二日目の投票
結局、それから大人数で集まって冷凍食品を解凍し、夜ご飯を済ませる間、芙美子と律子は、好みのタイプがどうのと楽し気に話していた。
一緒に楽しんでいるというよりも、芙美子がはしゃいで聞くのに律子が仕方なく答えているという感じだったが、和やかに場は過ぎて行った。
その後、男性陣は集まって、8階の克己の、20の部屋へと踏み込んだ。
「ええ?!」
克己は、部屋でぐったりとベッドに横になっていたのだが、慌てて起き上がった。
だが、朝からここへ籠って何も食べていないからか、フラっとふら付いて郷がその腕を掴む。
「おい。投票に来なきゃだめだ。みんなで連れに来たんだ。」
克己は、じたばたと足を動かした。
「嫌だ!オレを吊るんだろうが!絶対行かないからな!あんなところで落ちて行きたくないんだ!」
郷は、それを後ろから羽交い絞めにしながら、言った。
「ほら、今のうちだ。」
頷いた大和と永人が、両側から克己の足を押さえつける。
暴れて蹴られるので、なかなか押さえられずにいると、郷はブンと克己を持ち上げて振り回すと、あっという間にベッドの上に一本背負いした。
落ちた克己が目を白黒させている間に、ひっくり返してうつ伏せにした郷が、その背に乗って半分振り返って、言う。
「ほら!早くしろ!」
大和と永人はあちこち蹴られて痛めていたのだが、慌ててその足を押さえた。
そこへ、睦がロープを手に寄って行ってその足首をぐるぐると巻いて締め上げた。
「…ここのバルコニーから、ロープ持って来て!二本あるはずだから!」
言われて、茫然としていた陽太が走って行って窓を開いた。
そこには、確かに丸めてある洗濯ロープが置いてあり、克己も洗濯はしていないようだった。
それを引っ掴んで持って来ると、藍がそれを手にして今度は太もも辺りをぐるぐると巻いた。
「うわああああ!!人殺し!人殺しだ!」
郷が、克己の背中に乗ったまま、フンと鼻を鳴らした。
「今さらだぞ。お前が死ぬのは勝手だが、しっかり投票ルームで死んでもらわなきゃな。」
克己が、それを聞いてゼエゼエと息を上げながら、言った。
「どういうことだ?!」
郷は、言った。
「このままじゃどうせお前はルール違反で追放になるの。ルールブック読んでねぇのか。お前さあ、もし黒なら、白く死んでやれよ。狼が勝てなくなるぞ?占い師が4人も居るんだから、絶対どっかに黒出るの。偶然黒だったのか、それとも白だったのか知らねぇが、愛美ちゃんが死んだ時藍が言ってたじゃねぇか。勝利陣営は帰って来られるんだろ。どうせこの中のほとんどが死ぬ。だったら、お前は自分の陣営勝利を助けて死ぬのが一番いい方法だぞ?まあ、もう印象最悪だがな。」
克己は、ぶるぶる震えていたが、叫んだ。
「嫌だ!絶対に行かないからな!」と、腕も前に縛って運び出そうとしていると、克己はエビのように暴れた。「嫌だ!」
「おい、暴れたら逆に危な…、」
郷がそこまで言った時、克己はベッドから転がり落ちて、脇のサイドテーブルでガツンと頭を打った。
「あ!」
皆が叫ぶ。
克己は、自分が暴れた勢いも手伝って勢い良く頭を打ち付けたようで、そのまま気を失って動かなくなった。
「あーあ。」藍が言う。「大丈夫?死んでないよね?」
郷が、顔を覗き込んだ。
「おお、生きてるぞ。でも、大きなコブになってるな。だから言ったのに。」
睦が、ため息をついた。
「でもまあ、これで運びやすくなったよね。」と、陽太達を見た。「運ぼうか。」
寛や健は、呆然と見ている。
陽太は、隣りの太成に頷き掛けて、そうして皆で手分けして克己を持ち上げ、階下へと運び出して行ったのだった。
投票ルームでは、女性達がやきもきしながら待っていた。
思ったより時間がかかっているようで、7時半を過ぎたのにまだ来ない。
芙美子が、気遣わしげに言った。
「…やっぱり暴れてるのかな。」と、立ち上がった。「ちょっと見て来た方がいい?」
律子が、首を振った。
「あれだけの数の男性達が行ってるのだから、私達が行っても足手まといになるわ。ここで待っていましょう。」
芙美子は頷いたが、まだ心配そうだった。
すると、廊下から何やら騒がしい声がして、開いたままの扉から、克己を担いだ一団が入って来た。
克己は、ぐったりとしていて身動きしない。
それでも皆、大儀そうに克己を運んで来ると、さっさと陽太の隣りの椅子に座らせた。
その上で、また洗濯ロープを取り出すと、ぐるぐると椅子に巻き付けて克己を固定し、身動き取れないようにした。
「…暴れたから落ちて頭を打ってね。」丞が息を上げながら言った。「気を失ったからその間にここに連れて来た。意識が戻ったらまた暴れるだろうし。」
女性達は、ドン引きしながらも頷く。
克己は、強制的に椅子に座らされている形になっていた。
大和が、椅子に座って言った。
「それで、時間は?うわ、ギリギリだな。」
今は、7時45分だ。
確かにギリギリ間に合った感じだった。
「暴れやがったからなあ。なかなか縛れなくて。とにかく間に合ったんだから良しとしよう。」
皆が頷いて、急いで腕輪を開いて準備をした。
投票だけはしないと、せっかく克己も連れて来たのに全てが無駄になってしまう。
「投票はどうするの?」菜々子が言った。「気を失ってたら入力できないわ。」
陽太が、言った。
「オレ隣りだから自分のを入力したら克己のも適当に入力するよ。それで大丈夫だと思うけど。」
とはいえ、克己の左腕に巻かれてある腕輪は陽太とはは反対側だ。
向こう側の隣りの忠司が言った。
「オレのが腕輪が近いから、オレがやるよ。」と、克己の腕輪のカバーを開いた。「適当に打ち込むから、打ちやすいとこにするな。どうせそいつは吊られないし。」
皆が、頷く。
ここは全員が克己で一致しているので、どこに投票しようと問題はなかった。
『投票、5分前です。』
来た!
