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ブックマークありがとうございます。
土曜日はいつものルーティンに少し多めに勉強をして過ごした。
そしてその翌日の日曜日、今日はレイコ義母さんの会社で撮影のバイトをする。
「あ、ヤマトくん。今日は制服でお願いね」
「そう、なの? てっきり私服だと思ってたけど」
朝食時にレイコ義母さんからそう言われた。
「そうね。レイコの会社は女性社員が多いものね」
頷いてそう言ったのはカナコ義母さん。
「つい、これ」
「はいはい」
「はな、こっち」
「はい、これね」
「ゆきも」
「はーい」
「ふぅ、これぇ」
「いいわよ」
あれこれ注文の多い妹たちにも、嫌な顔一つ見せず笑顔で朝食を与えている。
「? それって何か関係ある?」
カナコ義母さんの言ったことがよく分からなくて俺が首を傾げていると。
「結構重要だよ。ヤマトくんは学生だよってちゃんと認識しといてもらわないと、ねレイコ」
同じように弟たちの朝食の世話をするメグミ義母さん。
「ぼく、これいらない」
「ダメよ。そんなことじゃマッスルレンジャーみたいに強くなれないぞ」
「ぼくはまっするれっどだからたべれるもん」
「フユくんは偉いね」
「ぼくだってほんとはたべれるもん」
「ぼくも」
「む、ぼくがさきにたべる」
「まあ。ハルくんも、ナツくんも、アキくんもちゃんと食べれてカッコいいよ」
「へへーんだ」
「ぼくカッコいい」
働く母さんや父さんそれにレイコ義母さんに代わって子どもたちの世話や家事のほとんどやってくれているのがカナコ義母さんとメグミ義母さんだ。
でも母さんやレイコ義母さんだって休みの時にはちゃんと子どもたちの世話をしている。
ちなみに父さんはあまりしない。というか母さんたちがさせてない。
だから普段はゴロゴロしていてたまに俺と一緒にゲームをしたりトレーニングをしてたりする。なんでも「体力は温存しておかないといけないが筋力も落とせない」と遠い目で語りあまり触れてほしくなさそうだった。
「メグ、そこは大丈夫よ。いつもなら社内メールで知らせて終わるところだけど、他にも文章を回覧させて確認印まで押させたわ。終礼時にも連絡しといたから、それでも知らなかったと言う社員がいたら……ふふふ、しばらく減俸かしら」
大きな食卓では終始子どもたちの賑やかな声が聞こえ会話も遮られたりもするが不思議と母さんたちの会話は成立する。
レイコ義母さんはカナコ義母さんとメグミ義母さんの話にちゃんと耳を傾けながらもゆっくりと朝食を摂っていたのだ。
――うわぁ……
レイコ義母さんの笑みは怖かったけど、怒らせなければ基本的母さんたちは優しいからね。
俺はとりあえず朝食を済ませてからさっと制服に着替えるとしよう。どの服を着ていこうか悩まなくていい分楽だし。
「カナ、メグいつもごめんね。時間がないからわたしはもう出るね。ヤマトもしっかりレイコの役に立って来るのよ」
「レイコ、ヤマトを頼むな。ヤマトは……まあ頑張れ」
「う、うん」
なんか父さんから同情されたように感じたけど、母さんは昨日新しい取引先から連絡があり急遽仕事になった。父さんはそのサポートでついでいくらしい。一応副社長って肩書があるから。
「行ってくるわね」
「行ってくる」
母さんと父さんは朝食を行儀良く食べている弟たちと妹たちの頭を撫でてから手掛けて行った。
「じゃあ俺も着替えてくるよ」
レイコ義母さんはすでにスーツに着替えているので、朝食を食べ終えた俺も部屋に戻ってから着替えることにした。遅くなって慌てさせてもいけない。
とは言っても制服は着慣れているので着替えのにそう時間はかからない。
「おっと、これはいらないや」
いつものように最後にメガネをかけようとしてからやめる。今日は学校じゃないので別にかける必要はないからだ。
それから諸々と済ませてから最後に寝癖がついていないことを確認してレイコ義母さんが待つリビングに戻る。
「レイコ義母さん。お待たせ」
「あら早かったわね……? ヤマトくん。メガネは?」
「え? 学校じゃないから必要ないかと思って」
「そうなんだけどね。なんだか面白そうだから、かけてきて欲しいのよね」
にこりと笑みを浮かべてから言うレイコ義母さん。いつもはゾクリとする怖い笑みの方が多いけど、今日のレイコ義母さんの笑顔は気品があって綺麗。なんだか社長っぽい。いや俺が知らなかっだけで本当に社長なんだよね。
ただレイコ義母さんが何をもって面白いと言っているのかは分からない。けどレイコ義母さんに頼まれるとそうしてやりたいと思ってしまうから不思議なんだよな。上に立つ者のカリスマってやつだろうか。
「まあレイコ義母さんがそう言うなら、そうするけど」
「ふふありがとう。それじゃあ私は玄関で待ってるわね」
俺は再び部屋に戻るとケースにしまっていた伊達メンズを取り出してからかける。それからすぐに玄関に向かうとヒールを履き終えたレイコ義母さんが俺を待っている。
「これでいい?」
「うん。それでいいわよ。ふふふ」
それからレイコ義母さんの運転でレイコ義母さんの会社に向かったのだが、
「え? ここ」
「そうよ」
俺の目に前に聳え立つのは超高層オフィスビルでレイコ義母さんの会社は最上階の40階と39階にあるらしい。しかもこのオフィスビルのオーナーでもあるのだと。きっと開いた口が塞がらないとはこんな時に使うのだろう。
レイコ義母さんは小さな会社だから気楽にしていいって言ってたけど、とんでもない所に来てしまったようだ。
「ほら、ぼーっとしてないでついて来るのよ」
「は、はい」
中に入るとその広さで驚き高級感に萎縮する。
――何これっ、広っ!
