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挿話1 不思議な占い師?


「占いなんて、君が行きたがるとは思わなかったよ」

 平日の放課後、紫色の塗装がされた扉の前でエルが今更そんなことを言う。扉の上には『見ます』と洒落た字体で何故か書いてある。


「いかにも胡散臭いし」


 正直、友人がそう眉を顰めるのも分かる。扉以外の壁は真っ黒なレンガだし、外観からおどろおどろしい雰囲気をワザと感じさせているような気がしてならない。

 占いなんてもんは大体は当たり障りの無いことをそれらしく言って、原価に対してとんでもねぇ割合でやれ石やら装飾具やらを売る商売だと思っている。それ故に騙すための雰囲気っていうのが大事だ。だから外観がいかにもって感じだと、商売頑張ってんなと、オレも思う。


「確かに胡散臭ぇけどよ、商人連中の評判がいいんだよ。うちの知り合いの商人が実際、ここで占ってもらって結構稼いだし」


 五つの依頼のうちどれを取るかって悩んだ時に、駄目元で噂の王都の占い師のとこ行って聞いたら見事に大あたりを引いたんだとよ。他四つのうち二つはそこそこで、もう二つだったら今頃雑草食ってたよって言ってた。


「君、騙されてない?」

「いや、別に信じてる訳じゃねぇけどよ……少なくとも物売り付けてくるようなとこじゃなくて、本当に占うだけみてぇだから試しにな。おい、マジかみたいな目ぇすんじゃねぇ」

「……君みたいなタイプって一番カモられそうだよ。まぁ、ぼくがついてきたからには安心して」


 仕方ないなとばかりに笑う友人の顔は今日もピカイチだが、別にカモられねぇっての。これでもオレは商人の息子だから平気だっつーの。


「そんなつもりでお前を連れてきてねぇっての」

「じゃあ、なんで?」

「オレみたいな奴が一人で来たら冷やかしだと思われんだろ」


 なんせオレは十四歳のガサツなガキだ。それに比べてエルは大人びてるし、物腰も柔らかだ。こいつと一緒なら悪戯だと門前払いされずに済みそうだと思ったのだ。


「占いなんて冷やかしで行くようなもんだよ。そんで別に信じてないけど試しにって言ってハマってく馬鹿がいるんだから」

「確かにそうだけどよ。オレは何回も生活必需品でもねぇもん買う趣味はねぇから大丈夫だ」


 なんなら今回も行くか行かないか迷ったけどよ。ハノが手紙で試しに行って真偽確かめてみろよみたいなこと書いてきたから試しにってだけだ。散財する趣味はオレにはねぇ。


「うん、まぁそれならいいけど……入ろっか」


 いいけどっていう割に心配そうにしてんのバレバレっつーか、ワザとそういう顔見せてんだろ。


 キィと音を立てながら、エルによって店の扉が開く。


「では、お先にどうぞ」

「オレはお偉いさんか」


 恭しく礼までして先に入るようにエスコートするエルにそう突っ込めば、ふふふと上品に笑われる。こいつって変なところで遊び心発揮させんだよなぁ。


 足を踏み入れると透き通るような鈴の音が響く。店内は薄暗かった。四角に置かれた蝋燭のみが灯りだった。紫のカーテンに覆われた先にいんのが例の占い師だろう。


「ごめんください」

 そう恐る恐る口にすれば、カーテンの向こうから衣摺れがした。


「ううん……はぁーい……お客さん?」


 占い師と聞いてオレはてっきり老婆とかがやってんだと思っていたが、帰ってきたのは子供の声だった。思わずオレとエルは顔を見合わせる。


「シューはおばあさん、違う。あと、占い師も違う。人のナニカが見えるって奴、べつもの」


 考えを読まれた。そう思って警戒する。


「別に読んでない。みんな同じ反応するの」


 なんだそういうことか。いつも、子供だからって同じような反応されるってだけだったか。


「で、どっち先? ……うーん、先に藍色の子でいい?」


藍色の子と言われ、オレはどっちだと思っていればエルが横で「なんでカーテン越しなのにカイの瞳の色分かったんだろう」とボソリと呟くもんだからぞっとする。う、嘘だろ?


「え、あ、はい」

「じゃー、おいで」


 そう言われカーテンの向こう側に入る。さっきいた場所よりは少し明るいもののまだ薄暗いそこには、大きなベッドがあった。


 え、なんで?


 そんなオレの疑問をよそに、ベッドの上で白い毛布を頭の上から被った子供が「おはよー」と手を振る。お陰で顔が全く見えん。


「お、おはようございます」

 今は夕方だがそう返す。


「びっくりしてるね」

「そりゃ……」


 占いしてもらいに来たのに、なんか寝室みたいな場所に招かれれば驚くわ。つーか、寝室どころか寝具屋っていうレベルかも。あちこちに布団やら、毛布やら、枕やらが散乱してる。え? どういうこと?


