三日目朝
8階へと上がって行くと、もうみんなが端の方の部屋の前に集まって、中を見ていた。
健が、言った。
「今、睦と大和が見に行ってくれてて。律子さんも、一緒に入って行った。」
陽太たちは、急いで丞に追いついて来て、息を上げながら、言った。
「健さん、誰だったんですか?」
健は、深刻な顔をした。
「忠司だ。」え、と陽太も皆も驚いた顔をする。「あの部屋は19なんだよ。」
丞は、険しい顔をした。
陽太は、丞を見た。
「丞さん…だって、昨日守れるって言ったじゃないか。」
丞は、眉を寄せながら言った。
「…ああ言うことで、噛みを抑制できるかと思ったんだ。実はあの夜、狼との二択に負けて、狩人は忠司を守っていた。だから愛美さんは噛まれた。昨日は、だから忠司を守れなかったんだ。皆が思っていた通りだ。だが、そう言ってしまうと絶対に忠司が噛まれてしまうだろう。だから、ああ言った。なのに狼は一か八かに賭けて噛んで来た。よっぽど霊媒が邪魔だったんだろう。これをどう捉えるかだ…寛さんが狼で彩菜さんが白だったのか、それとも彩菜さんが黒だから寛さんが真占い師と置かれるのが面倒だったから噛んだのか。」
どっちなのだろう。
もう、確定霊媒師二人が死んでしまった今、初日の保の黒しか分からなかった。
「…とにかく、中へ行ってみようよ。」藍が言う。「忠司は、ほんとに死んでるのか、確認しないと。」
皆で、ぞろぞろと19の部屋へと入って行くと、大和と睦、律子がベッドの脇で、横を向いて丸まって布団で寝ている、忠司を見つめていた。
皆が入って来たのを見て、大和が言った。
「ああ…死んでる。というか、昨日の愛美ちゃんと一緒だ。死にたてホヤホヤ。でも冷たい。」
「凍死でもしてるのかな。」藍が顔をしかめて言った。「冷たいってさあ。」
律子が、言った。
「そこまで冷たいわけではないの。とにかく、亡くなってるわ。硬直だってしてないわ。」
皆が、暗い顔をする。
昨日の結果は重要だったのに、失われてしまったのだ。
すると、皆の輪の後ろでソファの前のテーブルを見ていた寛が、言った。
「…ここに結果が書いてあるぞ。」
陽太は、そうだ、と思った。
自分もせっせと結果をメモしているのだから、霊媒師も同じ事をしていてもおかしくはない。
見ると、そこに8番は黒、と書かれてあった。
「…やった!色が分かった!」と、丞は言った。「彩菜さんは黒だったんだ。」
だが、香織が首を振った。
「そんなはずない!彩菜さんは私は人狼じゃないってずっと私に言っていたもの!昨日占ったわ…太成さんが黒だった!彩菜さんは違うわ!」
太成が、え、と香織を見た。
そして、真っ青な顔をした。
「え…オレが黒だって?!違う!オレは村人だ!そんなはずない!」
丞が、言った。
「…もう、結果を聞いとくか。陽太は?」
陽太は、困惑しながら答えた。
「郷さんが白。」
丞は頷いた。
「寛さんは?」
寛は答えた。
「健が白。私から見たら人狼はどこかに囲われてるな。」
丞は、頷いた。
「次、菜々子さん。」
菜々子は答えた。
「大和さん白。私目線でもそうよ。もうこれで完全グレーが居なくなったんだから、そういうことでしょう?」
丞が、言った。
「とにかく、彩菜さんが黒だったことは分かった。寛さんが一応、人外だったとしても狼陣営じゃないことが分かったってことになるな。初日に保を失ってる狼が、仲間を売るとは思えない。」と、息をついて動かない忠司を見た。「忠司に感謝だな。書き残してくれたから、情報は落ちた。とにかく着替えて船首ラウンジへ行こう。昨日と同じ、8時に集まるってことで。」
全員が、頷く。
だが、昨日愛美を見つけた時のような悲壮感はない。
陽太は忠司の部屋を後にしながら、絶対勝つからなと心の中で告げていた。
着替えて悠斗の部屋を一応覗いたが、悠斗はもうそこには居なかった。次に太成の部屋を訪ねると、太成は布団にくるまって震えていた。
陽太は、あれだけ怖がっていたことが現実になってしまった太成に同情して、言った。
「太成。朝飯は?」
太成は、震える声で答えた。
「オレ、白なのに。」太成は、ガクガクと震えたまま、陽太を見た。「香織ちゃんは偽物だよ!陽太、分かってくれ!もう忠司さんも死んで証明することもできないよ!オレを占ってくれたら分かる!でも…多分、今夜はオレが吊られるんだ!」
陽太は、息をついた。
確かにこのままなら太成が吊られる未来しか見えない。
だが、もう二人の黒が吊られている上、克己の色が分からない今、簡単には黒を吊れないのではないだろうか。
もし克己も黒だったら、ラストウルフかもしれないからだ。
なので、陽太は言った。
「…多分、君は残されるよ。」え、と太成が布団から顔を覗かせると、陽太は続けた。「だって、もう黒が二人吊れてるんだ。克己の色が分からないから、狐が居るこの村では簡単には狼を吊れないんだよ。狐が呪殺されるまで、黒結果が出た先を吊らずに飼う可能性がある。だから大丈夫だと思う。ただ…寛さんの黒先が黒だったことから、真目が上がってる。菜々子ちゃんか香織ちゃん、それにオレが怪しい位置にされるかもしれない。君に黒が出たことで、一気に村は狐探し一択になるんだ。」
