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鍵9‐1 赤と緑のバケモノ達(第一章の後ごろ)

デアーグ視点です。

 

『赤は執着が酷いねー、学習すればー』

 少し前に緑のチビに言われた言葉を思い出し、俺は拳を握った。


 一般的に見れば俺は歪んでいるのだろう。俺は異常な執着心を持っているのだろう。

 それを指摘されたところで、俺の全ては兄上とエルであることに変わりはない。その二人といる為ならなんだってする。


 だけど大切にしていないと否定されたのはムカついた。


 エルが大好き。エルが大切。でも、兄上が大好き。兄上が大切。

 だからエルに教えるんだ、何が俺たちにとって正しいかってねぇ。


 強要だとか文句を言う奴らはいるけれど、人間誰の影響も受けず、誰にも影響を受けさせず生きることは不可能なんだよぉ。

 

 みんなの言う普通も実際は何かの都合で決められている。無自覚にみんななにかを強要させてるのに気づいてないだけなんだよねぇ。


 俺はそれを自覚しているだけ。他人の目にうつりやすいだけ。


 大切だったら、押し付けるなとか、そう言う文句はねぇ、それ自体も思考の押し付けだ。

 俺は自分の思考をエルに押し付けているなんて百も承知だ。だけど、それがエルを愛してない、大切にしていない理由にはならないと思っている。


 言語はあくまで手段であるから、俺の愛や大切が他人に否定されても、その人と俺とで言葉の定義がずれてるだけだと思っている。


 歪んでも愛です。

 押し付けても愛です。

 この激情が愛です。


 エルと兄上と一緒にいたい。エルや兄上を傷つけるものは排除したい。


 俺のエゴだ。

 でも所詮人間みんなエゴで動いている癖に無駄に綺麗事に拘っているだけなんだよねぇ。良い人ぶって自分を正当化したいだけ。俺のは綺麗事を取っ払って醜く見えてるだけ、過激に見えてるだけ。


 理解されたいなんて思わないよぉ。だって俺の感性は俺のものだもの。


 努力すれば分かると思っている奴らは苦手だ。

 努力すれば変化させられると思ってる奴らは嫌いだ。

 天とかいう意味わからないもんに盲目的に信じ自分が正しいと思って口出ししてくる奴も嫌いだ。


 俺の望んでるのはそんなことじゃない。俺が望む事は、黙っている事。部外者は俺らに口出ししない事。


 どうせ突っかかってくる連中なんて、俺らのことなんてどうでもいい癖に良い子ぶりたいだけだから。


 わざわざ自分の愛の種類に名前をつけようとも思わない。

 だけど、世の中に臨まれた穏やかな愛ではないことは知ってるし、する気もないのぉ。それじゃあ俺達は駄目なんだ。駄目だったから、今こうなっているんだもの。


 特にエルを大切にする為なら、エルがそいつを大切にしてようがなんだろうが、エルを傷つけるものなら排除しないといけないって分かってるからぁ。


 どれだけエルが慕っている奴だろうが、エルを傷つける奴は傷つける。だってエルは特別だもの。


 兄上は俺らに正しいからその通りにするのがいいんだ。エルが何か文句を言うなら宥めるよぉ。


 エルに文句を言われると苛立ったり、悲しくなったりする。


 でも、俺がエルを嫌う事は未来永劫無い。

 エルが何をしようと、エルが俺を裏切ろうと、俺はエルが大好きだ。


 それにエルは優しい子だから、周りのことをすぐ信じちゃうっていうことを知ってるから、ああいう反抗も仕方ないものだって落ち着いている時には分かっている。


 「普通」なんて俺らが求めたってどうしようもないのにね。


 ……他人に異常扱いされたって構わない、勝手にしろ。普通だと自分勝手に思ってる奴の妄想だから。

 結局はそれはそれでしかないのに普通だったり、異常だったりそれぞれ勝手に名付けてるだけだから。そんで自分を普通だと思ってずっと生きている奴が一番タチが悪い。


 確かに世間様の一般的の枠から外れてる。それでも赤の中では結構ありがちなことなのだから、人の評価ってその場によるものだってよく分かる。


 緑のチビは「バケモノ」と自分の同類の前で言うなと釘を刺してきたが、以前緑の別の奴に言った時はそいつは「うん、そう。オレ様はバケモノだ。で、お前も別種だけどバケモノだろ」と返してきた。


 そうだよ。俺も誰かをバケモノだと思うように、俺も誰かのバケモノなの。そしてその誰かがとっても多いから俺という存在は一般的に見ればバケモノなんだよぉ。


 だから世間様とやらから見れば決して普通の人間なんかじゃない。俺も兄上も、エルだってそう。だからね、わざわざ無理に世間様の普通に溶け込もうとするのはやっぱ無謀なんだよぉ。


 だって、辛い目に遭うだけだもの。


 俺は自分がバケモノだって思ってる奴のことは理解できないし、する気がないもの。変に理解しようとしたり、分かろうとするとお互いが損害を被るもの。割り切ってお互いがお互いをバケモノだって思っていることを知りながら関わるか、そもそも関わらないのがいいのぉ。


 最初から拒否されるのもまぁ最初のうちは辛いけど慣れてくれば大丈夫。

 でも無理して相手に合わせたりして分かりあおうとして時間を共にしたのに結局拒否反応示されたり、裏切られて利用されたりするのが一番残酷でしょぉ?