陽太が思って構えると、その声にびくりと克己が目を開いた。
ヤバい…!
皆が思ったが、今さらまた殴って気絶させるわけにも行かない。
慌てる皆の前で、克己は自分が椅子にがんじがらめになっているのを知って、叫び声を上げ始めた。
「やりやがったな!!」克己は、口から泡を吹いて暴れた。「離せ!やめろ、この人殺し!」
隣りの、忠司が必死に言った。
「お前、しっかりしろ!どうせルール違反で死ぬって言っただろ!あのままじゃお前は追放になってたんだぞ?!ちゃんと投票しろよ!」
投票したところで、克己が追放されるのは変わりない。
克己はひたすら身をよじって暴れまくった。
「うるさい!!オレは生き残るんだ!なんでお前らのためにオレが死ななきゃならないんだよ!あの女…」と、菜々子をギロッと睨んだ。「あの女のせいだ!あの女が自分の保身のためにオレを殺そうとしてるんだよ!」
菜々子は、怯えて身を縮めている。
隣りの芙美子が、それを庇うように見ながら、言った。
「あんたね!それじゃあ黒だって言ってるようなもんよ!あんた黒なんでしょ?!菜々子さんに当てられて恨むんじゃないわよ!」
だが、克己は目を血走らせて喚いた。
「うるさい!オレは白だ!そいつが嘘なんか吐くからオレがこんな目に合うんだ!」
『投票してください。』
声が言う。
陽太は、急いで自分の投票先、20を打ち込んで0を三回押した。その後、克己の方を見ると、忠司が必死に克己の腕の腕輪を掴もうとするのだが、あまりにも克己が暴れるので手がぶれてしまってつかめない。
「オレが押さえる!」陽太が、手を貸した。「ほら、早く!」
だが、やっと腕を掴んだものの、細かいテンキーを押す手が、克己の暴れっぷりが激し過ぎて上手く押せない。
番号はどれでも良かったが、最後の0三回がうまくいかないのだ。
「クソ…!早くしろ!」
郷が、焦れて克己を押さえつける。
だが、その時克己は、いきなりスイッチが切れたようにピタリと動かなくなり、だらんと頭を前に落として、脱力した。
「え…!!」
郷は、慌てて手を放した。
「オレは何もしてないぞ!」
腕輪に入力しようとしていた、克己が声を上げた。
「ああ…っ!液晶に『ルール違反のために追放されました』って出てる!」
間に合わなかったか。
モニターには、パパパと投票先が出たが、次の瞬間、パッと全ての結果が消えて、声が言った。
『…№20は、ルール違反により追放されました。投票してください。』
「え…?」藍が、呟くように言う。「どういうこと…?」
「克己はルール違反で追放だから、投票できないってことだ!」丞が、叫んだ。「駄目だ、ルール違反になるぞ!とにかく怪しい位置、どこでもいいから今すぐ入れろ!」
「郷さん、戻って!」
芙美子が叫んでいる。
もう、みんな必死であちこち気遣っていられない中、郷が必死に戻って自分の席へと飛び込むと、腕輪を睨んでいるのが見える。
どこへ入れたらいいんだ…?!
普通に考えたら、彩菜だ。
次の黒が、彩菜だったからだ。
ええっと、彩菜ちゃんは8…!
陽太は、8を打ち込んで、0を三回押した。
やっとの事で投票し終えた皆がモニターを見上げると、モニターが言った。
『投票が終わりました。結果を表示します。』
全員が、固唾を飲んでいる。
どこが吊られるのか、全く予想がつかなかった。




