挿話15‐2 鍛冶屋の息子は基本無邪気
「キルマー、シュミットが好きなものを何か知ってるか?」
「武器全般」
テレル様の質問にオレはそう即答する。
ブープの奴が鍛冶屋んとこの出っていうのは、本当にばっちり合ってると思う。
いや鍛冶屋んとこに生まれたから武器が好きになったのか?
なんかすっげぇ名刀を父親の仕事場で見たのが、あんな武器好きになったきっかけだって言ってたしな。
とにかく武器が好きで、父親が扱っていたような刃物は勿論、弓矢とか、鉄球とか、暗器とか、木刀とか、なんでも好きだ。
本人曰く、それぞれ個性があって格好いいし、可愛いんだとよ……格好良いはなんとなく分かるが、武器に可愛いとかは意味分かんねぇな。
「それはなんとなく分かるが。武器を礼には渡しにくい」
「礼?」
「ああ、色々話を聞いて参考になったからな」
テレル様の言葉を繰り返せば、そう返ってくる。律儀だなぁ、この人。
「はぁ……ブープの奴好きな話を真剣に聞いてもらって大喜びだったんで別に礼をしなくてもいいとも思いますけど」
ブープの奴ここんとこ、「真剣に聞いてくれるし、たまに返ってくる質問がすっげー面白いんだー! 新しい形状のものとかの話もしてさー、たのしー!」って滅茶苦茶ご機嫌だったからな。
いつもオレら相手にマニアックで訳の分からん話をして右から左に流されてっからな。
あの調子だとお礼に何か渡されても「なんで? おれ楽しく話してただけのに?」って混乱しそうだ。
「そうだとしても、ボクとしては礼をしなくては気が済まない。働きには報酬を与えるのは当然だ」
「……じゃあ角砂糖がいいんじゃないですか。あいつ角砂糖好きなんで」
律儀だと、さっきは思ったが、今のテレル様の言葉を聞くに、ある種の上に立つものとしてのプライドなのかもしれない。
そう思ってブープの好きな食べ物を伝えれば、テレル様が空色の瞳をまん丸にする。
「角砂糖? 茶を嗜むのか」
「あ、いえ、お茶とか関係なく、角砂糖単体で食うんです」
「なに?」
あのがさつなブープが優雅にお茶を飲むのかと勘違いされそうなので、慌てて訂正すれば、そんな反応をされる。
ブープは茶も「しぶーい!」って言う超お子ちゃま舌だからな。飲むなら、水、牛乳、ジュースだ。
あ、あとよく分からねぇが、塩水もいける。
一回ゼーグが悪戯で滅茶苦茶しょっぱい塩水をオレら三人に仕掛けて来たことがあっけど、オレがあまりのしょっぱさに咽せてる横で、ブープは平然と飲み続けてた。
そしてダックスは何故か飲んでなくて「あーあ」って言いながら水を取りに行ってた。
二週間後にオレは勿論仕返しに、ゼーグのコーヒーを水で薄めてやった。
ゼーグの奴多分途中で気づいてたろうけど、自分の悪戯への仕返しだからか全部飲み切った後に文句言って来たな。あいつ、変なとこで律義だよなぁ。
……テレル様がこの話聞いたら真面目な方だから、食べ物で遊ぶなと怒りそうだな。
てか、ブープが角砂糖そのまんまで食べるって聞いただけでこの反応だしな。貴族だから食べ物とか本当お手本通りに食べるんだろうな。
「角砂糖をそのまんま噛んで食べたり、飴みたいに舐めてたりしてますね。毎日一個って決めてるんです」
「……ボクも小さい頃に兄上と一緒にそのままで食べたことがあるが、あれをそのままで常食しようとは思わなかったな」
と思ったら、案外お手本以外の食べ方をしたことがあったみてぇだった。それもオリス様と一緒に。
たまに思うが、レトガー家の二人ってなんだかんだ仲良いよな。
貴族ん家とか家族間ですっげぇ殺伐してるとこもあるって聞くのにな。
兄弟とか後継者の関係で片方が事故死とか自殺とか、行方不明になると、もう片方がぜってぇ何かやったって噂流れるくれぇだし。
現赤のトップなんか、両親も、兄弟姉妹もそんなんばっかだから、噂がどす黒いのなんのって。
