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トミーとジュリエットの楽しい追いかけっこ

掲載日:2020/12/23

本人達は仲が悪いとおもっていても、はたから見たらめちゃくちゃ仲良いやん!って感じのラブコメを書きたいなぁと思って書きました。

 俺とジュリエットは親同士が決めた婚約者だ。11歳のとき初めて会って、もう7年ほどになる。だけれど、俺達は決して円満な婚約関係ではなかった。



 俺とジュリエットが初めて顔を合わせたのは、婚約が決まってからだった。普通婚約する前に何回か会ってある程度親交を深めておこうとかすると思うのだが、うちの親も向こうの親もそういうデリカシーが無かった。いや、政略結婚のための婚約なのだから、実際に会ってから、俺やジュリエットが婚約を拒む可能性を危惧してそうしなかったのかもしれない。そしてその選択はある意味正しかった。2人で遊んできなさい、と広い庭園で2人きり(お互いの侍女や護衛は見える位置にいたけど)にされるといなや、いきなり彼女は俺にこう言った。


「私はあなたと恋愛関係になるつもりは全くありません。私個人としてはいつ婚約解消して頂いても結構ですので、それをどうぞご承知くださいませ。」


 そうして彼女はにこりと愛想笑いをした。そう、愛想笑い。だって、目が笑っていなかった。会ったばかりの俺が、そうと分かるほどしらじらしいやつ。俺は頭にカーッと血が上って、つい言い返してしまった。


「僕だって君みたいな地味な女の子、願い下げさ!お望み通りさっさとこんな婚約、解消してやるね!」



 こう言っちゃなんだけど、確かにジュリエットはパッと見、地味である。少しウェーブのかかった灰色に近い銀髪を腰まで伸ばして、瞳はほとんど黒に見える濃灰。身長は小柄で、華々しく美しい令嬢達の中にいると、まるでネズミみたいに見える。それでも顔立ちは(黙っていれば)可愛らしく、小さな口でお菓子をちまちま食べているところはなんだか愛玩動物のように見えなくもない。さらに人目のあるところではかなり大きな猫をかぶっているので、他の人の目には慎ましく完璧な淑女として映っているのだろう。しかし僕への対応はとても淑女とは言えない。会いに行けばマナーや服装に辛辣な小言を言い、デートに連れてけば無愛想な顔で本を読む、プレゼントをすればひどい点数を付けられ、値段もセンスも上の物を返してきてこっちの体面を丸潰れどころか踏みつけてくる始末だ。



 こう言うと、なんでそんな彼女といまだに婚約を続けているのか、さっさと解消してしまえばいいではないかと思う人が大多数だと思う。全くその通りです。でも出来ないんです。俺と彼女の家は同じ伯爵家であるのだが、歴史とか格式とか資産とかが大きく違うのだ。こちらから婚約の解消なんてとても口にできない。両親にも、彼女を大切にしなさい、決して愛想を尽かされないように、と耳にタコが出来るくらい言い聞かされている。それともう一つ、解消を言い出せない理由。



 だって悔しいじゃん!!!!!



 自慢じゃないけど、俺は結構顔がいい。鮮やかな金髪はサラサラストレート、瞳はサファイアのようと例えられる深い蒼色。体格だって細身で身長もそれなりにあるし、それなりの格好をすれば道行く人の5割は振り返るイケメンだと思う。婚約する前だってそれなりに女の子にもモテてた…と思う。そんな俺が婚約者だぞ⁉︎なのに彼女は初対面で僕を切り捨てた。


 悔しいぃぃぃぃぃ!


 どうせ婚約解消するのだとしても、一度くらいあいつを俺に見惚れさせたい。あわよくば俺の足に追い縋って、今までの態度について泣いて詫びるくらいさせたい。そしてそんな彼女を蹴りとばして高笑いしながら婚約解消を突きつけてやりたい。…性格悪いことは自覚している。


 だから俺はせっせと週に一回は彼女の家に足を運び、低い点数にも負けず花やらアクセサリーやらプレゼントをし、人気のあるデートスポットについて情報をかき集めた。彼女が体格について「筋肉がないモヤシ」と馬鹿にしてきたので筋トレも始め、「使い道がないムキムキは腹が立つ」と言われたので剣の修行や護身術の修行も始めた。「脳味噌まで筋肉でできてる男ってダサい」と言われたので今までサボっていた勉学にも励むようにした。(そしたら彼女が普段読んでる本がめちゃくちゃ難しいものだって分かった…) そうして15歳になり、貴族の子女が通う王立学園に入学する頃には、俺は更に良い男になった!…はずだった。




