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地味偽装する俺だけど、思ってたのと違う。彼女たちは意外と勘がいい。  作者: ぐっちょん


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ブックマーク、応援、いいね、ありがとうございます。

 ――え!?


 次は教室内での撮影になるが、そこにはすでに生徒役のエキストラの方たちが着席していた。


 俺としてはまだ時間に余裕があると思っていたので少し不安になる。


 ――遅れている? まあ、たしかに何度も撮り直しをして二時間近くかかってはいたけど……


 少し気になり辺りを見渡せば、スタッフの方たちは忙しそうにしているが、隣にいる遠藤さんは至って普通。気にした素振りもみられない。


 ――うーん。今日スタジオ入りした俺が考えたところで分かる訳ないか……


 深く考えることをやめると、次は撮影場所になる教室内が気になった。


 ――ホログラムの椅子って座れるのか? いやあれは……机と椅子だけは本物じゃないかな……


 それほど本物と区別のつかないホログラム技術に俺の興味は尽きない。


 ――ふふ、凄いな……


 気づけば緊張していたことすら忘れて俺はスタジオ内のホログラムに見入っていた。


 ――おっ、先輩も仲間だ。


 緊張していてほとんど会話のなかった先輩も教室内を食い入るように見ている。


「そういえばヤマトくん」


 そんな時スタッフと会話をしていた遠藤さんが唐突に話しかけてきた。


「はい」


「知っているかもしれんが……」


 遠藤さんは俺と先輩をよく見ていると思う。俺と先輩が教室内を眺めて疑問に思っていることをさりげなく、そして不愉快にならない程度に補足説明をしてくれた。右も左も分からない俺たちには非常にありがたかった。


 すでに着席している生徒役の人たちも東西映像の関連会社で東西アクション劇団の方たちで、ミラクル戦隊シリーズにおいてはエキストラ役の他にも怪人やレンジャーなど、着ぐるみを着てのアクションなんかも演じてくれている人たちらしいと聞いた。


 ――なるほど。


 どおりで、何回留年したんだ? というような見た目の人がチラホラ見えるわけだ。口にできないけど。


 ――ぇ……


 そんなことを考えていると、ふとその劇団員の人と目が合ってしまう。学生……にしては少し色気があるが、それほど年配ではなかった。

 たぶん二十代半ばくらいだろう。綺麗なお姉さんだった。俺は慌てて視線を逸らした。


 ――悪気はなかったんです。ごめんなさい……


 少し後ろめたさもあったので俺は心の中で謝った。


 ――しかし向けられる視線が減ってないような気がするんだが……


 そう。俺はこのスタジオに入ってからずっと誰かしらからの視線を感じている。今もずっと。減るどころか増えている気すらする。

 でもこればっかりは今更だろう。気にはなるが気にしないように心がけている。


「さっきスタッフと話した感じだと、あと20分くらいだろう。

 俺は少し用事が思い出したから少し離れるが、ヤマトくんとミキくんはここで待ってれば問題ない。もし撮影が早まればスタッフが声をかけてくれるだろうし、俺もすぐに戻って来るつもりだ」


 次のシーンでは校長役の遠藤さんと一緒に教室に入ることになっている俺と先輩は、とりあえず遠藤さんの側にいれば遅れてみんなに迷惑をかけることはだろうとは考えていたけど……それならば心配安心して待っていることができる。遠藤さんにはほんと感謝しかない。


「ありがとうございます」


「いいってことよ。じゃあな少し用事を済ませてくる」


「はい」


 離れていく遠藤さんの背中を眺めながら俺と先輩はスタッフが用意していた椅子に腰掛ける。


「先輩、撮影って時間がかかるんですね」


「そうみたいね。でもいい勉強になるわ」


「それもそうですね」


「それよりもヤマトくん」


「どうかしましたか先輩?」


「遠藤さんからあと20分くらいだと聞いて、いよいよだと思ったらまた緊張してきたみたいなの。だからこれ、やらない?」


 そう言った先輩は自分の両目尻を両人差し指を使いそれぞれ上下に下げる。上がり目、下り目と化粧をしているので軽く触れる感じだが、先輩の表情が面白いように変わるから見ていて楽しい。


