三日目朝の会議
食事を終えて船首のラウンジへと座って待っていると、続々と皆が入って来て、無言でそこらの椅子へと座って行った。
陽太は、今日の進行はどうなるのだろうと気になりながら待っていると、丞が入って来て、言った。
「お待たせ。じゃあ、始めようか。」と、ノートを出した。「いろいろ考えて来たんだ。今日の結果をおさらいしておこう。陽太が郷さん白、菜々子さんが大和白、寛さんが健さん白、香織さんが太成黒、だったよね。昨日は寛さんと菜々子さんの黒を吊った事になってしまったから、本来今日は太成を吊るんだろうけど、考えたらもう、少なくとも保と彩菜さんは黒だと出てしまっている。だから、もし克己が黒だったら、太成が狼だった時は狐勝ちになってしまうんだ。これからは、黒結果が出ても、しっかり精査して選んで行くことになるだろう。何しろ、全員のグレーはまだたくさん残っている。で、選択肢は二つ。占い師を吊り始めながら、引き続き残った自分のグレーを占わせるか、グレーを吊って占い師同士の相互占いをするか。」
芙美子が言った。
「グレーを吊るのは、もし黒に当たった時が怖いわ。とはいえ、私の考えでは、克己さんと彩菜さんの二人が黒だったとは思えないの。どちらかが白だったんじゃないかって考えてるわ。つまり、彩菜さんが黒だったんだから、克己さんが白だったかもって事ね。それから、彩菜さんが黒だったからって寛さんが真だとはまだ思っていない。まだ占い師を決め打ちできるほどの情報も落ちていないし…どうしましょうか。」
藍が言った。
「狼は、ラストウルフなら言うべきだよ。」と、皆を見た。「だって、それで負けるんだからね。もちろん、もしかしたらそれがラストじゃない可能性もあるけど、村目線でも狼目線でも、もう狐だけは処理しておきたいはずだ。もし黒が当たって本当に黒なら、必ず出て欲しい。残り二人だとしてもね。」
寛が、頷いた。
「確かにその通りだ。それで黒なら占い師の真贋だってつけやすくなるだろう。出るなら今だぞ?太成は、黒じゃないのか。」
太成は、落ち着いた様子で首を振った。
「違うよ。オレが黒なら、今出たと思う。だって飼い狼になるわけだろ?狐が処理されるまで、処刑されないんだ。でも、違うから後何匹なのかも知らないし、オレ目線香織さんが偽物だから、吊るなら香織さんから吊って欲しい。狐の可能性もあるしね。もちろん、もしオレとのローラーにしたいって言うなら飲むよ。だって、それで村目線スッキリするでしょ?まだ縄に余裕があるから、オレを吊っても余裕があるはずだ。香織さんがオレ目線じゃ確定人外だから、香織さんを吊ってくれるならいいよ。それで村目線で三人外が確定で落ちるんだろ?」
覚悟を決めた太成はとても白い。
陽太は、思った。
「…そうだな、村目線でも両方、もしくは片方が確定で人外なんだよね。」睦が言う。「ローラー掛けても必ず占い師の中に真占い師は残るんだ。その中から一人が呪殺を出せば、その人の真が確定するし一気に狼位置が透けて来るはずだよね。どうする?」
丞がうーんと唸った。
「そうだなあ…確かにいい考えだよな。」
だが、香織が言った。
「そんな!私は真占い師なのに、どうして狼と一緒に吊られなきゃならないの?そんなのおかしいわ!」
芙美子が、言った。
「…とにかく、今は太成さん以外は誰にも黒が刺さっていないわ。だから、太成さんは残して、他のグレーから精査して行くのがいいとは思うわね。どの占い師が怪しいかと言われたら…分からない。私は寛さんが一番怪しいと思っていたのよ。なぜなら彩菜さんが黒に見えなかったから。でも、霊媒結果は黒。だから、分からなくなってしまって。」
すると、じっと聞いていた、律子が言った。
「…私も、初日からの動きを見ていても彩菜さんが黒には見えなかったわ。彩菜さんの発言は、確定黒の保さんを庇うものでは絶対になかった。まだ怪しまれる前の時点でもね。あの子が怪しまれたのは、占い師の中に居るかもしれない狐を庇うような発言だった。あの結果は、本当に忠司さんが書いた物だったの?」
言われて、皆が息を飲んだ。
そんなことは、考えてもいなかったのだ。
「でも…全員で確認した。みんなで部屋に入って、そこで見つけたんだ。」
律子は、いつものおっとりとした様子とは全く違う目で丞を見た。
「いいえ。誰かと一緒に見つけたのではないわ。全員がベッドの上の忠司さんを見ていて、テーブルには背を向けていた。見つけたのは、寛さんよ。」と、寛を見た。「誰かと一緒にそれを見つけたの?」
寛は、答えた。
「みんな忠司のことばかりだから、オレはどこかに結果がないかと見渡したんだ。そこで見つけた。テーブルの上にあった。見つけてすぐに報告したぞ。」
律子は、それでも言った。
「それを証明してくれる人は居る?」
寛は、首を振った。
「それは居ないが、みんな忠司のことばかりだったから仕方がないじゃないか。オレを疑うのか?」
律子は、頷いた。
