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鍵8 平民の少女が望むこと

フェイスちゃん視点です。

 


 私、フェイス・エヴァンズの両親は家の火事で亡くなった。そうなっている……だけど、私は知っている。両親は殺されたんだと。



 あの日、私達の家には誰かが来た。弟のロキは友達と遊びに行っていて不在だったけれど、私は彼らの帰宅時間が早かったから、早く家に帰ってきていた。


 母は家の中で私とロキ、そしてエル兄さんの冬用にマフラーを編んでいたし、父さんは何かの研究に没頭していた。私はそれを眺めていた筈だった。


 なのに、私は目が覚めたら外にいたんだ。ロキの泣き声で目が覚めたんだ。そしてその後は家が燃えているのを呆然と見ていたんだ。


 よく分からないけれど、燃え盛る家に入ろうとする私をエル兄さんは抱きしめて止めてくれたのを覚えている。


 「ごめんね、ごめんね」と何に謝っているのか分からなかったけれど、泣きじゃくる私とロキを抱きしめて慰めてくれた。


 両親は燃え盛る家の中で死んだと知らされた。


 正直、自分はなんで家にいたのに外にいるのか不思議に思ったけれど、夢だろうと自分の考えを塗りつぶすことにした。


 だけど、翌日、寂しさを埋めるかのように家の近くの木に登って寝ていた時だった。ロキは酒屋のおじさんの家でショックで寝込んでいた。

 エル兄さんは私を心配したのか、出て行く時について来ようとしたけれど、ロキについていてと頼んだ。なかなか引き下がらなかったけれど「一人になりたい」と本音を零せば渋々引き下がった。


「火事で処理されたか」

「されたみたいだ。今回は、隠蔽も結構やったみたいだな」

「予定では四人全員の筈だろ」

「ガキ二人は流石にやめたそうだ。お陰で俺たちもそこまで胸糞悪いのを見なくて済んだ」

「そうか……どんな奴であろうとガキの死体を見たら夢に出そうだ」

「俺らがやらずに済むのはいいけど、本当にあの仕事をこなすのって正気の沙汰じゃないよな」


 見知らぬ男二人が家の跡地で話していた。近所の人は仕事か家事をしていたので、周りにいなかったから油断していたのだろう。


 何を言っているのか分からなかった。いや、受け入れるのがすぐには困難なほど衝撃的な内容だったのだ。

 不穏な言葉達から察せられる、私が夢だと判断したものはやっぱり真実で、両親が殺され、私は子供だからという理由で殺されなかったという事。

 その時、声を出さなかったのは自分でもよくやったと思う。


 お陰で彼らに見つからなかったし、その男達の姿を言葉を脳裏に記憶することが出来たから。


 軍の系列なのはその隊服からわかった。でも、普段町の見回りをしているような連中とは微妙に隊服の作りが違った。黒に灰色の縁取りをした地味な色合いの隊服。


 その数日後、久しぶりに会った彼らに、その隊服の特徴を聞いてみた。おそらく紫の上級貴族であろう彼なら知っているだろうと思ったから。すると、軍の調査隊の隊服だと判明した。

 しかし、調査隊の隊服を聞いてきたのが不審だったのだろう。どうしてそんなことを聞いてきたのか聞き返してきた。


 私は彼らを信じていたから全部、話したんだ。


 だけど、自分より三つ年上の青い瞳を持つ少年は言ったんだ。

「そのことは誰にも話すな。そして、危険な目に遭うから忘れろ」と。


 忘れるなんて出来るはずがないし、忘れるつもりもなかった。


 その上、紫の瞳を持つ年下の少年も「代わりにボクがなんとかしますから」と言った。


 それで確信した。ああ、私の両親の死には貴族が関わっているんだなと。軍が関与している時点で察してはいたが、彼らがそこまで言うとなるともうそれ以外なかった。


 勿論、私はそこで大人しく引きさがれるようなタチではなかった。


「何か知っているなら話して」


 そう頼んだ。だけど二人は口を噤んだ。そうして、その日から彼らが私の目の前に姿を表すことがなくなった。


 詳しいことは何も分からない。

 私に分かったのは、両親が殺され、それが事故死として隠蔽されたこと。私やロキにも殺される可能性があったこと。跡地に来た二人が軍の調査隊だと言うこと。その事実を知っていると知られたら危険なこと。軍と貴族がそれに関与していること。彼らが私に手を引くように行ったこと。彼らが私に食いつかれたせいか、私の姿を見せなくなったこと。


