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鍵1 辺境男爵は昔、心配した(本編7年前)

 主人公とは全く別のおじさん視点です。時代も7年前です。


 とても綺麗な女の子を見た。


 パーティー会場である、赤系統のトップであるウアタイル公爵家の、王都の別邸。ダンスをするように設計された広いホールの窓際でその子はポツンと立っていた。


 会場に用意された食べ物や飲み物にも手をつけないし、誰にも話しかけにもいかない。明かりが当たらないような端っこでただ立っているのだ。


 おそらく7歳か8歳くらいの子供なのだが、誰も周りにいない。お付きの人さえも付けずただひっそりと存在していた。


 年の割に大人びたデザインのドレスを纏っているのだが、女の子の雰囲気と合い気品を感じた。たぶん、弱小貴族でこんなところに呼んでもらったことさえ奇跡な俺とは違って、かなり高貴な家柄の子供だろう。

 にも関わらず、その子は一人でいた。目立たないように息を潜めて、会場を見つめている。


 そこにキラキラした豪華絢爛なパーティーへの興奮や憧れいったプラスの感情は見えなかった。そのくらいの年の子なら当たり前の感情がそこにはなかった。ただ、見つめていた。否、睨みつけているというのが正しいかもしれない。


 豪華絢爛なパーティーが自分の身に合ってなくて、ダンスや高貴な人と会話しに行くのが嫌になったタイミングでこの子を見つけた。

 ポツンと立っているその子がどうも気になって、俺はその子に声をかけることにした。


「やあ、こんばんは」


 そう声をかけるとその子はまんまるな目を見開いた。紅茶色の瞳だ。


「こ、こんばんは……」

 おずおずと挨拶を返した女の子を見て、これじゃあ、不審者かなと思い、俺は自分の名を名乗ることにした。

「俺は〇〇○辺境男爵なんだけど、君の名前は?」

「………………エル」


 その子は家名を出さなかった。普通は家名を含め自己紹介をするのが礼儀なのだが、この子はまだ小さいし仕方ない。それに俺としても貴族界の礼儀に慣れていないので、別にのっとってなくたって全然構わない。


「じゃあ、エル。エルは、パーティー楽しくないのかな?」


 ごちゃごちゃ子供相手に探るのも面倒くさいので、俺はいきなり核心をつきにいった。子供の目が揺れる。そして、ほんの少しの空白の時間の後口を開く。


「うん、たのしくないよ」

「そっか、じゃあおじさんと一緒だ。俺もここより、お芋作りしてた方が好きだ」

「おいも?」

「ああ、高貴なお嬢さんには分からないかな?」

「ううん。おいもって食べもののでしょ。()かして食べるととってもおいしいよね」


 あれ? この子結構庶民派かもしれない。俺も領民には「領主様の割には村人みたいな暮らししてるわねぇ」と言われるような庶民派貧乏の貴族とは名ばかりの辺境男爵だが、この子もそうなのか? いや、でもその割には着てる茶色のドレスは高そうだし……でも、まあいっか。


「そうだな、()かして食べると美味いな。あと、スープに入ってるのもうまい」

「やさいスープは好き。ぜいたくな時にまざるベーコンもうれしい」

「確かにあれはいいよなぁ。この会場にあるやつとかは肉とかたくさん入ってるけど、あんなにあると逆に……たまに入るからこそうれしいんだよなぁ」


 嫁さんが作ったホカホカのスープに思いを馳せていると、その子は「おじさん、貴族らしくないね」と言った。


「はっきり言うね。でも、いいかな。俺はこういうところに合ってないしな。今回来たのも珍しく招待状が届いただけだしね」

「そっか、ぼくもこれが初めてだな。初めてきたけど、なんか合わないや。目がいたいし、おちつかないし、なんかきにいらないなぁ。それに、ぼくドレス着せられたし」


 ん?


「用意されたのがドレスしかなかった……ぼく男の子なのに」

「それは……凄い」


 随分変わった趣味のものがいるな。自分の息子に女の子の格好させるなんて、貴族の趣味は理解不能だ。確かにこの年の子だったら男女の性差も少ないからどっちに着せようがバレないと思うが、それを実行する変人がいるのか。


「おじさんはさ、たぶんこういうところにもう来ない方がいいと思うよ」

「いや、そもそも来るチャンスが滅多にないから大丈夫だと思うけど、なんでだい?」


 目線を合わせるように屈めば、紅茶色の瞳で真っ直ぐ見つめられる。


「これからしばらく、こっちの方は荒れるから」

「荒れる?」

「そう。ぐっちゃぐちゃになっちゃう。たぶんこっちにいればつけ込まれて、すてられちゃう。おじさんみたいな人は領地でみんなと仲良くしてるのが一番いいし、ぼくもそれがうれしい。おじさんはまきこまれないでほしいから」


 なんとなくただの子供の虚言や妄言じゃないと思った。だからこそ、俺はその子に聞き返したのだ。


「君はどうするの?」

「もう、まきこまれてる。にげられないし、にげたらダメ」

「そうか」


 覚悟を決めたその目がどうにも悲しかった。まだ、こんな小さな子供なのに。割と豊かな私の領地にいる同い年の少年は農作業を手伝いながらも、野山を無邪気に駆けずり回っているのに。


「おじさんはいつでもお芋作ってるから、辛くなったら食べに来てくれ」

「うん、でもしばらく行けそうにないから。おじさんの領地のおいも売ってたら、かうね」



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