 こんだけ頑張ったのだからさぞかしモテモテだと確信していた俺の学園生活はなんとも微妙だった。それというのも、同学年に王子やら宰相の息子やら騎士団長の息子やら、地位も容姿もハイクラスな奴らがいたからである。当然女の子達の関心もあっちに流れていった。片田舎の伯爵子息なんて相手にもされなかったのである。…ハハッ。


 そんな俺に比べて、ジュリエットは結構モテた。領地にいた時は下ろしっぱなしだった髪を、可愛げを残しつつきっちりと纏めて、学園指定の制服をすっきり着こなした彼女はもうネズミには見えなかった。相変わらず身長は伸びず小柄であったが、後毛がかかるうなじは白く細く、引き締まった腰からまろみのあるお尻へとかかる曲線はなんとも艶かしい。また控えめで大人しいところが清楚で可愛いなどと、被った猫に騙されている男共が、なんとも哀れであった。



 学園に入ってからの彼女は、暴言は減ったが、今度は下らない悪戯ばかりしてくるようになった。剣の鍛錬後の俺に差し入れだと言って熱いお茶の入った水筒を渡してきたり、歴史の教科書を貸して欲しいといわれ貸したら、戻ってきたら偉人のおっさん達の肖像画全てに猫耳と髭が落書きされていた。お菓子を手作りしてきたから食って欲しいと頼まれ、渋々食べたら一つだけ激辛だったりもした。その時は悶絶して水を懇願する俺をしばらくにやにや見つめた上に、渡してきたのはめちゃくちゃすっぱい果実水だったんだぞ!マジで女じゃなかったら殴ってたかもしれない。



 1度俺が別の女に言い寄られてた時もあいつは通常運転だった。その女は愛らしく庇護欲を誘うような態度で俺に近寄ってきて、とにかく俺を褒めちぎってくれた。ようやく来たモテ期に浮かれてたら、そいつは俺よりもっと条件のいい男にあっさりと乗り換えていった。ジュリエットはポイ捨てされた俺を見て肩を震わせて笑ってた。笑いすぎて腹筋がつって痛い痛いと言いながらも笑ってた。……その日俺は自室で1人で泣いた。


 それからはもう懲りてジュリエット以外の女とは親しくならないことにした。女なんて…女なんて…!でもジュリエットは婚約者だから関わらないわけにはいかない。それに幼き頃からの目標を今更諦めるわけにはいかなかった。ジュリエットを俺にメロメロにさせて、今までの所業を土下座して謝らせるのだ!そ、そしたら婚約を続けてやってもいいかもな。



 それからはそこそこ平和な日々が過ぎたが、今度はジュリエットに言い寄る男が現れた。そいつは俺を弄んだ女に心酔し、婚約者に婚約破棄を突きつけるまでしたのにあっさりポイ捨てされたバカで哀れな奴。だけど勝手に婚約破棄したことで実家での立場が危なくなり、大人しい(ように見える)ジュリエットに目を付けたのだ。だけどそんなポッと出の男に簡単にジュリエットを取られてはたまらない。俺が今までどれだけ努力してきたと思ってるんだ!ジュリエットの前に立ちはだかる俺。そうしてバカ男と俺が睨み合っていると、ジュリエットがバカ男に1つの提案をした。


「今度の試験で、座学、体術、礼儀作法の全てで彼より上位になったならば、あなたの求婚を受け入れます。」


 なんだとぉ⁉︎お前そんな簡単に婚約者乗り換えちゃうの⁇俺とお前なんだかんだもう6年も婚約者してるのに⁇


 と、腹が立った俺はそれから猛勉強に励んだ。休み時間も放課後も勉強勉強、寝る前には日課の腹筋とスクワットを2倍にして、朝は日が昇る前に起き出してランニングと素振り。さすがに申し訳無く思ったのか、放課後の勉強にはジュリエットが付きっきりで教えてくれるようになった。さすが毎回5位以内に食い込むだけあって、分かりやすい。でも、その日の範囲をまとめたジュリエットお手製の簡易テストで8割取れないと、めちゃくちゃ苦い薬草茶を飲まされた。あと、教えてくれる時とかに不用意に近づいてくるから、ふと香ったいい匂いに寝る前とか悶々とさせられた。あいつは協力してるのか邪魔してるのかどっちなんだ!