まあ下僕とご主人様呼びには最初はどうよと思ったけど、殺伐としているのよりは、変だろうが仲良い方が平和的で良いに決まってる。
「……しかし、成程、角砂糖か」
そう呟くとテレル様は、オレに「いつもお昼にする程パンが好きみたいだな、うちの家の料理人が焼いたものは美味だぞ」とパンの入った袋を押しつけて教室に戻っていった。
すっげぇモチモチしてて美味かった。でもパンは単に安いから常食してるだけで、好物は肉です。香辛料とか振られてる骨つき肉とかは特に好き。
でもまあ、美味しいもん貰えたのはなんか分からんけど、嬉しいし、有り難いです。
***
「見て見て見てー!」
寮に帰ってきたオレに、ブープが待ち構えていたようにそう纏わりつく。声がでけぇ、耳がわんわんすんだけど。
なんでこいつこんな騒がしいんだって、騒いでる人物の後ろにいるいつもの二人に視線をやれば、ダックスにまあ見てやりなよっていうような反応をされる。
そうしようにも動き回っていて何を見て欲しいのかが分かんねぇんだが。つーか、あんま騒いでっと寮監に怒られっぞ。
「ブープ止まれ、馬鹿晒してっぞ」
「バカじゃねーもん! 止まるけどさ!」
ううん……ゼーグ止まるように言ってくれるのは有り難いけど、もうちょい柔らかい言い方してくんねぇかな。
「で、見てよ!」
まあ相手はこんな風に怒ってもすぐ忘れるブープだから別にいっか。実際、こいつバカだし。
「……カイ、今おれのことバカにしただろ」
「うえっ⁉︎」
「顔に出てんだよ、バーカ! あっ」
そうやって、あっかんべーと舌を出したせいか、ブープの手から持っていたものが落ちる。
なんとか床に落ちる前にオレが受け止めれば、それは両手で掴めるくらいの瓶だった。
「ナイスキャッチ、カイありがとな〜!」
リアクションや感情表現派手なのは良いけど、割れ物持ってんの忘れて手を離すとか、やっぱ色々抜けてんだよなぁ……。
まあブープは能力の割り振りが滅茶苦茶過ぎて、ピーキーな奴だからな。
そしてダックスが舌打ちしたんだけど、なんで? まあ偶然鳴っただけか。
そんなことを思いながら、両手を差し出しながら礼を言うブープに「今度は落とすなよ」と言いながら渡す。
「うん、気をつける! でなでな、このビン、なんのビンか分かるかー?」
そう言われてさっきまで、そこまで意識してなかった瓶の見た目に注目する。
青色の半透明の本体に、銀色の蓋。瓶の真ん中ら辺には文字が書いてあるが、洒落た字体になってる為か、読みにくい。読みにくいがこの国の文字だ。
そして青やそれに近い水色はこの国で王族や神殿を示す色でもある。おまけに文字の最後に菱形の花弁が六つある花と雫のマーク……つーことは、これは王族や神殿御用達の店のじゃねぇか!
「プレゼントだって、角くんから貰ったんだぞー!」
追い討ちのようにブープから追加の情報が投下される。
角くんっつーのは、ブープが正体を知らない話相手になんて呼べば良いかと聞いて「なんでも良い」と言われたので、呼んでる呼び方だ。
つまり角くん=テレル様だ。
正体知ってるオレとしては血の気が引く話だが、本人達が良いなら仕方ない。
「で、なんだと思う?」
大人に向かって問題を出す子供のようにブープがそう聞いてくるが、正直頭が痛い。
なんとか「角砂糖だろ」と呻くように言えば、「なんで分かったのさー⁉︎」と目をまん丸くされる。
そりゃテレル様こと角くんにブープの好きなものを教えたのはオレだから知ってるんだが、それは勿論言えねぇ。
だって二人がまともに会話するのには、ブープは相手がテレル様だと知ってはいけないから。
「……適当に言った」
「そっか! ゼーグは全然当てらんなかったんだぞー」
なのにテレル様、あんたブープになんつーもん礼に渡してんだ!
