そこも出してグレーを詰めて行きたいじゃないか。今日はグレー投票だしな。」
それはそうだけど。
皆は思ったが、猫又は噛まれてやっと役に立つ役職だ。
出してしまうと確かにグレーは詰まるが、今はまだ早いような気もする。
菜々子と話して解決策が見えるはずが、更に訳が分からなくなって、村人達は混乱したのだった。