 ――ふふ……


 思わず先輩の頭を撫たい衝動に襲われたがグッと堪える。


 ――危なかった……


 先輩は俺の妹という役のため、化粧によって少し幼く見えていた。

 だから家で妹たちにやってあげているようについ手が出そうになってしまった。化粧の力って凄い。


「えっと……それは変顔にらめっこ、かな?」


 こんな場所で変顔にらめっこをするとか、かなりのスタッフを驚かせてしまうが、先輩は緊張して撮影がダメになるよりはマシだと思ったのだろう。さすが先輩だ。


「ち、違うわよ。見つめてにらめっこゲームのことよ。視線を逸らした方が負けになる。ヤマトくん、なんだか今日はちょっといじわるじゃない?」


「あはは、すみません。今日は先輩が少し幼く見えるから、つい妹たちと同じように扱い、からかってみたくなったんです」


「わ、私を妹……そ、そうね役では私は、ヤマトくんの妹だからな。それも悪くない、かもね。なんなら妹役になりきってにらめっこゲームをしようかな。ね、兄さん?」


 途中から妹らしい言葉遣いに切り替えた先輩。


 ――さすが先輩だ。先輩の役に取り組む姿勢は俺も見習わなければいけないな。


「そうだなササミ。俺も兄らしく振る舞ってみようかな」


 練習にもなるので俺は兄役で挑むことにした。


「それがいいよ兄さん」


 そう言ってからぽんぽんと軽くボディータッチをしてくる笑顔の先輩の顔は少し赤い。先輩が抱く仲のいい兄妹のイメージは距離の近い兄妹なのだろう。


 ――ま……俺は妹大好きシスコン設定の兄役だし、ちょうどいいかも。


 因みに、このにらめっこゲームも、みんなが俺の素顔に慣れるために考えたゲームの一つで、俺は今まで彼女たちに負けたことがない。


「それじゃあササミ。にらめっこをしよう……そうだ先輩、負けた方がジュースでも奢ります?」


「兄さん言葉遣い。うん。それでいいよ兄さん」


「すみません、ついいつものクセが。それじゃあササミ。にーらめっこしましょ「あっぷっぷ!」」


 あっぷっぷのところで声を被せてくる先輩。俺はこのとき先輩の顔を固定するように両手でそっの包み込む。もちろん視線は先輩と合わせる。


「えっ、えっ、……、あ、あ……」


 先輩の顔がみるみるうちに真っ赤に染まっていく。視線もすぐにそわそわと泳ぎだす。


「あぅ……」


 始まって数秒で先輩は俺から視線を逸らし、そして、プシューと湯気が上がりそうなほど顔を真っ赤にしていた。


「はいササミ。兄ちゃんの勝ちだね」


「や、ヤマトくん、今のはズルくない? ただでさえ化粧してカッコよくなってるのに……」


「あはは化粧って凄いよね。でもササミ、言葉遣い戻ってるね」


「うっ。に、兄さん今のはズルいから……化粧以前にヤマトくんだからなんだけど、もう」


 だんだんと小さくなる先輩の声の半分は何を言っていたのか聞き取れなかったけど、ジト目を向けてくる先輩は珍しくてちょっと可愛い。

 普段あまり見られない表情なだけにちょっと得した気分がした。


 それから3回ほど続けてみたが、すべて俺の勝利で終わった。


「全然勝てる気がしないね。兄さん」


「そうか? でも俺はササミの兄だからな。負ける訳にもいかないんだよ」


 今度は俺の方から先輩の肩をぽんぽんと軽く叩いてあげる。


「……妹に勝ちを譲るのも兄の優しさだと思うよ。ふふ」


 そう言っていい笑顔を浮かべた先輩は肩の力も抜けて緊張もほどよくほぐれているように見えた。よかった。そんな時だ。


「おっ、ヤマトにミキさんは何やら面白そうなことをやってるね。僕も仲間に入れてくれるかな?」


 突然リョウ(レッドアース)役の赤井緋色ことヒイロさんに声をかけられた。


 ヒイロさんの言葉からは、俺と先輩が撮影時なのに遊んでいたと勘違いされているように感じる。それだとちょっとよろしくない。


 俺は慌てて立ち上がる。


「ヒイロさん。これは緊張をほぐすためにやっていたことで遊んでたんじゃないんですよ」


