挿話3 耳飾り
「カイは16になったらどんなピアスつけるの?」
ある昼休み、エルがそんなことを聞いてきた。この国では男は貴族は10、平民は16になると左耳にピアスをつける文化がある。
「オレか? ふつうに無難に黒とか灰とか茶じゃね」
日の光であったかい芝生の上であくびをした後、そう答える。
「そっか、藍色とか似合いそうなのに」
「お前はオレが王族への不敬罪で首刎ねられても構わないのか?」
藍色って、この国の王族の象徴色である青に近いから、下手したら罰せられる。たかがピアスで処罰されたらたまったもんじゃねぇ。
「そんなつもりで言ってないよ。普通に君の綺麗な目の色と同じだからいいかなーって」
「うわ、オレってばエル君に口説かれてる?」
「口説かれてくれる? オヒメサマ」
エルはオレの冗談に上品に笑って返すものの、その言葉の内容と紅茶色の瞳からは悪戯心が容易に読み取れる。こんにゃろう。
「そんなリスキーな提案してくる上、からかってくる奴には口説かれてやんねぇよ。紅薔薇の君さん」
嘲笑うようにそう言えば、エルは一瞬苦虫を嚙み潰したような顔になった。
「さん付けなんて可愛らしいね。オヒメサマ」
「そろそろやめねぇとオレもお前もメンタル抉れっぞ」
「うん、相手に言うの楽しいけど逆やられるとキツイね」
「お前なぁ……」
やっぱ楽しんでやがったな。
人に自分が嫌だと思ったことはやっちゃあいけねぇんだよな……とはいえ、相手の反応が面白いとやっちまうんだよなぁ。そう言うお年頃なんです。
ま、オレとエルは仲良いから軽口だって分かるし、お互いやられたらやり返すことが出来るネタだったからな。こういうのって気をつけねぇといじめみてぇになるからな。
「カイが優しいから調子乗っちゃったよ」
「お前、褒めれば許してもらえると思うなよ。ま、許すけど。オレも悪かったな」
「チョロいね」
「思ってても口に出すなよ。つーか、今のはお互い様だしな。で、ピアスだっけか?」
エルの奴、割と中身はクソガキだよな。
見た目とか物腰にのまれて大人びてるって思うこともあるけどよ、雑談してる時とか割と子供だ。
「うんうん、藍色つけないんだってね。残念」
「だから青に近いから無理なんだよ。黄とか赤とか緑とか紫とかその辺やそれに近い色も貴族と色被るから無理だしな。平民は貴族や王族に不敬な真似は出来ねぇっての」
となると選択肢がさっきオレがいった黒、灰、茶とか、あと金銀白くらいしかねぇんだよな。透明色も神殿の象徴色になるし、めんどくせぇなぁ。被らない色が少ねぇ。
「別に完全に被らなければいいと思うけどね……あと平民でも使用人は割とそういう色のピアスつけてるけどね」
「へぇ、そうなのか……なんでだ?」
「自分のものに名前書くのと同じだよ。貴族の所有の証。完全に何色ってのはあんまないけど、黒ベースに自分の家の色を少し足した奴とかよく見るよ」
成る程、使用人とかたくさんいて分かんなくなるだろうし、使用人も色分けされてんのか。
「あれか自分家の飼い猫にリボンつける感じか」
「うわぁ、凄まじい例え方するね……」
オレは逆にマイルドにしたつもりなんだが。
所有とか名前書くとか物に対する表現で、生き物に対する表現の仕方じゃねぇもん。
「となると貴族のピアスは家畜に識別用に番号書いたリボンを尻尾や足首につけて管理してるのと一緒だね」
「お前の方がよっぽどひでぇ例え方してるわ」
真面目な顔して何抜かしやがるんだこいつ。
