昼
陽太は、もう固定になってしまった太成と藍、大和と保の四人と早めの昼ご飯を食べていた。
最初はリビングでぶらぶらしながら皆で話していたのだが、段々に数も減って来て、何の情報も得られない感じになってしまったので、それならとレストランラウンジへと来たのだ。
そうしたら、そこでもあちこちに散って何かを話しているようだったが、全員ではなかった。
どうやら数人は、部屋へ帰っているようだった。
何もすることが無いので、だったらもう、何か食べようという事になったのだ。
藍が、うどんを啜る陽太を見ながら、言った。
「あのさあ」陽太は、目だけで藍を見る。藍は続けた。「やっぱり僕、陽太が真占い師だと思うよ。だって、香織さんも言ってたけど菜々子さんはなんか陽太と一緒だと言うばかりで頼りない感じがしたし、寛さんはキツ過ぎてめっちゃ場を自分のいいようにしようとしてるみたいに感じて警戒したし、香織さんは情報を落としたくない人外みたいに見えたし、もう、陽太ぐらいしか信じられる占い師が居ないんだもん。僕に白は有難いよ?でも僕目線じゃ僕は白だから、他の所が白のが良かった!もう分かんないよ。」
大和が、苦笑した。
「まあなあ、確かにオレもおんなじ印象だったんだよね。保はさ、失言だったと思うよ。多分、思考ロックしてしまって思わず言ったんだろ?」
保は、暗い顔をした。
「うん…まさかみんなに怪しいって言われるとは思ってなくて。ただ、自分がそうだろうなって思ってたからそう言ってしまっただけなんだ。だってさ、占い師って大体狼とかが出るでしょ?霊媒に狂人で。そんな風に考えてたから、口に出ただけ。」
大和は、ため息をついた。
「でも、致命傷だぞ?ちょっとの把握漏れを突かれる事になるんだ。まあ、突いたのはオレだけどさ。でも、オレから見たら保の性格は知ってるからうっかりだろうなって思えるけど、克己は怪しい。だって、保の失言を拾えなかったどころか、同意してたからね。あっちは見えてるのかもって思った。」
陽太は、うんうんと頷きながらそれを聞いていた。
藍が言った。
「どっちにしろ、こうして話してても誰がどこで聞いてるのか分からないし、狼は日中話し合うのは難しいだろうなあ。今ここに居ない人達も居るには居るけど、部屋に集まってたりしたら誰かに見られるかもしれないでしょ?もう、それが途端に怪しいもん。何しろ、ここには知り合い同士の人たちって、四組しか居ないわけだよ?それ以外と個人的に部屋を行き来するなんて、おかしいもんね。」と、キョロキョロした。「そういえば、克己さんが居ないね。ちょっと偵察にでも行こうかな。」
保が、言った。
「待てよ、君が怪しまれるかもしれないぞ。そんな、人の部屋の前をウロウロしてたりしたら。今はおとなしくしてるのがいいんじゃないか。」
藍は、頬を膨らませた。
「僕はいいの!だってグレーじゃないもん。今日は絶対吊られない位置だよ。僕ぐらいしかできないと思うよ。ちょっと行って来る。待ってて。」
「おい!」
保は言ったが、藍はさっさと階段の方へと走って行ってしまった。
陽太が、言った。
「まあ、藍の性格だとじっとしてなんていられないと思うよ。行動を見ても藍は白いし、きっと怪しまれることなんかないと思う。オレは藍の白を知ってるから言えることかもしれないけど。」
大和は、何度も頷いた。
「オレもお前は信じてるから。藍は白だと思ってるさ。」
陽太が頷いて回りを見回すと、律子は丞と郷、芙美子の四人で食事をしているようだった。
だが、そこへ健が寄って来て、何やら律子に話しかけていて、丞が面倒そうな顔をしている。
話しに耳を澄ませてみると、健はどうやら律子と二人で話がしたい、と申し出ているようだった。
「…こちらで話しません?」律子は、言った。「私はこちらの方たちの事は信じておりますし、何も問題はないと思いますわ。」
健は、首を振った。