「緊張を? ふーん。でもなかなかいいアイデアかもね。えっと……」


 爽やかイケメンのヒイロさんが楽しそうな笑みを浮かべたかと思えば、ヒイロさんは俺から先輩へと視線を向ける。


「二人の感じからして、緊張していたのはミキさんの方かな? じゃあ僕も一回だけ協力してあげるよ」


 そう言ったヒイロさんは俺が座っていた椅子に腰掛けると足を組む。それから先輩へと顔を向けた。

 さすがレッドアース役だけあってヒイロさんの白い歯がきらりと光ったように見える。


「いえ。わざわざヒイロさんにしてもらわなくても、私はもう大丈夫です」


 だがしかし、先輩はすぐに断りを入れていた。男が苦手な先輩は、ヒイロさんの好意を淡々と事務的に断っていた。優しい先輩なのにこの時ばかりは冷たく見えるから不思議だ。


「えっ」


 ヒイロさんも驚きを露わにしている。無理もない。慣れている俺でもほんとうに冷たく感じるのだから。先輩はただ恐縮しているだけなんだろうけど。冷たく淡々と断られたヒイロさんを少し不憫に思ってしまうくらい同情してしまった。


「おいヒイロ。もう時間はねぇぞ」


 少し遅れてやって来た他の男性メンバーは、俺たちから少し離れた位置から声をかけてきた。


「あ、ああそうだな。それじゃあミキさんまた今度やろうよ」


「いえ、大丈夫です」


「あ、ははは……」


 ――ヒイロさん、気の毒……ん?


 去り際に一瞬だけヒイロさんに睨まれた気がしたがきっと気のせいだろう。


 俺がヒイロさんたちの背中を眺めていると、俺の肩をぽんぽんと軽く叩いてくる人がいる。


「?」


 俺は先輩だと思い返事することなく振り向けば、マイ(イエローアース)役のマドカさんとルカ(ピンクアース)役のアヤカさんがそこに立っていた。


「やっほヤマトくん〜」


 どうやら俺の肩を叩いたのはマドカさんのようだ。マドカさんは片手を挙げにこにこと笑顔を浮かべている。


「ヤマトくん。いよいよ次出番だね。一緒にがんばろうね〜」


「はい」


「ヤマト……うぐっ」


 まだマドカさんが喋っていたようだが、マドカさんは突然後ろの方に身体を引っ張られていた。


「ヤマトくん撮影始まるけど困っていることはない? はい握手」


 マドカさんを後方に引っ張ったのはどうやらアヤカさんらしい。でもアヤカさんは素知らぬ様子、いや、上品な笑顔を浮かべると、何事もなかったように、右手をスッと差し出してくる。


「え。あ、はい。ありがとうございます。遠藤さんも親切に教えてくれましたから今のところは大丈夫ですよ」


 つられて俺も右手を出し握手をしたのだが、アヤカさんがなかなかその手を離してくれない。


 ――え? どういうこと? 


 俺が不思議に思っていると 彼女はスグに右手を離した。本当になんだったのだろう。


「本当に遠慮なんてしなくていいのに。じゃあミキさん。はい握手」


「え、は、はい」


 次にアヤカさんは先輩に握手を求めていた。


 一方、唐突に握手を求められた先輩はあたふたしていて、歳は先輩の方が上なんだけど、今は化粧のせいもありアヤカさんの方が歳上に見え、ちょっと微笑ましい。


 でも危なかった。一瞬でも俺に気があるんじゃないかと思ってしまったことが。

 今後は勘違いしないようにもっと気を引き締めた方がいいだろう。そうじゃないとなでないと自分が痛い人間だと思われてしまう。


 そんな彼女たち二人は遠藤さんが戻ってくるまで先輩と雑談を交わし、女性同士、仲良く親睦を深めていた。ちょっと羨ましい。 俺? 俺はまだ無理っぽい。


「撮影はいりまーす」


 スタッフの声で俺たちは所定の位置に移動した。いよいよ俺たちの出番が来る。頑張ろう。







最後まで読んでいただきありがとうございます^ ^

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