「彩菜さん黒に納得が行かないからよ。黒結果は、あなたにとても有利なもの。それをあなたが見つけた。他に誰もそれが最初からそこにあったと証明できない。となると、どこまでも疑いたくなるのは仕方がないことだわ。」
律子の言うことは、間違っていなかった。
疑ってもいなかったが、確かに寛に有利な結果を、寛が見つけたという事実は怪しいのかもしれない。
まして皆が忠司に必死で背を向けている時に、後ろで何をしていても誰にも分からないからだ。
「…そうだよな。」藍が、言った。「そもそも、人外がその日噛む意味が失くなるんだよ。本来、ゲームで噛まれたら結果は落とせないだろ?それを残して行けるって、完全村有利になってしまう。」
郷が、言った。
「…みんな混乱するから言わずにおこうかと思ってたんだが。」皆が、郷を見た。郷は続けた。「芙美子と二人で、忠司のとこにここへ来る前に寄って来たんだ。前の日の夜あいつがみんな洗濯してるのに、自分はそもそも実家住みで洗濯したことないからって芙美子に相談してきて。風呂場で洗えって教えて、まあ、一緒に洗濯してやって、バルコニーに干したわけだ。それを思い出して、取り入れといてやろうって見に行ったら…忠司は居るけど、洗濯はなかった。」
え、と皆が目を丸くした。
「それは…忠司が夜に取り込んだとか?」
「だから干したばっかりだぞ?」と、郷は言った。「どういうことだと悪いと思ったが芙美子と二人で、クローゼットの中も見たが、あいつの荷物は全部なかった。風呂場も、夜あれだけすったもんだやったのに綺麗に掃除されてて、トイレットペーパーも綺麗に端を折ってあった。忠司が折るか?」
片付けられてあった。
それはつまり…。
芙美子が、言った。
「…メモ帳は残してあったんだと思ったの。でも今の律子さんの話を聞くと、もしかしたら…寛さんが持ち込んだってこと?」
襲撃を受けたら、どこかに荷物は持ち去られるのだ。
恐らくは、別の次に移動されるどこかに。
トイレも清掃され、風呂場も清掃されてある。
なのに、メモ帳だけ残すだろうか。
皆の目が、一気に不信感をもって寛へと向いた。
昨日の黒結果が、にわかに信じられなくなって来る。
寛は、律子を睨んだ。
「…君は初日からオレを目の仇にしてるじゃないか。オレは見つけただけだ。その結果の方が都合が良いとか、そんな事はオレ目線では関係ない。それよりも、オレにそんな風に塗ろうと細工したヤツが居るんじゃないかってオレは思う。君は、初日から村置きされてるが、本当に白か?そういえば、昨日は占い位置でもないのに香織さんに占われていたな。もしかして、囲わせたのか?狐陣営なんじゃないのか。」
律子は、寛を睨んだ。
「狐と断定して言うという事は、あなたは狼?自分の敵は狐ってことね?」
寛は、ぐ、と黙った。
律子は、フフと笑った。
「…いいわ。占い師は今日は、グレーを占ったら良いのではないかしら。それから、この中には必ず二人の真占い師が居るのだから、最悪でも一人は生き残ってくれるわ。占い師から投票しましょう。一番偽物だと思う占い師に投票するの。残った三人がそれぞれ自分のグレーの中の誰かを占うって形でどうかしら。」
なぜ笑うのだろう。
陽太は、なぜか薄ら寒いものを感じた。
律子の頭の中では、どんな考えが巡っているのだろうか。
丞は、戸惑いながら言った。
「その…占い師から吊る?律子さんには、どう見えてるんですか。」
律子は、頷いた。
「私はついさっきまで、占い師の真贋はハッキリとは分かっていなかったわ。フィーリングでしかなかったの。だから、どうしたら良いのか分からなかった。でも、今寛さんの話を聞いて、寛さんは真ではないと思ったわ。これは私の考えだから、あなた方がどう判断するのかは任せるわ。村の決定には従う。ただ、私は寛さんが偽だと思うし、彩菜さんは人外だったとしても白だったと思うし、克己さんが黒だったと考えるので、菜々子さんは真目があると考える。陽太さんと香織さんの二人は、まだ分からないけれど…占い先や理由を考えても、陽太さんの方が真目が高い。そんな風に見ているとだけ落としておくわ。」
寛と律子が対立位置になった。
ただ、律子は別にこんな風に強く出る必要はなかった。
何しろ、皆に白いと白置きされていたし、今この時に目立つ行動をして、吊らたり噛まれたりしたら、人外なら本末転倒だ。
黙って推移を見守っていれば、お互いに殺し合って消えていくのだから、適当にそれらしい意見さえ落としていたら良かった位置だった。
なのに、はっきりと寛が偽物だと言った。
寛が言う通り、もし律子が狐ならば、絶対に逆らわずに場に流されていた方が良い盤面だったのだ。
陽太は、もし占い師の決め打ちになるのなら、自分は誰に投票しようかと他の占い師達を盗み見た。
頑張っている太成を白だと信じてたいので、黒を打った香織か、律子の白を信じるのなら寛…。
菜々子は、確かに克己に黒を出しているので、狼はなさそうだった。
丞が更に悩み出したのを見て、陽太は深いため息をついたのだった。




