表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/143

19 第二試合

 

 第一試合が終わった後、エルはオレの新たな武器を調達してくると言って、オレが自分でやると言う前に走り去っていった。

 

 そんなんだから、トボトボと怪我はないものの壁に打った背中をじじ臭くさすりながら歩いていると、第三試合の選手であろうテレル様ともう一人が向こうから歩いてくるのが見えた。


 すれ違う際に軽く会釈はしておこうと思っていると、まさかの端を歩いているオレの前にテレル様が立ち塞がった。


 下から向けられる空色の瞳は結構冷てぇ。この人体小さいのになんでこんな威圧感出せんだ。


「打たれるだけではその先には成長できないぞ。お前も動け」

「え? あ、はい」

「分からない内は返事をするな、馬鹿者」


 それだけ言って彼はオレの横から通り抜けていった。え、唐突に怒られた。でもテレル様だから何か意味があって言ったんだろう。


 観客席まで行くと、皆二試合目が開始するようで競技場に釘付けになっていた。けど、トーナメント的に次にオレが当たる相手だろうからって寮の連中がオレに最前列を譲ってくれた。

 誰が戦ってんだろと見てみれば、今日の開会式前に出会った怖い先輩二人と、おそらく同じく三年で先輩であろう貴族だ。


「にゃは、雑魚どもがオレ様にどうしかけて来んのかなぁ?」

「声が出る内に敗北宣言できるといいねぇ」


 舞台に出てくる悪役みたいだった。きんきらきん頭は素手で、赤の侯爵子息は長刀の木で出来た模擬刀を持っていた。きんきら頭の特徴的な笑い方が悪役感を増長させている。


 トーナメント制だから、この試合で勝った方がオレらと当たるんだよな。くじを引いたエルがこの二人の名前を見て真っ青になるのも仕方ねぇ。どうか、この悪役感満載の恐ろしい二人が勝たないことを祈る。


「第二試合開始!」


 審判の掛け声を合図に赤の侯爵子息が一瞬で間をつめ剣を振るうと共に血が散る。


 って、血ぃっ⁉︎ 真剣持ち込み禁止ですけど⁉︎ いやでもさっき木の模擬刀だって思ったから……刃物じゃないのに切れたってことかよ……え、なにそれ怖っ。

 どうすりゃそんなこと出来んの? そしてなんでそれを躊躇なく実行出来んの? 処刑担当の家の出身だからか?


 上腕部をまさかの木製の模擬刀で切られたものの、流石本戦出場者、怯まずに向こうも木刀を振ってる。けど赤の奴はしゃがんで避けている。そしてそのままどうやったのか分からんが、下から顎を蹴り上げていた。見事なクリーンヒットに歓声が湧く。


 ひえぇ……菖蒲戦の時も強ぇとは思ったけど、もうヤベェよ。


 一方きんきら頭は、何もしていなかったのか呑気に欠伸している。その相手はと言えば構えたまま動かない。


「テウタテス、片付けるならさっさとしなよぉ」

 さっきの一撃で相手さんが倒れ伏したのか、赤の侯爵子息がそう声をかける。


「向こうさんが動くの待ってんだよ」

「動くと思う?」

「思えねぇな。だからこそ、ムカつく。同じ三年だからオレ様のことよく知ってんだろうなぁ。お前さんにやられた方が多分マシだって戦うの避けられてんだわ」

「君みたいなバケモノ相手に立ち向かおうとする人間ってなかなかいないだろうねぇ」


 その言葉に会場、主に緑系統の貴族が多い辺りが不穏な空気を醸し出す。


 うん、まぁ……人をバケモノ呼ばわりはどうよと思うわな。とはいえさっきから伯爵子息なのに侯爵子息に敬語使ってないからか貴族連中にはきんきら頭も結構眉を顰められていたけどよ。


「にゃは、そっかぁ。そうだよなぁ、戦意喪失してんのはイラつくけど人間様は弱いもんなぁ。じゃあ、バケモノであるオレ様はバケモノらしくしてやっかぁ!」


 だが、当の本人は別に不快に思っている様子は無く、むしろ納得したように手を叩いてみせる。


「なぁなぁ、敗北宣言の権利あんのってデアーグがやった方だよなぁ」

「多分ねぇ、最初に俺がそのこと言った時に反応したから先に潰したんだしぃ」


 二人の会話に残り一人となった相手はビクつきながら、自分のペアの名前を呼ぶが反応しない。しょっぱなに仕留められたからな。


「じゃあ、出入り口に行かせなければほぼオレ様にしか終わりは決められねぇって訳か」

「そうなるねぇ」

  嫌な予感がする。当の本人も目の前の会話の内容から、恐れを抱いたのか唯一の場外判定が出るであろう出入り口へと逃げ出す。


 しかし、オレが次に見たのはきんきら頭に踏みつけられたそいつの姿だった。多分一瞬で距離を詰めて、地に叩きつけたんだと思うけど、すげぇ速さだ。


「お前、ばっかだなぁ。本戦出場者であろうながら、恐怖で試合から逃げるだなんてなっさけねぇ話。試合開始前からビクビクしちゃって情けねぇったらありゃしねぇの。なぁんで、そんな怯えてんのかなぁ?」

 

 自分はかがみ、相手の髪の毛を引っ張ってそう言う様は恐喝しているゴロツキのようだった。少なくとも貴族の坊ちゃんがするとは思えねぇ所業だ。ち、治安が悪ぃ。

 しばらくは、そうやっていたが何か見つけたのか急に笑い出す。


「お前、このピアスの色……他の緑の伯爵家の奴か。はっはぁ……だからびびってんだぁ! うちの家みたいに半殺しとか嫌だもんなぁ!」


 ちょっとまて、今とんでもねぇ言葉出てこなかったか?