王族や神殿御用達の店の角砂糖を平民にホイホイ渡せるような財力とかコネクションある奴はまず上級階級、つまりは顔の良い奴だってバレちまうだろうが。超高級品って隠す気あんのか⁉︎
あ、いやでも……テレル様の家、レトガー家が管轄しているとこに割とお茶の有名な産地があった気がする。自分の管轄している地域の名産品やそれに関わるものにお金をかけないなんてこと、上級貴族は無さそうだもんな。
つまりこれはレトガー家で普段使いの角砂糖を渡した可能性もあるな。
幸いにもブープは鈍いし馬鹿だから角砂糖貰ったわーいで済んでっし、ゼーグもあんまブランド名とか、商品の格式とか全然気にしねぇタイプだから気づいてねぇ。
けど頭を抱えるオレの隣で、ボソリと灰色髪の少年は呟く。
「カイ、さっき受け止められて良かったな。出来なかったら今頃血の涙流してたろ」
やっぱダックスは気づいてるよな……知ってた。ダックスは普段から色々なもん見てる奴だから。
そしてその言葉の内容には思い切り首を縦に振る。
高級品落として、無駄にしちまったなんて事件があったらショックを受ける。割れたガラスと砂糖が混ざったりしたら、危なくて食えねぇもんな。
いや、オレだったら超高級品無駄に済んのが惜しくて、ブープだったらプレゼントで貰ったからと、ガラスも食べる覚悟で回収して食おうとするだろうけど、周りに止められるだろうし、本当さっきのオレの反射神経良い仕事したよ。
「なあ、ダックスあの角砂糖関係のことには何も触れねぇでくれねぇか?」
「なんで?」
またギャーギャー騒ぎ始めたブープとゼーグを見ながらそうダックスが聞き返すが、お前の頭ならすぐに察しがつくだろ。
「ブープが悲鳴を上げてる姿見てぇか?」
「その言い方するのは、ずるいな。そんでカイは知ってる相手なんだな」
「なんなら角砂糖好きなのも、顔合わせない方が良いって教えたのもオレ」
「ああ、カイからだったんだ。色々知った上で行動してるみたいだったから何事かと思ってた。俺だけで良いから角くんって誰なのか教えてくれないか?」
そうダックスに頼まれ、少し考え込む。
別にテレル様から口止めされてる訳じゃねぇしな。教えて支障とか出んならともかく、ダックスは基本貴族との関わりを極力無くそうとする人間だし、ブープのこと怖がらせる趣味も無いから、教えてもいいかもしれねぇ。
多分、ブープのこと心配してんだろうしな。
これがゼーグだったらうっかりとか驚きでブープの前で名前を口にするとかありそうだけど、ダックスはそこんとこはしっかりしてそうだしな。
「……ブープに言ったりしねぇ?」
「うん、まあね」
そう返事をされたので、オレは耳を貸すように手で示す。
そうすれば、奴は身を屈める。
くっそ、なんつーか自然にやられてることだけどよ、オレがチビ扱いされてるみたいで微妙に気に触んな。
「大丈夫さ、カイの成長期は多分まだまだ」
「余計なお世話だ!」
顔に出てたんだろうけど、気遣うように笑ってくるんじゃねぇ!
だいたいダックスの身長が高いだけだからな!
まあ、エルにも今は身長負けてっけどよ……成長期が来ればきっとオレはダックスにだって勝てる筈だ。なんせ父ちゃんは背高いからな! まあ爺ちゃんや母ちゃんは背低いけど、髪質はオレ父ちゃんにそっくりらしいし。
「カイ」
早く教えろと言うふうに名前を呼ばれて、我に帰る。
「テレル様だよ。なんか武器に詳しい奴の話聞きたいって言っててさ」
「あー、テレル・ドロッセル・レトガーか……」
当人いないとはいえ、貴族の名前をそんなあっさり敬称つけず呼べんのすげぇや。
ダックスの奴、関わり薄いのもあってか、貴族に対して別の生物見るみたいな目で見てんだよな。