貴族の例えに家畜はねぇ。聞かれたらそれこそ不敬罪だぞ。びっくりしたわ。
「いやだって貴族は平民みたいに選択肢ないでしょう。この家に生まれた子はこの色ねって決められてるんだから。左耳見るだけで分かる人は系統だけじゃなくて位は勿論、家名が分かるって言ってたよ。身分証明左耳につけて見せびらかしてるようなもんなんだよ」
言い方よ。
まぁ、確かにオレも校内で知らない奴に話しかけられたら左耳確認して、貴族かそうじゃないか、どこの系統かくらいは確認するもんなぁ。
貴族同士だったら家まで把握してんのかすっげ。
「女性がチョーカーつけてんのもあからさまに家の所有物ってのを示してるけどさ。貴族の男性のピアスもなんだかんだで自分の立場から逃げられなくするよね。だって、いつだって自分の立場が左耳見たら周りに分かるようになってるんだもの」
マイナス思考な発想すんなこいつ。女性のチョーカーについては似たような感想持ったことあっけどよ。貴族の男性のピアスもそうなると随分おぞましくなってくる。
「なんか怖いこと言うなよ」
「冗談だって」
冗談にしてはタチが悪いんだよな。エルはなんつーかたまにこういうブラックジョークみてぇのをさらりと言うからとんでもねぇ。
「で、カイはピアスどうすんの?」
「どうすんのって……つめたっ、お前の手は氷かよ!」
左耳をつついてきた指があまりにも冷たすぎて結構でかい声が出た。
そんなオレの反応をエルはくすくすと上品に笑う。
挑発してるんですかね? だが、そんな腹立つ姿でも、その顔と声の良さで悪印象をあまり抱かないものだから、つくづくこいつって外面に恵まれていると思う。それともオレが容姿の良い奴に弱いのか?
「冷え性だからね。カイは反応が面白いや」
「人をおもちゃにすんじゃねぇよ」
仕返しとばかりにほっそい首筋に手をピタって当ててみても、向こうはむしろ「あったかいね」と言う。くっそ、オレは体温高めなんだよな。舌打ちしてから手を離す。
「ロキとお揃いだね」
「それはなにか? オレは10歳とかそんくらいとおんなじレベルのお子ちゃま体温ってことか?」
「そうだけど、でも可愛いロキとおんなじってことは褒め言葉だよ」
「どんな理論だ、このブラコンめ」
名前が出てきた時点でこいつのブラコンは発動されるのは分かってたけど、たかが体温で自分の弟分と繋げやがった。
「ロキやフェイスは綺麗な緑の目をしてるから、緑色のピアスが似合うと思うんだけど、やっぱ貴族と被るから出来ないんだよね」
そのままエヴァンズ姉弟の話になった。ほんと、こいつはあの二人が大好きだよな。まあ、話はピアスの話に戻ったけどよ。
「確かに似合いそうだから、残念だな。ってか、フェイスちゃんはピアスじゃなくね?」
男は左耳にピアスだけど、女はチョーカーだから、フェイスちゃんは16になったらつけんのはオレらと違ってチョーカーだと思う。
「フェイスに首輪は似合わないもの」
チョーカーのこと首輪って言いやがった、いや、確かに首輪にも見えるし、オレも結構首輪みてぇだなって思ってるけど、流石に口に出しやしねぇっての。
「あの子は首輪つけて大人しくしているより、好奇心旺盛に駆け回ってる方が似合うもの」
今にも蕩けるんじゃないかって程、エルの紅茶色の瞳が優しくなる。
うん、これやべぇわ。オレでもなんかムズムズするもん。街中とかでこの顔したらいったい何十人悩殺されることやら。少なくとも、普通の奴が妹の話するだけじゃこうならねぇから。
