夜行動と二日目の朝
陽太は、太成と共にキッチンに水を取りに向かい、そのままむっつりと黙ったまま部屋へと歩いた。
太成は、まだ保の追放の場面がフラッシュバックするようで、顔色が悪い。
陽太は追放だけは疑われない限りなさそうだったが、太成は違うのだ。
太成は、扉の前まで来てから、言った。
「なあ、香織ちゃんは本物だと思うか?」陽太がそちらを向くと、太成は続けた。「オレ、陽太に占われたかった。香織ちゃんが偽物だったら、オレに黒を打つかもしれないだろ?そうなったら、吊られるかもしれないじゃないか。次の日霊媒師に白だって言ってもらってももう遅いじゃないか。」
陽太は、顔をしかめた。本気で太成は恐れているようだ。
陽太は、答えた。
「正直分からない。オレだって情報がないんだよ。そもそもオレだって、黒が見えたら黒って言うしな。太成の色は、まだオレには分からないんだ。だから、村人達も同じだと思う。身の潔白を証明するには、吊られて霊媒師達に色を見てもらうしか今は方法がないんだ。」
太成は、ショックを受けた顔をした。
だが、こちらから占ってなくて色が分からない以上、そう言うよりなかった。
「…そうだな。」太成は、あきらめたように言った。「香織ちゃんが真占い師に賭けるよ。じゃあおやすみ、陽太。」
陽太は、頷いた。
「ああ。また明日の朝にな。」
そうして、太成と別れて陽太は自分の部屋に入った。
役職行使は11時だ。
その間、陽太はじっと考えた。自分の指定先は、睦と健。11と15…どちらを占ったらいいのか。
睦とはそれほど話してはいないが、感じが藍に似ているので親しみはあった。
だがその分、感情で濁って色が見えにくくなる可能性がある。
対して健は、議論でもそこそこ話すし、そんな感情に流されずに冷静に精査することができそうだった。
それを考えると、先に睦の色を見ておいた方が良さそうだった。
「…今夜は睦にするか。」
陽太は、そう考えて腕輪を見た。
まだ何の表示もないが、時計は着実に11時に向けて動いている。
そのまま、まんじりともせずに11時を待つと、デジタル表示が11:00になった途端、液晶画面に表示が出た。
『占い先を入力してください』
来た…!
陽太は、逸る心を抑えながら、震える指で11とゆっくり押し、最後に0を3つ入力した。
すると、パッと表示が出た。
『No.11は、人狼ではありません』
睦は白…!
陽太は、それを急いでメモ帳の、昨日の藍の結果の下にそれを書いた。
睦は、白。
これで、陽太から見てこの二人は確実に人狼ではなかった。
そこでやっとホッと息をついた陽太は、もう何も考えずに寝ようと思い、風呂へと向かって本当に泥のように眠ったのだった。
早朝、カーテンを閉め忘れていた窓からうっすらと朝の光が差し込んで来て、ハッと目が覚めた。
そうだ、朝…!
襲撃は起こらなかったのか?それともこれから…?
不安に思いながら、時計を見るともう六時になろうとしていた。
ヤバい…!もうすぐだ!
陽太は飛び起きてトイレへと駆け込むと、バスルームで寝ぐせがついていないか確認し、うがいをした。
そして、6時を前に扉の前でじっと待っていると、急にバチンという音がして、閂が抜けたのが分かった。
「よし…!」
陽太が外へと飛び出すと、隣りの太成も飛び出して来たのが見えた。
正面の6部屋が丞だったので、丞も出て来て廊下を見回している。
陽太も廊下を見ると、1から10までの全員が出て来ていて、こちらを見ていた。
「1、2、」と、丞が指を差して数えている。「よし、10人居る。襲撃って朝分かるとかなのかな。どうなんだろう、投票ルームへ来いとも言われなかったけど。」
誰も、それに答えることができない。
とりあえずこの7階では全員無事だったので、8階の様子も見て来なければいけなかった。
「ちょっと!みんな来て!」その時、階段から睦の叫び声が聴こえた。「愛美ちゃんが、息してないの!」
「「ええ?!」」
こちらの10人がびっくりして階段の方を見る。
郷が、全員が固まる中、冷静に言った。
「行こう。確認して来なきゃならない。」と、ガタガタ震える芙美子の肩を抱いた。「しっかりしろ。襲撃がどんななのか、見て来ないと。」
芙美子は頷いて、そうして丞も気を取り直し、そうして階段を駆け上がって8階へと上がって行った。
8階は、7階と全く同じ形だった。
違うのは、上りの階段が完全に封じられていて、上には上がって行けないことだ。
廊下へと10人でなだれ込んで行くと、一番端の16の愛美の部屋の前で、皆が立って黙り込んでいた。
丞が人を分けて進むと、藍が言った。
「…今、健さんが確認してくれたんだけど。」藍は、暗い顔で言った。「眠ってるみたいなのに。死んでるって。」
死んでる…?!
