一日目投票
もう、外は真っ暗だ。
夜の海は、とても静かで恐ろしい気がした。
だが、この部屋の中は窓もない上、煌々と電気が灯っているので明るかった。
そんな中、いきなりパッとモニターが点灯したかと思うと、そこから声が流れて来た。
『投票、5分前です。投票は、20時になりましたら1分の間に腕輪から入力し、0を3回押して確定させてください。1分以内に投票しなかった場合は、追放となります。』
1分か。
皆が思ってゴクリと唾を飲み込むと、声は続けた。
『初日のご注意を申し上げます。追放者が決まりましたら、一時的に灯りが落ちます。その際、しっかりと椅子に深く腰掛け、決して立ち上がらないようにしてください。皆様の安全のため、必ずその場で電気が点灯するのをお待ちください。』
灯りが落ちたら、ここは真っ暗だ。
全員が、緊張した顔をする。
いったい、何があるのか分からないのだ。
ドキドキと煩いほど耳の中に自分の心臓の音が聴こえて来るのを聞きながら、陽太は腕輪のカバーを開いて、じっと待った。
今夜は保にしよう。
保は、18。
18と押してから、0を3回…。
じっと待っていると、モニター上に表示されている時計が、どんどんと時間を減らしているのが見えていた。
あと10秒…9、8、7…。
陽太は、震える指を構えていた。3、2、1。
『投票してください。』
声と共に、全員が急いで小さなテンキーで思い思いの番号を打ち込んだ。
きちんと入力できると、腕輪から直接『投票を受け付けました』という声が漏れて来る。
だが、慌てているので上手く打ち込めないのか、あちこちで『もう一度入力してください』という声が聴こえて来ていた。
…間に合うのか。
陽太はハラハラして見ていたが、永遠かと思うほどの時が過ぎて、モニターから声がした。
『投票が終わりました。結果を表示します。』
パパパと陽太から順に、番号が現れて来る。
1(陽太)→18(保)
2(悠斗)→18(保)
3(太成)→18(保)
4(藍)→18(保)
5(永人)→18(保)
6(丞)→18(保)
7(郷)→18(保)
8(彩菜)→18(保)
9(芙美子)→18(保)
10(菜々子)→18(保)
11(睦)→18(保)
12(律子)→18(保)
13(香織)→18(保)
14(寛)→18(保)
15(健)→18(保)
16(愛美)→20(克己)
17(大和)→18(保)
18(保)→20(克己)
19(忠司)→20(克己)
20(克己)→18(保)
…ほとんど全員保か…!
それを見上げて、陽太は思った。
すると、モニターには『18』と大きく表示されて、声が言った。
『№18が追放されます。』
どうなるんだろう…!!
保は、これで給料が減ってしまうので、あーあ、というように、残念そうな顔をした。
「はー初日吊りかあ。残念だー面白そうだったのになあ。」
そう言った瞬間、パッとモニターも電灯も、一気に消えた。
「きゃあ!」
芙美子の声が聴こえる。
すると、何やら下からモーターが動くような音が聴こえて来た。
「なに…?!」
あちこちから声がするが、動くなと言われているし、何も見えない漆黒の闇なので、身動き取れずに陽太はただ、椅子の中に深く腰掛けて、震えていた。
すると、ガコン!という音がした。
「え?うわっ!」保の声がした。「うわあああああ!!」
悲鳴が、遠く下の方へと遠ざかって行くのが聴こえた。
「何が起こってるの?!」
誰かの声が言う。
真っ暗なのに、それに応えられる人など居なかった。
そして、またモーター音が聞こえたかと思うと、パッと灯りが復活してモニターが付いた。
『№18は、追放されました。夜行動に備えてください。』
保は…?!