「お前、ほんとフェイスちゃんのこと大好きだよな。重度のシスコン」
「勿論大好きだよ」
照れもせずによくそんなこと言えるなぁ。もう素直にスゲェと思うわ。オレら思春期だぞ。
「……なんで、そんな好きなんだ?」
思わず口に出してしまった後、ハッとして口を塞ぐ。
シスコンになんつー愚問を。
どうせ重度のシスコンのこいつのことだ、滅茶苦茶長いことフェイスちゃんについての賞賛が口から止まらなくなるに違いない。っち、しくじった。
「なんでって……そうだね……」
あれ、考え込んだぞ。速攻褒めるかと思いきや違ったや。
でも、これもこれでよく考えた上で長ったらしいこと言われっかもな。いや、聞いといてこんな風に思うのは失礼だけどよ。普段、散々フェイスちゃんやロキくんの話聞いてっからな。好きな食べ物、好きな色、嫌いな色、得意科目に、よく行く場所と、他にもいろんなこと知ってけど、オレにこの情報使い道あっかってなる。
オレなんて実の兄弟だってのにハノのことあんま喋ってねぇよ。
「強いからかな……」
「強い?」
まさかの言葉にオレは目を見張る。
普段、あんな可愛いとか天才とか完璧とか抜かしてるから、その手のこというかと思いきや、まさかの「強い」だ。
オレ、フェイスちゃん見て強いとは思わねぇな、気は強いかもしれねぇけど、それよりはるかに喧嘩っぱやいエルが傍にいる所為で、エルの方に「こいつ強ぇな」って思うことの方が多い。
「うん、フェイスって結構変わってるでしょ」
要素盛沢山過ぎて訳わからねぇお前がそれを言うかと思ったが、実際フェイスちゃんはこの国の女の子としては、ズボン履いてるわ、賭けの数取り参加して容赦なく男ども負かすわってかなり変わってるし、他にも記憶力化け物級な上、ブラコンでエルの所為で若干バイオレンスとなんだかんだで要素盛沢山だ。類は友を呼ぶってか?
いや、でもそれだとエルと友達なオレはかなりの変わり者ってなるから違ぇか。オレは凡人中の凡人だもんな。
「おう」
「それで結構、周りから言われてもブレないのが強くて好きなのかなぁ。普通、周りになんか言われたら、結構左右されると思うんだよね。でも、フェイスはそんなんお構いなく『私は私だもの』って自分らしさを貫くからかっこよくて」
ううん、分かるような分からないような……軸ある人ってのが魅力的に見えるってのは、オレ自身が結構流され気質なのもあって、自分をしっかり持ってる人を尊敬してるから分かるかも。
「あの子が自由気ままに生きてるの見てると、すごい心が軽くなるから、だからあの子に害を与えるものとか、縛ろうとするもの見るとぶちのめしたくなるんだろうなぁ」
割とまともなこと言ってて折角感心したのに、最後の最後でぶちのめしたくなるとかバイオレンスな言葉が出たことで、一瞬で相殺される。まともに見えても、やっぱり重度なシスコンだ。
結構優しい声で話してたから眠気誘われてたのに、最後の最後で目が覚めた。
「となると流され気質で一般人なオレと一緒にいると不快になりそうだな」
冗談でそうにやにや笑って見せれば、エルはゆっくり首を振る。
「まさか、カイは流されててもカイらしいもの。あと、反応が何から何まで単純で見てて清々しい。日々、細かいこと考えずに一生懸命生きてる感じで正直羨ましいよ」
褒め言葉にみせかけて思いっきり貶してねぇかこれ? いやでも真剣な顔してるから本気で褒めてるつもりかもしれねぇ……え、どっち?