陽太は、ショックを受けてフラッとふら付いた。
それを、慌てて太成が後ろから支えて、言った。
「死んでるって、そんなはずない!だってただの社会実験なんだろ?!ほんとに死ぬって、おかしいじゃないか!」
全員が太成に同意したい気持ちだったが、中から深刻な顔をした健が出て来て、首を振った。
「…駄目だ、死んでる。体も冷たくなってて、もうだいぶ前に死んだんじゃないかな。オレは精神科医だから、しばらく死体とか見てなかったし…ちょっと堪えたよ。」
律子は、言った。
「冷たくなっていましたの?」と、部屋を見た。「…ちょっと行って見て来てもよろしいかしら。」
健が、ぎょっとした顔をした。
「え、律子さん、死んでいるんだぞ?」
律子は、落ち着いた様子で言った。
「分かっていますわ。でも、見て来ないと。私の夫は医師ですの。なので常に話を聞いておりますから、ある程度なら分かるのです。」
律子さんのダンナさんは医者なのか。
皆が驚く中、律子はキッと唇を引き結んで、足を中へと進めた。
藍が、慌てて言った。
「あ、僕もついて行くよ。丞さんも来て。他にも、入って来れそうならみんなで確認した方がいいよ。ここはみんなでしっかり現実を直視して行かないと、逃げても結局何も変わらないんだからね。」
芙美子は慄いた顔をしていたが、郷に支えられて、踏ん張った。
律子と藍は、さっさと中へと足を進めて行く。
他の者達も、顔を見合わせていたが郷が意を決したように二人に続いたので、それに釣られて皆、必死に追いかけて行った。
律子は、まるで眠っているように穏やかに目を閉じている、愛美に歩み寄った。
「愛美ちゃん…。」
忠司が、目に涙を浮かべている。
同じ霊媒師として、頑張ろうと昨日仲良くしていたところだったのだ。
愛美の胸は、呼吸による上下は全くなく、ピクリとも動かなかった。
律子は、じっとそんな愛美を観察してから、布団を上げて背中の辺りに腕を突っ込んだ。
そして、眉を寄せると腕を手に取り、袖を捲り上げて裏側を確認している。
その後、愛美の頬を包むように手を置いて、指でそっと瞼を下げたりと観察していた結果、眉を寄せて皆を見た。
「…愛美ちゃんは、死んでからかなりの時間が経っていると思われますのに、その後の変化が全く現れていませんわ。つまり、今死んだばかりのようなのに、体はとても冷えていて、時間は経っているという、おかしな状態だということです。」
健が、え、と進み出た。
「そうか、死斑は確認していなかった。女性の服を剥ぐのはと思って、体温と脈拍ぐらいしか。」
律子は、頷く。
「そうでしょうね。背中もとてもひんやりしておりましたから、絶対今亡くなったのではないはずなのに、瞳も綺麗で死斑らしいものは何も見当たらない。服を脱がせて背中を確認してもいいですけれど、恐らくないと思いますわ。見てみましょうか?」
丞が、頷く。
「見てみて欲しいです。」と、皆に言った。「男性はみんな背を向けてくれ。」
言われて、陽太は急いでベッドに背を向けた。
芙美子と菜々子が寄って行って、涙を浮かべながら律子を手伝って背中の服を捲り上げているようだ。
律子は、言った。
「…やっぱり。背中も綺麗。」と、服を下ろした。「夫が居てくれたら、きっと答えをくれると思うのに。」
芙美子と菜々子が、そっと愛美の体を下ろして、また寝かせた。
律子は、こちらを見て言った。
「もうよろしいですよ。」
皆が、ベッドを見る。
愛美は、またきちんと寝かされていた。
「どういうことだと思いますか。」
丞が言うのに、律子は首を振った。
「私には分かりません。ただ、間違いなく心拍は停止していて、呼吸もしていませんけれど、愛美さんは死んでいないかもしれない、と思います。つまり、体は機能していないけれど、細胞は死んでいないということですけれど。計器も無いし、お医者様でも判断は難しいと思いますわ。一見死んでいるとしか見えないけれど、死んでいないかもしれない、ということです。」
郷が、眉を寄せて行った。
「…昔は死んだと思って墓に埋めたら生きて出て来たってこと、あったって聞くし、そんな感じか…?」
表現がアレだが、言われてみたらそんな感じなのかもしれない。
仮死状態ということなのか。
どちらにしろ、愛美が危ない状態であることは変わらなかった。
「…今は仮死状態でも、この先は分からないよな。」寛が言う。「どういうことだろう。」
藍が、言った。
「これ…多分、これの事だったんだ。」と、尻のポケットから折りたたまれた栞を引っ張り出した。「僕、めっちゃこれを読んだんだよ、昨日の夜!追放されたらたまらないから、ルール違反は何なのか把握しとこうと思って。それで、こんな文章を見つけたんだよ。ほら、ここ。『勝利陣営は帰って来られる。』その時は何のことだろうって思ってたけど、つまり、愛美ちゃんは今仮死状態で、村人が勝ったら蘇生されるんじゃない?!」
皆が、藍が指す文言を、同じように覗き込んで確認した。
確かに、勝利陣営は帰って来られると書いていある。
つまりは、勝たなければ帰って来られないということなのか。
陽太の背筋に、冷たいものが流れて行った。
勝たなければ、生きて帰れないってことか…?ということは、昨日の保も、もしかしたら同じ状態ってことか?
皆がそれぞれの頭の中でその言葉の意味を考えている中、時間だけが過ぎて行った。