皆が保が居た18の椅子があった場所を見たが、そこには何もなかった。
そう、椅子も保も、何も無かったのだ。
「保が居ない…!」
陽太が叫ぶと、18の隣りの大和が椅子を降りて、床を見た。
「ここに切り込みがある。」と、皆の椅子の下を見た。「そっちも。全部あるぞ。つまり、床ごと下へ落ちて行くんじゃないか。声が、下に向かって遠ざかって行くのが分かったんだ。」
それには、陽太も何度も頷いた。
「それはオレもそう思った!なんか、下の方へ。」
「つまり、ここが六階だから、五階か四階かに降りてった感じか?」
丞が言う。
大和は、首を傾げた。
「いや…なんだろう、もっと下っぽい感じ。落ちて行くみたいなスピードだったんだよな。声が遠ざかる感じが。」
全員が、ゾッとした。
ここから、何階も下へと一気に落ちて、果たして無事でいられるんだろうか。
「…途中、声が途切れたの。」愛美が、青い顔をして言った。「いきなり。落ちてどこかにぶつかったのかしら。それとも、気絶したの…?」
保がどうなったのか、誰にも分からなかった。
モニターからはもう、声が聴こえていない。
ルールについて聞きたいと思っていたが、何を呼び掛けても何も返って来なかった。
藍が、言った。
「…とにかく、ルールを守って行こうよ。」皆が、藍を見た。「追放がこれなら、みんなこうなるってことでしょ?もしかしたらルール違反の人も、一緒にあの時間に消えるのかもしれないよ?」
「襲撃は?」菜々子が怯えたように言った。「襲撃されたらどうなるの?ベッドごとどっかに落ちてくんじゃないでしょうね。」
藍は、首を振った。
「分からないよ。分かるはずないじゃないか。とにかく、次だ。10時までに部屋に入って、役職行動。何が起こるか分からないってことが分かったんだ。とにかく、ルール通りにするんだ。」
藍の顔は真剣だ。
もしかしたら、命が懸かっているのかも、と皆の心の中には恐怖が湧き上がって来ていた。
陽太も、もし襲撃されたらどうなるんだろうと、軽くゲームだと考えていた自分を後悔した。
藍が言う通り、とにかく粛々とルールを守ってゲームを続けるより他ないのだ。
丞が、ショックから立ち直りながら、言った。
「…藍の言う通りだ。」丞は無理に表情を引き締めた。「占い師の占い先を指定しよう。残ったグレーは、太成、郷さん、彩菜さん、睦、律子さん、健さん、大和、克己の8人。この人達を四人の占い師に振り分けよう。」
「ちょっと待て。」克己が言う。「なんだってお前達がオレに入れてるんだよ?!思ったより見えてないって言ってたじゃないか!」
言われてみると、確かに確定霊媒師の二人は、克己に入れている。
忠司は、険しい顔で答えた。
「だから、オレ達は傍に居たから分かるんだって。愛美ちゃんと話し合ったんだよ、お前から聞いたこととか。そしたらどう考えても怪しく見えた。お前、分からない分からないばっかじゃないか。普通、何とか考えて答えようと、的外れでも何か言うのに、最初から全部分からないだ。逆に怪しいっての。何か隠してるってオレ達は判断したから、お前に入れただけだ。みんなに言わなかったのは、不公平かと思ったからだ。保も明らかに怪しかったしな。」
克己は、泣きそうな顔で言った。
「なんだよ!分からないから分からないって答えただけじゃないか!意見を言ったら視点透けとか言われるし、だったらどうしたらいいんだよ!」
克己の言うことももっともだったが、それでも二人がそう判断したのだから仕方がなかった。
丞が、言った。
「怪しい所にみんな投票したんだ。君だって保に投票してるじゃないか。それで吊られた。村の総意だからな。君は生き延びたんだから、良かったじゃないか。今夜誰かに占ってもらって白が出たら、少なくとも明日の吊りは免れる。だから落ち着け。」
そうは言っても、指定先になったからとその占い師が克己を占うとは限らなかった。
律子が、ため息をついた。
「…この投票だと仮に狼だったとしても、保さんは他の狼から切られてるわ。ラインが見えない。克己さんに入れているのは確定白の霊媒師達だし。期待したようなことにはならなかったわね。最悪白だった可能性まであるわ。」
確かにそうだ。
陽太は思って唇を噛んだ。
保が白だったら、もう呪殺を出さない限り吊り縄に余裕がなくなる…。
それにしても、彩菜には一票も入っていなかった。
逆にそれが怪しいとも言える。
丞が、言った。
「とにかく占う先を指定しよう。もう、オレが勝手に決めるぞ。まず、陽太には…そうだな、あんまり仲良くしてるもの同士は避けたいんだ。だから、あんまり話してるところを見てない健さん、睦。」
陽太は頷いた。
確かにそんなに話してはいない。
「次に菜々子さんには…じゃあ克己、大和。」
菜々子はまだ青い顔で頷いた。
丞は続けた。
「次、寛さんには、彩菜さん、郷さん。」
寛は頷く。丞は次に香織を見た。
「香織さんは残りの律子さん、太成。その中で一人、占って欲しい。仮に他を占ったとか言っても信じない。その時点で騙りだとして吊る。そのつもりで、頑張って間違えずに占って欲しい。明日からが正念場だ。狩人もこの中に居るだろう。頑張って狼との戦いに勝ってくれよ。」
誰も頷かない。
ここで頷いたりしたら、それこそ狼の思うツボなので正解だった。
丞は、疲れた顔で言った。
「じゃあ、解散。明日は必ず六時に一旦部屋から出て来てくれ。生存確認をする。襲撃がどんな風かまだ分からないんだ。」
全員がそれに頷いて、席を立った。
陽太は、もしかしたら噛まれるかもしれない村の信頼が厚い占い師の自分に、動悸が収まらなかった。