「オレ、別に何も考えずに生きてる訳じゃねぇけど。めっちゃ考えてるぞ」
割と周りに考えなしだとか単純だとか言われるけど、めっちゃ考えてるからな。エルの体の事だって知った時滅茶苦茶悩んだし。でも、周りに「オレも考えてるからな!」と言ったところで「考えてても、その思考回路が絶対に単純」とか言われたことあるし……。
「はいはい、分かったって。とにかく、フェイスやロキ、カイも自由奔放だなって見てて楽しいんだよ」
重度のシスコンブラコンに、妹分と弟分と名前を一緒に上げられたから、かなり良い評価貰ってるんだろう。でも、オレが自由奔放か……あんまそんな気がしねぇけどな。
「オレなんかより、お前とか、オリス様の方がよっぽど自由奔放だと思うけどな」
エルは喧嘩っ早いし、その凶器にもなるんじゃないかってくらい良い顔面と声で他人に融通利かせたりもする。新種の恐喝か? おまけに文武両道でお前に弱点はねぇのかって恨みたくなるほどハイスペックだ。
オリス様はもう、マイペース中のマイペース、貴族なのに貴族らしく全然しねぇもん。エルとオリス様は天上天下唯我独尊とばかりに自由を貫きまくってると思う。
「そう? ぼくはオリス様よりテレル様の方が自由にしてると思うけどな」
「お前、目が節穴なんじゃねぇの。むしろガッチガチの真面目ちゃんで自由とかけ離れてそうなんだけどあの人」
何言ってやがんだと反応して見せれば、エルは曖昧な笑みを浮かべて見せる。ほんと綺麗な面してるわ。
紅茶色の垂れ目の周りのまつ毛は馬鹿みてぇに長ぇし、鼻は高いし、唇も薄い。赤茶色の髪は若干くせっけだけど、エルの見た目だけど優し気な雰囲気に合っている。
真っ白な肌には右目下の黒子以外、染み一つねぇ。耳まで雪のように真っ白だ。ここまで綺麗だとピアスとか開けんの勿体ねぇな。開ける時、血が出たら白とのコントラストですっげぇ痛そうに見えんだろうな。
そうだよ、ピアスって耳に何かしら貫通させて穴開けなきゃいけねぇんだ……え、オレ痛いの御免なんだけど。
「オレ、ピアスやっぱしねぇかも……」
「人の顔見て黙り込んだと思ったら、急にどうしたの?」
そういやオレ、ずっとエルの顔見てたのか。うえ、気持ち悪ぃ奴とか思われてたらどうしよ。いや、でもこいつのことだから見られんのとか慣れてっか。
「穴開けんの痛そうだなって思って」
「なるほどね。まあ痛いのは一時だけだよ。開ける時に変な失敗しなければ大丈夫だって」
「え? 失敗?」
不穏な言葉にオレは反応してしまう。すると、エルは意地悪な笑みを浮かべて見せる。
「清潔じゃない器具とか使うとかね……。傷口って言うのは弱い所だから。世の中にはあえて汚れた武器を使って出血死じゃなくて、傷口からの汚染とか狙ったりすることもあるからね。即死しないから希望を残しといて、じわじわ人を追い詰めてくから、卑怯な手だけどよく効くよ」
なんでそんなこと知ってんだよ。なんか怖くなってきたんだけど。
「オレ、ピアスじゃなくてイヤリングにしよっかな?」
「イヤリングって?」
流石に16超えて左耳に何も付けてないと目立つと思いそう考える。うちの商隊には何人か付けてない奴がいっけど、あいつら出身国はこの国じゃねぇし、ピアス以外にも余所者だって分かっちまう姿してっし。
んで、エルはまさかのイヤリングを知らないという……。
いやでも、この国の人ってイヤリングとか全然つけてない気がする。
店とか幼い頃母ちゃんや経理担当のグラフィラについてったことあっけど、女性ものの装飾品には耳に着ける類のものは置いていなかった。男は耳に着けると言ったらピアス一択だし。
南のデシエルト皇国とかだと割としている奴見るんだけどな。北の連邦はどうだったけ? 連邦は毛皮纏っているイメージ強いから、それ以外あんま思い出せねぇや。
「ぅええと、ピアスみたいなやつだけど、穴開けないで、挟んで止めるやつ」
「そんなのあるんだ……してる人見たことないや」