 エルはただでさえ人に心を傾けやすいから心配なんだよぉ。


 手の平返されて一方的に傷つけられるくらいなら、最初からお互いを切り捨てた方がいいもの。


 だから俺ら世間のバケモノが世間に溶け込もうとするのはなんも良いことないの。



 普通だと思い込んでる連中が結局行き着くのは、俺らを迫害するか、利用するかだもの。



 そういう奴らは碌でもないって、エルはなんで認識してないんだろう?


 兄上はエルに甘いから、そういう人たちとエルが関わりたいと願ったら結構許しちゃうけど、俺は結局その終わりはエルが傷つくだけだと思っているから、その相手との関係を断ちたくなる。


 ねぇ、エル……俺と兄上がいればいいじゃん。



  ***



 国立軍学校の時計台のてっぺんでその少年は大きな欠伸をしていた。


 二十センチ四方しかない、そこに片足で立っているというのに不安定さは一切ない。

 高い位置で結ばれた橙色に近い金髪が勢いよくたなびく。そんな風も、ものともせずにそいつは時には宙返りしてからすぐにのびまでして見せる。


 相変わらずとんでもない身体能力をしてるねぇ。流石、緑といったところか。でも伯爵レベルであれは珍しいかなぁ。


 放課後の鐘がなると、少年はてっぺんから降り、屋根を滑ってから綺麗に時計裏のメンテナンス用の空間に入っていくのが見えたので、俺は時計台の中に入る。


 階段を登る際にこの前負傷したところが痛んで苛つく。なんとか登りきれば、「よっ!」と金髪の彼が手をあげる。大方上から俺のことを見ていたんだろうねぇ。


「相変わらずサボり魔だねぇ、テウタテス」

「やっと授業が終わったな、真面目なデアーグはお疲れさん。噂で聞いてたけど随分、あの泣き虫にボコボコにされたみたいで」

「キミの言ってた通り、力だけあるねぇ、あのチビ」


 俺が吐き捨てるように言った言葉を、緑の伯爵子息は喉を鳴らして笑う。


「でも、腕に傷を負わせることが出来たなら上出来だと思うぜ。同じ緑のオレ様がベッド送りになるくらい頑張っても骨を二本折るのが精一杯なバケモンだからな」

「バケモンねぇ、そういやあのチビさぁ、自分はともかくキミみたいな奴を化け物って言うなだってさ、どう思う?」

「ははっ、自分はともかくって、あいつが一番気にしてるよ。オレ様はバケモンだって自覚してるから傷つかねぇけどなぁ。だって上級貴族なんてほとんどバケモンだろ?」


 紅蓮色の瞳をそうカッと見開く彼に、青林檎の飴を投げてやれば、見事にキャッチし、口に入れ噛み砕く。

 本当、こいつは馬鹿だけど馬鹿じゃないんだよねぇ。


「キミって、オリス卿のこと大っ嫌いだよねぇ。ま、俺と一緒だけどぉ」

「……そりゃあなぁ、涙で池を作れるんじゃねぇかって程、泣いてた泣き虫ちゃんが、強がってんの見るとゾワっとすんだわ」

「強がってるねぇ? 俺には今でもただの甘ちゃんに見えるけどねぇ」

「にゃはっ、それも間違ってねぇぞ。強がってる割には中身が甘ちゃんだからムカつくんだ。ザコどもをなんも見返りも求めずに助けるなんて、オレ様からしてみれば反吐が出るね」


 顔を思い切り顰める彼の左耳には黄緑色がメインのピアスが付いている。だが、他にも黄色が使われてる。また、右耳には赤と紫のピアスが付いている。自分の所属する系統以外の色のピアスをつけるのはマナー違反だ。


「キミって、緑系統っぽくないよねぇ」

「まぁ、金髪に赤の目なんて緑で他にいねぇもんな。お陰で幼い頃は髪坊主にされそうになったわ」


 自身の眩しい金髪を引っ張りながらそうテウタテスは口にする。



 ああ、彼は色を気にする家に生まれたんだっけ。緑にしては珍しいねぇ。


 緑系統だけなぜか系統名にそぐわず灰色とか亜麻色とかそういった色を持った奴が生まれやすいから、気にしないと思ったけれど、流石に目が赤、髪は金となると緑と対立している赤と黄の系統を想起させるから駄目かぁ。


 マイスター家はあまり見た目の色は気にしないが、俺は割と系統にあった色をしていると思う。エルも母親ではなく父親よりの容姿をしているから赤よりだしねぇ。あっちの要素は見た目ではほとんどないもの。


「うちのエルピス・キスリングのとこの姉弟と似たカラーリングだもんねぇ」

「おえっ、あのべったり姉弟引き合い出してくんなよー。割とオレ様は自分のこの見た目気に入ってんだからよ」

「緑の公爵令嬢に褒められたから?」


 その令嬢を話に出すと彼の表情が少し強張った。


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