第40話 オレは大切な友人の話をひねくれ屋の友人に語る
「一見完璧に見えるけど、妹分や弟分のことになると頭おかしいし。たまにブラックジョークみてぇなこと言っておちょくるし。これじゃ悪口みてぇだな。普通に中身わりとガキ部分あるし、良いやつだぞ」
エルのやつ、見た目も実力もキラキラしてて貴族よりだと思われてそうだから、親しみやすい奴とアピールしようとしたものの、焦って悪口みてぇになる。
いや、貶したい訳でも、悪い印象を持ってほしいわけでもねぇんだな。
こうじゃねぇなと首を捻ってしまう。
「その良い奴ってのは、オレが勉強とか実技で苦手な部分あれば教えてくれっし、今回の大会でもオレがあんま上手く何回も棄権とかしようって提案してくれたりするんだ。あいつ優しいよ」
優しい行動を挙げてみるがなんつーか上手くいかない。
事実だし伝えるべきことだけどこれだけじゃ、なんつーかエルが伝わらない。
悪い印象を持って欲しいわけじゃねぇけど。
オレ、なんでか分からねぇけどゼーグにエルに対して完璧で聖人君子みてぇな印象を持って欲しくねぇんだ。
「なんつーか敵には容赦なくてバイオレンスな感じだけど、オレはあいつには絶対傷つけられねぇんだろうなって確信あるんだよ。多分、あいつはオレとか妹分たち傷つくくらいなら、自分傷つく方選びそうなんだ。いやそれもどうなんだって話だけど……」
それでもエルの優しさを説明しようとしたのに、それが結局あいつの自分を蔑ろにする部分に結びついてしまい言葉につまる。
そうなんだよ。あいつも、というかあいつが一番自分のことを蔑ろにやっぱしてんだ。それがオレは悲しいんだ。
だってさ、あいつ本当にそれを望んでるか? 望んでねぇだろ。
自身で語りながら、思考を整理する。
「自意識過剰かもしれねぇけど、成績優秀で褒められてる時とかより、俺と一緒にバカしてたり、勉強してるときとかさ、妹分や弟分と一緒にいるとき、すっげぇあいつ楽しそうなんだ」
あ、分かった。
エルはさ、たまにオレのことを綺麗だと称賛する。
綺麗な人間だから、みんな君が好きなんだよ、周りに人がたくさんいるのだという。
オレに対して、賞賛や羨ましがっているような発言をするんだ。
そこに嫉妬じみた感情はない。ただ眩しいものを見るような感じだ。
そう眩しいもの、まるで自分には一生手に届かないというようにな。それがムカつく。
「エルはさ、多分寂しがり屋なんだ。そんですっげぇ普通に憧れてんだ。あいつさ、いつも周りに特別扱いされちまうからさ」
特別なあいつは、普通が欲しいんだ。
普通ってなんだって話だけど、オレが特別に憧れるように、いやそれよりも強くあいつは普通に憧れてる。
憧れてるけど、手をあまり伸ばさない。
オレが平民の寮生と話してる時とか、見てるだけで話しかけたりはあんましねぇ。今日は珍しくブープがいるのに話しかけてきたけど、なんつーか普段だったら絶対話かけねぇんだ。
あいつは自分が周りから特別視されているのを分かってるから、気を遣って、いつもオレが一人になってから話かけんだ。
「そりゃあ友達になるならねぇは個人の自由だけど。でもさ、あいつのことを遠い存在だと違う存在だと終わりにしねぇで欲しい」
特別、その称号はエルと他の人間を隔てる存在だ。
てかっ、ゼーグのエルが何考えてんのか分からなくて苦手って言葉に、色々考えた結果なんか変な返ししちまった。
慌てて、思考から視覚情報に意識を映して、緑がかった黒髪の元同室者を見る。
でも、考えが右往左往してまとまらないオレの話をゼーグは黙って聞いてくれていたみたいだ。
聞いて、「違う存在か……」と呟いてから、口元に手をあて考え込んでいる。