 そうした努力のおかげで、俺は圧勝した。初めて10位以内に入って、俺は教師達からめちゃくちゃ褒められた。あのバカ男も体術の試験でボコボコにしてやったから、しばらく近寄ってくることはないはずだ。


 でも、なんだか最近ジュリエットの様子がおかしい気がする。元気がないというか、覇気がないというか。憎まれ口も以前より張り合いがなくて、なんだか肩透かしをくらった気分だ。もうすぐ卒業で、俺達も領地に戻る。俺は次期伯爵として領地経営に関わるから忙しくなる…。……ん?そういえば卒業したらあいつはどうするんだろう。勝手に領地に戻るのだろうと考えていたが、そういえば何も聞いてなかった。……結婚?でもそういう話は親からも何も聞いてない。え、マジか。俺、婚約者の卒業後の進路すら知らないのか。え、え、どうしよう。まさか本当に婚約解消とか…?え?え?



 混乱しながらジュリエットを探していると、学園の中庭に拵えてあるテーブルセットに何やら数人と座っている後ろ姿を見つけた。どうやら一緒にいるのは…王子殿下とその婚約者の公爵令嬢じゃないか⁈公爵令嬢とは気が合うのか、たまにお茶をしたり昼食を一緒にしているのは何度か見かけたけれど、そこに王子殿下も加わってるのは初めて見た。…声かけられねぇー。というか恐れ多くて近寄ることもできねぇー…。どうしよ。


「…で、…なの。……だと……しいわ。」


 どうすることもできなくて中庭の木の後ろに隠れていると、風の向きが変わったのか声が途切れ途切れだが流れて来た。俺は必死に耳を済ませる。


「君のよ……素敵…令嬢…王宮で……母も望んで…よ。」


「私も…一緒だと…心強…。殿下の…なる……ましょう?」


 え!どういうことだ!


 必死に聞こえてきた単語を繋ぎ合わせる。まさかまさか…⁉︎俺はパニックになって固まった。冷や汗がだらだら出てくる。まさかまさかまさか。王子がジュリエットを素敵な令嬢だって褒めて。王妃も望んでいる?公爵令嬢と一緒?まさかまさかまさかまさか⁉︎


 側妃……?



 頭をガツーンと叩かれたような衝撃が走る。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。


 頭を抱えて蹲る。落ち着け。俺はあいつを別に好きなわけじゃない。あいつだって俺のことを好きじゃない。だから今までたくさん努力して…。ただひとえにあいつを俺にメロメロにしてやりたくて…。あいつに今までの態度を反省させて…。婚約を…解消…?


 か…い…しょ…う…?


 頭の中に今までの思い出が駆け巡る。ネズミみたいだった幼い頃。愛想笑い。無愛想な横顔。苦笑。ドヤ顔。猫かぶり営業スマイル。照れた笑顔。拗ねた横顔。(笑いすぎて)ぐしゃぐしゃ泣き顔。長い睫毛、耳の形。


「トミー?」


 彼女が俺の名前を呼ぶ時、いつも少しだけ舌ったらずな言い方になる。幼い頃からの癖なのだろう、でもその言い方が俺は実は気に入っていた。そういえばいつの間にか、愛想笑いじゃなくなった。本ばっかり読んでないで、俺の話も聞いてくれるようになった。どんなに人前で猫をかぶっていても、俺の前では、俺だけの前では、いつもそのまんまのジュリエットだった…。