「お代金そこら辺投げといてー」


 雑かよ。そんなんだと踏み倒されんぞ。流石に投げる訳には行かないので、すぐ近くにあった枕に置いとけば「お金も喜んんでるよー」と謎なことを言われる。


「じゃあ、そこらへんの枕、座ってね」

「あ、はい」


 占いが始まんのかなと思って、オレはお金を置いてない他の枕を見つけて座る。


 すると、子供は毛布の隙間から少し顔を見せる。本当に少しだ。かろうじて片目が見える程度だ。


 黄緑色のその瞳はまるで猫のようだった。そう思えば、その子供に近くに黒猫がいることに気づく。もう訳が分からん。


「君ね、綺麗な藍色なの。だから……カラビトさん会ったら贔屓してくれ……逆に気に入られて余計なことされるかも。だから会ったらどんまい」


 カラビトというのは天の使いだ。その天の使いに贔屓されるかもと思いきや、会ったらドンマイとは一体どういうことだろうか? もう初っ端からとんでもねぇ。


「ほんと、綺麗。だからお友だちもたくさんいるし、出来るね」

「ど、どうも」

「お陰でトラブルたくさん来るけど、たくさん解決も出来そう」

「は、はぁ……」


 友達はたくさん居てそこまで困るタイプじゃねぇけどよ。トラブルたくさんって何? いや、解決出来んならプラマイゼロな気がすっけど。


「黄色さん事件はトラウマだろうけど……なんとか出来るね」

 黄色さん事件? と一瞬、なったがすぐに思い当たることを思い出し、顔が強張る。な、なんで知ってんだ。


「黄色さんは他もアウト、気をつけて」

「………………」

「緑色さんは頑張り屋さん。応援よろしく」

「は、はぁ」

「紫はややこしーよ。頑固。ごめんね」

「?」

「赤色さんは解くの大変。頑張れ」

「???」


 頭に疑問符しか浮かばねぇ。混乱の極みだ。


「商売、人脈が大事。作んの大変、でも作れば強いから。フツーに生きてればだいじょーぶ」


 あ、初めてまともなの来た気がする。人脈かぁ……確かに商人にゃあ大事だな。そんで普通でいいと……え、改善点は?


「焦っちゃダメ、サボってもダメ。きみ自体は単純、けど、まわりはぐっちゃぐちゃ」

「あ、はい」


 一応、アドバイスみたいなもんは貰えたけど。ぐっちゃぐちゃって何? スプラッタ?


「そんな感じー、これ以上は言うとダメなの」


 全体的によく分からんかったが終わったらしい。


毛布を被り直して、バイバイと手を振るそいつに同じように振り返して出て行く。


カーテンの外に出るとエルが「ん? 終わったの? 声とか全然聞こえなかったけど」と不思議そうに言う。


「終わったけど。よく分からんかった」

「そう。カモにはされなそうだね」

「おう」


 少なくともこれ以降、この店には行かない気がする。いや別に「け、こんな店」と思ってる訳じゃねぇんだけどよ。訳分からんこと聞かされたけど不思議と「無駄なことに金使っちまった」って言う後悔はねぇし。だけど、二度目はねぇ。だってもう来る必要はねぇって自分の勘が言ってる。


「じゃ、も一人の方」

「はーい」


 そうエルが呼ばれてカーテンの向こうに入っていく。

 あいつはどんな訳の分からんことを聞かされるんだろうな。そう思って聴覚に感覚を集中させたが、エルが出てくるまでなんも聞こえなかった。あとでエルに「お前の盗み聞きしようとしたけど出来なかったんだよなぁ」と言って見せれば、「だろうね。ぼくでも出来なかったんだから」と返された。


***


「訳、分からんかった」とひたすら首を傾げる友人の横を歩きながらぼくは思案する。


 カーテンだけで声が聞こえなかったり聞こえたりすんのはおかしい。声量の調節だとしても、ぼくの耳に届かない訳がない。それにカーテンの中に入った瞬間の違和感。あそこは何かおかしかった。戸惑うぼくを見て彼は「これはシューの力じゃないから、直せないやごめんね」と申し訳なさそうに言った。


「シューは見ること特化なの。君が歪みに居て、歪み自体でもあるってのが見える程度なの」と続けて放たれた言葉は、『占い師』だなんてエセな存在が適当にそれらしく言った言葉ではなかった。


 あの子供はぼくと似た、でもぼくとは少し違って、ぼく以上の何かだった。


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