いろんな思惑
藍が二人に話しかけると、すぐに二人は立ち上がった。
驚いていると、藍は笑いながら何かを話して、こちらへ歩いて来た。
「わ、マジで。」
太成がカレーを食べながら小さく言う。
陽太も、そんなにあっさり来るとは思っていなかったので驚いた。
「カレー、もう無いかもだよね。」藍が、戻って来て言った。「二人とも陽太が作ったんなら食べてみたいってさ。」
陽太は、え、とスプーンを置いた。
「多分、もう無いだろうな。さっき寛さん達も入ってくのが見えたし。」
彩菜が、残念そうに言った。
「昨日のお寿司もおいしかったし、カレーも期待できたのに残念ね、香織?」
香織は、頷いた。
「そうね。食べてみたかったな。」
いや、さっき悠斗が声を掛けた時なら間に合ったかもしれないのに。
陽太は心の中で突っ込んだが、何も言わなかった。
「…でも何か食べて置いた方がいいんじゃない?」太成が言う。「7時から会議だって丞さんが言ってたよ。」
彩菜が、言った。
「別に後からでも良いかなって思ってるの。まだそんなにお腹が空いてないし、カレーがあるなら食べたいかなって思っただけ。それより」と、近くの椅子へと香織を促して、座った。「香織が占い師でしょう?陽太さんが香織の相方かなって向こうで話していたのよ。どう思う?占い師の内訳。」
陽太は、首を傾げた。
「まだ分からないな。誰か噛まれたらって誰かが言ってたけど、確かにその通りだとも思う。寛さんが強い感じ過ぎて怖いなあってぐらい。菜々子さんと香織さんの違いは、今日の意見を聞いただけじゃオレにも分からないよ。村から見たら、オレだってきっとまだ真確定してないんだろうけど。」
香織は、頷いた。
「それはそう。私も寛さんは怖いなって思う。でも、菜々子さんはみんなの顔色を見ている感じがして、できるだけ合わせて目立たないようにしようって感じを受けるわ。陽太さんが一番正直に話してるように見えるから、私としては今のところ陽太さんの意見を尊重したいと思ってるわ。」
陽太は、これをどう見たらいいのか分からなかった。
相方かもしれないし、そうでないかもしれない。
だが、真占い師に擦り寄って来る人外にも見えなくはないのだ。
菜々子も寛も、今のところこうやって陽太に何か話しかけて来る事は無かった。
もちろん、藍が呼んで来たからこうして話していると言われたらそうなのだが、陽太からしたら今のところ、誰も信じられないので、擦り寄って来られるのは印象が悪かった。
しかも、藍があんな感じで言った後のことなので、どうしても喜ぶことができなかった。
困っていると、藍が言った。
「まあ、まだどっちも対抗してる状態でお互いの相方が分からないんだから、そう言われても陽太も戸惑うよね。まあ、追々お互いに精査して行ったらいいんじゃない?」
そこへ、悠斗がおずおずとカレーの皿を手に、寄って来た。
「その、一緒に食べてもいいか?」
太成は、少しむっとした顔をした。
何しろ、昨日から誘っても誘っても来なかったのに、恐らく香織が居るから来たのだと分かったからだ。
太成は、空になった皿を手に、立ち上がった。
「別にオレはいいよ。もう食べ終わったし。陽太の皿、持って行こうか?」
陽太は、ここで自分まで席を立ったらさすがに悠斗が可哀そうかと思って、頷いた。
「ごめん、よろしく。」
藍の皿も一緒に持って、太成はそこをズカズカと歩いて去って行く。
悠斗はバツが悪そうだったが、太成が座っていた場所に座った。
すると、彩菜が立ち上がった。
「…ちょっとコーヒーでも飲もうかな。後30分で会議よね?香織、行こう?」
香織は、頷いて立ち上がる。
悠斗は、あ、と何か話しかけようとしていたが、二人は悠斗に見向きもせずに去って行ってしまった。
ガクリと気落ちしたまま、悠斗は仕方なくカレーのスプーンを口へと運んだ。
藍が、小声で言った。