一階フロアはホテルのエントランスホールみたいに広くよく見るとコンビニや食堂まである。
少し歩いて見えたエレベーター付近には受付とゲートがあって社員らしき人はタッチしてからゲート内に入ってからエレベーターに乗っていた。
――警備員さんもいるなんて……
驚いてばかりいる俺の心中など知る由もないレイコ義母さんは、
「こっちよ」
ゲートを通ったあと奥にある幹部専用のエレベーターに乗った。
俺もレイコ義母さんが用意してくれていた仮の社員証を使ってからレイコ義母さんに続いてエレベーターに乗る。
――!?
するとまたまた吃驚。なんとエレベーター内にソファーがある。二人掛けくらいなのが二つ。
「撮影に使うスタジオは39階にあるんだけど、先に40階で今日来ているスタッフに挨拶しときましょう」
「はい」
40階のボタンにタッチしたレイコ義母さんはそのソファーにかけた。俺もその隣に座れというので義母さんの隣に座る。
「髪のセットなんかもそこでしてもらいましょう。ふふ」
「はあ」
笑みを浮かべて座るレイコ義母さんが、なぜか悪戯を思いついた子どものような顔に見えた。
――――
――
「ここよ」
「はい」
ここでもレイコ義母さんがドアの前で社員証を使い解錠してから中に入った。俺も義母さんに続いて中に入った。
「!?」
しかし俺は入った瞬間に息を呑んだ。なぜなら仕切りのないフロア。立っていた社員やスタッフの視線が一斉に俺へと向けられたのだから。
その数はざっと見て30人を超えているんじゃないだろうかとと思う。しかも女性ばかりで男性が見えない。
「ヤマトくん。みんなに紹介するから私に着いてきて」
「は、はい」
レイコ義母さんのあとを歩いていると聞こえてくる。彼女たちのヒソヒソ声が。
「ウソ、あの子がクズキの代わり」
「ちょっと地味じゃない」
「でも背は高いよ」
「でも地味」
「脚も長いかも」
「うん、それでもね〜」
「なんか力抜けた〜」
「私も。あーあ、クズキ性格はあれだけど、顔だけはよかったからね」
「そうそう。目の保養にはよかったのよね。この職場男少ないし」
「それなのに、柊木社長が任せてって言ってたから期待してたのに、なんだか拍子抜け」
「ほんとだね」
「適当にパパッと終わらせちゃう?」
「いやそれはまずいって」
「そっか」
そんなヒソヒソ話だ。他にも彼女たち社員やスタッフからの視線や雰囲気から感じとるに、どうも俺はあまり歓迎されいるように思えなかった。レイコ義母さんもなんとなく気付いていそうなのに気にした様子は見られない。それでいて、
「そうだヤマトくん。先にセットしてもらおうか……一木さんっ。ちょっといいかしら?」
そう言ってから一人のスタッフに向かって手招きした。
「はい」
近寄ってきたのはいかにもスタイリストっぽい20代の可愛らしい女性。その女性は長い黒髪を後ろで一つに纏めている。俺の言うのもなんだが、パンツスタイルで少し地味な格好をしていた。
「私の息子のヤマトよ。柊木家の長男ね」
「ヤマトです」
その女性に向かってレイコ義母さんが俺を紹介し始めたので俺もそれに合わせて頭を下げる。
「この子が社長の……」
その女性はなんだが返答に困ってそうに見えたけど、レイコ義母さんは気にせず、彼女に撮影する商品に合わせて髪をセットとしてくれと頼んだ。
「はい。分かりました」
「ヤマトくんは彼女についていってね。もちろん商品に合わせるからメガネは外すのよ。ふふふ」
「は、はあ」
またまた悪戯を企む子どものような笑みを浮かべるレイコ義母さん。俺は心の中で息を吐きながらスタイリストさんのあとに続いた。
「ここです」
連れてこられた先、唯一、衝立とその衝立にドアまであって部屋らしくなっていた。ホワイトボードまであるし、どうも会議室に使っている部屋っぽい。
「本来なら39階にちゃんとした部屋があるんですけど社長命令ですから急遽ここでしますね」
「は、はい」
よく分からないけど、少し困った顔をしていたスタイリストさんはレイコ義母さんに振り回されているっぽい。
「なんか義母さんがすみません」
だからとりあえず謝っておいた。
「あはは、いつものことですから大丈夫です。私ちょっと化粧道具と商品を取って来ます。ヤマトくんは適当にその辺にかけてて下さい」
「はい」
それから五分程で商品らしき服と化粧の道具箱を抱えたスタイリストさんが部屋に戻ってきた。
「待たせちゃってごめんね。商品のイメージは入ってるからヤマトくんの髪を先にセットして少し化粧をしましょう。ここに座ってくれる」
「はい。よろしくお願いします」
スタイリストさんはいかにも仕事のできる女性って感じでカッコいい。俺は頭を下げてから彼女が準備してくれた椅子に座った。
「セットの邪魔になるからメガネは外すわね」
「はい」
それから俺の正面に回ったスタイリストさんがメガネを外してくれたんだけど、
「え!? え、ぇ……」
俺のメガネを持ったまま顔を瞬間湯沸かし器なみの速さで染めてから固まってしまった。
「スタイリストさん。スタイリストさーん?」
最後まで読んでいただきありがとうございます。