伝わっていて欲しいと願った。
オレだってエルのこと全然分かってねぇけどさ、でもオレは少しみんなより知ってるからさ。
あいつ皆が思ってるような、綺麗で完璧な奴じゃねぇからさ。
そりゃハイスペックな面もあっけど、全く違う存在って訳じゃねぇからさ。
あいつよく、カラビト様っつー天の使いの人間の上位種に例えられたり、普通の人間と隔てられた存在に捉えられがちだけどさ。
あいつは、人間だよ。誰かを羨んだりもするし、弱みがあって、葛藤して、思い悩みながらも生きてる、人間だ。
貶したい訳じゃなくてな、独りにしたくねぇんだ。
エルはすぐ自分のことを特別とはなんか違ぇけど、他とは違う存在だからと距離を置こうとすっけどな。それが本人望んでることならいいけど、あいつ望んでねぇだろ絶対。
「ボクは、昔魚になりたかった」
「へ?」
意味不明な言葉にオレは間抜けな声を出しながら、声の主を見つめる。
しかし、ゼーグはその不思議な主張に見合わないくらいに真剣な顔をしていた。
だから、オレはいつもみたいにゼーグの中毒ってくらいの海好きを茶化せなかった。
「……魚になれば独りじゃなくなるから。おかしくなくなるから。群れる魚に憧れて、よく海に潜った。でも今は別にそこまで魚になりたいと思わない。魚にならなくても独りじゃなくなったから」
前にブープがゼーグとの喧嘩で「友だちを悪く言っちゃいけませんって学んでねぇのかよ!」と言ったことがある。
そん時ゼーグは「学んでねぇや。友達出来たのお前らで初めてだから」て言ってブープの言葉を封殺したことがあっけど、あれ冗談じゃなかったのか。
「ジングフォーゲルも魚になりてぇと思うなら、昔のボクと同じだ」
群れる姿に憧れて、魚になりたいと願う。
海好きにしたって、人であるゼーグがそれを願うってのは、相当な寂しさを感じていたんだろう。ゼーグが何故、独りだったのかは聞く気はねぇ。
まあでもゼーグは表面化する言葉や態度がトゲトゲしくなる性質だから、多分それが要因の一つってのは想像つく。不器用なんだ。
でも、その不器用さは人に悪意を向けられたが時に、反撃するしかなかったからっていう気もしていた。悪意を多く向けられたら、悪意に対処する前提がデフォルトで、好意を多く向けられたら、好意に返す前提がデフォルトで、基本の精神構造できることあっからな。
おかしくなくなるから、っていう言葉からしても仲間外れにしてきたやつらはゼーグに悪意を向けてきたのだろう。
「仲良く出来るかは分からねぇけどよ……昔のボクを拒絶する趣味もない」
そう、ぶっきらぼうにエルを拒絶しない宣言をした後、ゼーグは椅子から立ち上がって「じゃあ探してくるから大人しくしてろよ」とオレに指を突き付けてまで、釘をさしてくる。
「お、おう……ありがとな、ゼーグ」
でも、ゼーグは真剣に答えを出してくれるから。
本気の感情をむき出しにして話してくれるから。
本気で怒って叱って心配してくれるから。
本当に大事なことは分かっているから。
やっぱり、オレのつたない言葉でも伝わるんだ。
「それにな、ボクはジングフォーゲルのこと苦手だけど、嫌いじゃないぞ……お前あいつが来てからまたよく笑うようになったから」
だからゼーグが友人でいてくれてよかった。口は悪いし、表面上はトゲトゲしてっけど、滅茶苦茶良い奴だなって思う。
そんな良い奴だから、強要は出来ねぇけど、エルとも仲良くなったら嬉しいと思うのだ。
「普段騒がしい馬鹿が、ずっと辛気臭ぇ顔して、うざったらしくて仕方なかったからな!!」
一言余計だけど、そこは愛嬌ってことで。