「…あのさ、ちょっとは利用されてるかもって考えなよ。」え、と悠斗が顔を上げると、藍は続けた。「それでもいいんなら、香織ちゃんに利用価値がある男だって思わせないと。悠斗はね、ずっと香織ちゃん香織ちゃんで、他と交流しないで議論でもあんまりだったじゃないか。そんなんじゃ、議論でもし香織ちゃんが責められたりしたら、積み上げて来た発言力が無いから庇えないんだよ?守ってももらえない男と、一緒に居たってメリットないじゃん。香織ちゃんのこと、何も知らないからどういうつもりかなって、試しに陽太たちの所で一緒に話してみないかって誘ったら、ほいほい来たんだよ?多分、陽太の方が村に信頼されてるから、利用価値があるって、つまりは自分にとってメリットがあるって思ったんじゃないかなって思う。女子ってね、結構したたかなんだよ?こっちもそれを利用してやるぐらいの気持ちでないと、なかなか自分に繋ぎとめるなんて無理だと思うよ。」
悠斗は、藍からサクサクと言われて、目を丸くしていたが、険しい顔になった。
「…オレじゃ頼りないって?」
藍は、怯むことなく頷いた。
「そうだよ。頼りになるって思ってた?寛さんの白先ってだけだよね。香織ちゃんにとって大きなメリットになる何かを持ってないじゃないか。議論にだって全然参加してないし、みんなに批判される原因を作ったと思われてると思うよ。ほんとにあの子を狙ってるなら、もうちょい回りを味方につけて頼りがいがあるって思わせないとね。」
藍が言っていることは、間違っていないのかもしれない。
悠斗は、それをむっつりと聞いていたが、思う所があったようだ。
それから黙々とカレーを食べて、さっさと席を立って離れて行ったのだった。
時間も迫って来る中、そろそろ移動するかと立ち上がって歩いていると、まだ芙美子と郷、それに律子が一緒に座って話し込んでいた。
藍が、嬉しそうに寄って行って言った。
「律子さん!そろそろ行く?」
何やら、藍まで律子になついているようだ。
律子は、微笑んだ。
「そうね。そろそろ行きましょうか。」と、芙美子を見た。「さあ、行きましょう。今日最後の会議よ。昼間はダラダラしちゃったから、しっかり話して決めないとね。」
芙美子は、つまらなさそうな顔をした。
「えー。もうちょっとだったのに。」と、立ち上がった。「あなた達、間が悪いわ。律子さんのダンナ様のことを聞いてたとこだったのに。」
え、と陽太は律子を見た。
「律子さんのダンナさんってどんな人なんですか?」
律子は、やっと逃れたのに、と思ったのか、苦笑して歩き出しながら、言った。
「私の主人は、とても頭の良い、優しいかたで。今回も、最初は一人で参加するのにとても反対していたのだけど、最後には許してくださったの。別にお金には困っていないのにって、最初は人狼カフェへ行ってゲームをして来たらって言われたのだけど。私、リアル人狼ゲームって経験ないから。」
芙美子は、言った。
「いいなあ~優しい旦那様。イケメンなの?写真とかない?」
律子は、フフと笑って答えた。
「写真は今ありませんけど、とても整ったお顔よ。私は大好きで…あのかたと結婚できて、本当にラッキーだと思っているの。内緒だけど、私って結構面食いで。フフ。」
とても嬉しそうだ。
芙美子は、羨ましそうに言った。
「ああ理想だなあ。律子さんみたいに落ち着いた感じだったらいいのかな。私、なんだか不幸な恋愛ばっかりして来たから…上品にって、どうやったらなれるの?」
郷が、笑って言った。
「そういうのって、意識してなるもんじゃねぇと思うぞ。お前はお前でいいんじゃねぇの?とは思うけど。」
芙美子は、ぷうと頬を膨らませた。
「それって、私は上品じゃないってことよね?もう。」
投票ルームの扉を開いた。
中では、もう数人の人達が着席して待っていた。
途端に何やらピリッとした空気を感じて、皆はそれぞれの番号に椅子へと歩いて行った。