「テウタテス!」

 オリス様が咎めるように、観客席から珍しく声を荒げている。

 オリス様はこういう弱い者虐めとか嫌いだろうな。まぁ本戦まで上がった人は一般的にはオレみてぇに弱者扱いはされないだろうし、当人も多分貴族でプライド高ぇから嫌がるだろうけど、今回の場合は相手がもう人間離れしてるから話は別だろうな。


 それでもきんきら頭は止めない。


「ははやっぱ、お前にゃオレ様には勝てねぇなぁ。だから楽にやられたいんだろうなぁ。にゃはぁっ、クソがよ‼︎」


 凄まじい罵声にオレの耳がキーンとする。至近距離で聞いた言葉を向けられた当人の鼓膜は破れていそうだ。


「うんとかすんとか言ったらどうなんだよ。それとも声も出ねぇって言うのか?」

「たぶん、もう聞こえてないよぉ。気絶してる」


 そう赤の貴族が冷たい声で指摘する。相手を見下ろすその顔は生憎ここからは見えねぇけど、後ろ姿だけでも声同様に顔や視線も温かいものではないのだろうと思った。


 鼓膜破れるどころかまさかの気絶。


「………………あ、そ。だから弱い奴は嫌いなんだ」


 素っ気ない声とは裏腹に ダンと凄まじい音と共に、気絶した生徒のすぐ側が大きく凹む。

 ひええ……深さが半端ねぇ。あれで頭でも踏まれでもしたら潰れた果実みたいになること間違いなしだ。


 つーか、さっきから地面が壊されてばっかだ。


 審判が二人の戦闘不能を確認し、勝者は決まった。

 まさかの一人はすぐに倒され、もう一人はきんきら頭に恐喝され逃げ腰になった挙句、びびって気絶って。


 俺らの一試合目といい、この二試合目といい碌なもんじゃねぇ。


 試合会場はまだ二試合目しかやっていないが、陥没している箇所が複数ある。


 そんな前の二試合の所為で、会場の空気は微妙だった。けど3試合目の出場者を見てオレはホッとした。


「北、テレル・ドロッセル・レトガー、クロッツ・ヴォーゲ・シュリーマン」


 なんだろう、テレル様の名前が出るだけで謎の安心感がある。


 けどテレル様は、兄であるオリス様のネームバリューが半端ない為「あの人の弟?」「弟の方はあまり知らないな」と周囲が口にする。どうしてもオリス様の兄弟としてまず見られるんだよなあの人。ま、当然っちゃ当然か。


 そんでペアは菖蒲戦でさっきの赤の貴族に負けた紫の貴族だ。あの時、同様かっちりした雰囲気で、テレル様と揃うと軍学校の真面目な貴族学生の見本って感じがする。


 そんで相手はオレの現同室の後輩ビト君とオレの知らない一年生だ。でもすげぇ、オレが知ってる人が3人もいる。そっちも名前を呼ばれる。


 すると、


「ビトだとか言ったな、お前、ヴァイオレット様の護衛ではなかったか?」

 クロッツ様がそんなことを口にし会場がざわつく。ヴァイオレット様って確か、紫の公爵令嬢だよな……。そんな方の護衛って。


「そうっすよ。正確に言うと護衛なんて大層なもんじゃなくて、小間使いみたいなもんっすけどね」

 人々の視線が集まる中、ビト君がけろっと答える。


「なんでここにいる」

「ヴァイオレット様が学生生活してらっしゃいとのことっす」


 ははは、平民なのに綺麗な顔してるって思ったら、やっぱりただもんじゃなかったか。公爵令嬢の小間使いって、並みの平民じゃなれねぇぞ。しかもビト君13か14の筈なのに。ああでも年が近いってことで選ばれたってことも。


 いやそれでもなんでそんな子が普通に平民寮に入ってオレと同室なんかになってんだろ。もう一人の同室者のヘスス君もさっきの試合の感じからもうただ者じゃねぇし。とんでもねぇ平民の生徒がオレと同室になってんだが。なんなの? そういう流行りでもあんの?


「あの方のご命令なのか。ヴァイオレット様はきっと小間使いの君に自由時間を与えたのだろうな」

「そうなんっすよ。俺の主は優しい方っすから」

 パッと笑ってみせるビト君に対して、クロッツ様は無表情でいる。


 そうこうしている間に審判が準備をするように言う。


「第三試合開始!」

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