太成は、そろそろと起き上がった。
陽太の言う通りだったからだ。
「…じゃあ、オレは飼い狼になるのか?」
陽太は、頷いた。
「多分。ここからは絶対誰かの白先に黒が出るから、白黒バンダが増えて来る。君だけじゃないってことだよ。君が白なら、オレでなくてももう一人の真占い師は必ず白を出すはずだからな。だから、本当に白ならしっかりしろ。オレが君に白を出して、君が見るからに怪しかったらオレだって吊られることになるんだぞ?」
つまり、村は占い師の決め打ちを迫られることになってくる。
白先が黒いと、それを出した占い師諸とも吊られてしまうと陽太は言っているのだ。
太成は、しっかりした顔つきになって、言った。
「…分かった。もう怖がるのはやめる。オレは白だ。だから陽太に迷惑は掛けない。必ず村に信じてもらうようにする。」
陽太は、頷いた。
「そうだよ、堂々としてろ。香織ちゃんが偽だ、オレは白だって。」
太成はベッドから降りると、頷いた。
「分かった。飯に行こう。オレは白なんだ、あいつが偽占い師なんだから、怖がる必要なんかないんだ!」
太成は、覚悟を決めたのか、顔付きが変わった。
怖がってばかりでは吊られてしまい、結局理不尽な黒打ちに負けてしまう事になる、と、自覚したのかもしれない。
どうせ死ぬのなら、村を勝利に導くための死でないと意味がない。
そうしないと、自分が戻って来れないからだ。
それどころか、負けたら生き残っていても死ぬかもしれないのだ。
そう思うと、死ぬことで村が勝つのなら、それでもいいと思うようになった。
それは、陽太も同じだったので、太成に共感して、本当に太成は白なんだろうと、信じたい気持ちになっていたのだった。
レストランへと降りて行くと、藍と睦が、大和と永人、丞と一緒にパンと食べているところだった。
「あ」藍が立ち上がって手を振った。「こっちこっち!二人とも、遅かったね。来ると思ってパンとコーヒー持って来ておいたよ。」
陽太は、隣りで少し強張った顔をしていた太成が、藍の普段と変わらない様子にホッとしたのを感じた。
「持って来てくれたのか。」陽太は、言って藍に寄って行った。「腹減ったなって思ってて。今日も焼き立て?」
睦が、頷く。
「うん、焼き立てだよー。ほら、ここ座って。」と、太成を見た。「太成も。」
太成は頷いて、そこへ座った。
「ありがとう。もう腹ぺこぺこだ。」
座ってパンをがっつき始める太成を見て、丞と永人が顔を見合わせてから、言った。
「…黒出されたのに、大丈夫なのか?」
昨日はあれだけ黒を打たれたらと心配していたのに。
太成は、言った。
「いや、考え直したんだよ。だって、思ったら自分目線、香織ちゃんが偽物だって分かるんだから、村に意見も落としやすくなるなって。みんなから見たらオレは怪しいのかもしれないけど、陽太と話してて…オレ目線でしか見えないことを、みんなに話して行けば、死んだって復活するだろ?克己さんみたいな死に方したら、みんな混乱してわけわからないし、意味ないじゃん。オレ、しっかり考えるよ。香織ちゃんは偽もの。だからって、狐か狼かどっちの陣営かなんてオレには分からないけど、それでも偽なんだから。しっかり考えるよ。そのためには、しっかり食べておかないと。」
それを聞いて、藍は感心したような顔をした。
「そうだよ。よく気が付いたよね。その通りなんだ。僕だって、もし黒を打たれたらできる限り自分の考えを落として、村に勝ってもらおうって思ってたから。でもさ、多分今夜は太成じゃないと思うよ。」
太成が、パンを食べながら顔を上げた。
「…狐か?」
藍が、頷く。
「分かってるじゃないか。そうだよ、狐だ。だって、初日の保が黒、昨日の彩菜さんも黒ってなったら、克己の色次第じゃ、もし君が黒だったら、吊ったら狐勝ちになって終わる可能性があるだろ?だから、君や狐が確実に処理されたと分かってからでないと吊られないと思う。その頃には、他の占い師から君に黒だか白だかが出てるだろうし、僕だってもしかしたら黒を打たれてるかもしれない。そこら中に君と同じ状況の人たちが現れて来て、どの占い師を信じるってことになって来ると思うんだ。運が良かったら、呪殺が出てて村目線でも分かるかとも思うんだけどね。」
陽太は、やっぱりそうなるか、と険しい顔をした。
これは、占い師同士の相互占いも考えておかないといけない。
ここまで来たら、人外の方が俄然少ないのでどこを吊ったらいいのか、悩むところだ。
普通に考えたら、占い師の誰かを吊って、その中で相互占いをさせ、結果で考えるというのもありかもしれない。
何しろ占い師の中に人外が二人居る。二分の一でそれに当たるのだから、もしかしたら丞は、それを進めるのかもしれない。
陽太は、どうにかして呪殺を出したいと、心底思っていた。
今日、吊られなかったらということなのだが。