「この国はみんなピアスだもんな」
おまけに左耳にしかしねぇから、片耳分で売られていることが多い。
商隊の交渉担当のズーハオが「両耳つけねぇと気持ち悪いだろうが」って愚痴ってたな。あいつ、海の向こうから流されてきたから文化が思いっきし違うからな。
でもイヤリングは両耳分あんだろうな。
けど、この国は左耳にしかピアスつけねぇから、イヤリングを代わりにするとなると一個余るな。両耳つけてるとこの国じゃ目立つかんな。
え、もったいなくね? どうしよっかな。
「そうだ!」
「え、なに、急にどうしたの?」
「いやあのさ、イヤリングって両耳分で売られてっけど、ピアスの代わりなら片耳分しか使わねぇだろ。それって勿体ねぇじゃん」
「う、うん?」
エルの奴はあんまピンと来てないみたいだ。まぁ、イヤリング知らなかったし、しょうがねぇか。とはいえどお構いなく話を続けてく。
「だからさ、オレとエルで半分こっつーかなんつーか、オレが使わない方をエルが使えばいいんじゃねって」
「なるほど」
「耳に穴開けなくていいと思うし、邪魔だと思ったらすぐ外せるし、どうだ?」
「別にいいけど、あんま邪魔にならないのがいい」
「それはオレもそうだから心配すんなって。買う時割り勘でいい?」
結構あっさり了承された。
見た目が良いエルのことだからどんなんでも似合うだろうけどよ。あれだエルのような美人はよっぽど変なのでなければ、大体の格好が決まって見えるかんな。
でもあんま大きかったり派手だったりすると日常的につけるとしたらすげぇ邪魔だしな。第一、オレも付けるんだし無難でそこまで大きくないものになるだろうな。
「別に構わないし、なんならぼくが全額負担するけど」
イ、イケメン。いやでも別に向こうは格好つけているとかじゃねぇな。おそらくこれは素だ。流石、レベルがちげぇや色々と。
「お前、何気に太っ腹だな。お願いしますといいたいとこだが、なんつーか、全額負担されて高いの渡されると怖いから、普通に割り勘で相談しながら決めたい」
「何をそんなに警戒してんの? ぼく、金銭感覚普通だよ」
金銭感覚普通? あーれ、今誰の口からそんな言葉が出てきたよ? 全然普通じゃねぇ奴の口から出てきたんだけど。
「高価な鏡を殴って割るような奴が金銭感覚普通とは言わねぇ」
物に当たるにしても枕とかそういうもんにすれば、壊れにくいし安全だし、何より金が無駄にならねぇ。まあ、そもそも物にあたんのもよくねぇけど、こいつにそれを言ったら「人に当たるよりはマシじゃない?」とか素で言われそうだ。だってバイオレンスだから。
オレが割と失礼なことを考えているのを察したのだろうエルはどこか不満そうに口を尖らせる。
「百歩譲ってぼくが少し金銭感覚がズレてるとしても、君も割とまともじゃないからね。寮生の人たちがあいつはドケチだって散々言ってたからね」
「本当のドケチだったら、高いもん受け取ってもラッキーで終わるだろ。オレのはただの勿体ねぇ精神だ」
そりゃ多少は他人よりがめついとこはあっけどよ。ドケチまではいかねぇし、せいぜいケチだ。
あと小心者のオレはあまり身の丈に合わねぇもんつけると壊さねぇかずっとびくびくすることになる。加えて「タダほど高いもんはねぇよ」と昔、商隊のズーハオが言ってた。
つーか、オレが金銭感覚若干人より厳しいのは家業とズーハオの所為だし。あいつすっげぇ金銭厳しいからな。その癖して賭博好きだし、おかしいだろ。大体は勝つからいいんだけどよ。フェイスちゃんの数取りの時はボロ負けしてオレに冗談とはいえせびってきたけど。年下にたかるんじゃねぇ。
「はいはい、分かったよ」
オレは知っている、こういう返事をする奴は大体分かってねぇ。でも、まあいいか。こんなところで変な押し問答してもなんもお互いに利がねぇしな。
「16歳……だいたい2年後か、君のことだから忘れてそう」
「生憎、オレは金が絡む約束事は忘れねぇんだよ」
「説得力しかない」