「いや、ゲームのことじゃなくて。個人的に、君がどう考えるのか聞きたい案件があってね。私も多くの患者を抱えているから、君のように頭が良い人の意見も聞きたいじゃないか。だから声を掛けたんだ。」
律子は、苦笑して首を振った。
「では、私は参れませんわ。どうお考えなのか知りませんけれど、これはお仕事ですのよ。そんな時に、別の事に時間を割くのはあまりにも不誠実ではありませんか?それに、私は精神科の専門ではありませんし、あなたが仰ることは理解できないかと思いますわ。お力にはなれません。」
律子は、はっきりしている。
健の下心は、若い陽太にも分かった。恐らく律子が気に入ったか何かで、悠斗みたいに言い寄ろうとしているのではないかと思えたのだ。
何しろ、今は人狼ゲーム中で、他のことなど考えている暇はないだろう。
悠斗にもそれは言いたかったが、今はのぼせ上っているだろうし、陽太はそれは言わなかった。
「ちょっと…止めた方がいいかな。丞は嫌な顔をしてるだけで何も言わないし。」
大和が、それに気付いて小声で言う。
陽太は、頷いた。
「だな。律子さんは嫌そうだしな。」
だが、健は言った。
「…ゲームの事もだよ。」律子が眉を上げると、健は言った。「君は察しがいいかと思ったのに。君は信じられると思うから、言いたいことがあったんだ。でも、君は来ないのか?」
律子は、目を細めた。
何を言っているのだろう、と思ったのは確かだ。
「…丞さんは共有者ですわ。」律子は、言った。「私にではなく、丞さんに仰ったら?」
律子は、そう言うとスッと席を立った。そして、さっさと階段へと向かうのに、健は慌てて着いて行きながら言った。
「いや、だから君に…」
律子は、ハアとため息をついて、言った。
「…あの、やめておいた方がいいわ。」健が驚いて律子を見ると、律子は怒っているというよりも、困っているように言った。「見ている人が居るわよ。運営の人は、きっとこんな様子を見ているはず。あなたのこれからのためにも、本当にやめておいた方がいいと思うわ。後悔なさると思うから。」
何の事なのか分からなかったが、もしかしたらこれもルール違反とかだっただろうか。
陽太は、ルールブックをしっかり読んでおかないと、と眉を寄せた。
悠斗も、もしかしたらそれによって追放とかなってしまったら、村人だったら大変な事になるからだ。
律子は、茫然としている健を置き去りにして、階段を駆け上がって行ったのだった。
それを見送った、郷が言った。
「…下手クソ。」皆がびっくりしていると、郷は続けた。「あんな言い方したってああいうタイプの姉ちゃんは、絶対ほいほいついて来ないって。もっとうまい事やれ。あの姉ちゃんは大分頭が良いみたいだから、味方に付けたら最強だろうが敵に回したら怖いぞ。お前には荷が重いんじゃないか?やめとけって。」
芙美子が、横で頷いた。
「私もそう思う。その気も無いのにあからさまに二人きりで話したいって言っても、警戒されるだけだと思うし。律子さんは気持ちを切り替えるためにここに来たって言ってたのよ?今は男なんて要らないって考えなんじゃないの?」
健は、顔を赤くして反論した。
「別に私はそんなつもりでは…ただ、彼女と意見を交換できたらと思っただけで。」
丞が、気の毒そうに言った。
「だったらここでオレ達と一緒に話したら良かったのに。いきなり二人きりは難しいと思うけどな。みんなで話して気安くなってから、じゃあ二人でっていう方がまだチャンスはあったと思うけど。まあ、オレはあんまり恋愛には詳しくないから強くは言えないけど。」
皆に見透かされて恥ずかしかったのか、健はそのまま、何も言わずにそこを出て今、律子が去った階段を駆け上がって行った。
「ちょっと?!もう律子さんを訪ねたりしちゃ駄目よ!」
その背に芙美子は叫んだが、聴こえたとしても足を止めることはなかっただろう。
陽太は、それどころじゃないのに何をしてるんだよ、と、悠斗のことも含めて少し、イライラしてため息をついたのだった。