 その後は探れど探れど全く掴めなかった。


 エル兄さんにもロキにも何も言わなかった。だって、二人が危ない目に遭わせる訳にはいかなかった。特にロキは私と共に両親達と処分をされる可能性もあったから絶対に守り抜かなければと思った。


 私は、どうなったって良かった。貴族が関わっている事件だろうが、構わなかった。

 いくら隠蔽しようとも、いくら私を狙おうと構わない。もう目はつけられているのは分かっている。だけどその代わりにこっちも反撃してやる。


 どんな貴族様も上から引きずり下ろしてやる。必ず犯人見つけて両親の仇をとってやる。


 貴族の連中にとっては私は邪魔な雑草かもしれないけど、雑草だって生きてる。黙ったままでやられてたまるか。お前らに奪われたままで終わるようなか弱い平民の少女でいて溜まるか。


  ***


「カイさん!」


 どこで受付しようにもまともに相手されなそうだなと困っていたところ、エル兄さんの友人のカイさんを見つけて安堵する。


「久しぶりフェイスちゃん。入学おめでとう」

「ありがとうございます」

 人の良さそうに笑う彼を見て、なんとなく気が緩んでしまう。


 エル兄さんが国立軍学校に入ると聞いた時は心配したけど、目の前の彼とエル兄さんを話しているのを見て安心した。体のことがバレた時ようにあの本を渡しといたけど、結構早期にバレたみたいで流石に鋭い人なのか疑う。


「白制服って、Sクラスなんだなすっげ。色々あんだろうけど、頑張れよ。なんかあったら相談してくれていいからよ」


 だけど、呑気にそんなことを言って受付作業をする彼を見て、お世辞にもそこまで鋭いとは思えない。多分、エル兄さんのうっかりからバレたんだろうな。根っからのお人良しにしか見えない。


 こんな彼が両親の仇を討つ為に、軍の調査隊に入りたい、その為に国立軍学校に入る。なんて知ったらどんな顔をするだろうか。

 勿論、知らせる気は無いけど。目の前のこの呑気そうな兄分の友人を危険な目に遭わせる趣味はない。


「ありがとうございます。エル兄さんは?」

「エルは生徒代表……って、あいつ言ってねぇのかよ」


 カイさんもいるのだから、もしかしてと思ってそう聞いてみればそんな返答が返ってくる。


 エル兄さんは昔から自分のことをあまり話さないから。初めて会った時は、全く話さなかったし。体のこともあって、警戒心が強めなんだろうな。笑って誤魔化してるんだろうなって言うのもよく見かけるし。


 エル兄さんみたいに顔が良ければ、もう少し私も色々と隠すの上手くなるかな。どうしても、貴族相手への嫌悪感は表に出てしまうから。


「エル兄さんあんまり自分のこと話しませんから、教えてくれてありがとうございます。では」

「ああ、頑張れよ」


 クラスメイトがカイさんみたいに自分と同じ平民だったら良かったけれど、おそらく私が所属するSクラスは平民どころか、上級貴族の坊ちゃんどもしかいないから心配だ。彼らの片割れである紫の瞳の彼は年違いの為、会うことは無いが、彼の関係者がクラスメイトにいる可能性がある。


 女で平民って事で誰かしらに見下されるのは確定だけど、それにどれだけ耐えられるか。下手なことをすれば、また私の両親を殺した貴族に狙われるだろうし、彼の耳に入れば止めようとしてくるかもしれない。


 優しさからか、不都合だからかは分からないけれど、何にしても私は絶対にやめないよ。

 

 代わりになんとかするっていうのも嘘じゃないかもしれないけど、

 そうだとしても私は自分で両親の仇を討ちたいんだよ、と紫の瞳の少年を思い出す。

 忘れる訳にはいかないんだよ、と青い瞳をもつ年上の少年を思い出す。


 舐めるな、私は弱くない。犯人は勿論、貴族だからって平民を見縊っているルーやツーも含む貴族共に私が見せつけてやる。


 まぁ、どうせ二人とも姿を消したから実際にはあんな言葉は建前だろうけど。まだ、彼らをカケラでも信じようとするなんて自分も大概腑抜けだ。そんな甘い思想は捨てろ。


 私は奪われたまま終わらない。終わらせない。


 必ず、両親の仇をこの手で討ってみせる。



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