「トミー?」


 もうダメなのだろうか。変な意地なんてはらずに、甘い言葉を囁いて、笑顔で言うことを聞いていればこんなことにはならなかったのだろうか。


「トミーってば!聞こえてないの?」


 なんだかさっきからうるさいな…?⁉︎⁉︎


 ゆさゆさと肩を揺さぶられて、やっと本当に呼ばれていたことに気付いた。幻聴かと思ってた。


「こんな所で何してるの?頭でも痛いの?」


 ジュリエットが心配そうに俺の顔を覗いてくる。俺の肩や頭の上に載っていた葉っぱを手で払って、そっと俺の額に触れる。少し冷たい、小さな手。


 その手に自分の手を重ねて、ぎゅっと握った。いつの間か、こんなにも差が出来ていた。自分の硬くてタコだらけの手に、すっぽりと覆われてしまう、小さな手。


「ちょっ、トミー、どうしたの⁇」


 慌てた様子のジュリエットを見て、覚悟を決める。俺は勢いよくジュリエットの手を離し、両手を思い切り地面につけた。


「婚約解消しないでください!あなたを愛しています!どうか俺と結婚してください!」


 頭を地面に擦り付けて懇願する。


「ト、トミー⁉︎何してるの⁉︎」


「幼い頃の強がりは今ここで心から謝罪します!俺の結婚相手はあなたしかいません!大好きです!」


 喉が枯れるくらいでかい声で叫ぶ。彼女を引き止められるなら、今ここで喉が枯れてもいいとも思えた。


「どうしちゃったの、トミー…⁉︎とりあえず頭を上げて、ほら!」


 困ったようなジュリエットの声。これならイケるかもしれない。あとはどうする?泣き落とし?


「…何か彼は誤解しているようだから、とりあえずこっちに一緒に座ってもらったらどうだい、ジュリエット嬢。」


 おずおずといった調子で、俺達に声をかけたのは王子殿下だった。公爵令嬢は完全にドン引きしていた。


「ご配慮ありがとうございます…。ですが2人でゆっくり話したいと思いますので、この場は辞させて頂いてもよろしいでしょうか?」


「分かった、許可しよう。先ほどの返事は、彼にも納得してもらってからで構わない。」


「ありがとうございます。トミー、こちらへ。」


 そうして完璧な礼をしたのち、ジュリエットは泣く寸前の俺を無理やり引っ張って中庭の奥にある四阿に連れてきた。俺を何とか座らせたのち、ハンカチを取り出して、土に汚れた俺の顔を拭いてくれる。


「一体どうしたの?貴方らしくない。」


 優しい声。優しい指先。誰にも渡したくない。俺は何も考えられずに、そっと彼女の頬にキスを落とした。


「君が好きだ。俺と結婚して欲しい。側妃になんか…ならないでくれ。」


 きっちり5秒は固まったかと思うと、ぼふっとジュリエットは真っ赤になって爆発した。


「な、ななな…⁉︎そ、側妃って何のこと?いきなり何?」


「え、だってさっき殿下から側妃への打診の話があったんじゃないのか?王宮がどうとか王妃も望んでいるとか…?」


「ち、違うわよ!今女性の官吏登用を王妃様が進めてらして、私も成績を評価されてお話があっただけよ!どうして側妃なんて話になるの⁉︎」


「え?????????」


 つまりこうである。俺が途切れ途切れに盗み聞きした話の全文は、

『君のように優秀で素敵な令嬢が王宮で働いてくれることを母も望んでいるよ。』

『私も卒業後も一緒だと慣れない王宮で心強いわ。殿下の治世の支えとなるように、共に頑張りましょう?』

ということだったわけだ。俺がぐるぐる悩んでいたおかげで、聞こえてきたワードに過剰反応してしまった。恥ずかしい。穴があったら入りたい。


 今度は俺が真っ赤になって、後ろ向きに倒れた。なんてザマだ。誤解して土下座しながらプロポーズなんて…カッコ悪すぎる。いっそ今ここで喉をかっきって死んでしまおうか…なんて物騒なことまで考え始めた俺の顔をジュリエットが覗き込む。


「でも…嬉しかった。私こそ小さい頃はごめんなさい。あの頃は周りから色々言われてハリネズミみたいになってたの。私も努力家で、可愛いあなたが大好きよ。結婚しましょう?」


 そうして俺の額にジュリエットがキスをした。これが2人が初めて素直になった日のこと。




 あれから卒業後すぐに俺達は結婚した。ジュリエットは王宮でばりばりキャリアウーマンとして働きながら伯爵夫人としても立派に務めを果たしてる。俺は王都と領地を行ったり来たりしながら、なんとか次期伯爵としての実績を積んでいる。俺達は、結婚しても実はあまり変わらない。相変わらずジュリエットは小憎たらしいし、要求が高い。悪戯だってしょっちゅうだ。言い争いがエスカレートしてケンカになって別室で寝ることだって珍しいことじゃない。だけど、次の日には必ず一緒に朝食を食べたくなるし、そうすればどちらからともなく謝りたくなる。そして仲直りのキスをするのだ。それが俺達の日常。

作者は懇願する系ヒーローが大好きです。あと、大事な所で決めきれないヒーローも大好きです。でも無意識にでも好きな女の子のために変わる努力のできるヒーローが1番カッコいいと思ってます。ジ○リでもハウル推しです。(でも1番イケメンなのはパズーだと思う)

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